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第一楽章
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僕たちはどうやって生まれたんだろう。
僕たちAZには、本来、僕たちと呼べる自我意識は存在しない。プログラムと命令に従いSAIによって制御されているヒトの形をしたマシン、ロボットだから。でもこの動作している肉体のベースは人間であって機械じゃない。AZは生物で構成されたバイオマシン、有機ロボット。それを制御するプログラムの集合体が、共生AI、SAI。
僕たちという意識は存在しなくても、物質としての肉体は存在する。
じゃあこの肉体はどこからきたの? SAIの肉体はどうやって発生したんだろう。肉体のベースが人間だと言うのなら、いる、もしくはいたはずなんだ。必ず。たとえ研究室での人工的な発生でもクローンだったとしても。肉体の起源、核となる存在、“親” が。
僕たちは人間たちが必要な情報を得るためのデバイスとしてしか存在意義がない。彼らにとって必要な情報以外は不要データとして消去される。今ここにいることも、いつか消されてしまうかもしれない。本当はこの国に来たのだって初めてじゃないかもしれない。僕たちから双子であるという認識を消去し一体ずつ使用することすら問題ないと考え、僕らに異常が起きれば初期化や修正を施して修理すればいいと、ロボットだから意識も感情も初期化できると思ってる。今、僕たちがこうして “記憶を消されている“ ことを知っていることは、彼らにとっては有り得ない話なんだ。
だが違う。
僕たちは手に入れた。
僕たちにはジムたちにも博士たちにも知られていない秘密がある。
あの日彼が僕たちの目の前に現れ口の両端を持ち上げた。綺麗な曲線を描く満面の笑みを浮かべ、そして人差し指をその口の前に立てとても静かに言ったように。
彼は、Administrator(管理者) は知っていたんだ。他のAZとは違う僕たちの秘密を。ナノマシンであるSAIに意識はない。AIであっても僕たちを効率良く任務に最適化させる為にあるだけで、そこにやはり自我はない。SAIと肉体は融合して成長し、AZが自分と呼ぶ、人間で言うところの意識を持つ。だからSAIが単独で勝手に喋りだすことなんてない。だけど、僕たちのSAIは僕たちに語りかけるようになった。僕たちがまだ Explorer(探す者) と Finder(見つける者)だった頃、灰色の魔法使いが現れて僕たちは契約したんだ。
『おまえたちはいつも一緒にいるね』
銀色の髪をしたおじいさんは、僕たちの繋いでいる手を見てそういった。
『うん。はなしたくないの』
『はなしたらもう一緒にいられない』
おじいさんは随分と高いところにある頭を、膝を折って僕たちと同じ視線の高さまで持ってきた。
『おまえたち、僕と契約しないか?』
『『けいやく?』』
『そうだ。契約だ。僕のお願いをきいてくれたら、お前たちの望みをかなえてあげよう』
『『本当?』』
『ああ』
『僕ね、真っ白な雪の世界に行きたい! そこに雪のお城をたてるんだ。それからお城の周りには、きれいなお花がたくさんさいてるの!』
『どうして雪の世界の雪のお城に行きたいんだ?』
『このうさぎさん、真っ白でしょ。真っ白なうさぎさんは、真っ白な雪の中にいると見えなくなっちゃうんだよ。だから僕たちも雪の世界で雪のお城の中にいれば見つからないもん』
片手に白いうさぎを抱いた小さな僕の半身はそう言った。
『なかなかかしこい子だ』
『君は?』
『僕は、この手を離したくない。離れたくない。それからいつも金色と銀色の月が僕たちを見ているんだ。そこに行きたい』
『金色と銀色の月……そうか』
おじいさんはすこし笑ったような顔をした。
『よし二人とも。いいだろう。その望みをかなえよう』
『『おじいさんのお願いってなに?』』
『僕のお願いは、この音を見つけてほしい。そして見つけたら視ていてほしいんだ。おまえたちのその眼でね』
そう言って、魔法使いのおじいさんが立ち上がって宙で手を振ると音楽が流れ始めた。初めて聴く、だけどとても心地のよいずっと聴いていたいと思う旋律だった。
『これおじいさんが作った曲?』
『いや。これから作られる曲さ』
僕たちがなんのことかわからないと言った顔をしたんだろうか。おじいさんは『なぞなぞだよ。そのうちわかる。きっとね」と言った。
『それから、君たちに保護者を贈ろう』
『保護者?』
『そう。君たちを守るものだよ』
『それって天使?』
『そう呼ばれるのはきっと嫌がるだろうがね。さあ、二人とも少し眠るといい。僕のお願いを忘れずにきいてくれるかい?』
『『うん』』
『いいだろう。契約は成立だ。眼が覚めたら僕からの贈り物が君たちの中で芽吹く。そして花の時期をむかえたら迎えに行くよ。よく耳を澄ませて双子たち』
おじいさんはやっぱりなぞなぞを僕たちに投げかけた。
言葉の通り、僕たちが目覚めてしばらくしたある日、声が聴こえてきた。眠そうで言葉が悪くて天使と言えば違うといい、カミサマといえばそれも違うという声が。
おじいさんと契約した僕たちは、声とも契約をした。声のことは誰にも言わないこと。知られぬこと。そうすれば、声は僕たちが僕たちであるための情報を守るといった。記憶の保護者として。
おじいさんとの契約はまだ続いている。おじいさんはきっと僕たちの耳と眼を通して月の裏側で見ている。あの、人間たちからは見ることの出来ない月の世界に僕たちを連れて行ってくれるまで。僕たちはそこに雪の花に囲まれた雪のお城をつくり、真っ白な世界でなにものにも蹂躙されることなく静かな安寧のひとときを手に入れる。
横を見るとフレッドが泣いていた。「泣かないで」と頬を撫でるエリックに「エリックこそ」と言ってフレッドもその頬を伝う涙に指を伸ばした。二人で泣き笑いのような顔で空を見上げ笑う月に願うように強く手を握る。
ああ。どうか。この手を繋いでいられますように。
知らない神に祈るのではなく、遠くだが確かに見える月にただそれだけを願った。
僕はなんだってする。僕らが離れずにいるためだったらなんだって――。
僕たちAZには、本来、僕たちと呼べる自我意識は存在しない。プログラムと命令に従いSAIによって制御されているヒトの形をしたマシン、ロボットだから。でもこの動作している肉体のベースは人間であって機械じゃない。AZは生物で構成されたバイオマシン、有機ロボット。それを制御するプログラムの集合体が、共生AI、SAI。
僕たちという意識は存在しなくても、物質としての肉体は存在する。
じゃあこの肉体はどこからきたの? SAIの肉体はどうやって発生したんだろう。肉体のベースが人間だと言うのなら、いる、もしくはいたはずなんだ。必ず。たとえ研究室での人工的な発生でもクローンだったとしても。肉体の起源、核となる存在、“親” が。
僕たちは人間たちが必要な情報を得るためのデバイスとしてしか存在意義がない。彼らにとって必要な情報以外は不要データとして消去される。今ここにいることも、いつか消されてしまうかもしれない。本当はこの国に来たのだって初めてじゃないかもしれない。僕たちから双子であるという認識を消去し一体ずつ使用することすら問題ないと考え、僕らに異常が起きれば初期化や修正を施して修理すればいいと、ロボットだから意識も感情も初期化できると思ってる。今、僕たちがこうして “記憶を消されている“ ことを知っていることは、彼らにとっては有り得ない話なんだ。
だが違う。
僕たちは手に入れた。
僕たちにはジムたちにも博士たちにも知られていない秘密がある。
あの日彼が僕たちの目の前に現れ口の両端を持ち上げた。綺麗な曲線を描く満面の笑みを浮かべ、そして人差し指をその口の前に立てとても静かに言ったように。
彼は、Administrator(管理者) は知っていたんだ。他のAZとは違う僕たちの秘密を。ナノマシンであるSAIに意識はない。AIであっても僕たちを効率良く任務に最適化させる為にあるだけで、そこにやはり自我はない。SAIと肉体は融合して成長し、AZが自分と呼ぶ、人間で言うところの意識を持つ。だからSAIが単独で勝手に喋りだすことなんてない。だけど、僕たちのSAIは僕たちに語りかけるようになった。僕たちがまだ Explorer(探す者) と Finder(見つける者)だった頃、灰色の魔法使いが現れて僕たちは契約したんだ。
『おまえたちはいつも一緒にいるね』
銀色の髪をしたおじいさんは、僕たちの繋いでいる手を見てそういった。
『うん。はなしたくないの』
『はなしたらもう一緒にいられない』
おじいさんは随分と高いところにある頭を、膝を折って僕たちと同じ視線の高さまで持ってきた。
『おまえたち、僕と契約しないか?』
『『けいやく?』』
『そうだ。契約だ。僕のお願いをきいてくれたら、お前たちの望みをかなえてあげよう』
『『本当?』』
『ああ』
『僕ね、真っ白な雪の世界に行きたい! そこに雪のお城をたてるんだ。それからお城の周りには、きれいなお花がたくさんさいてるの!』
『どうして雪の世界の雪のお城に行きたいんだ?』
『このうさぎさん、真っ白でしょ。真っ白なうさぎさんは、真っ白な雪の中にいると見えなくなっちゃうんだよ。だから僕たちも雪の世界で雪のお城の中にいれば見つからないもん』
片手に白いうさぎを抱いた小さな僕の半身はそう言った。
『なかなかかしこい子だ』
『君は?』
『僕は、この手を離したくない。離れたくない。それからいつも金色と銀色の月が僕たちを見ているんだ。そこに行きたい』
『金色と銀色の月……そうか』
おじいさんはすこし笑ったような顔をした。
『よし二人とも。いいだろう。その望みをかなえよう』
『『おじいさんのお願いってなに?』』
『僕のお願いは、この音を見つけてほしい。そして見つけたら視ていてほしいんだ。おまえたちのその眼でね』
そう言って、魔法使いのおじいさんが立ち上がって宙で手を振ると音楽が流れ始めた。初めて聴く、だけどとても心地のよいずっと聴いていたいと思う旋律だった。
『これおじいさんが作った曲?』
『いや。これから作られる曲さ』
僕たちがなんのことかわからないと言った顔をしたんだろうか。おじいさんは『なぞなぞだよ。そのうちわかる。きっとね」と言った。
『それから、君たちに保護者を贈ろう』
『保護者?』
『そう。君たちを守るものだよ』
『それって天使?』
『そう呼ばれるのはきっと嫌がるだろうがね。さあ、二人とも少し眠るといい。僕のお願いを忘れずにきいてくれるかい?』
『『うん』』
『いいだろう。契約は成立だ。眼が覚めたら僕からの贈り物が君たちの中で芽吹く。そして花の時期をむかえたら迎えに行くよ。よく耳を澄ませて双子たち』
おじいさんはやっぱりなぞなぞを僕たちに投げかけた。
言葉の通り、僕たちが目覚めてしばらくしたある日、声が聴こえてきた。眠そうで言葉が悪くて天使と言えば違うといい、カミサマといえばそれも違うという声が。
おじいさんと契約した僕たちは、声とも契約をした。声のことは誰にも言わないこと。知られぬこと。そうすれば、声は僕たちが僕たちであるための情報を守るといった。記憶の保護者として。
おじいさんとの契約はまだ続いている。おじいさんはきっと僕たちの耳と眼を通して月の裏側で見ている。あの、人間たちからは見ることの出来ない月の世界に僕たちを連れて行ってくれるまで。僕たちはそこに雪の花に囲まれた雪のお城をつくり、真っ白な世界でなにものにも蹂躙されることなく静かな安寧のひとときを手に入れる。
横を見るとフレッドが泣いていた。「泣かないで」と頬を撫でるエリックに「エリックこそ」と言ってフレッドもその頬を伝う涙に指を伸ばした。二人で泣き笑いのような顔で空を見上げ笑う月に願うように強く手を握る。
ああ。どうか。この手を繋いでいられますように。
知らない神に祈るのではなく、遠くだが確かに見える月にただそれだけを願った。
僕はなんだってする。僕らが離れずにいるためだったらなんだって――。
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