雪原脳花

帽子屋

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間奏曲

lamentazione(16)

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 薄ぼんやりとわずかに緑をはらんだような光。なにか、機械が発するLEDの光だろうか。爆発に巻き込まれてもなお壊れずにこんなところに転がっているのか。
 爆発せずに残った爆弾か何かかもしれない。
 そう考えると、改めて身の危険を感じる。生き残っている爆弾だとしたら今すぐにでも警官に知らせるべきだ。だが、それではなんのためにここまで侵入したのかわからない。カメラマンに大見得切って、ある、と断言したはずのスクープはなにひとつ見つかっていない。光のもとへ行くか戻るか逡巡していると急に吹き込んできた強い風に髪をあおられ小さく驚きの声がもれ、自然とカメラを握っていた手に力がはいった。
「なによもう!」
 過ぎ去った風に文句を言うと、ひりひりとした小さな違和感を感じる。見てみれば手や指に細かい傷が出来て血が滲んでいる。
 いつのまに切れたんだろう……あの雑草かな。
 ここまで進んできた道のりを思い返す。気付いてしまうと痛覚は増幅されるようで思いのほか小さな傷からのひりひりした痛みを意識したが、それよりも、と自分の指先から躊躇している暗闇を見やる。先程の光は少し大きくなっているように見え、そして消える。またしばらくして灯ると、その前よりいくぶんか大きくなっているように見えた。
 なに、あれ……点滅するのはわかるけど、だんだん大きくなっている気がする……本当になんなの……。
 尻込みして弱気になっているとは思いたくはないが、確かめたくてもその一歩が踏み出せない。
 あれは機械で、きっと光が強くなってるだけだって……でもなんか、変よね……。
 カメラを向けるがモニタディスプレイには今は暗闇しか映らない。得体のしれない光に、先程の自分の不謹慎な独り言を反芻しなぜだかすっと背筋が冷たくなる。
 そんな……幽霊だのゾンビだのって、だからそんなこと……あるわけないじゃない。番組で流してる動画だって全部作り物なんだから。
 自分がメインを勤める深夜番組はトンデモ話や都市伝説を視聴者からの投稿動画を交えてそれらしく語る番組だが、面白い動画がなければ仕込み、やらせ、捏造がデフォルトとしてまかり通ってる。「Oh my God!」と番組中ハイテンションで連発し、あたかも本物と信じているように演じてはいるが、制作の裏側、実情を知っているアンは実のところその手の話しを全く信じていなかった。時にはまさかと目を疑うような素人の動画、とくに最近の流行は「死んでるはずなのに動いてる人間」「死体置き場(モルグ)から這い出てきた」「撃たれても襲撃し続ける犯人たち」「ゾンビ映像」は、よく出来ているCGだなVFXだなと思うことはあっても、そこで自分がほんの少しでもリアルを疑ってしまっては自分までもがスタッフや日の当る番組で仕事をする人間たちに低俗だと思われてしまうようで、絶対に信じたくなかった。
 信じてなんかいない。そんなのいるはずない。
 そうかたく思うのにある声が脳裏を掠める。
『ゾンビやアンデッドは実在する』
 すっかり忘れていたが、以前バーで、たしかステファンと名乗った小柄の男の言葉を思い出した。
『ゾンビやアンデッドは実在すると思うね、俺は』
 嫌味な先輩やスタッフが、さんざんな自分の陰口を話しているのをセットの裏側でうっかり聞いてしまったその日は、したたかに酒を飲んでバーをはしごしていた。何件目かも忘れたどこかのバーでいい感じに酔いがまわって、ほんとにいるならゾンビにでも食われちゃえばいいんだわ、あんなやつら……と悪態をついていたときだった。
『ゾンビやアンデッドはほんとにいるよ』
 横を向けば隣のスツールに眼鏡をかけた愛嬌ある顔の人間がこちらを向いていた。
『そうなの?だったらほんと食べられちゃえばいいのにねー!はーい、誰だか知らないけど、ゾンビに乾杯!』
『俺はステファン』
『ステファンね。私、アンよ。アン・パトリッジ、よろしくー』
『知ってる。きみの番組、見てるよ』
『あら、そうなの?ありがとー!』
 酒に酔った勢いでガチャンと派手な音を立てて何度も乾杯しながら、ゾンビやアンデッドなんかの話した気がする。ぞんぶんにアルコールが回った頭でよく覚えていないが、ステファンは笑いながらも真面目な声で軍がどうしたとか、ネタにつきると番組スタッフが持ち出してくるような陰謀説や表に出せない秘密実験の話しを、胸ポケットから取り出したモバイルに記録してある写真を見せながら話してくれた気がする。
「瓦礫の下からゾンビでも出てくるって言うわけ?!いいじゃない、上等よ、それならそれでスクープなんだから!爆弾でもゾンビでも真実を知るのがジャーナリストよ!」
 アンはにやつきながら蔑んだ目で今回の現場リポートに自分を指名した先輩リポーター、裏で陰口をネタにスタッフを笑わせたきつける卑劣な男、そしてそれに釣られて笑うスタッフたちの記憶をなぎ払う勢いで暗闇へと一歩を踏み出した。
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