雪原脳花

帽子屋

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間奏曲

lamentazione(15)

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 なんだかずいぶん静か……事故現場とは思えない。
 辛うじて潰れずに残った一角にたどり着いたアンは壁に背を預けるようにしてそっとなかの様子を伺ってみた。表の野次馬や警官たちの騒ぎとは裏腹に、こちら側は何もかもがすでに終わってしまったあとのように、しんと静まりかえっていた。のぞきこんで周囲を見れば薄暗く、埃はまだ大量に舞っているようで、壊れた壁の隙間から差し込む太陽光がいくつも光の道を作っていた。裏側から侵入したとはいえ、拍子抜けするほど静かなものだと思った。崩れ落ちて被害が大きく見えた表側にしか、救急隊や警官に命令は届いていないのだろうか。もともとこの場所での人命救助も現場検証も、市長の行動や警察の世間体を保つに過ぎず、裏側など興味がないのかもしれない。崩れる危険を顧みず、アンは屋舎の中へと歩を勧めた。知らずカメラを持つ手に力が入った。
「これが夜だったらまさにホーンテッドハウス。その手の動画撮るのに最適なロケ地……」
 誰に話すわけでもなくひとりぶつぶつと呟く。静まり返った廃屋は埃とカビと、それから嗅ぎなれない、汚れた空気とでもいうような臭いが立ち込めていた。奥へと進むにつれその見えない臭いが濃くなり空気が重たく感じられ、不意に起こる音、無機物が落下したのか倒れたのか、に息をのむ。いつしか雑草の茂みをぬけるときの高揚感はなりを潜めアンは知らず緊張していた。その緊張は危機に対して対処するための張り詰めた糸、というよりは、見えないなにか、言いようのない不安、得体の知れない恐怖といったものを無意識に感じてのものだったがアンは気付かないふりをした。そんな自分の胸のうちに気付くことがないようにと独り言は勝手に口をついて出てきた。
「もともと廃教会なんだから幽霊あたりのネタあるかも……局に帰ったら今までの映像確認するのアリよね。この爆発でもし生き埋めにされた被災者でもいたら、幽霊どころかゾンビだのアンデットが出来るかもしれないわよ、視聴者の皆さん……」
 無機物に囲まれ横たわる沈黙に不謹慎極まりない発言が転がり、思わず我に返る。
 幽霊?ゾンビ?私、なに言ってるんだろう。馬鹿みたい、そんなのいるわけないじゃない。
 ようやくたどり着いた廊下をのぞくと、片側は表側へ続いているようだが反対側は奥が崩れているのか光が届かずその先が確認出来ない。不謹慎な発言でほんの少し冷静さを取り戻したアンは、さすがにこの暗がりへ足を踏み入れるのはいかがなものかと表側に伸びている反対側の通路を見やったがそこで動きを止めた。
 ……いま、なにか光らなかった?
 暗がりの奥で小さな光が見えた気がした。振り返ってもう一度のぞくが光らしきものは見えない。固唾を呑み凝視するがやはりなにも見えずただ暗い空間だけがあった。
「見間違い……?」
それとも気のせいだったのかと、そっと息を吐いたそのとき、ひとつ、ふたつと連続して小さな光が現れた。
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