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間奏曲
lamentazione(19)
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「ベル、それ動き出してるよ」
ベル、と呼ばれた女の子は、初めて自分がつかんでいた人形が暴れはじめていることに気付いたように、ちらりとそちらを向き、人形が暴れるに任せて好き勝手に動いていた腕をぴたりと止めると、無表情のまま首の根を掴んでいる指に力を入れたようだった。小さな子供に首を握りこまれた人形は、頭の動きを封じられ口からは気味の悪い呻り声とべたついた液体を漏らしながら、四肢を痙攣させる。女の子はその首をつかんだまま、地面に絵でも描くかのように両の膝を折ると、そのまま人形の頭部を地面へと激しく叩き付けた。鈍い音がしてあらぬ方向に首を曲げた人形は完全に動きを止め、女の子の口から響いていた蜂の羽音もピタリとやんだ。
アンはカメラを落とし、腰を抜かした身体を両の手で地面を引っかくようにもがいて後ずさりする。その腕を小さな子供の手が掴んだ。
「どうしたの?おねえさん?」
アンの顔をのぞきこむように、赤い巻き毛の男の子がにこりと笑い小首をかしげた。
パニックに陥ったアンにはその突然の出現も子供らしい高い声も、もはや頭で処理できる状態ではなく、全てを振り払うかのように夢中で頭を振り、足を地面に必死にこすりつけこの場から少しでも離れようともがいた。だが、子供の小さな手につかまれた腕はびくとも動かなかった。
「ねえ、おねえさん。どうしたの?」
アンの腕をつかんだまま、正面へと回り込んでしゃがみこんだ子供は屈託のない笑顔で再び問いかけてくる。だがその顔も、よく見ればつかんでいるふっくらとした手も、女の子と同じ赤い絵の具に飛び込んだようだった。
「ねえ、どこに行くの?」
くるくるとした柔らかい髪、やわらかい輪郭、薄紅色の頬、つぶらな瞳、邪気のない笑顔、さながら絵画の天使を彷彿させる、だが赤い絵の具が派手にはねてしまったような天使の顔は、にっこりと笑いアンの顔との距離を縮めていく。アンは涙と鼻水とがないまぜになった顔を無意識に背けて雑草のはう地面へと視線を移した。
「ねえ、こっち、向いてよ」
男の子がアンの顔に手を掛けようとしたとき、アンの視界に子供サイズのスニーカーが見えた。スニーカーのタンの部分にはスタンレー・ロジャー・スミスがあしらわれている。
「カイ、連絡はしましたか?」
「まだだよー、だってこのおねえさん見つけちゃったんだもん」
赤毛の男の子は、アンの顔に伸ばした手を止めることもなく、諌めるような質問を気にする風でもなく、笑顔のまま上目遣いで声を見やる。
「連絡は最優先事項と言ったはずです」
「ベルはちゃんと最後の一匹仕留めたし、どうせどこかでトムが見てるでしょ。ピーピング・トムが。あいつの唯一のできること、僕がとっちゃったらかわいそうでしょ」
「カイ、何度も言いますが彼はトムではない。グレッグです」
「わかってるよ。もーいいんだよ、あいつ、見ることしか出来ない役立たずだよ?せっかく生まれても名前いらないぐらいじゃん?まだどこにもいないトムがお似合い。ねえ?おねえさんもそう思うでしょ?」
ベル、と呼ばれた女の子は、初めて自分がつかんでいた人形が暴れはじめていることに気付いたように、ちらりとそちらを向き、人形が暴れるに任せて好き勝手に動いていた腕をぴたりと止めると、無表情のまま首の根を掴んでいる指に力を入れたようだった。小さな子供に首を握りこまれた人形は、頭の動きを封じられ口からは気味の悪い呻り声とべたついた液体を漏らしながら、四肢を痙攣させる。女の子はその首をつかんだまま、地面に絵でも描くかのように両の膝を折ると、そのまま人形の頭部を地面へと激しく叩き付けた。鈍い音がしてあらぬ方向に首を曲げた人形は完全に動きを止め、女の子の口から響いていた蜂の羽音もピタリとやんだ。
アンはカメラを落とし、腰を抜かした身体を両の手で地面を引っかくようにもがいて後ずさりする。その腕を小さな子供の手が掴んだ。
「どうしたの?おねえさん?」
アンの顔をのぞきこむように、赤い巻き毛の男の子がにこりと笑い小首をかしげた。
パニックに陥ったアンにはその突然の出現も子供らしい高い声も、もはや頭で処理できる状態ではなく、全てを振り払うかのように夢中で頭を振り、足を地面に必死にこすりつけこの場から少しでも離れようともがいた。だが、子供の小さな手につかまれた腕はびくとも動かなかった。
「ねえ、おねえさん。どうしたの?」
アンの腕をつかんだまま、正面へと回り込んでしゃがみこんだ子供は屈託のない笑顔で再び問いかけてくる。だがその顔も、よく見ればつかんでいるふっくらとした手も、女の子と同じ赤い絵の具に飛び込んだようだった。
「ねえ、どこに行くの?」
くるくるとした柔らかい髪、やわらかい輪郭、薄紅色の頬、つぶらな瞳、邪気のない笑顔、さながら絵画の天使を彷彿させる、だが赤い絵の具が派手にはねてしまったような天使の顔は、にっこりと笑いアンの顔との距離を縮めていく。アンは涙と鼻水とがないまぜになった顔を無意識に背けて雑草のはう地面へと視線を移した。
「ねえ、こっち、向いてよ」
男の子がアンの顔に手を掛けようとしたとき、アンの視界に子供サイズのスニーカーが見えた。スニーカーのタンの部分にはスタンレー・ロジャー・スミスがあしらわれている。
「カイ、連絡はしましたか?」
「まだだよー、だってこのおねえさん見つけちゃったんだもん」
赤毛の男の子は、アンの顔に伸ばした手を止めることもなく、諌めるような質問を気にする風でもなく、笑顔のまま上目遣いで声を見やる。
「連絡は最優先事項と言ったはずです」
「ベルはちゃんと最後の一匹仕留めたし、どうせどこかでトムが見てるでしょ。ピーピング・トムが。あいつの唯一のできること、僕がとっちゃったらかわいそうでしょ」
「カイ、何度も言いますが彼はトムではない。グレッグです」
「わかってるよ。もーいいんだよ、あいつ、見ることしか出来ない役立たずだよ?せっかく生まれても名前いらないぐらいじゃん?まだどこにもいないトムがお似合い。ねえ?おねえさんもそう思うでしょ?」
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