雪原脳花

帽子屋

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間奏曲

lamentazione(35)

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 広げていたギターケースから、数枚のコインをポケットに入れ、コインよりもよほど多く投げ入れられたゴミをその辺に放った男は、店じまいとばかりにギターをケースに入れ蓋を閉じると、二人からの贈物を「ありがたく頂くよ」と脇に抱えて立ち上がり、ギターケースをキャロルへと差し出した。
「この雑誌と缶の礼だ。弾いてくれても、売ってくれても構わない」
「おじさんもどっか行くの? おうちに帰るとか? でも、おじさん、ギターがないと途中でお金が足りなくなったとき歌えないよ? おうち、アジアでしょ? 海の向こうなんでしょ?」
「家はないんだ」
「おうち、ないの?どうして?」
「ずっと昔に、いろいろと手放してしまった」
「じゃ、どこいくの?」
「俺のギターがいる場所に。それに……」
 男は受け取った雑誌の表紙をもう一度眺めた。世界的なロックフェスが巻頭に取り上げられ、何人かのミュージシャンの中に1人の東洋人がギターを誇らしげに高く掲げている。
「海を渡らなくてもよさそうだ」
「おじさんのギターってもしかしてバンドの仲間? そっか、仲間がいたんだ! 良かった!」
 キャロルは屈託無く笑い、念を押すように「じゃあね、おじさん、本当にロックスターになってもアタシたちのこと忘れないでね」と、もう一度、強く、男に抱きついた。
 

「グラハム刑事」
 ついこの前まで、制服を着てこの辺りをパトロールしていた若い刑事が口ひげをトレードマークにしている先輩刑事に声をかけた。グラハムは煙草をくわえたまま振り返った。
「刑事、路上は禁煙です」
「かたいこと言うなよ」
「ですが、この地域はこの前教会の倒潰事故が起きたばかりですよ。その原因は、地下にたまったガスに不審火が引火したって言うじゃないですか」
 なんともごもっともな意見に、グラハムは吐き出した煙の奥に剣呑な目つきですごんでみせる。
「俺はなぁ、飯の途中で呼び出され、生意気なガキどもがわれさきにとネットにネタをあげようと群がっているのを蹴散らして理科資料室の中で体から引っこ抜かれたナッツクラックにご対面したあと、いまさっき巨大な缶詰肉見たばっかなんだよ。俺はハライコのソーセージが好物なんだぞ。それが、アレのせいで当分食えそうにない。お前に俺のやるせない気持ちがわかるか?」
「わからないです」
「だったら煙草ぐらい見逃せ。俺はなんとかこいつでその沈んだ気持ちを落ち着かせ、浮上させようとしているんだ」
「ああ、僕、本当にどちらも見なくて良かったです。刑事は災難でしたね、立て続けに呼び出されて」
 若い刑事は心底安堵した面持ちで本音をこぼした。
 全くこれだから最近の若いモンは。そんなんでこれから現場が務まるのかよ、と喉まで出かかった年寄りじみた台詞をグラハムは大きく吸い込んだ煙とともに飲み込んだ。
「あのなぁ……で、なんだよ」
「ああそうでした! その、例の学校で見つかった頭部と、すぐそこの肉詰缶は、連邦捜査局が持っていくみたいです」
「は? なんでだよ。異常な巨大缶詰だって言ったって、なんでうちの管轄のそれもチンケなチンピラギャングの根城に連中がおでましなんだ。おでましだけならまだしも、物証かっさらうってどういうことだよ。しかも2件ともだと? どういうつもりだ?!」
「僕に言われても困るんですけど、所長はもう話をつけたってことじゃないですかね。良かったじゃないですか、これで、ハライコのソーセージ、食べられますよ」
「ばかやろう」
 グラハムはくわえていた煙草を路上に叩きつけ、踏みつけると現場へと走りだした。背後で「吸殻投棄!罰金ですよ!」と言う声に「お前が拾うか払うかしとけ!」と叫んだ。
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