黎明の翼 -龍騎士達のアルカディア-

八束ノ大和

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第1章 王国編

第9話 魔術

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翌日
 
 「さて諸君、昨日の測定結果を基に現在の力量と編成を整理した。
今から貼りだす紙にまとめてあるから確認する様に。」
教官の一声で、皆昨日の結果を確認した。
 
 アルクスは自分の名前を探したところ、以下のクラスに記載があった。
  筋力 :B.中級
  敏捷性:C.初級 
  持久力:B.中級


「見ながら聞いてくれ。昨日の結果をもとに基礎体力向上授業の編成を決めた。上級・中級・初級の3クラスだ。各編成での目標を達成したら次の編成に上がっていく。上級は更なる高みを目指し、高学年次にはさらに上位となる特級を目指す様に。」
 皆、自分の結果に対して様々に反応してざわついていた。

「俺は筋力B、敏捷性C、持久力Aだったぜ。」
「私は筋力C、敏捷性A、持久力Cだったわ。」
リディウスとヘレナが自分達の編成を教えてくれた。

「リディとは持久力以外一緒だけど、ヘレナとは全然被っていないね。」
「残念、でも仕方ないわ。少しでも上がれる様に頑張るわ。」
「俺も卒業までに全部特級に上がらないと、親父にドヤされちまう。」
皆、結果に対して思い思いの反応を示していた。
 
 「ではそろそろ静かに、各自席に戻る様に。
さて、身体能力だけではなく魔術をどれだけ扱えるかによっても、卒業後の進路は変わってくる。
そこで今日は重要な魔術の話と潜在魔力の検査を行う。そもそも大人が皆使っている魔術とはいったい何かわかる者はいるか?」

 勢いよく手を挙げる学生がいた。
 「はい、神様から授かったラピスに魔力を集めて、それを呪文で具現化するものです!」
勉強してきたことを自信満々に発表したのが表情に表れていた。

 「間違ってはいないな。魔術とは力であり、神々からの祝福である。魔術を使えない、神の加護を得られていない者は王国では下級国民としてしか生きていくことは厳しいであろう。」

 「王国以外ではどうなんですか?」

 「帝国の野蛮な奴らは力こそ全てだから、強くさえあれば魔術が使えなくても問題はないが、魔術を全く使わずに強くなることはなかなか難しいだろう。
  連邦には魔術が使えない者達を受け入れる街なるものがあるが、それが本当なのかは定かではないな。」

 自国とは異なる他国の実態を聞き、室内が騒ついた。

 「静粛に。さて、魔術を使えない下級国民は不授と呼ばれ王国内、特にこの王都ではまともな人権はないと言えるだろう。
 だが別の街ではラピスを持たずとも別の道で王国に貢献している者達もいる。特に商人や農民達の中にそういったものは多いな。ラピスを持たずとも腐らずに貢献した者達は王都以外では厚遇されている者も多い。諸君等も不授だからといって蔑むことなく、その者が国に貢献しているかどうかという目を持てる様になることだ。
 続けるぞ、なぜ一定の年齢になるまで魔術が使えないかわかる者はいるか?」

 ざわつくものの、皆答えがわからず、まばらにしか手が挙がらない。
 「大きくならないとラピスをもらえないからではないでしょうか?」
 「いや、大人になるまで魔術に必要な呪文を教えてもらえないのだと思います。」
 「それだと知っていたら使えるんじゃない?」
 「魔術が出る穴が塞がっているとかですか?」
 様々な意見があがるものの、正解はなかった。

「うむ、皆自ら考えて意見を述べたことを嬉しく思う。
まずは魔術を使うためには神々からラピスを授かる必要がある。これは生まれた時に授かる者だ。
そして、ラピスの力を十全に発揮するために、魔力の制御を覚える必要がある。
以前は小さいうちからラピスの力を使い魔術を扱うことができたが、生まれつき魔力が大きい者は魔力の制御ができずに魔術を暴走させてしまい、甚大な被害が起きる事故が度々あったのだ。
そのため、王立学園ではまず第一に安全のためにも魔力制御を身につけることが主眼となった。
またそれにより表面的な魔術の使い方だけでなく、より繊細な魔術を扱える様になったとも言われている。
多くの者が第1学年修了時に受ける選別の儀だが、あれは最低限の魔力制御と魔術の発動が扱える様になっていないと正しく自身に宿るラピスが何であるかわからない様になっている。 
だが、不断の努力を行えば、必ず皆制御できる様になると誓おう。諸君らの努力に期待する。」

 アルクスはネモから教わったことと説明が違うところに気付いた。
教会での教えと学園での教えに違いがあるのだろうかと疑問に思う。

 「次に魔力とは何か、だ。わかる者はいるかな?」
 この教官は学生に意見を発言させて授業を進めるスタイルが主らしい。

 「はい、体の中に宿るエレメントです!」
 「いや、外から取り込んだエレメントじゃないかな?」
 「エレメントとウィスを混ぜると魔力になるって聞いたけど。」
 「どうやって混ぜるんだ?」

 皆が間違ったことを言っているのでアルクスはたまらず手を挙げて発言してしまう。

 「はい!空気中のエレメントを体の中に取り込んで、自分のウィスと混ぜたものです!」
 自信満々に大声を出したものだから皆の注目を大いに集めてしまった。

「正解だ、よく勉強しているな。」
 正解を当てたことで周囲から「おぉ、さすがはウィル様の弟だ。」というざわめきが聞こえる。

「静かに。エレメントとウィスを混ぜることで魔力を生み出すことができる。
我々は空気中にあるエレメントを呼吸などで吸い込んでいる。それが体内でウィスと混ざって魔力となっているのだ。だから魔力は寝ている時が一番回復する。また、エレメントやウィスが豊富に含まれた食材などを摂るのも良いと言われている。エレメントポーションなどはそれが顕著なものだな。
ではどうすれば魔力を多く生み出すことができるだろうか?」

 再びの質問に対して、皆思い思いの意見を言い始める。
 「いっぱい呼吸をすれば良いんじゃないかな?」
 「息を吸いすぎると苦しくならない?」
 「体を動かすとか?」

 ざわめきが自然に消えると教官が口を開けた。
「呼吸に意識をおくというのは間違っていないな。精神を統一し、エレメントを吸い込み、体の中で混ぜるというイメージをすることが大事だ。
戦場ではいかに心を落ち着かせ、魔力回復を図れるかが重要な局面もある。
まずは精神を統一し呼吸を落ち着かせる訓練から始めよう。
難しいことはない、そのまま席に座ったまま出来ることだ。

 目を閉じてから呼吸を静かに行って。
 吸い込んだエレメントが自分の体の中で1つに混ざり合うイメージをするんだ。
 目を開けて。」

 静寂が部屋の中を漂う。
 一部の学生達から淡い光が漏れ出していた。
 魔術の素養がある学生やアルクスの様に事前に家庭教師をつけて訓練をしていた学生などは上手く魔術を練れていた。

「これが魔力制御の基本中の基本だ、イメージはできただろうか。
中には上手く魔力が練れて、うっすらと光が出ている者もいたな。
魔力を練ることができる様になったら、その魔力を体の一箇所に集めてみて欲しい。
そうしたらもう一番基本の自己強化魔術ができた様なものだ。
最初は足や腕に集めると効果を実感しやすいだろう。

 さて、少し話が逸れるが世界にはエレメントの濃度が濃いエレメントの源泉と呼ばれる場所がある。
 深い森の奥や洞窟の奥、海底などに見られることがあるらしい。
そういったところでは魔力が練りやすくなるということも言われている。
そこまでたどり着くことは安易にできることではないが、もし機会があればぜひ体験してみてほしい。
枯れかけの源泉ではあったが、私も昔戦場で体験したことがある。
あの体の内側から生まれ変わっていく様な感覚は魔術を扱うものとして、一度は味わってほしいものだ。
実際、その後に扱うことのできる魔力の量も増えた実感があった。」
 皆、エレメントの源泉の話に興味を持ち、注意深く聞いていた。
 アルクスも今までエレメントの源泉に関しては本で読んだことがあるだけで、詳しいことは知らなかった。ネモに聞きたいことがどんどん増えていくなと思い、知りたいことが増え、試験を乗り越えられない自分に苦悩していた。
 

 「先生、エレメントの源泉は王都の近くだとどこにあるんですか?」
 「行ってみたい!」
 教官の魔力の量が増えたという話に対して楽して強くなろうという魂胆が透けて見えていた。

「王城の地下や湖の湖底に源泉があるという話もあるが、我々には行けないからな。
南の森にも昔は源泉があったが、未だに残っているかはわからない。」

「エレメントの源泉は枯れるものなのでしょうか?」

「良い質問だ。エレメントの源泉は普通に存在しているだけでは通常は枯れることはないが、強力な魔物など、大量のエレメントを必要とするものが現れるとその限りではない。
 そして源泉の近くにいる魔物にはただの魔石ではなく、魔晶石が生まれやすい。
魔物を倒すと魔石というエレメントが結晶化したものを落とすことは知っていると思う。
魔晶石は純度が非常に高い魔石だと思えばよい。
魔石や魔晶石は源泉ほどではないが、魔力を練るのに貢献をしてくれる。
魔術支援道具に多く使われており、騎士団の剣の柄にも魔石がはまっている。
小さいものから砂、石、晶、玉というように少しずつ大きくなっていく。
特に晶と玉は別物だ。大きさだけではなく、造形がまったくの別物でもったいないことだが美術品として鑑賞用に扱っている者達もいるくらいだ。
そして、魔力効率に天と地ほどの差がある。」

アルクスは先日ネモに触らせてもらった魔石と闘玉のことを思い出していた。
あれは手のひらに乗る大きさでまさに完全な球体だったから玉だろう。
持つだけで魔力は練りやすかったが、その後の疲労を考えると効率が良過ぎるのも考えものだった。

 「話は逸れるが魔石を狙う職業もある。探索者と呼ばれていて、主に魔石を探す他に、魔物の討伐やまだ見ぬ遺跡の発掘などを行っている。
騎士団に入れなかったような規律を守れないモラルの無い粗野な者達が多いが、彼らのおかげで王国内の魔石の流通が成り立っている面もある。
探索者協会は国を超えて支部があるため、他国の情報収集に使いやすい面もある。
諸君等が探索者になることはないだろうが、関わることもあるだろう。
探索者の強者の中には竜殺しの英雄と呼ばれる者など、強大な力を持ち、市井の中で絶大な人気を誇る者達もいる。
彼の者達の中には王国騎士団の蒼天十二将よりも強い者がいるとも言われている、侮ることはしないことだ。」

アルクスは今までに数多くの探索者の物語を読んできており、自分とは異なる世界と理解しつつも数多くの新しい発見をした探索者への憧れを持っていた。
以前教会で出会ったことのある探索者も良心と節度を弁えた人間であったため、教官の個人的な思いが強いのかもしれないと感じられた。

「蒼天十二将といえば、彼等は皆ラピスを2つ以上その身に宿している。
これがどういうことがわかるか?」

ラピスを2つ持つという、一般的な常識とは違う話に学生達は皆驚きを隠せない様子だった。
神々から与えられるラピスは1つだけというのが当然の事実であり、誰もがそう教えられてきた。

「生まれる時に神様からラピスを2つ授けられるというわけではない。ラピスの力を使いこなし、素晴らしい働きをした者には神様が更なるラピスを与えてくださるのだ。
神様はいつも我々のことを見て下さっている。だからこそまず君達は日々の学びをしっかりと身につけ、弛まぬ努力をすることだ。
時に伸び悩むこともあるだろうが、それを乗り越えた者にこそ、真の力はつくというものだ。
 では今日の魔術の授業はここまで、皆まずは呼吸の訓練を怠ることないように。」


アルクスは授業が終わり、考え込んでいた。
―神様が2つ目のラピスを与えてくれるということだけど、どうやって与えてくれるのだろうか。何か専門の儀式でもあるのかな?ラピスを使いこなすっていうところが最初の関門だろうけど、こればかりは選別の儀が終わってからじゃないとなんとも出来ないかな。
こういった内容は本には載っていないことが多いし、秘匿されてるんだろうなぁ…
あと魔力の講義を受けてみて思ったことは、教官は魔力に関しては教えてくれたものの、先生が教えてくれた闘気に関しては一切触れていなかったな。知らないっていうことはないだろうと思うけど、帝国のことを野蛮とか言ってたから、闘気に嫌な思いとかあるのかな。もしかして教えてはいけないことなのだろうか。今度先生が来たら聞いてみたいことばかりだな…―


「おい、アルクス、もう授業終わったぞ。」
「難しい顔して考えごとかしら?一緒にお昼ご飯食べましょう!」
リディウスとヘレナに声をかけられて、アルクスはハッと現実に戻ってきた。
「あぁ、もちろん。じゃあ行こうか。」


食堂で昼食を食べつつ、リディウスとヘレナは今日の授業の感想を話していた。
 「魔力ってあんな風に練るんだな、初めて知ったよ。」
 「私も。お姉ちゃんは家では何も教えてくれなかったし。」
 「オレもいつか絶対に蒼天十二将になってやる!」
 「私はあんまりガツガツせずにのんびり行きたいな。ところで蒼天十二将に一番近い若手と言ったらやっぱりウィル様じゃないかしら?」
 「確かに、まずは俺もウィル様を目標にするかな。」
 「そうだね、兄様なら間違いなく蒼天十二将に選ばれるよ。」
 「お、黙ってると思ったらやっぱりウィル様の話には食いついてくるのな。」
 「ねぇ、アルクス君は何を目指しているの?」
 「まずは兄様と比較されないことかな。」
 
 「「えぇ!!」」

 「兄様は素晴らしいけど、みんな僕を兄様との比較しかしてくれないから…
僕だからこその何かが欲しいんだよね。
でも、具体的にこれになりたいとかはないから、まずはできることを増やしていかないと」
 「アルクス君はお父さんの後を継いで教会で上を目指しているのかと思ってた。」
 「うーん、あんまり栄達を望んでいるわけではないからね。
  皆で幸せにいられるのが一番だよ。」
 「そんなもんか?男に生まれたからには天辺を目指さないと!」
 「暑苦しい考え方ね、もっとそんな考え方だと疲れちゃうわよ。」

 「確かに、兄様のことばかり考えていて、僕がどうなりたいのかとか考えたことがなかった。ちょっと考えてみるよ。」

 「さて、次は闘技の授業だ。俺が1番になってやるぜ!」
 「私は避けるのは得意なんだけど、殴ったり殴られたりするのはちょっと…」
 「うーん、なりたいものかぁ…」

2人は考え込んでしまったアルクスを連れて訓練場へと向かって行った。
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