黎明の翼 -龍騎士達のアルカディア-

八束ノ大和

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第3章 連邦編

第41話 組織

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階段を下まで降りて行くと扉があり、中から話し声が聞こえてきた。
「静かに、誰かいるみたいだ。とりあえず何を話しているのか聞いてみよう。」
2人はコクリとだけ頷いた。

『死者蘇生はまた失敗したようだな。』
『失敗作はまたその辺りに捨てておけばいいでしょうか。』
『ちょっと増えてきたんじゃないか?そのうち溢れるんじゃないか。』
『まぁこの中には入ってこないでしょう。せいぜい近隣の村に行って少し悪さするくらいじゃないですか?』
『あぁ。だが、あいつらが見つかるとまずいんじゃないか?』
『こんな僻地で何か起きたとしても、誰も困りはしないですよ。この辺りに戦えるやつなんていないですし、もし北の方に助けを求めたところで、助けが来たりはしないですよ。』
『まぁそうか。とりあえず早いところ成果を出して一度戻りたいものだな。』

どうやら中には2人の男がいる様子だった。
「何を話しているんだ?」
「とりあえずあいつらが元凶だってことかな。」
「なら、さっさと倒してしまおうぜ。」
「いや、とりあえず何のためのこんなことをしているのかわからないから、一通り話を聞いてからにしよう。」
バルトロ兄さんに説明すると飛び込もうとしていたので制止した。

アリシアはなんだかボーッとしている。
「アリシア、大丈夫か?」
「ここに入ってから、なんだか変な声が聞こえるような気がするの…」
「もう少しだけ我慢してくれるかな。もし辛いようだったら外に戻っていてもいいし。」
「大丈夫…、早く話を聞いてあいつらをやっちゃいましょ!」
「無理しないでね?」

アリシアが聞こえる声とは何だろうか。
目に見えない精霊の声でも聞こえたりするのだろうか…

『やはり人間はまだダメだな。魔獣の方はどうだ?』
『蘇生は上手くいかないですが、失敗作の制御なら安定してきました。
 人間の場合は制御が上手くいかないで彷徨うだけですが、魔獣はなんとか制御できています。』
『昔はできたという記録は残っているんだが、肝心な方法の記録が途切れているのが痛いな。
 しかし、研究成果であれば私達が一番進んでいるはずだ。 
 あいつらの支部には勝てるな。』
『表向きは魔獣の討伐で貢献して、裏では失敗作の魔獣達を制御して軍隊を作るというわけですね。とりあえず本部からは評価してもらえそうですね。』
『評価されずに本部からの支援がなくなったら何もできないからな。連邦各国を武力で制圧するためにはあとどれくらいかかりそうだ?』
『このペースなら早くてあと5年くらいあれば各地に配備できるんじゃないかと。』
『そうか、予定よりも早いな。長年の計画がようやく身を結ぶ日が見えてきたか。組織がこの大陸を統一したら今までとは立場がすっかり変わるだろうな。』
『僕らもいい暮らしできますかね。』
『いい暮らしなんてもんじゃないさ。』

魔獣を使った軍とか武力で制圧とかきな臭い話をしているぞ。
「どうやらここでは死者蘇生の研究と死者蘇生に失敗した亡者を制御する研究をしてるみたいだね。」
「死者蘇生に失敗したら、それってもうただの死体じゃないの?」
「仕組みはわからないけど、さっき動いてた死体は死者蘇生の失敗作みたいだよ。
 人間の場合は制御できないみたいだけど、魔獣の場合は制御できるらしい。」
「死んでるとは言え、大量に制御できる魔獣がいたら結構まずいんじゃないか?」
「そうだね、結構危険な組織みたいだしとりあえずここの拠点は潰しておこう。」
「おう!」「うん!」
聞いた話を説明したところ、2人もこの組織の殲滅に乗り気だった。

龍装鎧を腕輪から鎧に変換し、武器を構えて扉に突入する。
『話は聞かせてもらった。近隣の住民に迷惑をかけているお前達の悪事は許さないぞ!』

『な、何者だ!』
『だ、誰だお前達は!』
急な突入に研究員らしき2人の男達は手に持っていた物を落とすなどの動揺が見えた。

『旅の探索者だ!』
『くっ、探索者に組織のことがバレるとまずいな…先程制御できていると言った魔獣を出せ!』
『はい!』
1人の研究員が奥に入ると、奥から複数の獣が混ざったような魔獣を連れてきた。

『おぉ、こいつか。これが制御できているのなら問題はなさそうだな。』
もう1人の研究員が出てきた魔獣を近くで余裕を持って眺めていた。

「なんだこいつは…」
「なんか、この辺りで見た魔獣が混ざっているように見えない?」
現れた魔獣の異様さにバルトロ兄さんとアリシアの顔に動揺が見えた。
獣の胴体に複数の魔獣の頭が乗っている様に見えた。

『ふふふふふ、驚いたか!これが私たちの最新の研究成果である魔獣合成型レウェルティだ!
 こいつが暴れたらこの場所はもう使いものにならないだろうが、記録は別の場所にまとめてある。いけ、レウェルティこいつらを喰い尽くせ!』
研究員の男が鎖からレウェルティと呼ばれる魔獣を解放すると、先程まで近くにいたもう1人の研究員の腕に食いついた。

『な、何をする。制御できたんじゃなかったのか!痛い痛い、やめろやめて食べないで…』
ガリガリと言う音と共に男は腕、脚、胴体とレウェルティのそれぞれの口に齧られていき、血の跡だけ残して跡形もなくなってしまった。

『そんな、馬鹿な実験は上手くいったはずなのに…』
もう1人の研究員は腰を抜かして、立ち上がれない様子だった。

「自分達で扱えないものを作り出すなんて…」
「こんな奴が外に出たら大変なことになるよ!」
「よし、俺達で倒すしかないな。」

レウェルティは僕達3人を次の餌として認識したらしく、こちらに向かってきた。
重そうな鈍い動きだったが、先程の研究員に食いついた瞬間の機敏さを考えると瞬発力は侮れない。

レウェルティはアリシアよりも太い腕を振りかぶって叩きつけてきた。
「俺に任せろ!」
バルトロ兄さんが闘気を展開して受け止めた。

「これくらいなら余裕だな。ふんっ!」

バルトロ兄さんに押し返されて体制を崩したところに、アリシアが目や鼻に向けて短剣を投げつけた。
「これでどう?」

短剣が目に当たったものの、特に痛がる様子は見られなかった。
「もしかして死体だから痛みはないのか?そもそも目は見えているのかな…」

その瞬間、レウェルティの口の中に灯りが灯った。
「俺の後ろに下がれ!」

バルトロ兄さんが闘気を広げた瞬間にレウェルティの口から炎の息が吹き出してきた。
「ふぅ、間一髪だな。」

炎の息を防いだところに隙を見つけて、闘気を込めて斬りつけた。
「やったか…!」

レウェルティは何事もなかったかのように動き出した。
普通であれば致命傷のはずだが、死んでいるからどれだけ斬りつけても意味がないのかもしれない。

「こいつは一体どういう原理で動いているんだろう…」
「もう死んでるのよね?」
「そうみたいだけど…」

もう1人の研究員は気絶して気を失っていた。
「何か制御失敗した時の非常時に備えていてもおかしくないんじゃないかな。バルトロ兄さん、しばらく時間を稼いでもらえる?」
「わかった。」

そうしてバルトロ兄さんが攻撃を受け止めている間に、研究員が何か持っていないかを探った。
「これじゃないかな?」
アリシアが怪しい丸薬らしきものを見つけた。

「これはなんだろう。飲ませれば良いのかな?」
「それなら私に任せて!」
アリシアは短剣に丸薬をつけると、バルトロ兄さんに両腕を叩きつけているレウェルティの口元に放り込んだ。

レウェルティの動きが徐々に鈍くなり、遂には動かなくなった。
「やった!」
「ありがとう…」
「え、アルクス何か言った?」
アリシアが急にキョロキョロしだした。

「まだ何も言ってないよ?アリシアのお手柄だね。バルトロ兄さんもありがとう!」
「あぁ、これくらいなら大丈夫だ。」

レウェルティが動かなくなったのを確かめた。
「じゃあ、さっき気絶してたもう1人の研究員から組織のことを聞き出そうか。」

そうして先程研究員が倒れていた場所を見ると、そこには全身黒づくめの男が立っていて研究員の男を担いでいた。

「お前は何者だ!」
バルトロ兄さんが盾を構えつつ前に出た瞬間、黒づくめの男は去っていった。

「逃げられたか、一体あいつは何だったんだろうな。」
「研究員の男を連れて行ったってことは同じ組織の人間なんじゃないかな。」
「あの男のせいでさっきの魔獣達も苦しかったのかな…」
「うーん、もう死んでいたなら苦しいとかはないと思うけど。」
「そ、そうだよね。それよりもこの後どうする?」
「とりあえず他に何か組織の情報がないか見てみようか。」

その後、地下の研究所を調べたもののおそらく先程の黒づくめの男が破壊した様子であった。
そうして、組織の支部の1つは壊滅したため、これで近隣の村が被害にあうことはないだろう。

外に出るとすっかり夜が明けていた。
「とりあえず村まで戻ろうか。」
「この地上の建物はどうする?」
「残しておいても良いことは特にないだろうけど、壊すのも難しいよね。」
「いや、多分ここを崩せばこの建物は壊れるはずだ。」
そう言うとバルトロ兄さんは建物の中央の柱を叩き割った。

「逃げるぞ。」
言われるがままに離れると建物は自壊していき跡形もなくなっていた。

「どうしてわかったの?」
「何となくだな。」

その後、村に戻り森の奥にあったもの、そしてそれはもうなくなったことを伝えた。
組織のことなどは曖昧に話たが脅威が去ったとわかるととても感謝されて、また宴が開かれた。

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