上 下
13 / 111
何をするにも道具から

クエストと武具工房

しおりを挟む
 今日は親方の一言から始まった。

「お前、ちょっくら武具工房で使ってる掴みバシ見てこい。」

「はぁ。ウチとの違いを見てこいってことですか?」

「そうだ。しっかり覚えて帰ってこいよ。」

《クエスト:【つかみ箸】のレシピを覚えろ! が開始されました。》

 いつも突然だけど、クエストだったのか。
 このパターンはチェーンクエストの予感がするな。
 ばっちり覚えてこないと、何度も行く羽目になりそうだ。

 雑貨屋から、更に村の奥へ行くと武具屋がある。
 最近、新規の弟子が増えたので、かなり賑わってるだろうな。
 槍とハンマーの看板が見えてきた。

「そういえば一度も入ったことなかったな。ごめんくださーい。」

 中の作りは雑貨屋と似ている。
 外観の大きさも同じくらいだったし、コピペしたのか?
 親方と同じドワーフで、顔つきは違うが迫力満点の凄みがある。

「お前は確か…。」

「雑貨屋の見習いハッチです。」

「そっか。今日だったか。今使ってるが、使ってない道具は見て良いぞ。」

 グレンディルさんの案内で奥に入ると、雑貨屋より広い工房があった。
 5人程が金床にハンマーを打ち付けている。

「小間使いが増えたから、最近広くしたんだ。ハシは中央の炉の近くにまとめてある。」

 小間使い時代は、使って良い道具が限られてたからな、今の内なら掴みバシも見やすいだろう。
 炉に近づくとグスタフが剣を作っている。
 真剣な表情で火加減を見ているので、ここは黙って目的をはたそう。

「色々サイズあるな。この大きさは雑貨屋じゃ置いて無いな。」

「そいつは大剣作る時に使ったかな。重いし実戦じゃ使いづらいから、そのハシもあまり出番は無いな。あと雑貨屋で使うのと広さが違うだろ?」

 確かにハサミの先端が大きい。
 いや、広いと言ったほうが良いか?

「扱う金属がでかいのかな?」

「そういうこったな。探し出せば向こうにもデカイのあると思うが、普段使いしないだろ?」

 このサイズが置きっぱなしだと邪魔か。
 倉庫にでも入ってるかもしれない。

 留め具、ハサミ部分の角度、持ち手の太さ。
 いろんな角度から見回して他のと比べる。

「握り部分に凹凸まで作ってる。手が込んでるな…俺じゃここまでは無理。」

「ドーインのだからな。見習いじゃ足元にも着けておらん。」

 こういうニッカリ笑うところも似てるな。
 だけど親方のかぁ。
 真似するレベルまで行ってないから、レシピ取得したら練習だな。

 つかみ箸を眺めること20分。

《【つかみ箸】のレシピを取得しました。》
《クエスト:【つかみ箸】のレシピを覚えろ! が完了しました。》
《クエスト:【つかみ箸】を作成しろ! を開始します。》

 YES or NO
 YESしか無いだろ。

「ハッチさん。来てたんでっすね。」

「グスタフさん。邪魔したら悪いと思って声かけなかったんです。」

「シショーがいるってことは、クエストですね。」

「え?良く分かりましたね。」

「ふむふむ。なるほどなるほど。」

 グスタフさんは、頭の回転が早いから、時々俺が全く思いつかないことがわかる。

「ピピピビー…。私も期待しておきましょう。」

 最初の電子音は何だ?

「グスタフ。余計なことは言うな。」

 グレンディルさんが厳しい顔をしだした。

「すみませんシショー。ついポロっと。」

「ふん!そら!お前も油売ってる時間無いんじゃねーのか?」

 グレンディルさんに追い出されるように工房を出る。
 あの電子音が何か関係しているんだろうが…禁止ワードかな?
 それよりも、帰って作成しないとな。

 妙なもやもや感を抱えつつ雑貨屋へ戻ると、今度は手紙を持たされて鉱山へ行かされる。

「ほうほう。今日は1層降りるぞ。」

「え?良いんですか?」

 手紙に書いてあったのは、訓練要の鉱石取りについて。親方の許可がある時だけ1層降りられるらしい。
 ちなみに普段掘ってるところは0層。

「俺が見張ってるが、1層から弱い動物が出る。武器はあるな?」

 俺も言われた物だけを作ってたわけじゃ無い。インベントリから俺のメインウェポンを取り出す。

【紐付き銅の玉-】

 今の監督は、梅干しに八の字眉がついたような顔をしている。

「投擲しかありません。」

「死んでも恨むなよ?」

 そこは守ってくれよ!

 いつもの坑道を抜けて奥へ行くと階段があり、ここから先へは行ったことがない。
 見た目は0層と変わりないが、少し灯りが暗いか?

「ちゃんと前見ろ、来るぞ。」

 監督の言葉で意識を戻すと、奥に光る点が2つ。
 武器を構えて待っていると、見えてきたのは…。

「クソネズミぃぃぃ!くらぇぇ!」

 玉に勢いをつき過ぎて紐が切れた!

《【紐付き銅の玉-】をロストしました。》

 ダメなやつだ。
 今の写真が撮られたら、今までにないアホ面を晒してるだろう。

 マズイと思うと無意識に手が動く。
 インベントリの端っこにあったやつ。
【短い角材-】
 もうこれで良い!

 なんとか取り出しが間に合って、体当たりは受け止める。
 目線は合わせたまま、何度か呼吸するとちょっと冷静になれた。

「ほれ、攻撃しろ。」

 急かさなくてもわかってますよ。
 角材を振り下ろすが、かすれるだけだ。
 チューチュー威嚇してくるし、逃げる様子もない。

 ネズミが突進するタイミングで横凪ぎ!
 鈍い衝撃音が鳴り、手の痺れが遅れてやってくる。

「倒したな。」

「お?おぉぉ!やった。倒した!」

「ネズミで喜ぶ奴も初めてだな。それよりも早く解体しろよ。」

 解体作業があったことをすっかり忘れてた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

要注意な婚約者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,088pt お気に入り:426

隻腕令嬢の初恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,995pt お気に入り:101

クラスごと異世界に召喚されたけど、私達自力で元の世界に帰ります

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,242pt お気に入り:6

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:51,412pt お気に入り:4,928

処理中です...