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ボロ竿だろうが釣竿に変わりなし
竹竿作りの下準備
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「まずは矯《た》めるところからだよ」
出だしからわからないぞ?
「先生。『ためる』がわかりません!」
「矯めるというのは、竹を伸ばす作業だ。竹を前に構えてお尻から覗《のぞ》き込んでみて」
アルデンさんに言われるがままやってみる。やってる形としては銃を覗《のぞ》き込むみたいで、ちょっとカッコいい気がしてきた。そのアルデンさんは、俺の後ろに回って一緒に竹を支えてくれている。
「そのままそのまま。この竹はちょうど半分あたりで反ってるでしょ?」
「確かに」
「ここを真っ直ぐにするためには、熱して矯正《きょうせい》する必要があるわけだ」
アルデンさんが端っこに移動したので、後に着いて行くと細長い炉《ろ》があった。
「鍛冶と比べると火力も弱いけど、それでも熱いから注意してね。火起こし慣れてるでしょ? 手伝ってくれる?」
工房でもやっている動きを繰り返す。炭に火を起こして鞴《ふいご》で風を送る。
やり始めの時はこの「シュコーシュコー」と鳴る音が好きで、何度も繰り返していた。おかげで炉の温度が高くなってしまい、親方に殴られたっけ。
「もう良いよ」
危ない。また上げすぎるところだった。
「見ての通り中抜けになっているよね? ここに竹を通して炙《あぶ》るんだ」
アルデンさんは、持っていった竹を炉に通して、抜き差しを始めた。いつになく真剣な表情をしている。
「火の加減と動かすスピードが重要だ。特に先端は焦げやすいからね。よし!」
言葉通りだけではなく、回転も加えて全体を炙っている。取り出した時には、青かった竹が黄色く変色し始めている。それを布で擦《こす》って綺麗にするとツヤツヤと光だした。
「今のは油抜きって作業で、竹を長持ちさせるためにやるんだ。次にやるのが矯正だよ」
今度の炉は下から熱が噴き出す形をしている。
その手前にある切り株にアルデンさんが腰掛けると、曲がってる箇所を見せてくれた。
「僕の竹は、ここが10度くらい曲がっているね。これを曲げるのがこの矯《た》め木《ぎ》」
フックのような形に削った木を片手に取ると、モウモウと熱気が出る炉に、竹を置いた。それをクルクル回転させたと思えば、すぐ外にしてしまう。
「太いところは長めに炙るけど、細いところはすぐ焦げてしまうんだ。熱が逃げないうちに矯め木で曲げると」
熱した場所にフックをかけて、テコのようにクイックイッと曲げていく。それを何度か繰り返すと、竹の尻から覗《のぞ》き込み、1度頷いた後に見せてくれた。
「これでさっきより真っ直ぐになったでしょ? これを先端までやっていくんだ」
渡してもらった竹を持った時に、かなり熱気が残っていた。熱耐性が無かったらダメージを受けていたかもしれない。
その竹を覗《のぞ》くと先端側がちょこっと曲がっているだけで、節くれが少し出っ張っているだけだった。
「1回やっただけで、こんなに違うんですね」
「僕の使った竹は素直な子だったからね。ハッチ君のは個性があるから、矯める回数も増えるよ」
確かに俺の竹の方がクネクネしているかもしれない。竹を取った時は意外と真っ直ぐだと思ってたけど、今比べてみるとかなり曲がっていることがわかる。
「ほらほら、やってみなよ」
アルデンさんに押されて油抜きの炉の前に立たされる。見様見真似《みようみまね》で炉に通してみると、思ったより綺麗に出来た気がする。
「そこで拭くんだよ」
そうだった。横にある布で擦ってみると、ツヤ感が出て来て綺麗になった。
「おぉ!」
「良い感じだね。でも、もうちょっとやった方が良いかな」
炉の中で、竹を回転させながら前後させていると、パチっと弾ける感覚がした。取り出すと、先端が黒くなっている。
「あれ?」
「熱しすぎちゃったね」
全然足りないと思っていたけど、先っぽは思っていた以上に短時間で良かったのか。新しい竹を取り出して再挑戦だ。
今度の油抜きはうまくいった気がする。
「良いね。これで矯めようか」
今度の竹は、失敗したのより曲がり箇所が少ない。噴き出しの炉で熱して、矯め木で曲げていく。
「思ったより力がいらないかも」
「テコでやるからね。だけど、その分加減が」
ピキピキっと音がする。
「残念。割れちゃったね」
くそぉ! 調子良いと思ったんだけどなぁ。
『力』を外して再挑戦だ!
3本目、4本目も失敗し、5本目になってようやく出来上がった。
黄色くツヤツヤした竹を見てると、自然と口角が上がってくる。
「よっし!」
「お疲れ様。これが竹の下準備だよ」
そうか……。
まだ作成に入ってなかったんだっけ。
出だしからわからないぞ?
「先生。『ためる』がわかりません!」
「矯めるというのは、竹を伸ばす作業だ。竹を前に構えてお尻から覗《のぞ》き込んでみて」
アルデンさんに言われるがままやってみる。やってる形としては銃を覗《のぞ》き込むみたいで、ちょっとカッコいい気がしてきた。そのアルデンさんは、俺の後ろに回って一緒に竹を支えてくれている。
「そのままそのまま。この竹はちょうど半分あたりで反ってるでしょ?」
「確かに」
「ここを真っ直ぐにするためには、熱して矯正《きょうせい》する必要があるわけだ」
アルデンさんが端っこに移動したので、後に着いて行くと細長い炉《ろ》があった。
「鍛冶と比べると火力も弱いけど、それでも熱いから注意してね。火起こし慣れてるでしょ? 手伝ってくれる?」
工房でもやっている動きを繰り返す。炭に火を起こして鞴《ふいご》で風を送る。
やり始めの時はこの「シュコーシュコー」と鳴る音が好きで、何度も繰り返していた。おかげで炉の温度が高くなってしまい、親方に殴られたっけ。
「もう良いよ」
危ない。また上げすぎるところだった。
「見ての通り中抜けになっているよね? ここに竹を通して炙《あぶ》るんだ」
アルデンさんは、持っていった竹を炉に通して、抜き差しを始めた。いつになく真剣な表情をしている。
「火の加減と動かすスピードが重要だ。特に先端は焦げやすいからね。よし!」
言葉通りだけではなく、回転も加えて全体を炙っている。取り出した時には、青かった竹が黄色く変色し始めている。それを布で擦《こす》って綺麗にするとツヤツヤと光だした。
「今のは油抜きって作業で、竹を長持ちさせるためにやるんだ。次にやるのが矯正だよ」
今度の炉は下から熱が噴き出す形をしている。
その手前にある切り株にアルデンさんが腰掛けると、曲がってる箇所を見せてくれた。
「僕の竹は、ここが10度くらい曲がっているね。これを曲げるのがこの矯《た》め木《ぎ》」
フックのような形に削った木を片手に取ると、モウモウと熱気が出る炉に、竹を置いた。それをクルクル回転させたと思えば、すぐ外にしてしまう。
「太いところは長めに炙るけど、細いところはすぐ焦げてしまうんだ。熱が逃げないうちに矯め木で曲げると」
熱した場所にフックをかけて、テコのようにクイックイッと曲げていく。それを何度か繰り返すと、竹の尻から覗《のぞ》き込み、1度頷いた後に見せてくれた。
「これでさっきより真っ直ぐになったでしょ? これを先端までやっていくんだ」
渡してもらった竹を持った時に、かなり熱気が残っていた。熱耐性が無かったらダメージを受けていたかもしれない。
その竹を覗《のぞ》くと先端側がちょこっと曲がっているだけで、節くれが少し出っ張っているだけだった。
「1回やっただけで、こんなに違うんですね」
「僕の使った竹は素直な子だったからね。ハッチ君のは個性があるから、矯める回数も増えるよ」
確かに俺の竹の方がクネクネしているかもしれない。竹を取った時は意外と真っ直ぐだと思ってたけど、今比べてみるとかなり曲がっていることがわかる。
「ほらほら、やってみなよ」
アルデンさんに押されて油抜きの炉の前に立たされる。見様見真似《みようみまね》で炉に通してみると、思ったより綺麗に出来た気がする。
「そこで拭くんだよ」
そうだった。横にある布で擦ってみると、ツヤ感が出て来て綺麗になった。
「おぉ!」
「良い感じだね。でも、もうちょっとやった方が良いかな」
炉の中で、竹を回転させながら前後させていると、パチっと弾ける感覚がした。取り出すと、先端が黒くなっている。
「あれ?」
「熱しすぎちゃったね」
全然足りないと思っていたけど、先っぽは思っていた以上に短時間で良かったのか。新しい竹を取り出して再挑戦だ。
今度の油抜きはうまくいった気がする。
「良いね。これで矯めようか」
今度の竹は、失敗したのより曲がり箇所が少ない。噴き出しの炉で熱して、矯め木で曲げていく。
「思ったより力がいらないかも」
「テコでやるからね。だけど、その分加減が」
ピキピキっと音がする。
「残念。割れちゃったね」
くそぉ! 調子良いと思ったんだけどなぁ。
『力』を外して再挑戦だ!
3本目、4本目も失敗し、5本目になってようやく出来上がった。
黄色くツヤツヤした竹を見てると、自然と口角が上がってくる。
「よっし!」
「お疲れ様。これが竹の下準備だよ」
そうか……。
まだ作成に入ってなかったんだっけ。
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