サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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4章 国の波乱

第70話 獣族大移動2

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 1日目

 まずは、俺が通ってきた村に近づく経路を辿る。
 その村は長年付き合いがあったので、タヌキ族が別れの挨拶をすることになった。

「なんと!村ごと引っ越しですか……」
「急で本当に申し訳ないが、今までありがとう」

 元の村には他の人達が住んでいるが、閉鎖的な者だと伝えておく。

「こちらも交易で助かっていたのですが、仕方ないですね」

 本当に残念そうにしていた。

「こちらも相当助かっていたのです。お礼になるかわかりませんが」

 ボンゴがコーンの種を渡す。

「これは?」
「この穀物は、いつも渡していた小麦の代わりですよ。粉にするのは一苦労ですが、生命力が強い種なので、お役に立つかもしれません」

 例のフリントコーンちゃんだね。
 村でも改良して、育てやすくしていたようだ。

「これは助かります。安価でおいしかったので、村でも重宝してたのですよ」

 喜んでくれたようでなにより。
 お互いの繁栄を願って再出発。

 ……
 …………


 夕方になって、見晴らしの良い場所を見つける。

「今日はここに泊まろうか」

 平原のど真ん中だが、草が低めで使いやすい場所だ。

「みんな! 野営の準備だぞー!」

 こういうのはウサギ族と猫族が担当だ。
 ネザーさんと猫族のニャフ。
 俺を見つけた奴の1人だな。

「焚き火係は大きめ3箇所!」
「大鍋持ってこいにゃ!」

 焚き火を中心に、周りを馬車で囲む形をとっている。
 屋台はその中に入って料理用に使われる。
 俺のも使われているよ。

 探索者組は、獣族が取ってきた野草が気になるようで色々聞いていた。

「え? それって食べられるの?」
「知らんのか? こいつは一度湯がくんじゃ。するとエグミが取れる」

 ヤギさんが実践して見せた。

「おぉ! どこにでも生えてるからこりゃ便利だな」
「だが、注意が必要じゃ。多く食いすぎると下すぞ。1人1食1握り。儂らはそう教わってきたな」
「それで食えないって言われてたのか。でも香りは良いよな」

「それ毒性あるじゃん!」
「こっちは乾燥させると毒が抜けるにゃ。1週間もあるなら使えるにゃ」
「そんな長旅しないからなぁ。これも初めての経験だよ」
「お前らは他の探索者より、経験が少なそうにゃ」
「わかるのか?」
「斥候に穴が多いし、匂いが弱っちそうにゃ」

『ニルファン』は猫族と仲良くなったみたいだな。

 他の人達もまだ問題無いな。
 それぞれ準備してる時に、スーゲンがやってきた。

「話には聞いていたけど、本当に獣族と知り合いとはね」
「嘘なんて言ってませんよー」
「さすがに今回は、長命会もびっくりしてたわよ?」
「何でです?」
「何でって、獣族よ? この国では100年前には消えたと言われてるのよ」

 知らなかったな。

「でも、エリンさんは知ってたっぽいよ?」
「あの人のことは長命会でも把握出来てないわよ。あなたのことも把握出来てないけどね。ふふっ」

 何とも良い顔するな。
 探索者は良く動くから体に無駄が少ないくて、スポーツ選手体型が多い。
 スーゲン達も例外なく、いわゆる美ボディというのか。
 生傷だけは多いが、勲章なんだろう。

「長命会って権限あるから、偉そうに見えたんだけど、今回あたふたしてるの見て考えが変わったわ」

 俺なんていつもあたふたしてるよ。

「ちなみに依頼料足りなかったから、会が3倍追加してるわよ」

 そう言って去っていく。
 がんばってお金貯めたのに……。

「薬人どうした? そこで寝ると風邪引くぞ?」


 ……
 …………

 10日目
 隣村の人も、多少探索者と話できるようになっていた。
 そんな時、行程の3分の1まで来た所で問題が起きた。

「あれって、やっぱりそうだよね?」
「間違いなく人族の軍隊だな」

 俺とオーバさんが見たのは、剣に放射状の線が入ったマークの旗。

「ルインさん知ってます?」
「あれは聖教国だな。かなり厄介な奴らだ。獣族もそうだが、獣人にも敵対する可能性がある。俺でも対応できんな」
「でも、人族って俺と」

 ジャンとベンしかいないよ?

「獣人に絞り過ぎたのはまずかったな」
「とにかく、このままだと俺たちの後方を横切る形だな。後を辿られると面倒だぞ?」
「わかった。俺が後方に行こう。ベンは先導に必要だから、そのまま先頭に行って」

 俺が行くしか無いよな。

「それしか無いだろうな。あとはどの隊かだが、異端審問官がいるとやっかいだぞ」

 もう一度良く見てみる。
 先頭にいるのは、煌びやかな銀の鎧に豪華な剣と盾。
 キリッとした顔だが、まだ少年だな。
 その横には、メガネに法衣の少年。
 反対に活発そうな少女。
 見たことあるぞ。

「あれって」
「知ってる奴か?」
「責任勇者君だ! アレクって子だよ」

 俺がそう言うと、みんなはさらにゲンナリした顔になる。

「最悪だな。帝国との先兵か」
「ちょっと権限あげて当て馬にしたとは聞いてたけど」
「私が聞いた話だと、悪人を斬っても良い権利だったはずよ」
「聖教国だと獣人も悪だ。獣族はもっとひどいぞ」

 俺ら終わってね?

「逃げられそう?」

 振り返って確認する。
 全員、首横に振ってる!
 肩を掴まれ、振り返る。

「対応出来る者は、あなた以外無理だな。私達もなるべく速く行くから、1秒でも長く時間を稼いで」

 そう言うと、スーゲンは族長達に号令をかける。

「ウサギ族だけで索敵。他の全員で馬車を押せ! 最速で行くぞ!」

 ちょっと待て!
 メサとオスクは残るだろ!?
 はっや!
 今までで一番の速さだよ。

 1人は嫌だよ!!

「ジャン! 君も残るんだ。見届け人は必要だろう!」

 両肩を掴んで逃がさない。
 気絶してもこの手は離さないぞ!

「オレ何も出来ないよー。え? みんな待って!!」
「後は頼んだよぉ! ジャンもがんばってね!」

 もう豆粒サイズだな。

「良かったな。メンバーから声援貰えて」
「オレも行き……手を離して」
「ここを乗り切ったら真の探索者になれるぞ!」

 ぴくっ。

「この話がギルドに行けば、良い評価もらえるだろうなー?」

 ぴくぴく。

「しょうがねぇなぁ。本当に見てるだけだぞ?」
「わかったわかった。見てるだけで良いよ」

 と言ったが、本当にどうしようか。
 とりあえず。

「踏んだ草を立てて」

 ジャンと一緒に近辺の草を立てて、ついでに少量採取しておく。
 気を巡らせて草に賦活すると、轍《わだち》が薄くなった。

「これで、ちょっとマシだろう。あとは」

 採取してたって言い訳もできるけど、もうちょっと何か欲しいな。

「あとはどうすんだよ?」
「それね。有耶無耶に出来そうな理由が欲しいんだよね。んー。雨でも降らすか?」

「は?」
「だから雨を降らすんだよ。地面がぬかるめば動きづらいし、気がそれるだろ?」
「頭おかしくなったか? どうやって降らすんだよ?」
「しくった! 降らすのに2週間いるわ!」
「アホかよ。知り合いなら説得すれば良いだろ?」
「ちっちっち。甘いな。彼と仲間は人の話を聞かないのが得意なんだよ」
「うっわ。最悪じゃねーか」

 ……
 …………

 全く良い案が浮かばない。

「本当どうしようかね。もう精霊に頼んじゃうか?」
「おい、もう来るぞ! オレは隠れてるからな!」

 ジャンが離れていくが、それどころではない。
 とりあえず、精霊を呼んで何かあったら任せることにした。

【ちょいちょい皆んな。この後来る軍隊止めたいんだけど、俺が止められなかったら代わりにお願いね】
 ここは羽虫(風精)が多いね。
 話たいこと? なになに?
 え? 反対から帝国軍も来てるの?
 やべーぞ!

「おい!」

 マジどうする?
 逃げ……たらマズイよな。

「おいって!」

 上を見ると勇者君がいた。
 とりあえず挨拶しておくか。

「やぁ」
「やぁ。じゃない! なんでお前がここにいるんだ。」

 うっわ。
 口調も酷くなってる。

「何って。採取?」

 一応右手に野草を掴んでる。

「これからここは戦場になるんだ!」

 アレン君がそう言うと、後ろから声がかかる。

「ちょっと失礼。勇者様の知り合いですかな?」

 覆面で斧持ってるとか、どこの変質者ですかね?

「一応知り合いかな。彼はギルド試験で一緒になった奴だよ」

メガネ君も言い方変わってるし、そのままの方が良かったぞ。
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