サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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7章 魔王と半仙人

第122話 スピカ国東街道

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 国境を超えた辺りから、森を出て街道を進んでいる。人通りも増え、行き交う馬車の流れに乗りながら、俺達はスピカ国を目指している。
 久しぶりの落ち着いた旅路に、1部心を踊らせながら。

 スピカ国へ到着する直前に、面白いニュースがやってきた。

「マイナール国に魔物が侵攻したって噂だぞ」
「俺が聞いたのは、魔物を作ったという話だったが?」
「大量の毒持ちだったそうじゃないか」
「最近きな臭い国だからな。毒でも集めているのかもしれない」
「ちょうど1ヶ月前の話だろ?」

 商人達の間で流行りなのかもしれないが、早めに出国して正解だったな。「毒消しが良く売れそう」という言葉も聞こえたので、これを機に簡単な食中《あた》り薬でも教えておこうか。

「実さん聞きました? あの国大丈夫でしょうか?」
「アオイも見ただろ? あれだけ兵士がいるんだし、問題ないでしょ」

 謎メイドと団長だけいれば全部解決出来るだろう。
 勇者と戦ってる時、出てこないでくれて本当に良かった。

「オレにも教えてくれ」

 荷台から起き上がった田中君が話しかけてくる。
 助けた5人の中では、一番怪我が酷く、治るのに時間がかかってしまった。それも、1週間前の話で、今では普通に動けるようになっている。
 現在は瞑想しつつ気の訓練を開始し始めている。

「イツキ君。瞑想中じゃないの?」
「そうだけど、気になって集中出来ないよ」

 まだ、始めたばかりだから、色々と気が散ってしまうんだろうな。
 というか俺に瞑想させて欲しい。ブルンザ国に着いたら、瞑想が出来るようになると良いんだけどなぁ。

 アオイが聞いた話を教えてあげると、心配したり安心したり、表情もコロコロ変わっていた。

「なんか複雑だな。あれだけ怪我させられたのに、まだあいつらの心配してるなんて」
「イツキは心配する必要ないよ。僕が見た時ですら治療後だったんだ。あれより酷い怪我までさせられて……戻っちゃダメだよ!?」
「アオイ……そうだな。力を付けて見返してやれるように頑張ろう」

 これが男の友情か! 外から見てる方が恥ずかしいくらいだが、良いものだな。

「実はこういうの無さそうだよな」

 この男、脱出の時に手伝ってくれた奴だが、一応知り合いだった。隠すほどのことでも無いが、最初に4人をボロクソ言えと放った覆面3号。

「……そんなことは! 俺にだって! んー?」
「思い出す前に話すの止めてくれよ。それより、あいつそんなに強くなれるのか?」
「知らないよ? 俺も力だけで言ったら、そんなに強くないからなぁ。3号が教えてあげたら?」

 俺が3号と言ったら叩かれた。言っちゃダメだったっけ。
 3号の名前は、カッサゴ。
 筋肉質でゴリマッチョを想像して頂ければわかりやすいだろう。この男は、毒魚屋ゴンズの兄。

 妹が4号のコフグで、パッと見わからないが、ゴリゴリに上腕二頭筋が割れている。あだ名は、ミスアンタッチャブル。折った骨の数が、魔物討伐数を微妙に超えているのがキモだ。
 コフグが海野さんと一緒にいるので、他の冒険者は誰も近寄らない。

 そんな毒持ち3兄弟を巻き込んで、訓練に加わって貰おうとしても、なかなか受けてくれない。
 だいたい断られる時は、「俺ら金が無いと動かないことにしてるんだ」という一言のみ。
 世知辛い世の中は変わりませんなぁ。



「他の4人は成長してるのか?」
「みんな回復したばっかりだから、これからじゃないか? 卵の殻はまだまだ割れないね」
「元いた場所ってのは退屈そうだな」

 戦闘民族のカッサゴからしたら、そうかもしれないな。襲ってこない魔物すら襲撃するから、俺とは考えが真逆だ。

「実さん! そろそろ休憩場所だそうです!」

 アオイに呼ばれて行ってみると、野営地に多くの馬車が止まっている。街道に出た当初は馬車もまばらだったが、街へ近づく程増えているな。

「スピカ国は結構栄えているのかな?」
「マイナール国は、もっと長閑《のどか》でしたよね」

 良く我慢したが、みんなわかってる。
 寂れてたよなー。

「あの国も、数年前まではまともだったのにな。最近じゃ王様が姿を見せないって聞くけど?」

 俺達の横で話しかけてくるのは……あんた誰?

「すまんすまん。あんたらの後ろにひっ付いて、同行させてもらっていた商人の一人だよ」
「そんな商人がいたのか、知らなかったな」

 アオイも知らないという表情を作った。
 いや、知ってたんだけど面倒そうだから、スルーしてたんだ。

「勝手に同行してたからな。他にも何人かいるぞ。魔物を狩ってくれるから、安心できるのは大きいな」

 カッサゴ達の狩り後は、魔物の気配が無くなるから、自然と集まった感じかな。
 こういう商人は鼻が効くから、なかなか侮れないんだよね。

「こちらとしても、食材が増えて助かってます。今晩はもう少し増えると良いですね?」
「ふふふ。こちらにも精通されているお方でしたか。まぁ、我々もその方が気楽なので、助かります。後で心付けを渡しておきますね」

 商人が去って行くと、アオイが質問してきた。

「今のはどういうことですか? ただ強請《ねだ》っただけ?」
「いや、こちらからこのくらいの報酬で良いと提示したんだ。何も言わないとお礼に困るからね。これから売りに行くだろうから、お金を言うより、現物の方が相手にも優しかった。という話だよ」

 頼まれても無いのに金を強請ると、必要な時に貰えなくなるからな。

「なるほど、そういう能力も身につけた方が良いのでしょうか……」
「アオイの場合は、変装するから経験すれば良いんじゃないか? 言葉通り、相手の身になれるよ」

 ポンと手を叩いて、納得した顔。
 そこで、海野さんに野営準備の手伝いに連れて行かれた。
 俺は……総監督だ!
 良い手際になってきたな。
 新入りのフォローもなかなか良いぞ!

「お前はいつも暇そうにしているな」

 カッサゴの目は節穴なんだ。
 今日のところは許してやろう。

 ◆◆◆

 夜も深けると、ほとんどの人が寝入り、虫達の声が優しく響く。

「これから訓練ですか……」
「そう言ってもさ。君達、荷車に乗ってただけじゃん」

 俺の言葉に新規組が苦虫を噛み潰している。

「さぁ、始めよう。夜の瞑想は楽しいよ?」

 草むらにアグラをかく5人。
 呼吸音と虫の声が流れる中、彼らの様子を見ている。
 城にいた他の生徒達と比べても、差が大きい。
 俺が教えていた子とは、さらに開いている。
 スキルもほとんど使えないので、何もさせてもらえなかったのかな。

 時々風を当てて驚かせたり、肩をつついたりして邪魔する。生活が酷かったせいか、集中が出来ない。常に何かを警戒している状態だ。
 日中も周りの声を気にしつつ、人が近寄ると身構える。言葉一つの選択さえ気をつけている。
 一番怪我の酷かった田中君が、精神的には軽症でいたのは不思議だな。これもスキルの影響だろうか?

 一晩寝ずに自然と対話させていたせいか、朝飯を食ったら全員寝入ってしまった。

「軟弱者どもが!」
「お前も日中何もしてないけどな」

 3号は一言多いのが困る。
 冗談なんだから、そういうのは言わないお約束だよ?
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