サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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7章 魔王と半仙人

第124話 恩人

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 朝日に照らされながら屋根上での日光浴。
 久しぶりの感覚に癒されながら、他の人たちが起きてくるのを待っている。

「おはよーございます!」

 一番手はアオイだった。これまでの訓練で早起きが身についたのか、目覚めも良く、すでに柔軟体操をしている。

「他の2人は?」
「まだ、寝てますね。かなり疲れてましたから、仕方ないでしょう」

 藁だけど久しぶりのベッドだったから、なかなか起きられないだろうな。ここはアオイに任せて、俺は呼ばれていたギルドに向かおうか。

「じゃあ、あとは任せて良いかな?」
「どこかおでかけですか?」
「昨日の従魔ギルドだよ」
「そういえば、来いっていわれてましたね。あとは任せてください!」

 出会った当初と比べると、かなり頼もしくなったものだ。
 ただし、見た目は女の子っぽいがな!
 メイドになった以降、女装技術を高めている。本人がやりたいと言って、通常時でも所作と服装に気を遣っているので、女の子っぽくなったのは俺のせいじゃない。
 いずれ男も落とせるようになるかもしれない。
 頑張ってくれたまえ。

 1人で行動も久しぶり。
 屋根の上を跳ねながら、目的の従魔ギルドへ到着すると、朝から怒声が飛び交っていた。

「その依頼はそいつじゃないよ! こいつにやらせな!」
「マスター! そろそろできるって」
「ひよっこが! あと5回は下積みするんだね」
「そんなぁ」

 しょぼくれた男とすれ違いで中へ入る。
 昨日と変わらず、不機嫌な表情を隠そうともしない。鋭い眼光でこちらを見抜き、眉間を1揉みすると、手招きしてくる。

「ちょうど一息つくところだ。こっち来な」

 カウンター端の席に案内され、俺が腰を据えるのを確認し、「紅茶を入れる」と言って準備し始めた。

「もっと粗野かと思いましたが、丁寧に紅茶を入れますね」

 入れている最中は真剣だが、背後から時折見える横顔は穏やか。入れている紅茶も香り高く、入れる手順から温度も、こだわっているように見えた。

「なかなか飽き時間が無いから、こんなのが趣味になっちまった。全部自己流だよ。ただし…」

 ニヤリと笑って茶葉の入ったビンを指で弾く。

「良い香りです。詳しくありませんが、良いものなんでしょうね」
「ここからずっと東に行くと、大陸の端っこに着く。そこから持ってきたんだよ」

 香りを楽しんだ後、一口ずつ、少量ずつ口に含む。ずいぶんと紅茶を飲んでなかったが、確かにこういう味だったな。
 突き抜ける風のように、香りが全身を巡っていく。

 気づけばティーカップが空になっていた。

「空っぽじゃ、手が暇になるだろう。お代わりいれてやるよ」

 俺の返事を待たずに、ティーカップを取ると紅茶を満たしてくれた。

「飲みっぷりで満足だから、味の返事は良いよ。それより話をしようか」
「それで、何か用事があるみたいですが?」
「ピースから聞いてるだろうが、私の親父のことだね。率直に聞くけど、あんたが例の技を知ってるといのは本当かい?」
「例の技かわからないけど、ピースには鞭打がそうだと思われてます」

 コメカミを指で叩きながら、何かを考えている様子。
 しばらく返事が無かったので、室内の様子を観察する。広い空間に大きな木、従魔の描かれた絵画がいくつも飾ってある。
 なかなか趣味が良い。少なくとも俺には、その簡素な空間が良く見えた。

「あんたを…あんたを母さんに会わせて見たい」

 話し始めたマスターの言葉に意識を引き戻される。

「会うのは構わないです」
「ならすぐに!」
「待って。先に、ピースがいるなら呼んできてください」
「ん? それで会ってくれるなら良いが、ちょっと待っててくれ」

 マスターが、すぐさま奥に引っ込んでしまい、1人になってしまった。
 壁に掛けてある絵画を見ていくと、色々な魔物がいる。良く見てみると、隣にこの魔物の使役者名が書いてある。
 他の従魔ギルドでは無かったけど、これがあると頼みやすいね。どんな魔物に運搬してもらうか、決められるのかな? これを始めた人は、かなりのやり手だろうな。

 端っこに行くほど古い絵になり、一番古そうな絵画には、魔鴨と掠れた名前。大半の部分が削れていて読めないが、最後の『ル』だけは読めた。

「それは親父だよ」

 マスターがピースとカオルを連れてきた。

「あたしに用があるんだって?」
「簡単に言うと、お婆さんに早く鞭打を見せてあげて」
「まだ練習中なんだけど……」

 ピースは、もっと上手くなって見せたいようだけど、出来れば早くして欲しい。
 俺のためにも、お婆さんのためにも。

「マスター。言ってあげないと可哀想ですよ?」
「カンの良いやつだな。こいつの言う通り早めが良い」

 なぜとは言わないが、静かなマスターに質問も出来ず、ピースは「わかった」とだけ言っていた。

 カウンターを控えの職員に任せ、俺達はピースの自宅を目指す。
 カオルだけは、よくわからないという顔だが、それでもついてきていた。

 町の端に広めの土地があり、ここがピースの実家兼、従魔達の厩舎。
 外には、人だけなら運動会を5回同時にできそうな広場がある。大きい従魔だと歩くのが精一杯。それでも、気持ち良さそうに寝ている魔物達が、ちらほらと見えている。

「ピースさんの実家は、厩舎だったんですね。こっちは初めてです」
「カオルは、反対側の厩舎に預けたんだっけ? そのうち案内するつもりだったんだけどな」

 楽しそうな2人とは違い、マスターと俺は静かに進み続ける。
 敷地の端にある大きめの平家で立ち止まると、ピース達は中へ入って行った。

「あれ? 実さんは入らないんですか?」
「俺は少しだけ厩舎を見てくる。カオルは気にせず一緒に行ってきな」
「そうですか」

 家の近くをブラブラしつつ、ピースの演舞が終わるのを待つ。大通りから離れているためか、静かで居心地がいい。草地で仰向けになっていると、浮きくらげが飛んできた。

「お前は解放されたんだろ? いつまでカオルを見張っておくんだ?」
 ぷるぷるぷる。

「パスが繋がってないから、言いたいことがわからんなぁ」

 ちょっと揺れたかと思えば、すぐに去ってしまった。
 こいつの生態だけは未だに不明だな。
 家の中で、さっきまで動いていた気配が止まり、それを合図に勝手に家に入っていく。
 使用人達に監視されつつ、いくつもの部屋を通過すると、目的の所に到着した。

「ミノール! ちょうど話していた所だ」
「……」

 元気なピースとは違い、マスターはまだ静かにしている。
 ピースの前にはロッキングチェアに座るお婆さん。

「どうも。俺が彼女に教えました」
「実さん。まずは紹介を…」

 お婆さんがカオルの言葉を手で制する。

「孫の技を見て、もしやと思いましたが…。少し昔話をさせてください」

 お婆さんが深呼吸し、徐々に言葉を紡ぎ出す。

「主人と前妻から聞いた話です。あれから早めに国を出て、西へ東へ向かう道中は大変だったそうです。その中で前妻と結ばれましたが、結局子供は出来ず。長い寿命の主人とは違い、流行り病で前妻は50程で亡くなりました」

 ピースは瞠目《どうもく》しながら「初めて聞いた」と呟く。その続きを言いたそうだった所を、マスターに止められている。

「その後、私が後妻となりましたが、前妻からは許可してもらっていたそうです。気の効く人でしたから、予防線を張っていたのでしょう。主人も10年程前に無くなり、希望だった恩人にまた会うことは叶いませんでした。それでも、私は2人とも笑顔の最後を看取りました」

 一息に言い終えると、雫を落とし始める。

「苦労したようだけど、楽しんだみたいだね」
「えぇ。2人とも笑顔の耐えない人でした。主人はことあるごとに『腕や金が無くても生きられる』と笑っていましたよ」

 その光景を想像すると、俺にも笑顔で手を振ってくれていた。

「あなたは、もう少しだけ生を楽しむと良い」

 お婆さんに近づくと、賦活をかけつつ、微妙に輝く小さな粒を飲み込ませる。

「ミノール! 何を飲ませた」
「疲れが取れる薬だよ」
「薬か…お前が作るやつだから、問題ないだろうけど」

 体に害は無いから安心して欲しいな。
 お婆さんが疲れて眠ってしまったので、帰らせてもらう。

「実さん。さっきの話って何だったんですか?」

 カオルを宿へ送る最中、色々と質問される。

「俺の知り合いだったみたいだね」
「やっぱり長生きになると、顔が広くなるんでしょうか?」
「こんな偶然はなかなか無いさ。それよりも! 2日後には、先へ進むぞ」
「早すぎます! 何か焦ることでもあるんですか?」
「そ、そんなことはない!」
「怪しい」

 仕方ないじゃないか。
 死にかけの人に金丹《きんたん》使っちゃったんだから……
 噂が広まると、過ごしづらくなる。
 最悪カオルだけ連れてドラちゃんに会いに行けば良いし。


 _______________

 52話を読み返して頂けるとわかりやすいかもしれません。
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