サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太

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7章 魔王と半仙人

第139話 夜の王の起こし方

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「なかなか良い場所ですね」
「一番古い家ですが、大丈夫ですか?」

 石造りで頑丈そうだが、あちこちに蔦は絡まっていて、山賊の住処と言われそうな見た目。
 ただ、庭が広めに作られていて、井戸付きと便利だった。

「掃除すればまだまだ使えますよ」
「そういうことでしたら、あとはお任せいたします」

 新しい住処も決まり、これから掃除したいところ。だけど、城からの使いが今朝やってきた。渡された文書には、昼から予定を開けてるので、本日来てくれと書いてある。
 もっと余裕を持って話がくると思っていたんだが、予想以上に忙しいのかもしれないな。

「さぁ、城の飯を食いに行こうか」




 宿に戻ると若い執事が待っており、せかせかと城へ案内された。
 エリンと俺以外は、服装を気にしていたが、特に気にしない王様だと言う。

 赤い絨毯のフカフカとした感触を楽しみながら歩くと、奥に豪華な扉が見えてくる。
 左右の壺や絵画も煌びやかで、お金持ち感が漂っていた。

「こちらが謁見の広間となっております」

「王様ってすごいんだな」「金ピカいっぱいね」「あの服の作りが」などそれぞれの感想を述べている。その後ろに目が痛くなった俺と、ニヤニヤするエリンが並ぶ。

 一拍置いた後、執事の連れてきたという言葉を扉に掛け、渋い声で「入れ」と返ってきた。
 何の面白みも感じないが、みんなが楽しんでるので口を噤んでいる。

 扉を開けると、黄金の玉座が目に入り、甘い花のような香りが漂っている。
 執事に先導されてしずしずと中に入ると、玉座から10m程で止められ、その場で跪く。

「おぉ! 良くきてくれた! 久しい友よ!」

「おい。エリン呼ばれているぞ」
「いや、お前の知り合いなんだろ?」
「バカが、あんなイケメンの知り合いなんぞおらんわ」
「ぷぷ。ブルンザ王さん? そんなこと言われてますよ」

 顔は下を向いているが、気配でわかる。宿で見た絵画の人だろう。
 予想通り王様は別人だったようだ。
 またドラちゃんを探さないといけないかと思っていると、その王様が笑い出す。

「ははは! やはり騙せぬか」

 騙すって俺たちのこと?
 話についていけないな。

「エリン殿は知っているが、私は宰相にあたる立場だ。影武者もやっている」
「はぁ。そうですか」
「反応薄いな……。そなたの知るかもしれぬ王は、眠りについていて、なかなか目覚めぬのだ。本日の要件は、王が目覚める前に、本人か確認しようと思うて呼んだのだ」

 どうやって確認するのか気になる。思い出話でもするのか?

「服装も風貌も聞いていた通りだ。あとは……血液を1滴もらえるだろうか?」
「そのくらいなら良いですよ」

 執事の持ってきた針で指を刺し、血を皿に落とす。

「うむ。それを罪人に付けろ」

 すると、縄でグルグル巻きにされた男が、兵士に連れられてきた。

「くそぅ! 何をするつもりだ」
「この血を……お前につけてやる」
「やめろー! やめてくれー! やめるんだー!」
「へっへっへ。 犯罪したことを後悔するんだな」

 側から見ても、どちらが悪人か見分けがつかない。というかあの兵士大丈夫か? 痛ぶるのが好きな奴は、あまり増長させちゃいけないと思うんだが。
 罪人らしき奴も、反抗していたものの、血の入った皿を見ると態度を変え始めている。

「へへ。ただの血じゃないか。いくらでもやってみろよ」
「生意気な。これでも喰らえ!」

 兵士が匙《さじ》で罪人に血を擦り付ける。

「脅かしやがって、何にもおこらないじゃ無いか」
「顔が赤くなってるぞ」
「え? 確かに体が暖かい……いや、かゆい。かゆい! かゆいかゆい!」

 縄ごと地面に擦《こす》り付け、全身を掻こうとする。その姿は、ミミズがのたうち回る様子に似ている。
 端で転げまわる罪人を見つつ、宰相が納得したように頷いていた。

「うむうむ。話に聞いていた通りだ。これで本人と確認が取れた」

 俺には、なんでそうなったかわからないが、話が進んだから良いやと思っている。
 ただ、カオル達は理由を知りたかったのか、宰相に質問をする。

「あの。なんで痒がっているんですか? 長生きとは聞いてますが、それでもただの血ですよね?」
「ふむ。私も又聞きなんだが、ミノ殿は様々な毒を克服されてきたゆえ、体の成分がヴァンパイアにまで効果が出るようになった。と言う風に聞いている。詳しくは後ほど王に聞いていただきたい」

 宰相がおもむろに立ち上がり、着いてこいと指示してきた。
 その後を着いていくと、道幅が狭くなり、徐々に暗くなっていく。
 一番嫌だったのは、歩きながらマントや冠をポロポロ落としていくこと。あんだけ煌びやかにしてるんだから、ちょっとは大事に扱えよ!
 床は絨毯で柔らかく綺麗だと言っても、投げ方は雑だし、心底嫌そうに落としていた。

「まったく、変な各式なんて作ったせいで面倒な飾りだらけ、王も早くアホな奴らなど消して仕舞えば良いのに」

 強烈な殺気が混じっていて、背筋がゾクリとした。若い3人は冷や汗までかいている。

「あぁ、すまんすまん。君達のことではないんだ。それより、もうすぐ着くぞ」

 案内されて、辿り着いたのは、洞窟の壁剥き出しで作られた寝室。中心に棺桶が置かれ、その上に天蓋が着いている。

「あの棺桶で眠られている。我々では起こせないが、ミノ殿なら起こせると聞いている。どうだ?」
「なんだそれ。寝起き悪いから俺も嫌なんだけど」
「我々だと。それすらも出来ないのでなぁ」

 仕方ないと棺桶に近付くと、確かに知っている気配。かすかに漏れる程度だが、強烈な力を感じる。

「この棺桶も昔と同じ構造か?」

 コンコンとノックしつつ、仕掛けを探ると、サイド部分に極小の穴を見つけた。
 そこに気を流し込み、第一の鍵を開ける。
 反対側に周り、今度は同じような穴を吸引する。
 穴が塞がったのを確認。

「ここからどうするんだっけ……えっと。あれだ」

 次々とギミックを解除していき、10個目を外し終わると、ようやく蓋が空いた。

「ノールも良くやるねぇ。こんな細工誰がやったんだい?」
「王が昔から持ってたみたいで、私も知りませんな。歴代の宰相も教えてもらえてないことです。」

 俺もはっきり覚えてないけど、何人かで考えながら作ったんだっけ。

「あとは本人を起こすだけなんだけど……」

 宰相の顔を見ると、すごいキラキラした目で見てくる。正直言うと、彼の前で起こすのは気が引ける。

「本当に起こして良いの?」
「どうぞどうぞ!」
「それなら、えい!」
 パシン!

 部屋中に弾ける音が響く。
 周りの全員が唖然とした表情でこちらを見ている。

 パシン! パシンパシン! バシィ! ドンドン! ドコドコ!
 右左右左。時々アッパーからのボディ。

「ちょちょっと! 何をされるのです!?」
「いや、起こしてるんです」
「起こすって、殴ってるようにしか見えませんが……」
「こいつ殴らないと起きないですよ。あ、やば!」

 不穏な気配を感じたので、宰相を引きずって離れる。

「人が寝てるのにバシバシドコドコ叩きやがって……どいつだ!」
「俺だよ」
「んー? 誰だぁ? んー……スー」
「寝るな!」

 置いてあった杖を投げつけると綺麗にキャッチされる。

「んー。なんか懐かしいような……お? おぉ?」
「やぁ」
「ミノちゃん! 久しぶりー! 起こしたのミノちゃん?」
「そうだよ。相変わらず寝起き悪いねー」
「これだけは変わらないんだよね。でも、叩かなくても出来たんじゃ無いの?」
「だって、あとは目にレモン汁入れるくらいしか効果無いでしょ……」

 レモン汁は相当嫌だったのか、眉間と鼻に無数の谷間が出来ていた。
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