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最終章 半端でも仙人
第154話 ゾンビに聖水を飲ませてあげる優しさ
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開戦後3日経ったが、お互いの疲労は見られていない。
これには表面上では、という但し書きが必要になるんだけどね。
アンデッド同士の争いに休憩などいらないと言えそうだが、ゾンビと違ってダンピールは完全なアンデッドでは無い。人とのハーフということで、疲れもあるし睡眠も必要になる。超人的な能力で補っているから、眠らずに継続して戦えているだけだ。
交代で小さな休憩を挟みつつ、戦場へ向かうということを繰り返し、数時間前に後方へ送り飛ばした奴がすぐ横にいる。
現在の俺は、ひとときの休憩でハブ・ア・ブレイクタイム。
「うーん。この突き抜ける清涼感がたまらないねぇ」
「グァァァァ」
「君たちも飲むかい?」
「ギャギャー!」
特別何かをしたわけでは無い。
俺がハーブティーを飲むためにお湯を沸かしただけで、ゾンビ共が苦しみ出し、弱い個体が倒れ出す。
「可哀想だから飲ませてあげよう」
少し冷めたハーブティーを倒れたゾンビの口に注いであげると、ジュウジュウと煙を上げてのたうち回り始めた。
「うっわ。ゾンビも聖水茶が飲めないなんて可哀想だね」
「おい!」
「ん? ダンピール君か。どうかしたか?」
「その茶。俺らに近づけるなよ!?」
どうやらダンピール諸君にも、俺の月光草で作った聖水茶はお気に召さないようだ。
どちらの軍からも距離を取られて村八分状態。
おかげでゆっくりとティータイムを満喫している。
そんなところに救護班の1人がやってきた。
「そろそろ休憩終わりです」
「もうそんな時間か……」
「ここは落ち着き始めたので、東の湖方面の救助をお願いします」
開戦直後に比べるとゾンビ共の数も減ってきている。時折現れる強い個体が面倒だが、こちらにも強そうな者共がいるので、拮抗している状態だな。
遠目に見えるワーウルフが、ゾンビを噛みちぎる様子を見ると、吐き気を催す。
「よく噛み付けるもんだ。まずくないのか?」
「あの人のことは無視してください。私たちも嫌です」
狼族系の救護班が渋面で答えてくれた。
「ささ、ついてきてください」
救護班の後に続き、次の目的地を目指す。
中央部分を通りかかる時、一部に見慣れない光景を見つけた。
ここで死屍累々《ししるいるい》という表現はおかしいと思うのだが、ゾンビやダンピールの死体が大量に転がっているこの状況は、それしか無いだろうな。
中央の戦地だけ、被害が大きい。自軍も敵軍も両方ということだが、巨大なクレーターがいくつも見られる状況は、『異常』と言うのが正しいと思える。
「なんでこんなことになってるの?」
「敵軍にキマイラが出てきたということで、将軍が対応したのですが、大技ばかりの攻防でこんなことに……」
名も知らぬ戦士たちに祈りを捧げて先を急ぐ。
とは言っても、途中で見かけた負傷者をそのままには出来ないので、薬草を貼り付ける程度のことはやっている。
そんなことをしていると、昼に出発したはずが、すでに夕方。
野営地に到着すると、怪我人はそれなりにいるが、戦地の中では一番落ち着いている。
本当にここの救助が必要なのか不思議だった。
「怪我人がダンピールなら問題ないのですが、ここはそうではない方が多いので」
見回すと、確かにアンデッドの入ってない者が多い。
ブルンザ国もダンピール以外の兵士を多く抱えているが、東側に注ぎ込んでいるのは海があるからだっけ? そんな話をしていたような気がする。
「実殿! 良くきてくれた!」
「王弟様? 拠点にいないのですか?」
自軍の指揮があるだろうに、前線に来て良いのか?
「被害の規模は予想通りなのだが、怪我の程度が問題でな……」
「一般の方々は毒に耐性が無いので」
救護員の話だと、ゾンビの毒が思ったより強く、ただの人では回復に時間がかかってしまうらしい。
それでも復帰させられているのは、聖女の力が大きく、強力な浄化作用で、毒を消しつつ回復を行うということを続けているらしい。
現場を見せてもらうと、疲労困憊といった表情の明石さんがいた。
「しばらく休ませないと、肝心な時に倒れそうだよ」
「私たちも伝えているのですが、本人が休みたがらず……」
「ノーリは?」
「予想以上に敵が多く、今は最前線にいます」
どっちも手が足りないか。
1つずつ手間を減らすしかないな。
俺がお湯を沸かし始めると、周りの人々が不思議がったり、人によっては「忙しい時に何をやっている」と怒る者もいた。
そんな奴らを無視しつつ、先程のお茶を作る。
「怪我してる人に飲ませていって。ダンピールにはダメだよ?」
「これは昼ごろに飲んでたお茶ですね?」
「たぶん毒に効くんじゃないかと」
作ったお茶を救護員が配る間に、明石さんを休ませる。
「少し休みなよ」
「でも、私が助けないと」
「周りを見て」
無理矢理頭を上げさせて、救護員たちの行動を見せる。
「聖水使ったお茶を飲ませてるんだけど、少し良くなってるでしょ?」
「聖水を……?」
「休んで聖水を量産してよ。その方がいっぱい助けられるんじゃない?」
賦活をかけながら話していると、徐々に明石さんの瞼《まぶた》が落ちてきた。
その数十秒後には、力が抜けて小さな寝息を立て始める。
「さすがは実殿だな。まさか聖水のお茶とは」
「いや、救護員も気づいていたと思いますよ? 言いづらかっただけじゃないかと」
「何!? そうなのか?」
王弟様の言葉に、しずしずと頷いている。
「大事なものと伺っていたので、数量が限られていると思ったのです」
「俺たちも作れると言ってませんでしたからね。これはこちらのミスもあるわけで」
「私たちも聞けば良かったのですが、出来る治療だけを考えていたようです」
王弟様も怒るわけにはいかないだろう。
「明石さんには聖水作りをメインにしてもらって、大事なところだけ手伝うよう言えば良いです」
「聖女様と頼り過ぎてしまいました」
ひと息着けた救護員と、治療方法の話をする。水と聖水の配合まで考えており、教えてもらった量は、俺の方が多くなってしまった。
「王弟様。ここは任せて戻りましょう」
「もう良いのか?」
「薬のことは彼らの方がプロだとわかりました。任せた方が良いです」
「そうか! ははは!」
救護に戻らないのかって? それよりも現状と地図の確認をしたい。
王弟様と救護所を後にして拠点へ向かう。
小高い丘に設けられた拠点に到着すると、パッと見でも歴戦の猛者と思える将軍たちが話し合っていた。
将軍たちがこちらに気づくと、早くきてくれと手招きする。
「コルード殿! 待ってたぞ!」
「すまぬ」
「構わん。それよりもこの場所なのだが……」
_______________
☆
____
(砦)○ /
/ △←指している
| 場所
|
|
| 海
_______________
「むむ。例の海から来るという話か?」
「そうだ。どうやって長時間潜伏しているのかわからぬが、それが動き出したそうだ」
「罠という可能性は?」
「ある。実際はおらず、陸路や空路という可能性もある」
王弟様は悩み始めるが、そういう話は俺にはわからない。適当に地図を確認して、余裕がありそうな人に現状だけ確認しておくか。
ちょうど暇そうにしている兵士がいるじゃないか。
「ちょっと聞いて良い?」
「なんだ?」
「地図のどこらへんで争ってるのか知りたいんだ」
指差しで教えてくれたが、思ったよりまばらで全域に広がっている。敵も散発してやってきているようで、目的もわかりづらいな。現地に行かないとわからないか。
これには表面上では、という但し書きが必要になるんだけどね。
アンデッド同士の争いに休憩などいらないと言えそうだが、ゾンビと違ってダンピールは完全なアンデッドでは無い。人とのハーフということで、疲れもあるし睡眠も必要になる。超人的な能力で補っているから、眠らずに継続して戦えているだけだ。
交代で小さな休憩を挟みつつ、戦場へ向かうということを繰り返し、数時間前に後方へ送り飛ばした奴がすぐ横にいる。
現在の俺は、ひとときの休憩でハブ・ア・ブレイクタイム。
「うーん。この突き抜ける清涼感がたまらないねぇ」
「グァァァァ」
「君たちも飲むかい?」
「ギャギャー!」
特別何かをしたわけでは無い。
俺がハーブティーを飲むためにお湯を沸かしただけで、ゾンビ共が苦しみ出し、弱い個体が倒れ出す。
「可哀想だから飲ませてあげよう」
少し冷めたハーブティーを倒れたゾンビの口に注いであげると、ジュウジュウと煙を上げてのたうち回り始めた。
「うっわ。ゾンビも聖水茶が飲めないなんて可哀想だね」
「おい!」
「ん? ダンピール君か。どうかしたか?」
「その茶。俺らに近づけるなよ!?」
どうやらダンピール諸君にも、俺の月光草で作った聖水茶はお気に召さないようだ。
どちらの軍からも距離を取られて村八分状態。
おかげでゆっくりとティータイムを満喫している。
そんなところに救護班の1人がやってきた。
「そろそろ休憩終わりです」
「もうそんな時間か……」
「ここは落ち着き始めたので、東の湖方面の救助をお願いします」
開戦直後に比べるとゾンビ共の数も減ってきている。時折現れる強い個体が面倒だが、こちらにも強そうな者共がいるので、拮抗している状態だな。
遠目に見えるワーウルフが、ゾンビを噛みちぎる様子を見ると、吐き気を催す。
「よく噛み付けるもんだ。まずくないのか?」
「あの人のことは無視してください。私たちも嫌です」
狼族系の救護班が渋面で答えてくれた。
「ささ、ついてきてください」
救護班の後に続き、次の目的地を目指す。
中央部分を通りかかる時、一部に見慣れない光景を見つけた。
ここで死屍累々《ししるいるい》という表現はおかしいと思うのだが、ゾンビやダンピールの死体が大量に転がっているこの状況は、それしか無いだろうな。
中央の戦地だけ、被害が大きい。自軍も敵軍も両方ということだが、巨大なクレーターがいくつも見られる状況は、『異常』と言うのが正しいと思える。
「なんでこんなことになってるの?」
「敵軍にキマイラが出てきたということで、将軍が対応したのですが、大技ばかりの攻防でこんなことに……」
名も知らぬ戦士たちに祈りを捧げて先を急ぐ。
とは言っても、途中で見かけた負傷者をそのままには出来ないので、薬草を貼り付ける程度のことはやっている。
そんなことをしていると、昼に出発したはずが、すでに夕方。
野営地に到着すると、怪我人はそれなりにいるが、戦地の中では一番落ち着いている。
本当にここの救助が必要なのか不思議だった。
「怪我人がダンピールなら問題ないのですが、ここはそうではない方が多いので」
見回すと、確かにアンデッドの入ってない者が多い。
ブルンザ国もダンピール以外の兵士を多く抱えているが、東側に注ぎ込んでいるのは海があるからだっけ? そんな話をしていたような気がする。
「実殿! 良くきてくれた!」
「王弟様? 拠点にいないのですか?」
自軍の指揮があるだろうに、前線に来て良いのか?
「被害の規模は予想通りなのだが、怪我の程度が問題でな……」
「一般の方々は毒に耐性が無いので」
救護員の話だと、ゾンビの毒が思ったより強く、ただの人では回復に時間がかかってしまうらしい。
それでも復帰させられているのは、聖女の力が大きく、強力な浄化作用で、毒を消しつつ回復を行うということを続けているらしい。
現場を見せてもらうと、疲労困憊といった表情の明石さんがいた。
「しばらく休ませないと、肝心な時に倒れそうだよ」
「私たちも伝えているのですが、本人が休みたがらず……」
「ノーリは?」
「予想以上に敵が多く、今は最前線にいます」
どっちも手が足りないか。
1つずつ手間を減らすしかないな。
俺がお湯を沸かし始めると、周りの人々が不思議がったり、人によっては「忙しい時に何をやっている」と怒る者もいた。
そんな奴らを無視しつつ、先程のお茶を作る。
「怪我してる人に飲ませていって。ダンピールにはダメだよ?」
「これは昼ごろに飲んでたお茶ですね?」
「たぶん毒に効くんじゃないかと」
作ったお茶を救護員が配る間に、明石さんを休ませる。
「少し休みなよ」
「でも、私が助けないと」
「周りを見て」
無理矢理頭を上げさせて、救護員たちの行動を見せる。
「聖水使ったお茶を飲ませてるんだけど、少し良くなってるでしょ?」
「聖水を……?」
「休んで聖水を量産してよ。その方がいっぱい助けられるんじゃない?」
賦活をかけながら話していると、徐々に明石さんの瞼《まぶた》が落ちてきた。
その数十秒後には、力が抜けて小さな寝息を立て始める。
「さすがは実殿だな。まさか聖水のお茶とは」
「いや、救護員も気づいていたと思いますよ? 言いづらかっただけじゃないかと」
「何!? そうなのか?」
王弟様の言葉に、しずしずと頷いている。
「大事なものと伺っていたので、数量が限られていると思ったのです」
「俺たちも作れると言ってませんでしたからね。これはこちらのミスもあるわけで」
「私たちも聞けば良かったのですが、出来る治療だけを考えていたようです」
王弟様も怒るわけにはいかないだろう。
「明石さんには聖水作りをメインにしてもらって、大事なところだけ手伝うよう言えば良いです」
「聖女様と頼り過ぎてしまいました」
ひと息着けた救護員と、治療方法の話をする。水と聖水の配合まで考えており、教えてもらった量は、俺の方が多くなってしまった。
「王弟様。ここは任せて戻りましょう」
「もう良いのか?」
「薬のことは彼らの方がプロだとわかりました。任せた方が良いです」
「そうか! ははは!」
救護に戻らないのかって? それよりも現状と地図の確認をしたい。
王弟様と救護所を後にして拠点へ向かう。
小高い丘に設けられた拠点に到着すると、パッと見でも歴戦の猛者と思える将軍たちが話し合っていた。
将軍たちがこちらに気づくと、早くきてくれと手招きする。
「コルード殿! 待ってたぞ!」
「すまぬ」
「構わん。それよりもこの場所なのだが……」
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(砦)○ /
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「むむ。例の海から来るという話か?」
「そうだ。どうやって長時間潜伏しているのかわからぬが、それが動き出したそうだ」
「罠という可能性は?」
「ある。実際はおらず、陸路や空路という可能性もある」
王弟様は悩み始めるが、そういう話は俺にはわからない。適当に地図を確認して、余裕がありそうな人に現状だけ確認しておくか。
ちょうど暇そうにしている兵士がいるじゃないか。
「ちょっと聞いて良い?」
「なんだ?」
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