可愛げがないと疎まれた侯爵夫人は、隣国の王子に略奪され、溺愛される

甘塩ます☆

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「すまん、無理をさせたな」

 ダンスを終えたセリアは、糸が切れた人形のようにアルフレッドの腕の中へ倒れ込んでしまった。

「いいえ……とても楽しくて、もっと、もっとアルフレッド様と踊っていたかったのですが……」

 メアリアのクッキーで活力を得たとはいえ、長年、陽の光も浴びず幽閉されていたセリアにとって、夜会の刺激はあまりに強すぎた。彼女の体力はとうに限界を迎えていたのだ。

「アルフレッド様、王宮の客室を一室借りました。姉をそちらへ!」

 キリアンが肩で息をしながら走り寄ってくる。アルフレッドはぐったりとしたセリアを抱き直すと、キリアンに彼女を預けようとした。

「……いや、私のような他国の男が運ぶのは不味いだろう。手が出かねん。君が運べ」

「いいえ、アルフレッド様。こちらへ」

 キリアンは姉を受け取らず、促すように部屋へと案内した。



 王宮の一室。天蓋付きの柔らかなベッドに、アルフレッドは眠ってしまったセリアをそっと横たえた。月明かりに照らされた彼女の横顔は、今にも消えてしまいそうなほど儚い。

「アルフレッド様。……姉を、連れ去ってはくれませんか」

「……何?」

 背後から響いたキリアンの決意に満ちた声に、アルフレッドは耳を疑った。あれほど姉を溺愛していたシスコンの弟が、初対面の自分に「姉を誘拐してくれ」と頼んでいる。その異様さに、アルフレッドは眉をひそめた。

「姉は吸血族の貴重な『純血』です。このままでは公爵家や純血一族が、必ず姉をまたあの離宮に閉じ込めるでしょう。そして、エドワード様以外の、会ったこともない純血の男と無理やり結ばされる……。姉が不幸になると分かっていて、僕は姉を連れ帰ることなどできません!」

 キリアンは拳を握りしめ、必死に言葉を絞り出す。

「アルフレッド様を見つめる姉の瞳は、あんなにも輝いていました。……姉を正妃にしていただくのは難しいかもしれません。ですが、どうか貴方のハーレムの隅にでも置いてやってください。あの冷たい離宮で好きでもない男の種を宿すくらいなら、貴方の傍にいる方が、姉は……セリア姉様は、ずっと幸せなんです。どうか、お願いします!」

 キリアンは床に膝をつき、額を擦り付けるようにして懇願した。
 アルフレッドはしばらく沈黙した後、静かに、けれど重みのある声で告げた。

「……俺にハーレムはない。婚約者もいない。だから、セリアと正式に婚約できる」

「姉を、娶ってくださるのですか……?」

「本当に連れ去っても構わないのだな」

「っ……どうか、姉を幸せにしてください」

 キリアンはアルフレッドの大きな両手を握りしめ、何度も頭を下げると、涙を拭いながら部屋を後にした。
 静まり返った室内。アルフレッドは、眠るセリアと二人きりになった。

「……まるで、眠り姫だな」

 眠る彼女の美しさに、知らず知らずのうちに手が伸びる。寝ている女に手を出す趣味はないが、その白い頬、震える睫毛、そして淡い色の唇を見つめていると、衝動を抑えるのが難しかった。
 アルフレッドはそっと、彼女の細い指を握りしめた。

「……アルフレッド、様……」

 重たげな瞼がゆっくりと開き、エメラルドの瞳がアルフレッドを映した。 

「起きていたのか」

「ええ……疲れて、目を閉じていただけです。運んでいただいてありがとうございました。キリアンが無理を言って……申し訳ありません。私のことは、どうかお気にせず……」

「私に連れ去られるのは嫌か?」

 アルフレッドの直球の問いに、セリアが息を呑む。

「我が国は小国だが、帝国との交流が始まれば、これからもっと活気ある場所になる。私と一緒に、国を盛り立ててはいけないか?」

「アルフレッド様……貴方は国王陛下なのでしょう? 私はただの、引きこもりの女です。貴方の隣に立つには、あまりにも分不相応で……」

「分不相応など関係ない。私が、傍にいてほしいと言っているんだ」

 セリアはアルフレッドの手を、縋るように握り返した。

「……ごめんなさい。私、あの離宮しか知らなくて……今日、初めて外の世界に出たのです。それが急に、外国に連れ去られるなんて……。あまりに大きな出来事で、私には耐えきれません。どうか、置いていってください」

 震える声で拒絶するセリア。だが、アルフレッドの瞳には、揺るぎない独占欲の炎が宿っていた。

「嫌だと言ったら?」

「……えっ?」 

「君が他の男のものになることなど、断じて許せん。……これは私の我儘だ。君の意見は聞かない。私はお前を連れて帰る。もう、決めたんだ」

「アルフレッド様……っ、んんっ!?」

 拒絶の言葉を飲み込むように、アルフレッドは強引にセリアの唇を塞いだ。
 初めて知る男の熱、強引な口づけに、セリアの思考は真っ白に染まっていく。
 それは、閉ざされた檻の扉を、力尽くでこじ開けるような、激しくも甘い略奪の誓いだった。
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