可愛げがないと疎まれた侯爵夫人は、隣国の王子に略奪され、溺愛される

甘塩ます☆

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 華やかな旋律が広間に響き渡る中、セリアはアルフレッドに導かれ、ダンスフロアの中央へと進み出た。
 長年、日の当たらない離宮に幽閉されていた彼女にとって、大勢の視線に晒されるのは恐怖以外の何物でもなかった。しかし、今その手を握り、腰を支えているアルフレッドの掌からは、驚くほど確かな熱と力強さが伝わってくる。

「……無理に笑う必要はない。俺の目だけ見ていろ」

 アルフレッドのぶっきらぼうな、けれど配慮に満ちた言葉に、セリアの緊張がわずかに解けた。
 吸血族であるセリアのフェロモンは、空腹が満たされたことで幾分か落ち着いている。とはいえ、これほど身体を密着させていれば、並の男なら抗う術もなく魅了されるはずだ。だが、目の前のアルフレッドは瞳の色一つ変えず、淡々と、しかし優雅に彼女をリードしていく。

「アルフレッド様、不思議です。……貴方は、私に反応しないのですか?」

「いや、君はとても魅力的だと思う。だからこうしてダンスに誘った」

 アルフレッドはセリアを軽く回し、再び引き寄せると、彼女の耳元で低く呟いた。

「フェロモンとやらのせいかは分からんが……お前の瞳は、星空のように美しいと思うぞ」

 その言葉に、セリアの心臓が大きく跳ねた。空腹でも恐怖でもない、生まれて初めて知る胸の「昂ぶり」に、彼女のエメラルドの瞳がいっそうの輝きを増す。
 傍らで見守っていた弟のキリアンは、今にも割って入らんばかりに拳を握りしめていたが、姉のあんなにも輝く笑顔を見て、ついに動くことができなかった。




 一方その頃、喧騒から切り離された最上階の寝室。
 エドワードは、ベッドの上に座るメアリアを、飢えた獣のような眼差しで見つめていた。
 窓から差し込む満月の光が、彼女の白い肌を青白く照らし出している。首元には、もうあの「金の首輪」はない。

「……リア。俺は、心配で堪らないんだ」

 エドワードはメアリアの細い首筋を指でなぞる。
 既にメアリアはエドワードと深く結ばれているため、首輪がなくても他の吸血族には、彼女が既に「所有されている」ことは本能で理解できる。だが、彼女の白い項が放つ誘惑に、不届き者が理性を失わないという保証はなかった。
 それでも、エドワードは彼女の首輪を外した。
 彼女を拘束したいわけでも、ペットのように扱いたいわけでもなかった。ただ、一人の女性として扱いたい、対等でありたかったのだ。
 エドワードはメアリアの前に膝をつき、彼女の細い指先を一本ずつ、愛おしむように口づける。その瞳は吸血族特有の真紅に染まり、溢れんばかりの情熱と執着を隠そうともしなかった。

「首輪がなくても、私はエドワード様のものです。……ずっと、そばにいますわ」

 メアリアが震える手でエドワードの頬を撫でると、彼は耐えきれないといった様子で彼女を寝台へと押し倒した。
 幾重にも重なったドレスの裾が散らばり、プラチナの髪と銀の髪が絡まり合う。

「ああ、一分一秒たりとも離さないさ。……今夜は、お前を甘やかすつもりはない。覚悟しろ」

 エドワードの低い声が鼓膜を震わせ、メアリアの首筋に熱い唇が寄せられる。
 首輪を外したことで、エドワードの魔力は直接メアリアの肌へと染み込み、彼女の意識を心地よく白濁させていく。かつての「夜伽」は苦痛でしかなかった。だが今、彼女が感じるのは、溶けてしまいそうなほどの法悦と、彼にすべてを捧げたいという強烈な欲求だけだった。

「……ああ、エドワード様……っ!」

 エドワードはメアリアの唇を深く塞ぎ、彼女の吐息をすべて飲み干していく。
 外された首輪は、月の光を浴びて鏡台の上で静かに転がっていた。
 支配という名の檻から解き放たれた二人は、ただの男と女として、狂おしいほどに深い愛の海へと沈んでいった。
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