覇王に執着される傾国の男装騎士〜忘却の接吻を、愛しき宿敵へ〜

甘塩ます☆

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 平常心を装ってはいたが、カイルの心臓は今にも破裂しそうなほど脈打っていた。
 長年、呪い殺してやるという執念で追い続けてきた相手。そのアーサーによる肩揉みがあまりに心地よく、背後に「彼」がいるという事実だけで、カイルの心拍数は制御不能なほど跳ね上がる。

 あの日以来、カイルは復讐だけを糧に、がむしゃらに突き進んできた。女性を侍らせることもなく、学問、体術、そして魔術の会得に全霊を捧げてきたのだ。
 もともと、彼にとって女性は身の回りを飾るだけのアクセサリーに過ぎなかった。后候補として多くの姫君と引き合わされても、心ときめくことなど一度もなかった。
 頭にあるのは常に、あの不遜な騎士を屈服させることだけ。一途なまでの「アーサーへの憎悪」こそが、彼の原動力だったはずなのだ。
 ……だというのに、今やカイルの脳裏を占めるのは、彼を無慈悲に組み伏せ、陵辱したいという衝動ばかり。

(俺は……男好きだったのか?)

 これまでの価値観が根底から崩れ去る混乱に、カイルは身悶えした。

「アーサー。今のお前は専属メイド……つまり女だ。女らしい名をつけてやらねばな」

 嫌みを言って、どうにか気を紛らわせようとする。

「『アリス』なんてどうだ?」

 知的で凛々しい彼には、似合わないほどに愛らしい名だ。だが、アーサーは溜息混じりに肩揉みを続けながら、淡々と答えた。

「……お好きなように呼んでください、ご主人様」

 その直後だった。
 凄まじい轟音と共に、執務室の窓ガラスが派手に砕け散った。魔法銃による高密度の魔力波動だ。

「——っ!」

 考えるより先に、カイルの身体が動いた。座っていた椅子を蹴り飛ばし、アーサーの細い肩を抱き寄せ、その身を覆うように強く抱きしめる。同時に展開した防御結界が、降り注ぐガラス片と第二波の波動を完璧に弾き飛ばした。

「……衛兵たちは、何をしているんだ!」

 カイルは瞬時に感知魔法を広げる。
 一方、腕の中でアーサーが鋭い声を上げた。

「……っ! 私は騎士だ。守られる必要はない!」

 抗うアーサーを、カイルは離さなかった。メイド服越しに伝わる体温。それだけで、背筋が凍るような恐怖を覚えたからだ。

「黙れ! 今のお前は武器も持たぬ、ただのメイドだ!……もし今のでお前に何かあったら、俺は……!」

 そこまで言って、カイルは言葉を詰まらせた。自分でも驚くほど、声が震えていた。
 復讐したかったはずだ。奴隷にして苦しめたかったはずだ。なのに、彼を失うかもしれないと思った瞬間、カイルの心臓は死よりも深く凍りついた。
 一方、カイルの胸に顔を埋める形になったアーサーは、初めて知る強固な守護に戸惑いを隠せないでいた。

(なんだこれは……私の心臓が、こんなに煩い)

 カイルの腕の中は、悔しいほどに安堵をもたらしていた。ずっとこの腕の中に居たい、守られたい——アーサーの中で深く眠っていた「女性」の部分が、強引に引きずり出されようとしている。

「離せと言っているんだ! 私は騎士だ!」

 アーサーは己を鼓舞するように叫ぶと、カイルを力いっぱい突き飛ばした。そして、太ももに隠し持っていた護身用の短刀を素早く引き抜く。
 手の中で短刀を三本に複製したかと思うと、窓の外へ向けて一気に放った。
 カイルの感知魔法が拾った下手人は、三人。
 刹那、外から短いくぐもった悲鳴が響き、気配が薄れる。アーサーは一寸の狂いもなく、獲物を仕留めたのだ。


「カイル様! 申し訳ございません、お怪我はございませんか!」

 側近が血相を変えて乱入してくる。

「……ああ、無事だ」

「再度、城のバリアをかけ直しました。今、衛兵が下手人を追っております」

「下手人は既にアーサーが仕留めた。回収して拷問にでもかけておけ」

 カイルが冷たく言い放つと、側近は深々と頭を下げて下がっていった。
 静寂が戻った執務室で、カイルはアーサーの腕を掴み、問答無用で引き寄せた。

「何をする気だ……っ!」

「さて、アリス。まだお前は自分の立場を分かっていないようだな」

 刺客を仕留めたというのに、なぜこれほどまでに怒りに満ちた目で睨まれるのか。アーサーには理解できない。

「俺は仕事を邪魔されて気が立っている。これ以上、俺を怒らせるな。……仕事の続きをする」

 ニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、カイルは徐ろにズボンの帯を緩めた。中から露わになったのは、先程の襲撃の熱にあてられ、猛々しく隆起した「彼」の象徴だった。

(コイツ、命を狙われて何を興奮しているんだ……!?)

 アーサーは混乱と、そして魂を泥で汚されたような侮辱に、カイルを睨みつけた。

「ほら、早くしろ。……お前が望んだことだろう。俺を屈服させるような王になったら、何にでもなると」

 カイルは、硬質なそれをアーサーの頬にペチ、と軽く叩きつけた。
 屈辱に染まったアーサーが、憎悪を込めた眼差しで自分を見上げる。
 その、今にも噛み付いてきそうな獣の瞳こそが、カイルのサディスティックな情欲をさらに焼き焦がしていくのだった。
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