5 / 5
5
しおりを挟む
アーサーは惨めで、情けなくて、耐えられなかった。これほどまでに声を上げて泣きじゃくったのは、生まれて初めてのことだ。
呆然と涙を流し続けるアーサーを、カイルは苛立ったように、けれど力強く抱き上げた。
「やめろ! 今度は何をする気だ!!」
これ以上は、もう一刻も耐えられない。アーサーの精神は限界だった。無我夢中で暴れ、カイルの端正な頬を思い切り平手打ちする。乾いた音が室内に響き渡った。
「……っ、ってぇな。何もしねぇよ。興が冷めた、もう寝てろ」
カイルは忌々しげに舌打ちし、剥き出しのモノをしまって身なりを整えた。そして、抵抗する気力さえ失い、ぐったりとしたアーサーを抱き上げたまま、彼のために用意した私室へと運ぶ。
まるでお姫様が眠るような、豪奢な天蓋付きのベッドにアーサーを無造作に放り出した。
「今日はこの辺で勘弁してやる。だが、明日は覚悟しておくんだな。お前は俺の奴隷だ。一分一秒、忘れるんじゃないぞ」
カイルは言い聞かせるように冷たく告げ、背を向けて部屋を出ていった。
一人残されたアーサーは、あまりの急な幕引きに拍子抜けした。
——泣いたから、許してくれたのか?
酷使した喉が痛み、思考が混濁する。極限の緊張から解放された反動で、泥のような眠気が襲ってきた。アーサーは濡れた睫毛を震わせたまま、深い眠りへと落ちていった。
執務室に戻り、仕事の続きを始めたカイルだったが、一向に心は落ち着かなかった。
あんなに泣きじゃくるなんて。あの不遜で気高かったアーサーが、俺の腕の中で。
女物の部屋を与え、屈辱的なメイド服を着せ、男の象徴を喉の奥まで突き入れ、奉仕させた。騎士としての自尊心は、今や粉々に砕け散っているはずだ。
だが、その蹂躙の光景を思い出すだけで、カイルの股間は再び抗いようのない熱を帯びてくる。
「……やはり、あいつは去勢して俺の『女』にしよう」
あんなに美しいのだ。男として戦わせるなど宝の持ち腐れではないか。
カイルはペンを置き、暗い悦びに浸りながら独りごちた。
アーサーを完全に去勢し、女にしてしまえば——国務の傍ら、いつでもあの柔らかな唇を奪い、あの気高い精神を自分への依存だけで塗りつぶすことができる。
「お前に男としての機能など必要ない。俺がいれば、それでいいんだ……」
カイルの瞳に宿るのは、もはやかつての少年のような反発心ではない。獲物を檻に入れ、自分好みに作り替えようとする「支配者」の冷酷な情欲だった。
「去勢して、手元に置く」
そう決意したはずだった。そのための魔術道具や、術式の書かれた古書を無造作に机に広げ、カイルは深夜、吸い寄せられるようにアーサーの寝所へと足を向けた。
静まり返った私室。天蓋のカーテンを乱暴に引き開けたカイルは、そこに横たわる姿を見て、一瞬、呼吸を忘れた。
「……っ」
豪奢なフリルの枕に沈み、アーサーは死んだように眠っていた。
泣き腫らした瞼は赤く、端正な顔立ちにはまだ涙の跡が乾かずに残っている。あれほど鋭かった眼光は閉じられ、微かな寝息を立てる唇は、先刻自分が無理やり蹂躙したせいで少しだけ腫ぼったい。
カイルの手が、無意識にアーサーの頬へと伸びた。
指先が触れた瞬間、その肌のあまりの柔らかさに指が震える。
(……壊したい。こいつの心をズタズタにして、俺なしでは生きていけない体に作り替えてやりたい)
そう思っているのは、嘘ではない。
だが、その一方で、胸の奥が焼けるように熱い。
去勢術の術式を思い出そうとするたびに、あの日、自分を見下ろした「気高く強いアーサー」の幻影が脳裏をよぎる。
(……もし、こいつからその牙を抜いてしまったら。ただの「人形」になってしまったら、俺は満足するのか?)
カイルは唇を噛み締めた。
自分が求めているのは、自分に跪き、絶望に濡れた瞳で自分を見つめ、それでもなお消えない火花を散らす「アーサー」なのだ。
もしその魂を完全に壊してしまったら、自分の中に残るこの「渇き」は永遠に癒えないのではないか。
カイルは、眠るアーサーの横に腰を下ろし、そっとその髪を撫でた。
「……何故だ、アーサー。何故お前は、男なんだ」
もし、お前が最初から女であったなら。
俺はこんな回りくどい復讐などせず、力ずくで奪って、王妃としてでも愛人としてでも、ただひたすらに愛し抜いてやれたのに。
そうすれば、今この瞬間も、こんな苦しい感情に振り回される事も無かったのだ。
「……ん……っ」
アーサーが苦しげに身じろぎをし、カイルの服の裾を無意識に掴んだ。
縋るようなその仕草に、カイルの理性が音を立てて崩れそうになる。
憎んでいる。殺したいほど、憎んでいる。
けれど——今すぐこの男を抱き寄せ、その涙を舌で掬い取り、「怖がるな」と耳元で囁いてやりたい自分も、確かにそこにいた。
「卑怯だぞ、お前……。どこまで俺を狂わせる」
カイルは自嘲気味に笑うと、アーサーの手をそっとほどき、逃げるように部屋を後にした。
扉の向こう側で、彼は誰にも見せられないほど酷く歪んだ、悲しげな顔をしていた。
呆然と涙を流し続けるアーサーを、カイルは苛立ったように、けれど力強く抱き上げた。
「やめろ! 今度は何をする気だ!!」
これ以上は、もう一刻も耐えられない。アーサーの精神は限界だった。無我夢中で暴れ、カイルの端正な頬を思い切り平手打ちする。乾いた音が室内に響き渡った。
「……っ、ってぇな。何もしねぇよ。興が冷めた、もう寝てろ」
カイルは忌々しげに舌打ちし、剥き出しのモノをしまって身なりを整えた。そして、抵抗する気力さえ失い、ぐったりとしたアーサーを抱き上げたまま、彼のために用意した私室へと運ぶ。
まるでお姫様が眠るような、豪奢な天蓋付きのベッドにアーサーを無造作に放り出した。
「今日はこの辺で勘弁してやる。だが、明日は覚悟しておくんだな。お前は俺の奴隷だ。一分一秒、忘れるんじゃないぞ」
カイルは言い聞かせるように冷たく告げ、背を向けて部屋を出ていった。
一人残されたアーサーは、あまりの急な幕引きに拍子抜けした。
——泣いたから、許してくれたのか?
酷使した喉が痛み、思考が混濁する。極限の緊張から解放された反動で、泥のような眠気が襲ってきた。アーサーは濡れた睫毛を震わせたまま、深い眠りへと落ちていった。
執務室に戻り、仕事の続きを始めたカイルだったが、一向に心は落ち着かなかった。
あんなに泣きじゃくるなんて。あの不遜で気高かったアーサーが、俺の腕の中で。
女物の部屋を与え、屈辱的なメイド服を着せ、男の象徴を喉の奥まで突き入れ、奉仕させた。騎士としての自尊心は、今や粉々に砕け散っているはずだ。
だが、その蹂躙の光景を思い出すだけで、カイルの股間は再び抗いようのない熱を帯びてくる。
「……やはり、あいつは去勢して俺の『女』にしよう」
あんなに美しいのだ。男として戦わせるなど宝の持ち腐れではないか。
カイルはペンを置き、暗い悦びに浸りながら独りごちた。
アーサーを完全に去勢し、女にしてしまえば——国務の傍ら、いつでもあの柔らかな唇を奪い、あの気高い精神を自分への依存だけで塗りつぶすことができる。
「お前に男としての機能など必要ない。俺がいれば、それでいいんだ……」
カイルの瞳に宿るのは、もはやかつての少年のような反発心ではない。獲物を檻に入れ、自分好みに作り替えようとする「支配者」の冷酷な情欲だった。
「去勢して、手元に置く」
そう決意したはずだった。そのための魔術道具や、術式の書かれた古書を無造作に机に広げ、カイルは深夜、吸い寄せられるようにアーサーの寝所へと足を向けた。
静まり返った私室。天蓋のカーテンを乱暴に引き開けたカイルは、そこに横たわる姿を見て、一瞬、呼吸を忘れた。
「……っ」
豪奢なフリルの枕に沈み、アーサーは死んだように眠っていた。
泣き腫らした瞼は赤く、端正な顔立ちにはまだ涙の跡が乾かずに残っている。あれほど鋭かった眼光は閉じられ、微かな寝息を立てる唇は、先刻自分が無理やり蹂躙したせいで少しだけ腫ぼったい。
カイルの手が、無意識にアーサーの頬へと伸びた。
指先が触れた瞬間、その肌のあまりの柔らかさに指が震える。
(……壊したい。こいつの心をズタズタにして、俺なしでは生きていけない体に作り替えてやりたい)
そう思っているのは、嘘ではない。
だが、その一方で、胸の奥が焼けるように熱い。
去勢術の術式を思い出そうとするたびに、あの日、自分を見下ろした「気高く強いアーサー」の幻影が脳裏をよぎる。
(……もし、こいつからその牙を抜いてしまったら。ただの「人形」になってしまったら、俺は満足するのか?)
カイルは唇を噛み締めた。
自分が求めているのは、自分に跪き、絶望に濡れた瞳で自分を見つめ、それでもなお消えない火花を散らす「アーサー」なのだ。
もしその魂を完全に壊してしまったら、自分の中に残るこの「渇き」は永遠に癒えないのではないか。
カイルは、眠るアーサーの横に腰を下ろし、そっとその髪を撫でた。
「……何故だ、アーサー。何故お前は、男なんだ」
もし、お前が最初から女であったなら。
俺はこんな回りくどい復讐などせず、力ずくで奪って、王妃としてでも愛人としてでも、ただひたすらに愛し抜いてやれたのに。
そうすれば、今この瞬間も、こんな苦しい感情に振り回される事も無かったのだ。
「……ん……っ」
アーサーが苦しげに身じろぎをし、カイルの服の裾を無意識に掴んだ。
縋るようなその仕草に、カイルの理性が音を立てて崩れそうになる。
憎んでいる。殺したいほど、憎んでいる。
けれど——今すぐこの男を抱き寄せ、その涙を舌で掬い取り、「怖がるな」と耳元で囁いてやりたい自分も、確かにそこにいた。
「卑怯だぞ、お前……。どこまで俺を狂わせる」
カイルは自嘲気味に笑うと、アーサーの手をそっとほどき、逃げるように部屋を後にした。
扉の向こう側で、彼は誰にも見せられないほど酷く歪んだ、悲しげな顔をしていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる