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朝、伊吹は春岳をお起しに向かった。
疲れは取れただろうか、朝食は食べられるだろうか、城主としての仕事を学んで頂かなければ、等とあれこれ考えながら春岳の寝所まで来た伊吹。
襖の前で声をかける。
「殿、起きておいでですか? 伊吹です。起こしに参りました。殿?」
室内から返事は無かった。
まだ寝ていただろうか。
やはり疲れておいでなのだ。もう少し寝かせておこうか。
そんな事を考えたが、どうも静かすぎる気がする。
「殿、開けますよ?」
息をしている事だけでも確認しようと、伊吹はソーっと襖を開けた。
「殿!? これは!?」
慌てて中に入る。布団は既に畳まれており、中に人影は無かった。
殿は何処に!?
布団の敷かれてあった場所に手を置くが、既に体温は残っていない。
早くに起きて片付け、出て行ったという事だ。
「殿!! 殿ー!!」
伊吹は慌てて寝所を飛び出し、春岳を呼びながら行きそうな所を回る。
井戸は? 顔を洗っているかも知れない。
違うか。
厠か? お腹を下したとか?
「殿? おいでですか?」
厠を確認するが、誰も居ない。
湯浴みだろうか。
これも違う。
庭の散策??
「殿! 何方ですか殿ー! お返事してください殿ー!!」
大声で春岳を探して走り回る伊吹に他の家臣達も只事では無いと駆けつける。
いつの間にか他の家臣達も一緒になって「殿ー殿ー」と、探してくれているが、全く返事は無かった。
何処にもいない。
まさか城外へ?
いや、外に出たなら門番が見ている筈だ。
城の守りは完璧のはず。
門番や監視から知らせは無い。
そもそも門番が春岳を外に出す筈が無かった。
だが必死になり草むらから何まで家臣達総出で探しているが何処にも居ないのだ。
伊吹は、まるで狐に摘まれた様な気持ちである。
「殿、隠れんぼですか? お戯れはおやめ下さい。殿ー!!」
隠れんぼにしたって総出で探して見つからないのはおかしい。
伊吹はどうしたら良いのかと頭を抱えた。
何処かで倒れでもしていたら大変だ。
「もう一度隈なく城内を……」
家臣達に再度確認を、命じようとした時だ。
ヒョイっと、塀から何が入り込んで来たのが見えた。
何だ? 猫でも迷い込んだか?
「やぁ、伊吹。お早うございます」
見ればエヘッと可愛く笑っている春岳であった。
嘘だろ。この塀を!?
三メートルはある筈だが……
「ごめんなさい、もっと早く帰って来ようと思ったんですけど……」
春岳は申し訳無さそうな顔をしている。
「と、殿。心配しましたよ。外に出る時はその、一声かけて下さいませ。お供を付けますので、あと、正門から出てください」
頭が混乱する伊吹だが、注意はする。
「うーん、善処します」
「……殿、朝食が出来ました。食べられそうですか?」
「勿論です。丁度お腹空いた所です」
「その前に湯浴みが必要ですね。準備を致します」
ニコッと穏やかに笑って見せる春岳であるが、どう見ても善処する気はなさそうだ。
また無断で塀から出ていくぞって顔だ。
これは、お説教が必要だとは思うが、兎に角体を綺麗にして頂いて、朝食を頂いて貰ってから話を聞いた方が良いだろう。
なんせ殿はホコリまみれだ。
一体何処で何をしていたのか。
屋根裏で鼠でも捕まえていたんですか?
「おーい、殿が見つかったぞ! 捜索は止めだ」
取り敢えず、まだ城内を探し回っているだろう家臣達に大声で呼びかける伊吹であった。
疲れは取れただろうか、朝食は食べられるだろうか、城主としての仕事を学んで頂かなければ、等とあれこれ考えながら春岳の寝所まで来た伊吹。
襖の前で声をかける。
「殿、起きておいでですか? 伊吹です。起こしに参りました。殿?」
室内から返事は無かった。
まだ寝ていただろうか。
やはり疲れておいでなのだ。もう少し寝かせておこうか。
そんな事を考えたが、どうも静かすぎる気がする。
「殿、開けますよ?」
息をしている事だけでも確認しようと、伊吹はソーっと襖を開けた。
「殿!? これは!?」
慌てて中に入る。布団は既に畳まれており、中に人影は無かった。
殿は何処に!?
布団の敷かれてあった場所に手を置くが、既に体温は残っていない。
早くに起きて片付け、出て行ったという事だ。
「殿!! 殿ー!!」
伊吹は慌てて寝所を飛び出し、春岳を呼びながら行きそうな所を回る。
井戸は? 顔を洗っているかも知れない。
違うか。
厠か? お腹を下したとか?
「殿? おいでですか?」
厠を確認するが、誰も居ない。
湯浴みだろうか。
これも違う。
庭の散策??
「殿! 何方ですか殿ー! お返事してください殿ー!!」
大声で春岳を探して走り回る伊吹に他の家臣達も只事では無いと駆けつける。
いつの間にか他の家臣達も一緒になって「殿ー殿ー」と、探してくれているが、全く返事は無かった。
何処にもいない。
まさか城外へ?
いや、外に出たなら門番が見ている筈だ。
城の守りは完璧のはず。
門番や監視から知らせは無い。
そもそも門番が春岳を外に出す筈が無かった。
だが必死になり草むらから何まで家臣達総出で探しているが何処にも居ないのだ。
伊吹は、まるで狐に摘まれた様な気持ちである。
「殿、隠れんぼですか? お戯れはおやめ下さい。殿ー!!」
隠れんぼにしたって総出で探して見つからないのはおかしい。
伊吹はどうしたら良いのかと頭を抱えた。
何処かで倒れでもしていたら大変だ。
「もう一度隈なく城内を……」
家臣達に再度確認を、命じようとした時だ。
ヒョイっと、塀から何が入り込んで来たのが見えた。
何だ? 猫でも迷い込んだか?
「やぁ、伊吹。お早うございます」
見ればエヘッと可愛く笑っている春岳であった。
嘘だろ。この塀を!?
三メートルはある筈だが……
「ごめんなさい、もっと早く帰って来ようと思ったんですけど……」
春岳は申し訳無さそうな顔をしている。
「と、殿。心配しましたよ。外に出る時はその、一声かけて下さいませ。お供を付けますので、あと、正門から出てください」
頭が混乱する伊吹だが、注意はする。
「うーん、善処します」
「……殿、朝食が出来ました。食べられそうですか?」
「勿論です。丁度お腹空いた所です」
「その前に湯浴みが必要ですね。準備を致します」
ニコッと穏やかに笑って見せる春岳であるが、どう見ても善処する気はなさそうだ。
また無断で塀から出ていくぞって顔だ。
これは、お説教が必要だとは思うが、兎に角体を綺麗にして頂いて、朝食を頂いて貰ってから話を聞いた方が良いだろう。
なんせ殿はホコリまみれだ。
一体何処で何をしていたのか。
屋根裏で鼠でも捕まえていたんですか?
「おーい、殿が見つかったぞ! 捜索は止めだ」
取り敢えず、まだ城内を探し回っているだろう家臣達に大声で呼びかける伊吹であった。
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