上 下
5 / 79

4話

しおりを挟む
 初めて実家である山城へと連れてこられた春岳であったが、実家である筈のそこはあまり見慣れず落ち着かない場所であった。

 そもそも妾の子だと言う話、離で暮らしていたのだろうか。
 自分の母上はどうなったのだろう。
 父の本妻とは折り合いがつくだろか。

 春岳は色々不安に思ってしまう。

 そもそもポッと出で急に主となってしまう自分に家臣達は着いてくるのか?

 あー、もう!
 居心地が悪かったら忍びの里に帰ったら良いさ。

 春岳は半ば投げやりに考えていた。

 
 意を決して城の門をくぐった春岳。
 男が土下座で出迎えていて驚いた。
 気づかず踏んづける所である。
 何人かの家臣質も彼にならって土下座で出迎えている。
 歓迎してくれてるのは嬉しいが、こう堅苦しいのは息が詰まる。
 やっぱり忍びの里に帰ろうな。
 なんて考えてしまう春岳。

 兎に角、頭を深く下げられたままでは顔も解らず余計に不安だ。
 顔を上げてくれと言えば、おずおずと顔上げ、此方を見てくれる。
 乳兄弟であると説明してくれた伊吹と言う家臣に、春岳は全く見覚えは無かった。
 凛々しい顔の男前だ。
 ガダイも良い。ちゃんと稽古を積んでいるのだろう。
 誠実そうな男であった。
 見覚えは無いが、伊吹を見ると少し心が和らぐ気がする。
 たが、見ず知らずの人間に直ぐに心を開ける様な事のない春岳。
 壁を作って敬語で話してしまう。
 それに伊吹は困った様な表情を見せるのだった。

 挨拶を済ませた後、伊吹は城の中を案内してくれた。
 そして一通り教えてもらった後、世話係は自分なので何か有れば呼んでくれと言い残し、寝所に置いていかれた。
 もう夜も遅いし疲れを取って欲しかったのだろう。
 確かに疲れて湯浴みをする気分にもなれなかった。
 春岳も大人しく寝る事にする。

 城を案内しつつ伊吹が説明してくれたが、流行病が深刻な様子で、家臣達も何人な亡くなり、兄の母上である人も兄に付きっきりで看病し、感染して亡くなったと言う話しである。 
 春岳の母はやはり離で暮らしており、感染は免れて様子だ。
 城内の感染は落ち着きを見せ、自分を迎えに来てくれたらしい。
 だが、村の方での感染は治まっておらず、沢山の村人が亡くなっていると言う。

 心配だ。

 明日、村に行って様子をこの目で確認して来よう。
 病気や薬草の知識は忍びの里で教わっている。
 何か気付ける事も有るかも知れない。
しおりを挟む

処理中です...