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湯浴みを終え、身なりを整えた春岳に遅くなってしまったが朝食を持ってこさせる伊吹。
さて、毒味の者を呼ぼうと手を叩いた伊吹であるが、あろうことか毒味の者が来る前に春岳は「いただきます」と言って箸をつけてしまった。
「ぎゃぁ!! 殿、吐き出してください!! まだ毒味が済んでおりません!!」
顔を真っ青にし、悲鳴を上げる伊吹。
伊吹が普段上げる事の無い声を出してしまった為に、何だ何だと家臣達も集まって来てしまった。
「今井殿、どう致した!」
「殿の御膳に一服盛られていたのか!?」
「敵襲ですか!?」
と、大騒ぎである。
「騒がしい、何でも無いので持ち場に戻りなさい」
冷静に春岳が声を上げ、注意する。
それを聞き、家臣達は何でも無いのかとホッとして持ち場に戻って行くが、春岳は食べ物を飲み込んでしまったので伊吹は気を失いそうである。
吐き出してくれと言ったのに、なぜ飲み込んでしまうのだ。
「殿、失礼します」
「こら、止めなさい!」
「毒が入っていたらどうなさるのですか、お願いですから吐き出してください!」
伊吹は盥を用意し、そこに飲み込んだ食べ物を吐き出させようとする。
口に手を突っ込まれそうな勢いで、今度は春岳の方が青ざめた。
「伊吹、落ち着いてください。話し合いましよう。何か誤解があるようです」
「誤解などありません。貴方は今や立派な城の主なのです。命を狙われてもおかしくは無いのですよ」
「それは解ります。解ってます」
「いいえ、お解り頂けていません。兎に角食べた物を今すぐ吐き出してください」
「毒なんて入ってませんでした。美味しい朝食です」
「味のしない毒かもしれません」
「大丈夫ですから、少し離れてください」
押し問答をしつつ、口に手を入れようとしてくる伊吹が怖くて思わず突き飛ばしてしまう春岳。
思いの外、強く突き飛ばしまった様だ。
伊吹は転がって襖をぶち破り、外まで出て行ってしまった。
「何だ何だ敵襲か!!」
「今井殿、いかが致した!」
「しっかりしろ! 傷は浅いぞ!!」
いきなり室内から転がり出てきた伊吹に家臣達がまた集まって来てしまう。
「大丈夫だ。持ち場に戻ってくれ」
頭を打ったらしく、痛そうにおさえつつも、家臣に命令を出す伊吹。
皆、心配そうな表情だが、本人が大丈夫だと言っているものをどうしようもなく、大人しく持ち場に戻っていく。
「今井様、殿の御膳に毒は盛られていませんしたよ」
いつの間にか来ていた毒味の者が食事を確かめてくれたらしい。
伊吹は、ホッと胸を撫で下ろした。
「ほら、だから入っていないと言ったんだ」
春岳はご立腹だ。
「たまたま入っていなかっただけです。ちゃんと毒味を待ってください」
伊吹だってご立腹だ。
「自慢じゃ無いが舌は良い方なんですよ。毒が入ってたら直ぐに解ります」
毒味だって春岳は忍びの里一だった。
それに、多少の毒なら耐性がある。
毒味に任せるより自分で確かめながら食べた方が安全だし、安心なのだ。
自分の毒味で、目の前で毒味係に死なれても目覚めが悪い。
「私が居た所を聞いてないのですか?」
溜息を吐きながら、伊吹に尋ねる春岳。
「忍びの里で保護されてきたと聞きましたが?」
「保護?」
確かに保護されてはいたが、それだけじゃない。
訓練を受けたし、なんなら里一番の実力で、長を任される予定だったのだ。
だから命を狙われても逆に返り討ちにしてやれるんだぞ。
「伊吹、私は……」
春岳が自分の生い立ちを説明しようとした時である。
ビュッと、自分の横を何かが通り過ぎて柱に刺さった。
見れば矢文だった。
早朝に、依頼した毒薬の判別が済んだのか。
流石、忍びの里。
早い。
「ぎゃあああーー!! 殿ーー!! 弓矢が!! 殿のお命を!! であえであえ!!!」
突然、矢が飛んできて柱に刺さったものだがら伊吹は気が動転し、悲鳴を上げて叫んでしまっていた。
「ああ、落ち着いて伊吹。これは違う、これは違うからーー」
ただのお手紙が来ただけなんだよーー。
「今井殿、いかが致した!」
「今度こそ奇襲か!!」
「は、殿が弓矢を持っているぞ!!」
「敵は何処だ!!」
バタバタとやってきた家臣達も騒ぎ始めてしまう。
「あーーもう!! 落ち着かんか貴様ら!! 俺の話を聞けええぇぇ!!!」
春岳も気付けば大声を上げて怒鳴ってしまっていた。
だが、いちいち大騒がされても困るのである。
ただの手紙なのだ。本当に。
さて、毒味の者を呼ぼうと手を叩いた伊吹であるが、あろうことか毒味の者が来る前に春岳は「いただきます」と言って箸をつけてしまった。
「ぎゃぁ!! 殿、吐き出してください!! まだ毒味が済んでおりません!!」
顔を真っ青にし、悲鳴を上げる伊吹。
伊吹が普段上げる事の無い声を出してしまった為に、何だ何だと家臣達も集まって来てしまった。
「今井殿、どう致した!」
「殿の御膳に一服盛られていたのか!?」
「敵襲ですか!?」
と、大騒ぎである。
「騒がしい、何でも無いので持ち場に戻りなさい」
冷静に春岳が声を上げ、注意する。
それを聞き、家臣達は何でも無いのかとホッとして持ち場に戻って行くが、春岳は食べ物を飲み込んでしまったので伊吹は気を失いそうである。
吐き出してくれと言ったのに、なぜ飲み込んでしまうのだ。
「殿、失礼します」
「こら、止めなさい!」
「毒が入っていたらどうなさるのですか、お願いですから吐き出してください!」
伊吹は盥を用意し、そこに飲み込んだ食べ物を吐き出させようとする。
口に手を突っ込まれそうな勢いで、今度は春岳の方が青ざめた。
「伊吹、落ち着いてください。話し合いましよう。何か誤解があるようです」
「誤解などありません。貴方は今や立派な城の主なのです。命を狙われてもおかしくは無いのですよ」
「それは解ります。解ってます」
「いいえ、お解り頂けていません。兎に角食べた物を今すぐ吐き出してください」
「毒なんて入ってませんでした。美味しい朝食です」
「味のしない毒かもしれません」
「大丈夫ですから、少し離れてください」
押し問答をしつつ、口に手を入れようとしてくる伊吹が怖くて思わず突き飛ばしてしまう春岳。
思いの外、強く突き飛ばしまった様だ。
伊吹は転がって襖をぶち破り、外まで出て行ってしまった。
「何だ何だ敵襲か!!」
「今井殿、いかが致した!」
「しっかりしろ! 傷は浅いぞ!!」
いきなり室内から転がり出てきた伊吹に家臣達がまた集まって来てしまう。
「大丈夫だ。持ち場に戻ってくれ」
頭を打ったらしく、痛そうにおさえつつも、家臣に命令を出す伊吹。
皆、心配そうな表情だが、本人が大丈夫だと言っているものをどうしようもなく、大人しく持ち場に戻っていく。
「今井様、殿の御膳に毒は盛られていませんしたよ」
いつの間にか来ていた毒味の者が食事を確かめてくれたらしい。
伊吹は、ホッと胸を撫で下ろした。
「ほら、だから入っていないと言ったんだ」
春岳はご立腹だ。
「たまたま入っていなかっただけです。ちゃんと毒味を待ってください」
伊吹だってご立腹だ。
「自慢じゃ無いが舌は良い方なんですよ。毒が入ってたら直ぐに解ります」
毒味だって春岳は忍びの里一だった。
それに、多少の毒なら耐性がある。
毒味に任せるより自分で確かめながら食べた方が安全だし、安心なのだ。
自分の毒味で、目の前で毒味係に死なれても目覚めが悪い。
「私が居た所を聞いてないのですか?」
溜息を吐きながら、伊吹に尋ねる春岳。
「忍びの里で保護されてきたと聞きましたが?」
「保護?」
確かに保護されてはいたが、それだけじゃない。
訓練を受けたし、なんなら里一番の実力で、長を任される予定だったのだ。
だから命を狙われても逆に返り討ちにしてやれるんだぞ。
「伊吹、私は……」
春岳が自分の生い立ちを説明しようとした時である。
ビュッと、自分の横を何かが通り過ぎて柱に刺さった。
見れば矢文だった。
早朝に、依頼した毒薬の判別が済んだのか。
流石、忍びの里。
早い。
「ぎゃあああーー!! 殿ーー!! 弓矢が!! 殿のお命を!! であえであえ!!!」
突然、矢が飛んできて柱に刺さったものだがら伊吹は気が動転し、悲鳴を上げて叫んでしまっていた。
「ああ、落ち着いて伊吹。これは違う、これは違うからーー」
ただのお手紙が来ただけなんだよーー。
「今井殿、いかが致した!」
「今度こそ奇襲か!!」
「は、殿が弓矢を持っているぞ!!」
「敵は何処だ!!」
バタバタとやってきた家臣達も騒ぎ始めてしまう。
「あーーもう!! 落ち着かんか貴様ら!! 俺の話を聞けええぇぇ!!!」
春岳も気付けば大声を上げて怒鳴ってしまっていた。
だが、いちいち大騒がされても困るのである。
ただの手紙なのだ。本当に。
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