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20話
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春岳は栄養満点の薬膳料理と、お粥を伊吹に持っていく。
小姓は春岳に着いて回るのを諦めて、客人を迎える準備をする事にした。
お客様を持て成す料理の支度や、お迎えする部屋の掃除や、色々やる事はあったが、料理の下処理など伊吹が既にしてくれているので簡単である。
「伊吹、起きて下さい」
春岳は優しく耳元で名前を呼ぶと、伊吹を起こす。
「伊吹、ご飯を食べて下さい。そしたら、また寝てくださーい」
優しく声をかけていると、うっすらと伊吹が目を開けた。
「何方の姫君ですか?」
ボーッとした様子の伊吹は、何処かあどけない様子で首を傾げる。
「寝ぼけているんですね。私は伊吹の主の春岳ですよ。もう忘れちゃったんですか?」
姫君と見間違えられるとは。
まぁ、女装も完璧にこなせるが。
「私の主の……」
ボケーッとした伊吹は可愛いなと、フフっと笑う春岳。
伊吹はそんな春岳の顔をジッと見てから、ハッとして飛び起きた。
「ああ!!! えっえっ、今の刻限は!? 俺はどうしたんだ!? 殿、何故私の枕元に!? これはどう言う状態ですか!?」
意味の解からない状況に混乱し、辺りをキョロキョロしする伊吹。
少しパニックになっている。
「落ち着いて下さい伊吹」
春岳は伊吹を落ち着かせようと肩を掴む。
「貴方は過労で倒れたんです。今は私が看病しています」
そう説明した。
「なんて失態を…… 申し訳ありません」
伊吹は申し訳無さそうな居たたまれなさそうな、不甲斐ないと言う表情をする。
「千代は、千代はどうしたのですか!?」
そして直ぐに、小姓の行方を聞いて来た。
どうやら伊吹がキョロキョロしたのは、小姓を探していたからしい。
ここで他の者の名前を出されると、頼られてないみたいでちょっと面白くない春岳。
「あ、あの小姓。色々忙しそうなので任せました」
「殿に私の世話を押し付けてですか!?」
顔を青ざめさせる伊吹。
「誤解しないであげてください。私がそう命じました。取り敢えず、私が作った薬膳料理とお粥を食べて下さいね。はい、あーん」
春岳はお粥をフーフーし、冷ましてやりつつ口に運んでやる。
「や、止めて下さい。殿にそのような…… 切腹しなければなりません。介錯をお願いします」
短刀を取ろうと刀掛けに手を伸ばす伊吹。
その手を掴んで止める。
「大袈裟だな。勝手に切腹する事は私が許さないので。私の飯を食べなさい」
そう命じる。
すぐに切腹切腹と、物騒な人で困る。
「は、はい……」
伊吹はまだ夢現で状況を理解しきっていない様子であるが、姿勢正しく座り、綺麗な箸使いで食事を初めてくれた。
「美味しい?」
「はい、美味しいです」
伊吹が自分の作った料理を食べてくれているのが嬉しい春岳はニコニコだ。
「良かったです。朝餉を抜くのは駄目ですよ」
なんて注意する春岳。
伊吹が朝食を抜いたのは主に春岳のせいであるが、そんな事は既に忘れたらしい。
「さて、私も伊吹が作った朝餉をお昼として食べましょうかね。食べ終わったらこの薬を飲んでまた横になってるんですよ。これは私の命令です。解りましたね?」
また倒れられたら困る。ちゃんと養生して欲しい。
春武は、ちゃんと命令しておく。
「はい、殿の命令とあればこの命をかけて全ういたします」
やけに真剣な顔で答える伊吹。
「養生を命がけですると言うのも変な話ですね」
伊吹はまだ夢現なのか。
可愛いなぁ。
フフと、笑ってしまう春岳だ。
春岳は、伊吹の食事姿を少しだけ堪能し、自分もご飯を食べに向かうのだった。
せっかくの伊吹が作った朝食が、また冷えてしまっては勿体ない。
小姓は春岳に着いて回るのを諦めて、客人を迎える準備をする事にした。
お客様を持て成す料理の支度や、お迎えする部屋の掃除や、色々やる事はあったが、料理の下処理など伊吹が既にしてくれているので簡単である。
「伊吹、起きて下さい」
春岳は優しく耳元で名前を呼ぶと、伊吹を起こす。
「伊吹、ご飯を食べて下さい。そしたら、また寝てくださーい」
優しく声をかけていると、うっすらと伊吹が目を開けた。
「何方の姫君ですか?」
ボーッとした様子の伊吹は、何処かあどけない様子で首を傾げる。
「寝ぼけているんですね。私は伊吹の主の春岳ですよ。もう忘れちゃったんですか?」
姫君と見間違えられるとは。
まぁ、女装も完璧にこなせるが。
「私の主の……」
ボケーッとした伊吹は可愛いなと、フフっと笑う春岳。
伊吹はそんな春岳の顔をジッと見てから、ハッとして飛び起きた。
「ああ!!! えっえっ、今の刻限は!? 俺はどうしたんだ!? 殿、何故私の枕元に!? これはどう言う状態ですか!?」
意味の解からない状況に混乱し、辺りをキョロキョロしする伊吹。
少しパニックになっている。
「落ち着いて下さい伊吹」
春岳は伊吹を落ち着かせようと肩を掴む。
「貴方は過労で倒れたんです。今は私が看病しています」
そう説明した。
「なんて失態を…… 申し訳ありません」
伊吹は申し訳無さそうな居たたまれなさそうな、不甲斐ないと言う表情をする。
「千代は、千代はどうしたのですか!?」
そして直ぐに、小姓の行方を聞いて来た。
どうやら伊吹がキョロキョロしたのは、小姓を探していたからしい。
ここで他の者の名前を出されると、頼られてないみたいでちょっと面白くない春岳。
「あ、あの小姓。色々忙しそうなので任せました」
「殿に私の世話を押し付けてですか!?」
顔を青ざめさせる伊吹。
「誤解しないであげてください。私がそう命じました。取り敢えず、私が作った薬膳料理とお粥を食べて下さいね。はい、あーん」
春岳はお粥をフーフーし、冷ましてやりつつ口に運んでやる。
「や、止めて下さい。殿にそのような…… 切腹しなければなりません。介錯をお願いします」
短刀を取ろうと刀掛けに手を伸ばす伊吹。
その手を掴んで止める。
「大袈裟だな。勝手に切腹する事は私が許さないので。私の飯を食べなさい」
そう命じる。
すぐに切腹切腹と、物騒な人で困る。
「は、はい……」
伊吹はまだ夢現で状況を理解しきっていない様子であるが、姿勢正しく座り、綺麗な箸使いで食事を初めてくれた。
「美味しい?」
「はい、美味しいです」
伊吹が自分の作った料理を食べてくれているのが嬉しい春岳はニコニコだ。
「良かったです。朝餉を抜くのは駄目ですよ」
なんて注意する春岳。
伊吹が朝食を抜いたのは主に春岳のせいであるが、そんな事は既に忘れたらしい。
「さて、私も伊吹が作った朝餉をお昼として食べましょうかね。食べ終わったらこの薬を飲んでまた横になってるんですよ。これは私の命令です。解りましたね?」
また倒れられたら困る。ちゃんと養生して欲しい。
春武は、ちゃんと命令しておく。
「はい、殿の命令とあればこの命をかけて全ういたします」
やけに真剣な顔で答える伊吹。
「養生を命がけですると言うのも変な話ですね」
伊吹はまだ夢現なのか。
可愛いなぁ。
フフと、笑ってしまう春岳だ。
春岳は、伊吹の食事姿を少しだけ堪能し、自分もご飯を食べに向かうのだった。
せっかくの伊吹が作った朝食が、また冷えてしまっては勿体ない。
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