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26話

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 片付けをしていた春岳であったが、その直後に家臣たちが来て、慌てて止められてしまった。
 家臣たちも皆少人数での警備などに忙しいだろう。
 休んで欲しかったのだが……
 余計に気を使わせては本末転倒になる。
 春岳は渋々後を家臣たちに任せ、伊吹の様子を見に行く事にした。


「あれ?」

 部屋の側まで行くと、縁側に腰を掛けて夜空を眺めている伊吹の姿が見えた。

「眠れなかったですか?」

 ちゃんと睡眠薬も調合して置いたんだけどな。
 薬はちゃんと飲んでいたと、千代から報告を受けた。
 何で起きているんだ?


「あ、殿、お開きにしたんですか?」

 伊吹が此方に気づいて視線をくれる。

「ええ、後は千代に任せました」
「そうですか」

 伊吹は何処かポヤポヤした様子に見えた。
 睡眠薬が少しだけ効いていて、夢心地なのかもしれない。

 伊吹は薬が効きにくい体質なのかもな。

 ちゃんと睡眠したから二回目は中途半端な効きになったのかもしれない。
 顔色は良くなったし、体調も良さそうだからもう心配はなさそうだ。

 春岳はソッと伊吹の隣に腰を下ろす。

「あ、どうしましょう」
「どうかしましたか?」

 ハッとして困った表情になる伊吹。

「今、我が城には色小姓が千代しか居ません」
「ふむ」

 それがどうかしたのだろうか?
 客人への奉仕は間に合っている様子だったが、何か問題が有るのか?
 
 春岳には解らず、首を傾げてしまう。

「今夜、殿の夜伽を務められる者がおりません」

 伊吹は困った様に眉をハの字にして俯き加減だ。

「要らないけど……」

 昨夜も追い返したんだが……
 
 寧ろ何で要ると思われたのだろうか。

「殿は千代が好みでは無いのですか? それとも男色が好みでは無いのですか? それとも、そもそも性欲が無いのですか?」

 顔を上げると、矢継ぎ早に質問してくる伊吹。

「随分と明け透けに聞いて来るじゃないですか」

 礼儀を重んじる伊吹らしからぬ行動である。

「申し訳ありません。私はただ、殿が心地よい環境にしたいのです。不躾でした……」

 見るからにシュンと落ち込んだ表情になる伊吹。
 きつものキリッとして凛々しい伊吹もカッコよくて素敵だが、こういう可愛い顔も似合うのだから飛んでもない魔性だ。

「私は心理的に性行為に嫌悪感しか有りません」
 
 春岳は伊吹の質問に答えてやる事にする。
 毎日、閨に千代を寄越されても困るしな。 
 それこそ心地よくない環境だ。

「自慰もなさらないのですか?」
「だから、随分と明け透けだね」

 思わずアハッと苦笑してしまう春岳。

「あ……」

 伊吹は口が滑ったと言う表情だ。
 小声で「すみません」と、謝ってくる。
 失言に不快感を覚えたと言うよりは、伊吹からそう明け透けに聞かれると少し興奮してしまうのだ。
 思ったより自分は酒に酔ってしまったのか、それか片付けの時に聞こえた隣の部屋の盛った声に若干あてられたのかもしれない。
 一番の原因は、間違いなく目の前の伊吹だ。
 薄い寝間着で裸を晒し、トローンとした表情がまた色っぽいのが問題だろう。
 ここに来たのが他の家臣とかじゃなくて良かったと思う。
 伊吹のこんな表情、誰にも見せたくない。

 思わず、ソッと伊吹の頬に触れてしまった。

「殿?」
 
 伊吹は不思議そうな表情を春岳に向ける。

「あ、いや……」

 春岳はスッと手を引く。

 何をしてるんだ俺は……
  
 伊吹は、まだ不思議そうに自分を見つていた。
 その表情が可愛いから困ってしまう。

「えっと…… 勃起はするから、したら自慰はするよ」

 春岳は伊吹の質問を思い出し、答えた。

「生理現象を処理するのと同じ感覚です。厠で用を足すのと同じ感覚かな。殆どはやり過ごす事の方が多いです」

 そう説明を続ける。
 伊吹に何処まで話すべきなのか、春岳は探り探りだ。

「そうなんですね」
  
 伊吹はどう思ったのか。
 表情を見えも解らなかった。

 変な人だと思われただろうか?
 意気地なしだと思われたかな?

「伊吹はどうなんですか?」

 不意に、伊吹の性的な話に興味が向いた。
 伊吹の方から、ここまで聞いてきたのだ。
 此方が聞いても良いだろう。
 
「え?」

 伊吹は予想だにしなかった質問をされ、何を聞かれているのか理解出来なかった様だ。
 ポカーンとした表情をしている。
 そんな間抜けな表情が可愛い。

「快感を得るために女や小姓を抱いたりする? それとも自慰ですます? 稚児の経験は有るの? お尻の穴に挿れられるのが好きだったりして?」

 あまりに可愛いものだから、セクハラ紛いにヤラシイ質問を矢継ぎ早に聞いてしまう春岳。
 伊吹は困惑した表情を見せる。

「私は、そうですね……」

 伊吹は答えてくれる気らしい。
 少し視線を外したのは恥ずかしいからだろう。
 伊吹から性的な話が聞けると思うと、春岳は胸がドキドキして来る。

「あまり快楽を得る為だけの行為は好きませんので自慰ですませます。稚児はしてませんし、その、お恥ずかしいのですが、お尻の穴は使った事が無くて…… あまり挿れたいと思われる様な容姿では無いので……」 

 伊吹は恥しそうに見る見る顔を赤くし、俯きながらもちゃんと質問に答えてくれた。

 そうか、お尻は使った事無いのか。

 何だか嬉しくなってしまう春岳だ。

 俺が伊吹の初めてを貰える幸運がまだ残っているなんて、奇跡だ。
 
「私は興味が有りますよ」
「え?」
「伊吹に夜伽を命じます」
「え? え?」

 伊吹は何を言われたのか解らない様子で首を傾げる。
 キョトンとした表情が幼く見えて可愛らしい。
 俺はそんな伊吹を横抱きに抱えると、彼の部屋に連れ込むのだった。
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