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34話

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 春岳が来てから二週間が過ぎた。
 
 流行り病だと思われた毒物騒ぎも落ち着き、城には以前の人手が戻って来ている。
 村の流行り病も同じ様に治まり、毒物騒ぎの患者は居なくなっていた。

 春岳の勉強も順調に進んだ。
 初めの頃は真面目に受けてくれていた春岳も、やっはり我慢出来なかったらしい。
 最近になり、伊吹が気づくと居なくなってる事が増えた。

 旅の使者のおかげと言って良いのか解らないが、方々に春岳の薬が良く効くという噂と、山の中にかぐや姫の様に美しき殿が居ると言う噂が広まり、殿に会いたいと言う人がこの山城を訪れる事が増えてしまった。
 その対応に追われ、春岳は辟易としており、勉強を真面目に受けているのもストレスになるのだろう。
 たまにお出かけしてしまう事もストレス発散なのだ。仕方ない事である。
 伊吹も解っているので目を瞑っていたのだが、流石に最近増えすぎてしまった。

 まぁ、今や殿は勉強しなくても良いような状態であるし、全て問題なくこなしてしまうので良いのだが……

 既に基本的な事は全て頭に入れており、やる事と言えば反復と応用ぐらいである。
 特に兵法の勉強等は、先生が出す課題に先生よりも良い案を提示してしまい、先生にこれはどうする? これはどうする? と、楽しげ聞かれ、先生も困っておいでだった。
 そして、その噂までもが広まったらしく、訪れる客人に戦法のアドバイスを求められたり、我が殿は引っ張り凧だ。
 それは逃げたくもなるだろう。
 それは解る。
 解るのだが、お供の者ぐらいつけて欲しいのだ。
 自分にも何も言わずに居なくなってしまうのは、伊吹も困る。
 勉強しなさいや、お行儀よくしなさいや、客人の相手をしなさいや、口煩かっただろうか。
 閨に好みでもない女や色小姓をやるのも嫌がられている様だ。
 うざったく思われているのかもしれない。
 だが、未だ春岳のお眼鏡に叶う者がおらず、伊吹は困り果てていた。
 
 そもそも殿には性欲が無いのだろうか。
 精通がまだと言う事は無いよな。

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとは言うが、全く当たらない。

 そうだ。春画などを買い与えてみてはどうだろうか。
 殿の趣向が解り、何か参考に出来るかも知れない。

 伊吹は思い立ったが吉日と、春岳の為の春画を探しに街まで行く事にした。
 村にも春画は有るだろうが、街まで出た方が選べるだろう。
 色々買って見せれば、殿の趣向や好みをより深く知れるかもしれない。
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