【完結】忍びである城主は乳兄弟にゾッコン

76話

　春岳は有理を洗脳している術者も捕まえていた。

「さて、選ばせてやろう。有理の洗脳を解けさえすれば忍びの里で他の者と一緒に保護してやるが。出来なければここで切り捨てるまでだ」

　そう言って春岳は術者に刀を向ける。
　術者は観念し、有理の洗脳を解いたのだった。




「有理、有理、しっかりして有理」

　千代が有理に声をかける。

　有理を城に連れ帰った春岳は手当を施し、部屋に寝かせた。
　顔色も悪く、生きているのが不思議なぐいの有理の姿に、千代は涙ながらに手を握っていた。

　幸い性病等にはなっていなかったが、風邪を拗らせて肺炎になりかけている様子だ。
　予断を許さない。

　春岳も出来る事は全てやって治療し、千代は寝る間も惜しんで有理の看病をした。
　伊吹も仕事の合間を見ては有理に声をかけたりして気にかけた。
　有理は一週間程生死の境目を彷徨ったが、熱もようやく下がり、十日目になってやっと目を開けたのだった。


　目を開けた有理はボーッとした様子で一声も発しなかったので、千代は一瞬、夢を見ているのでは無いかと思った。

「有理……　有理？　起きての？　有理？
ねぇ、有理？」

　そう声を掛ける。
　有理は千代とやっと目が合った。

「ああ、俺、死んだんだなぁ……」
　
　と、呟く。
　有理って『俺』って言うんだと、何処か変な所で驚く千代だ。

「死んで無い！　ちゃんと生きてる！　私が解る？」
「いや、死んでるだろこれ。千代様が居るもん。死んでるわ俺」
「生きてるんだってば！」
「まぁ、千代様に看取られるなら幸せだなぁ。神様っているんだ」
「私の話ちゃんと聞いてる？　殿ーー！　今井様ーー！！」

　千代は、何度言っても信じない有理に諦めて、春岳と伊吹を呼ぶのだった。

　駆けつけてくる春岳と伊吹に、やっと有理は自分が生きていて、此処が田方城でだと認識した。