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77話
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雪解けが進み、桜が咲く頃となった。
有理も回復し、もうピンピンしている。
他の仲間達は忍びの里に居る事を伝え、仲間が恋しいなら忍びの里に行っても良いと話した春岳。
有理は残り、城で小姓として働く事を選んだ様だ。
ただ、もう色小姓はしたくないと言うので、お手伝いをするだけの小姓になってもらった。
そして、いつの間にか千代とは良い仲になっている。
「そろそろ花も見頃ですし、皆でお花見しましょう」
満開間近の桜を見て伊吹が提案する。
桜は咲き始めると直ぐに満開になり、気づくと散ってしまうので、タイミングを逃したく無かった。
「良いな。何処か花見に適した場所は有るか?」
「紅葉が整備している旧道に有る、旧家の方が綺麗だそうです」
「それは俺に内緒で他の男と会ってたって事かな?」
急にムッとしてしまう春岳だ。
紅葉が伊吹こ親友だとは知っていても嫉妬してしまう。
「紅葉は友人ですよ。この前、良くできたと焼き物を献上しに来たじゃないですか。その時に聞いただけですよ」
「そう言えばそうだったな」
紅葉の焼き物は綺麗なので、客間に堂々も飾ったのは春岳だ。
「旧道に旧家があるのか?」
「ええ、まぁ。でも紅葉に陶芸の保管場所として使わせてますし、綺麗な状態ですよ」
「そうか。じゃあ皆で花見をしようか」
話がまとまり、伊吹は早速千代と有理にも話し、計画を立てるのだった。
「では、乾杯しよう!」
旧家に集まり、無事に冬を越せた事を祝いとにして、残ってくれた者たちとお花見会を催す
もうすぐ他の者も皆帰ってくるだろう。
春岳の音頭で皆思い思いに酒を呑んだり、お弁当を食べたり、話をしたりしだす。
「少し散歩しませんか? 道沿いにも桜を植えてあるんですよ」
伊吹は春岳を誘って、二人で散歩に出た。
「本当に綺麗だな」
「ええ、この景色が好きなんです」
フフっと微笑む伊吹。
春岳は伊吹の手を取る。
「なんだかもう何年も一緒にいる気分だ」
「実際は半年も一緒に居ませんけどね」
「それからはずっと一緒に居るだろ?」
「そうですね。春岳様が心変わりしなければそうなります」
「そう言う伊吹が心変わりする可能性だって有るけどな」
「私は有りませんね」
「俺だって無いさ」
そんな軽口を言い合い、手を繋いで歩く。
こんなに幸せな事が有るだろうか。
春岳は思わず伊吹抱きしめて接吻した。
「本当にずっと一緒に居てくれよ?」
そう縋る様に言った。
なんだか急に不安になったのだ。
あまりに綺麗な桜に伊吹を取られそうに思った。
「ずっと一緒に居ます。今度こそ約束を守りますよ」
「今度こそ?」
「此方です。来て下さい」
伊吹は春岳の手を引いた。急に道なき道に入る伊吹。
此処は通った事が無い。
こんな風に見知らぬ道を手を引きながら歩くのは俺の方なのに。
いつもと逆だと感じた。
「ほら、此処です」
「これだけ離れているんだな」
そこには、ポツンと一本だけ桜が植わっていた。
「春岳様と私でこっそり植えたんですよ」
「え?」
「それで、結婚してあげるとか言ったんですよね私」
伊吹は、そう言うと少し照れた様に笑った。
「あの頃、春岳様の事を女の子だと思っていたんですよ。春岳様の幼名は小春でしたし」
「そうだったか?」
幼少の頃に伊吹と過ごした記憶等無いのだが。
「私も、つい最近思い出したんです。うっかり足を滑らせて崖下に落ちた事が有りましてね。記憶喪失になってしまった様です」
「ああ……」
そっと伊吹のこめかみの傷に手を伸ばす。
「柿の木から落ちるどころの騒ぎじゃないですよね」
クスクスと笑う伊吹。
本当に笑い事じゃないな。
有理も回復し、もうピンピンしている。
他の仲間達は忍びの里に居る事を伝え、仲間が恋しいなら忍びの里に行っても良いと話した春岳。
有理は残り、城で小姓として働く事を選んだ様だ。
ただ、もう色小姓はしたくないと言うので、お手伝いをするだけの小姓になってもらった。
そして、いつの間にか千代とは良い仲になっている。
「そろそろ花も見頃ですし、皆でお花見しましょう」
満開間近の桜を見て伊吹が提案する。
桜は咲き始めると直ぐに満開になり、気づくと散ってしまうので、タイミングを逃したく無かった。
「良いな。何処か花見に適した場所は有るか?」
「紅葉が整備している旧道に有る、旧家の方が綺麗だそうです」
「それは俺に内緒で他の男と会ってたって事かな?」
急にムッとしてしまう春岳だ。
紅葉が伊吹こ親友だとは知っていても嫉妬してしまう。
「紅葉は友人ですよ。この前、良くできたと焼き物を献上しに来たじゃないですか。その時に聞いただけですよ」
「そう言えばそうだったな」
紅葉の焼き物は綺麗なので、客間に堂々も飾ったのは春岳だ。
「旧道に旧家があるのか?」
「ええ、まぁ。でも紅葉に陶芸の保管場所として使わせてますし、綺麗な状態ですよ」
「そうか。じゃあ皆で花見をしようか」
話がまとまり、伊吹は早速千代と有理にも話し、計画を立てるのだった。
「では、乾杯しよう!」
旧家に集まり、無事に冬を越せた事を祝いとにして、残ってくれた者たちとお花見会を催す
もうすぐ他の者も皆帰ってくるだろう。
春岳の音頭で皆思い思いに酒を呑んだり、お弁当を食べたり、話をしたりしだす。
「少し散歩しませんか? 道沿いにも桜を植えてあるんですよ」
伊吹は春岳を誘って、二人で散歩に出た。
「本当に綺麗だな」
「ええ、この景色が好きなんです」
フフっと微笑む伊吹。
春岳は伊吹の手を取る。
「なんだかもう何年も一緒にいる気分だ」
「実際は半年も一緒に居ませんけどね」
「それからはずっと一緒に居るだろ?」
「そうですね。春岳様が心変わりしなければそうなります」
「そう言う伊吹が心変わりする可能性だって有るけどな」
「私は有りませんね」
「俺だって無いさ」
そんな軽口を言い合い、手を繋いで歩く。
こんなに幸せな事が有るだろうか。
春岳は思わず伊吹抱きしめて接吻した。
「本当にずっと一緒に居てくれよ?」
そう縋る様に言った。
なんだか急に不安になったのだ。
あまりに綺麗な桜に伊吹を取られそうに思った。
「ずっと一緒に居ます。今度こそ約束を守りますよ」
「今度こそ?」
「此方です。来て下さい」
伊吹は春岳の手を引いた。急に道なき道に入る伊吹。
此処は通った事が無い。
こんな風に見知らぬ道を手を引きながら歩くのは俺の方なのに。
いつもと逆だと感じた。
「ほら、此処です」
「これだけ離れているんだな」
そこには、ポツンと一本だけ桜が植わっていた。
「春岳様と私でこっそり植えたんですよ」
「え?」
「それで、結婚してあげるとか言ったんですよね私」
伊吹は、そう言うと少し照れた様に笑った。
「あの頃、春岳様の事を女の子だと思っていたんですよ。春岳様の幼名は小春でしたし」
「そうだったか?」
幼少の頃に伊吹と過ごした記憶等無いのだが。
「私も、つい最近思い出したんです。うっかり足を滑らせて崖下に落ちた事が有りましてね。記憶喪失になってしまった様です」
「ああ……」
そっと伊吹のこめかみの傷に手を伸ばす。
「柿の木から落ちるどころの騒ぎじゃないですよね」
クスクスと笑う伊吹。
本当に笑い事じゃないな。
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