わたしは美味しいご飯が食べたいだけなのだっ!~調味料のない世界でサバイバル!無いなら私が作ります!聖女?勇者?ナニソレオイシイノ?~

野田 藤

文字の大きさ
24 / 67
第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

22 先人のものは私のモノ、私のものも私のモノ

しおりを挟む
「んじゃ、炒めるのはほかの三人に任せて、生地担当は離れよっか」

 ルーにあとを頼み、ヤックを連れて冷蔵庫に。すると丁度よく固まっている生地のお出ましです。

 作業台に小麦粉をまぶして、伸ばし棒にも粉を付けているとヤックが私を止めた。

「ケイ様!?あの、それは食べ物では……っ」
「あ、ごめんごめん。これは、打ち粉という作業です」
「打ち粉です?」
「うん、これをしないと生地がくっつくんだよ」

 経験があるのか、ああ!と声を出して納得したヤック。そうだろう、あのグルテンの塊を思い出しただろう!

 私は固まった生地を伸ばし棒でゆっくり伸ばしていく。
 この時バターの塊が見えたら成功なのだけど……

「ケイ様!バターが!バターが混ざってません!」
「いいんだよ、それで。成功です!」
「こ、これがですか!?」

 パイ生地にしたいので、バターはある程度残ってるのがいい生地の証拠なんだけど。
 自分の知ってるものと違うと戸惑うよね。
 ヤックは戸惑いつつも私を真似してどんどんと作業を進めていく。

 伸ばしては三つ折りにし、また伸ばしては三つ折りにして……を繰り返す。

「よっし、これでおっけ!」
「これが……パイ生地……」
「そうだよ。バターと生地が何重にも重なってるから焼くとサクサクした物になるんだ」
「確かに、何度も重ねて伸ばしましたね……それが焼くとバターが解けて層になる、という事ですか?」
「おー!理解早い!理屈はそうだよ!そしてこれ、重ねないで一口大に切ってやけばスコーンっていう甘くないお菓子になるよ」
「スコーン……作りたいです!」

 ヤックは食べるより作る方が見たい子なのかな?理屈や技術の質問を何度もするので、理系男子ってところかな。

 パイの中に入れるフィディングはまだ完成してないので、明日の私のために今日のわたしが頑張ろう。

「ヤックの方の生地はまた冷蔵庫に戻して、私の方の生地でクロワッサンもどきをつくろーう!」
「おー??」

 言われてない突然のレシピにヤックは困惑してるけど気にしなーい。

 打ち粉をして、重ねてた生地を伸ばす。
 長方形にしたら二等辺三角形を作るようにナイフで生地を切る。それを頂点に向けてクルクルっと底辺から丸めればあっという間にクロワッサンの出来上がり。

 作り方としては正規の作り方があるからこれはもどきになってしまうけど、これはこれで美味しいので大量に作っておく。

「これは作ったら明日焼くから冷蔵庫に保存しておこうね」
「形が可愛くて焼くのが楽しみです」

 私は思わず明日の朝ごはんが出来たので満足です。ズボラ料理はいかに効率よく明日の私のために、そして今の私も楽をするかの料理だからね!

「ケイ様ー!全て炒め終わりましたー!」

 ルーからの合図で再び魔道コンロへ。
 その間にヤックには生地を伸ばして貰う。

 鍋いっぱいに炒められた食材たち。味付けはシンプルにしようと思ったから塩と酒、元の世界のスパイス……――は、黒田のスパイスにしてみた――隠し味の少しの砂糖。そして……

「トマトー!……を、入れます!」
「え!?果物ですよ!?それを煮るのですか!?」
「うん、煮るよ。煮込むと甘酸っぱくなるからね」
「うっわ、マジで入れた……信じらんねえ」

 こちらの世界ではトマトは果物扱いで、しかも少し小ぶりだ。味は濃くて濃縮された果実の甘みがあってとっても美味しい。

 これでトマトケチャップを作ったら美味しいだろう、という感じの味だ。
 パンが出来たらジャムとトマトケチャップを作る、私は決めた。

 トマトを潰しつつ、しばらく水気が無くなるまで煮込んで味を染み込ませたらフィリングは完成。

「ここまで来たら後は先人の残したこのパイ型に伸ばしてもらった生地を貼り付けて、フィリングをたーぷりのせて……あ!アレンジに焼いたナスとかチーズなんかものせてもいいね!」

 言いながら見本として作っていく。
 パンプディング作った陶器の焼き皿でも作れるんだけど、先人の忘れ物を今回は使おうと思います。
 先人の忘れ物は私のモノ、私のモノも私のものだ!というジャイアニズムを行使します!

「最後に細長く切った生地を格子状にして、艶をだすための卵を塗って……焼くだけ!」
「格子状……む、難しいですね……」
「げ!破けだぞ!?」
「簡単そうにしてますけど……凄すぎなのです……」
「ぼくはチーズのせちゃうよお」

 各自ぎゃあぎゃあ騒ぎながら作ってますが楽しそうなのが何よりです。 

 四人も、何個か作れば要領は分かったのか最後は完璧に自分のものにしておりました。ポールなんかアレンジしたりチーズ入れる余裕みせてるからね、やっぱりこういう事はポールが得意だね。

 魔道コンロのオーブンをフル活用して作ったパイを焼いていく。
 その間にサラダをいつも通りに作ってもらった。ルーが用意していたベジブロスは炒めた玉ねぎを利用して簡易オニオンスープにした。
 最後にコショウをぱらっとすれば優しい味のスープになる。
 今日のお昼はメインがミートパイで味が濃いので全体的に副菜は優しく。
 ミートパイのサワークリーム添え、オニオンスープ、サラダと軽めの仕上がりです。(騎士達にとっては、だけどね!)

 みんなの手際がいい為か意外と早くできたので、お腹を空かせた騎士達がくるまで休憩している四人に隠れて夜の準備開始。

 ダンが切ってくれた肉はステーキ肉になっているので、それをバットに並べ……なくてもいいのでみじん切りした玉ねぎをドバっとかけて軽く混ぜておく。
 これで準備完了!夜までつけておくと……ふっふっふ、夜が楽しみよのぅ。

「……なにをされてるのですか……?」

 はっ!
 ルーにバレてしまった!

「え?んーと、夜のお楽しみ、かな!」
「はあ……」
「びっくりするようなご飯だからね!」
「今も十分びっくりしておりますよ?」

 深く聞いてこないルーはきちんと空気を読む子なので、それで勘弁してもらった。

 そしてミートパイの出来上がりと共に空腹を湛えた野生の騎士……ではなく、訓練を終えた騎士達が殺到してきた。

「んじゃ、私は団長さんにお昼を持っていくから後はよろしく!」
「「「「行ってらっしゃい!」」」」

 もはや地獄と化している厨房に別れを告げて……というか逃げ出した。
 私にはー団長さんにー昼食を届けるというー大義名分がーありますのでーーー!

 死して屍拾うものなし!です!


*************


「団長さん、いらっしゃいますかー?」

 片手にお盆を持ってノック。本日二度目のご訪問でーす。

 ……返事がない。屍のようだ。
 いや、違うけど。どうしてもゲーム脳になってしまうこの思考が恨めしい!
 
「昼食の時間と思って逃げたか?」

 食べない理由は知らないけれど、積極的に物を食べようとしない雰囲気は感じ取っていた。
 庭で出会った時はあんなに食べていたのに、宿舎に戻ってからは最初の日以外、団長さんが食べているところを見たことがなかったのである。
 だから出会ったあの日は本当に、限界だった、と言うのが分かった。

 宿舎に来てからは私のお付き合い、お茶菓子は私がサプライズ的に差し入れしたから食べた、という所だろう。

「仕方ない、部屋に置いておくか……」

 置いておけば食べるだろう。
 出されたものは残さず食べる、という気がします。なんとなくね。
 要らなかったらさっき断りを入れるだろうしね。

 片手で重々しいドアを開けて部屋に入るとやはり団長さんの姿はなく、自室へと続く扉の方に耳を向けても音もしなかったので外へ行ったのだろうと推測。
 執務を行う机には食事を置くのを忍ばれたので応接用のテーブルにお昼のお盆を置いておく。

 なんとなく窓辺に近付いて階下を覗くと裏庭に森が広がっていた。鬱蒼としていてちょっと怖い。
 こんな所あったんだな、なんて思いながらしばらく鬱蒼としている森を眺めてみた。王宮らしくない、そんなイメージの森。

 すると突然、何かが反射して光った。

「……っ!?眩しっ!」

 いきなりの眩しさに驚いて目をつぶったけど、その光の正体が気になったので急いで閉じていた瞼を開いて、まじまじと光った所を探る。
 遠くてよくわからないが、木々の隙間から金色の何かが、居るような気がした。

「犬……いや、獣?」

 確信はない。
 けれど何か、獣がいるのは分かる。
 獣は私の視線に気付いたのか、キョロキョロと周りを見渡したかと思えば、すいっと空へと視線を向け地上から宿舎の方へと流す……そして。

 チラ、と私をみた……――気がした。


 それはほんの一瞬で。
 目が合った、と思ったのと同時に直ぐに掛けて行ってわからなかったけれど。

 心に残るくらいの衝撃を、私に与えたのであった。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。

kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。 桜は、目立たず生きることを決意したが・・・ 初めての投稿なのでよろしくお願いします。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...