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第一章 討伐騎士団宿舎滞在編
27ㅤぼくとわたしのお風呂事情③
しおりを挟む「んじゃ、次は俺らの番だな」
「そうですね……って言ってもそんなにする事無いですけどもー」
私がまだ水を張ってない浴槽の中でキャッキャしていると、それまで傍観していたのに、浴室の中に入ってきたダンとヤック。
不思議そうにしている私に目線だけで退いてくれ、と合図されたので素直に浴槽から出て二人の後ろへ。
何をするのかと見ていれば、二人が取りだしたのは赤と水色の魔石。
「あ、それって……」
「おう、俺が作った魔石とヤックが作った魔石だぜ」
「凄い鮮やかで綺麗な魔石だねえ……」
「ええ、一番出来の良い奴を持ってきたです」
「俺らここしか出番ねえもん、そりゃ張り切るだろ、なー?」
「おいしいところはポールに取られましたから、ねー?」
「ええー?二人ともひどいよぅ、そんな事言わないでよぉ、ぼく頑張ったのにぃ」
「三人ともありがとうーー!」
大袈裟に拍手して三人を称えたら、三人とも恥ずかしそうに照れていたけど満更でもないようで、満足そうに笑っていた。
「……僕、今回出番ない……」
後ろでルーがぼそっと呟いてたけどスルー!
ルーには私の護衛というかお世話係をさせていつもお世話になっておりますので、申し訳ないですが、今回は三人組に出番譲ってください。
ポールが作った、魔石をセットする場所にそれぞれの魔石をはめ込んでいく二人。
電気やガス替わりの魔石は便利だ。
この時ばかりはこの世界の仕組みが羨ましいと思う。地球は化学が発展しているがその代償に地球を蝕んでいるから。
その点、レイスディティアは魔石がある分、環境に優しいと思う。不便もあるけど、バランスが取れたいい世界だと思ってる。
あらかた魔石を嵌め終わり、二人が浴室から出ていく。
「これで魔力を流せば……あ!お湯が出ました。成功です!」
「お、おおおおお!温泉だあーー!!」
最後の仕上げとばかりに、ルーが魔石に魔力を流してくれた。よかったね、出番あったよ!
蛇口……というか、湯が絶え間なく出る掛け流し式なので浴槽にどんどんとお湯が溜まって行く。湯気がもくもくとたつと同時に木のなんとも言えない匂いが浴室全体に広がっていく。
それを肺にいっぱい吸い込んで、吐く。
「これ!これだよ!これが檜風呂の醍醐味ー!」
「たしかに、これはいい匂いです」
ルーをはじめ、三人組も気に入ったようで図案以上の出来栄えに満足したようだ。
三人寄れば文殊の知恵っていうもんね、今回は五人だけど。しかもそのうち一人チートみたいな人居たけど、本当に大成功だ。
「ねえ、提案なんだけどさ?……お風呂、使ってみない?」
「「「「え?」」」」
「これからここを私だけが使うってのは忍びないから、せめて完成後の一番風呂は四人が入ってよ」
私の提案に、四人は猛反対、大抵抗したけどそこはゴリ押しして入ってもらった。
もちろん、裸の付き合いになるわけですが男同士だしタオル1枚あればよかろうもん!の言葉と作る前に散々日本のお風呂文化と銭湯の事などの知識を刷り込ませたので少しの抵抗しかなく、羞恥心より好奇心が勝ったのか、渋々……だけどワクワクしながら四人は浴槽へ。
「ふ、ふあぁ……なんですかこれ、癒されますうぅ……」
「湯なのに!煮えない!」
「これは拷問じゃないです、極楽なのですー」
「気持ちいいねぇ……」
お風呂の魅力に気付いた四人が至福の声を漏らしている。
日本人としては外国人にお風呂を教えた時の優越感というか、してやったり感で大変に嬉しいです。
脱衣場から浴室に向かって心持ち大きな声で問いかける。
「どうー?日本の文化、気に入ったー?」
「はい!……裸、というのが気になりますがそれ以上に気持ちよくて……裸とかどうでも良くなる言うか……」
「ずっと入っていられるな!」
「もう出たくないですー」
「寝ちゃいそうだよぅ」
想像以上にお風呂にハマった四人。
長湯したら湯あたりになるのでそろそろ出るように注意しようと声を掛けようと思ったら……
「これはもう決まりですね」
「そうだな」
「賛成ですー」
「ぼくも、もうちょっと頑張れるよぉ」
なにやら、四人が結託したようだ。
……まさか……いや、まさか!
「「「「男湯作ろう!」」」」
――やっぱりね!!!
その後、お風呂から上がった結託した四人は、力を合わせて隣部屋に大衆浴場さながらの大浴場の檜風呂を完成させたのでした。
(ちなみにこの大浴場の一番風呂は私が貰いました……こんなはずでは……)
**************
「おい、知ってるか?見習い組の……」
「ああ、知ってるぜ。風呂、とかいうやつだろ?」
「お料理聖女様の故郷の文化……らしいぜ」
「そうそう、入りに行かねえ?」
「……うーん、だけど裸で入るんだろ?それがなあ……」
「バカ、それを差し引いても風呂は気持ちよかったぞ!」
「お前まだ入ってねーの?遅れてるぜ!?」
「本当か?風呂はそんなに良いのか?」
「ああ、本当だぜ!……そんでまた、風呂上がりの酒がまたうめえんだよ!」
「酒が……そんなに美味いのか……」
「室内服もあるからそれ着りゃいいんじゃね?」
「……行くか」
などと騎士達の間でも噂されるようになり、瞬く間に大浴場は盛況。
風呂上がりの酒もついでに大盛況。
裸が恥ずかしい人用に最初は室内服を置いていたが、時が経つにつれそれは滅多に使われなくなった。
理由?
まあ、服着て風呂入るより裸のが気持ち良いし。
それに……ほら、ここは騎士団ですよ。
筋肉隆々の猛者が集まる討伐騎士団ですよ。
想像するに容易いですよね。
そう、次第に筋肉自慢が始まり、やれどの魔物と退治した時の怪我の勲章やら、俺の鍛えた筋肉やらを始めた訳です。
これによって浴室服の出番は少なくなり、裸の付き合いは抵抗なく広がったのである。
そして、このお風呂。
討伐騎士団にしかない名物と化するのかと思えば、どこからが聞きかじった商人が真似をして王都に大衆浴場の店を出し、それが瞬く間にヒット。元々あったサウナが大衆浴場に変わるなどして国を揺るがす、一大ムーブメントにまで発展して行ったのである。
浴室服を着るサウナという下地があったからこそだけど、風呂上がりの酒が拍車をかけ、酒屋も多くなり、それによって宿屋も隣接し、いつの間にか温泉宿場町が生まれ、浴室服を着る混浴風呂やら、従来の銭湯のような場所やら、個室やら、様々な風呂文化が発展し、新しい王都での名物となるのであった。
しかし聞きかじった知識では衛生面で不安があったのでそこはルーを通して伝えてもらったりで、私が影で暗躍した事をここに宣言しておく。
もちろん、私の名前や存在は無いものとさせていただき、見習い組の手柄とさせてもらった。
そして見習い組は王宮に呼ばれたんまりとご褒美を貰ってきたのと同時に最も貢献したという理由で、ポールが正式に騎士として認められるというオマケ付きだった。
当の本人は今までと変わらず、騎士団のマスコットキャラクターのまま、厨房で料理人してますけどね。
まあ、最初から非戦闘員だからね、ポール。
そんなこんなで、お風呂文化はアズール王国に定着したのであった……。
****************
そして、この話にはオマケが更にあって。
お風呂と大浴場を作ったすぐ後の時。
「ほう、これが異世界の風呂……という文化ですか?」
「はい……勝手に作ってすみません……」
お風呂を作った時は団長さんが討伐で不在の時だったので、帰ってきた団長さんに大浴場と私専用の風呂場の案内中である。
いくら好き勝手にしていいと許可があってもやはり事後報告、めちゃくちゃ緊張している。怒られないだろうか。
「良いのですよ。ケイ様が自由に好きに過ごしやすくしていただくのが私の希望ですので」
はい、すんなり許可でましたー。
「それに、騎士達に配慮して大浴場まで……ありがとうございます。これで騎士達も更に士気が上がるでしょう」
「そんな、わたしは提案しただけで、作ったのはルー達ですからっ」
私の否定に、団長さんは首を振る。
「貴女が居なければこの文化は産まれなかった。見習いの子等だけではなし得なかった事です、誇って下さい」
「……団長さん……ありがとうございます」
優しい団長さんの言葉に、今度は素直に受け取る。それを満足そうに笑う団長さんだったが、ふ、と真剣な眼差しになった。
どうしたんだろう、と覗き込めばそのままの真剣な顔で見つめられる。
「しかし……残念ですね」
「へ?」
「大浴場は騎士達のものなので。私は風呂にありつけません」
「えっ、あ、あの……それじゃ……!」
そうだったーー!団長さん、騎士達にめちゃくちゃ避けられてるんだったー!!
理由は知らないけど交流を避ける傾向がある団長さんは騎士達と同じ大浴場には入れない!
これはポールにまた賄賂を渡して新しく団長さん専用の浴室を作って貰うしか……っ!
などと私が脳内でぐるぐる考えているのに、目の前の団長さんはニヤリ、と笑う。
――……あ、コレ、ヤバいやつだ。
本能が逃げようとした時にはもう逃げ場はなかった。
「と、なると……私はケイ様専用の浴室に入るしかないですね?」
「ひぇ……っ」
「使い方も分かりませんし……」
団長さんが浴室服を手にし、私に渡す。
「……一緒に、入りますよね?」
その後、私がポールに頼み込んで団長さん専用の浴室を作ってもらったのは言うまでもない。
え?結局その夜は一緒に入ったかって?……入るわけねーだろ!!!!
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