占い師さんは名探偵

回転焼き。

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 老舗の冷やし中華は、さすがに美味しかった。あの何ということのない、昔ながらの酸っぱい冷やし中華を、たまに身体が欲するのだ。
 そして僕らは偽記者に化けた優歌さんが待っているスタバに向かった。昼間のスタバは、やはり混んでいる。僕はドリップコーヒーを注文し、小杉は表にでかでかと乗ってる、なんたらフラペチーノを注文した。目を周囲に廻しても、優歌さんの姿は見えない。不意に来たLINEには【二階やで】と、一言。僕は二人分の飲みものを持って、2階に上がることにした。

「あっ、いましたよ先輩。杉森さんじゃないスか?」
「あ、あ?」

 優歌さんは冷やし中華を食べたすぐ後にもかかわらず、グランデサイズのホイップをこってり乗せた、何たらとか言う期間限定品を、スプーンを器用に使いながら食べている。

「あっ!こっちです!」
「どうもどうも、宜しいですか?」
「勿論です」

 そう言うと、優歌さんはぱらっと手帳を開いた。

「よく、召し上がられるんですね?」
「いやっ、そんな恥ずかしい…」

 と言いながらも、器用にテーブルの下で優歌さんは僕にメッセージを送る。

【余計なお世話やねん(-_-#)】

 小杉は安心したのか、何なのか、部外者に漏らしちゃいけないような情報をぺらぺらと話し始めた。
 被害者(敢えてこう記す)は、音楽評論家の六車。状況や遺書があることから自殺とされているが、やや怪しい。死亡した日の0時からのラジオ番組【石井由梨亜のてっぺんGROOVE】を聴いていたという隣人の証言から、恐らく死亡したのはその後とみられている。
 その日に彼のもとを訪れた者は、さだかではない。と、言うのも六車の家には誰かしらがしょっちゅう訪れるからである。その交友関係のうち、彼と密接に関係しているであろう人物は
――交際相手と目される、羽生みずほ
――元妻、東郷雛子とうごうひなこ
――学生時代からの友人、須藤すどうあきら
――編集者、渋谷知明しぶやちあき
といったところだろうか。

「一人一人、あたるしかなさそうですね」
「そうですねぇ…」
「警察では、六車さんは自殺なさったと推測されてるんでしょうか?」
「それは…」
「そうっス、だから僕ら、好きに捜査できるっつうか…」

 僕は小杉の太腿をぺしりと叩いた。

「つっ!」
「余計なことばっかペラペラ喋るんじゃないって!」
「ですよね。すいませんでした!」
「いやっ!杉森さんは悪くないっス!先輩も悪くないっス!悪いのは余計な事ばっか喋る僕っス」
「わかってんじゃないか!」

 くすっと笑う優歌さん、これに毒気を抜かれてしまうんだろう。

「とりあえず、一人ずつお話を伺っていきましょうかね。付いて行っても?」

 聞きはしないだろうと思い、僕は曖昧に返事を返した。どっちみち聞き込み中は、僕のカメラから見ているんだろうから、一緒か。優歌さんも、偽記者の杉森さんも…



「この度は…」

 顔ちっちゃ!というのがミーハーな意見だろうが、今をときめく羽生みずほに限っては、その形容詞以外見つからない。テレビの向こうのイメージそのまんまだ。マネージャーに外すように告げると、羽生みずほは楽屋で深刻そうな顔をした。

「羽生みずほさん…」
「はい…」
「羽生さんは、六車さんと交際されておられたとか…」

 結構ズカズカと優歌さんは訊いた。訊かれ慣れているのか、羽生みずほはあぁと一言告げる。

「隠し立てしても、いつかはばれますからね。えぇ、彼とはもう、長い付き合いになりました」
「なりました?」
「ご存知なんでしょう?あの件」

 羽生みずほは身を乗り出すようにして言った。

「世間様のイメージとかもある、そうよく言われるんですが、私は女優であり、演技をする役者です。良いお芝居をして、イメージを払拭してこそプロだと思います。隠し通せることなどありませんから」
「はぁ…」
「あの一件から、彼と心は離れていったようなものです。彼は奥様と離婚しましたが、そんなものは余計なお世話でした」
「え?その言い方は?」
「彼、妻と別れるから、僕と正式に付き合ってくれって」
「結婚、じゃなく?」
「もう懲りた、と言っていました。そんなの嫌じゃありません?私も女です。女の幸せは欲しい」
「貴女なら、引く手数多だと思いますけど…」

 羽生みずほは唇をかんだ。なるほど、あんなろくでなしでも、彼女は心のどこかで六車を見限れずにいたのだ。

「六車さんが亡くなった日は?」
「これです」

 スケジュール表を渡してきた。びっしりと書かれたスケジュール、1日ほぼフルで埋まっていた。CMの撮影からプロモ撮影と、休まる暇はなさそうだった。

「もう、宜しいですか?」

 羽生みずほはマネージャーに呼ばれ、頬を叩き笑顔をまた作り出した。女優というのも、因果なものだ。
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