8 / 15
8
しおりを挟む
「あぁ、あの人」
東郷雛子はいわば、きつそうな女性だ。身長は高く、たおやかな黒髪をしている。見た目に違わぬ低い声と強いサバサバした口調。気が立っているのか、スタジオの前のスペースのテーブルを指で叩きながら言った。
「死んだってね?」
「えぇ」
「ふぅん。遺書も?」
「はい」
「ハン、そっちが勝手に女々しく別れてくれだの何だの言うから別れてやったのに、今度は死ぬって、どんだけなのかしらホント」
「六車さんとは、いつ?」
「どっち?結婚?離婚?」
早くしてくれる?と言わなくてもひしひし伝わってくる。余程何かあったんだろう。
「結婚は」
「10年前。以上」
「どうやって…」
「アタシ歌手、アレは編集者、ツラが良かったのと、紳士だったのに騙されたアタシが悪いの。以上」
「なるほど」
レコーディング前のジャズシンガーはそんなものなんだろうか?それとも、虫の居所がよくないのか。東郷雛子はすこぶる不機嫌だ。
「また話を聞きたきゃ、日を改めて来なさいよ。レコーディングの時はちょっと、アレなのよね」
――いや、あまり変わらなそうだ。と思いながらも、僕らは東郷雛子に別れを告げた。
†
「また、連絡来ますかね」
「だと、良いんだけどね」
横並びに並び、昔ながらの中華そばを啜る僕と小杉。とりあえず一通りの関係者に話を聞くことはできた。とりあえず。
「アリバイは、東郷雛子はまだ聞けていない。羽生みずほ、須藤あきらは明確。渋谷知明はもやっとしている。自殺ではないとしたら、な」
「動機も、少し掘り下げる必要がありそうですね」
「んだな。あ!」
「ん?どしたんスか?」
――お前、どさくさに紛れて僕の餃子まで食べたぞ
†
「ちょっと、決定打に欠けんねんな」
優歌さんは、占い師コーナーの入り口に【占い中】という看板を立てた。水晶玉の上で手を組んで、こちらをじっと見詰める。
「まずは死亡推定時刻や。あんな暑かってん、エアコンもついてへんかったら、あってないようなもんや。せやろ?ほなら、こうや」
アルタイルを撫でながら、右手にペンを持って、さらさらと書き始める。
「あの夜中のラジオが鳴ってたときや。状況として、あの時にはあの家には誰かおってんやろな」
「って、隣人は証言してますね」
「ほんまやろうか」
「そこなんですよ。僕も疑いました。けどあのガレージには六車さんのフェラーリしかなく、付近に別の車もなかったって」
「せやったら、あの時間帯までは生きてはったんやな」
「でしょうね」
「色々、解せんけどな」
優歌さんは手をすっとこちらに向ける。
「まず一つ目」
一本指を折る。
「エアコンや。わざわざ消す必要があったんかな」
「ほぉ」
「もう一つ」
優歌さんは指を折った。
「【石井由梨亜のてっぺんGROOVE】を聴いたことや。これから自殺する奴が、そないになるまで聴きたいか?」
「それは、何とも…」
「まだあんねんけど、とりあえずはそんなとこや」
ねぇ、橘川くん。と優歌さんは僕に言う。
「もうちょい、情報欲しいねんな。まだお隣さんにも、近所の情報が聞きたいな」
「近所のですか?」
「橘川くんは、引っかからへん?」
「まぁ、引っかからないかといえば、嘘になりますが…」
「オトコやろ。あのじゃがいもに笑われてまうで。ハッキリしたらんかい」
――すっかり小杉は、じゃがいもで定着している。
「またカメラ繋いだってや。今度はじゃがいもいらへん。橘川くんだけで、ええ」
「え?でも、刑事は基本的に単独行動は…」
「カッコええやん。シャーク鮫島みたいで」
――いや、ホント、優歌さんいくつなんだろ。
東郷雛子はいわば、きつそうな女性だ。身長は高く、たおやかな黒髪をしている。見た目に違わぬ低い声と強いサバサバした口調。気が立っているのか、スタジオの前のスペースのテーブルを指で叩きながら言った。
「死んだってね?」
「えぇ」
「ふぅん。遺書も?」
「はい」
「ハン、そっちが勝手に女々しく別れてくれだの何だの言うから別れてやったのに、今度は死ぬって、どんだけなのかしらホント」
「六車さんとは、いつ?」
「どっち?結婚?離婚?」
早くしてくれる?と言わなくてもひしひし伝わってくる。余程何かあったんだろう。
「結婚は」
「10年前。以上」
「どうやって…」
「アタシ歌手、アレは編集者、ツラが良かったのと、紳士だったのに騙されたアタシが悪いの。以上」
「なるほど」
レコーディング前のジャズシンガーはそんなものなんだろうか?それとも、虫の居所がよくないのか。東郷雛子はすこぶる不機嫌だ。
「また話を聞きたきゃ、日を改めて来なさいよ。レコーディングの時はちょっと、アレなのよね」
――いや、あまり変わらなそうだ。と思いながらも、僕らは東郷雛子に別れを告げた。
†
「また、連絡来ますかね」
「だと、良いんだけどね」
横並びに並び、昔ながらの中華そばを啜る僕と小杉。とりあえず一通りの関係者に話を聞くことはできた。とりあえず。
「アリバイは、東郷雛子はまだ聞けていない。羽生みずほ、須藤あきらは明確。渋谷知明はもやっとしている。自殺ではないとしたら、な」
「動機も、少し掘り下げる必要がありそうですね」
「んだな。あ!」
「ん?どしたんスか?」
――お前、どさくさに紛れて僕の餃子まで食べたぞ
†
「ちょっと、決定打に欠けんねんな」
優歌さんは、占い師コーナーの入り口に【占い中】という看板を立てた。水晶玉の上で手を組んで、こちらをじっと見詰める。
「まずは死亡推定時刻や。あんな暑かってん、エアコンもついてへんかったら、あってないようなもんや。せやろ?ほなら、こうや」
アルタイルを撫でながら、右手にペンを持って、さらさらと書き始める。
「あの夜中のラジオが鳴ってたときや。状況として、あの時にはあの家には誰かおってんやろな」
「って、隣人は証言してますね」
「ほんまやろうか」
「そこなんですよ。僕も疑いました。けどあのガレージには六車さんのフェラーリしかなく、付近に別の車もなかったって」
「せやったら、あの時間帯までは生きてはったんやな」
「でしょうね」
「色々、解せんけどな」
優歌さんは手をすっとこちらに向ける。
「まず一つ目」
一本指を折る。
「エアコンや。わざわざ消す必要があったんかな」
「ほぉ」
「もう一つ」
優歌さんは指を折った。
「【石井由梨亜のてっぺんGROOVE】を聴いたことや。これから自殺する奴が、そないになるまで聴きたいか?」
「それは、何とも…」
「まだあんねんけど、とりあえずはそんなとこや」
ねぇ、橘川くん。と優歌さんは僕に言う。
「もうちょい、情報欲しいねんな。まだお隣さんにも、近所の情報が聞きたいな」
「近所のですか?」
「橘川くんは、引っかからへん?」
「まぁ、引っかからないかといえば、嘘になりますが…」
「オトコやろ。あのじゃがいもに笑われてまうで。ハッキリしたらんかい」
――すっかり小杉は、じゃがいもで定着している。
「またカメラ繋いだってや。今度はじゃがいもいらへん。橘川くんだけで、ええ」
「え?でも、刑事は基本的に単独行動は…」
「カッコええやん。シャーク鮫島みたいで」
――いや、ホント、優歌さんいくつなんだろ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる