占い師さんは名探偵

回転焼き。

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 何と言うか、有無も言わさずという訳じゃないんだけれど、優歌さんにやんわりとお願いされると、不思議と嫌と言ったらダメな気がしてしまう。よくない。でも、今僕はここにいる。
 六車の家の隣人の家の前だ。さすが高級住宅地だけあり、ややスケールは小さいが普通に考えたらかなりの豪邸。庭は日本庭園のミニチュア盤のような感じでできている平屋の家だ。僕はその家のインターホンを押した。

【はぁい】
「私、警察の者ですが」

 小さな溜息が聞こえそうだ。仕方ない、警察ってものはそういうものだと腹を括っている。中から出てきたのはその家の奥さんだろう。胸にポメラニアンを抱いている、ややふくよかな女性だ。度の弱いメガネのフレームは細い卵型だ。

「柏木さんですね」
「はぁ、左様でありますが」
「お隣の六車さんについて、幾つか…」
「もうお話したと思うのですが…」
「いや、今回はそれともう少し」

 ややうんざりしたように夫人は溜息をつく。胸に抱いた黒いポメラニアンがギャンギャン鳴いている。

「六車さんが亡くなられた日、この辺りに不審な方は?」
「見かけませんでしたが?」
「その日の夜0時、窓から人影をご覧になったと…」
「そうですよ?バスローブ姿の六車さんでしたわ」
「間違いない?」
「間違いありませんとも。あのバスローブは間違いありません。あの方、毎週あの時間になると窓辺でブランデーのグラスみたいなものを回しながらラジオを聴いていらっしゃるんですよ」
「なるほど…」

 優歌さんの声がワイヤレスイヤホンから入ってきた。

【ホンマに、六車はんやったんやろうか】
「間違いない?」
「だから、この目でちゃんと見たんですって!」

 そう言うなら間違いない。この人は意外に頑固だ。

「六車さんのご友人の方とは、お会いになったりとは?」
「あぁ、数人ほどお目にかかりました。お隣さんのご友人の方でしょう?お話はしたことはございませんけどね?」
「昔の奥様も?」
「あぁ…」

 あまり聞きたくなさそうに口を歪め、左右をキョロキョロとしながら、柏木夫人は言う。

「嫌な方よ~」
「えっ?」
「高飛車な感じでね。昔は可愛かったんだけど、ああなったらもう人気なんか落下するわよ。えぇと、確か…」
「この方ですか?」

 柏木夫人は目を細めて写真を見る。

「そうそう、有名人ってやはりあまり好きにはなれないわ。あたしったら」
「話によれば、旦那様の不倫が原因かと」
「とんでもないわよ。知らなかった?」
「え?」
「不倫したのは、奥様のほうよ」

 何と!それは知らなかった。

「まぁ、どっちもどっちよね。旦那様が女優と不倫したのも、奥様の不倫が分かった後。きっとヤケになってたに違いないわ。あれは」
「お相手は?」
「あたし、一度どこかでお会いしたような人だったわね」
「ひょっとして…」

 僕は一枚の写真を見せた

「この方ですか?」
「ん?ん~、あ、そうそう!」

 柏木夫人は、須藤あきらの顔を見て大きく頷いたのである。



【また新情報やね】
「っすね、これはまた…」
【掘り下げたら、まだまだドロドロしてそうやないの。ふふっ…】
「やらしいやらしい」
【それにしても、あのおばはん頑固っちゅうかなんちゅうかやな】
「と、言うのは?」
【隣におったんは、六車はんやて言い張ってやないの?】
「ですねぇ」

 優歌さんはふふっと、またあの悪戯っぽい笑みをこぼす

【橘川くん、あの時に須藤はんの写真見せたやろ?】
「はい…」
【気がつかへんかったん?】
「何がですか?」
【かぁ~、あんさんあれやろ?女の子からも鈍感やって言われとるやろ?】
「関係ありますか?」
【大アリや。あの写真見せた時、おばはんあの距離やのに、目細めたやん。あれ、間違いなくメガネの度が合ってないねん】
「あ…」
【せやろ?あの距離でも誰の顔かいまいちわからへんのに、隣の家の窓におるのが六車はんかどうか、わからへんやないの?】
「…おぉ……」
【別人の可能性、浮上やね】

 心なしか、優歌さんは物凄く楽しそうだ。あっ、お客さん来はった。切るで。と言って優歌さんは通話を切った。
――逆に、暗礁に乗り上げた気がしなくもないが…
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