10 / 15
10
しおりを挟む
僕は生まれも育ちもこのへんだ。小杉もそうらしい。なのでちっちゃな頃からSKY FMのジングルや番組は聞いてきている。皆んなもそうかもしれないが、意外にそのラジオのスタジオは近くにあったりしながらも、中に入ったこともなければ、じっと見たこともない。あ、そういやあるくらいなものだ。
僕は生まれて初めてその馴染んでいるSKY FMの社屋に入った。勿論、仕事でだけど。
小杉はキョロキョロと周りを見ながらへぇ~へぇ~と言っている。
「昔からやってるんスよね。【夕暮れFLIGHT】。パーソナリティの人の声は分かるけど、顔なんて初めて見るっスよ」
そうだな。と僕は告げた。たまに聴く【夕暮れFLIGHT】。僕は水曜日パーソナリティのカタヒラタダシさんのよく通るバリトンが繰り出す、軽快で下ネタギリギリの面白いトークが好きなのだ。
と、思っていると、やけに派手なアロハと白い縁のサングラスをかけたオールバックの色黒の中年男性が来た。その噂のカタヒラタダシだ。僕らを見て首を傾げる。
――僕は内心、あ!カタヒラタダシだ!だったが。
「あの、私こういう者なんですが」
「はぁ、え?警察?なんで?」
「いやっ、あの、カタヒラさんにじゃないんです」
「…?なんで僕がカタヒラだって?」
「あの、毎週聴かせてもらってるんです。【夕暮れFLIGHT】」
「そりゃあどうも」
「あの、石井由梨亜さんはいらっしゃいます?」
カタヒラタダシはあぁと言う。その感嘆文を口にするだけでもよく通る惚れ惚れするくらいの低音だ。
「石井さん、多分夕方一回スタジオ入りしますよ」
「ホントですか?」
「えぇ、違ったらすいませんが」
カタヒラタダシは手刀を切り、じゃこれで。と言って辞した。そこにいきなり話を割り込ませるのは小杉だ。サインください!っておのぼりさんみたいに…
――僕もそうしたいわ。ワイヤレスイヤホンからは優歌さんが一言。
【ええなぁ、あたしも欲しい。じゃがいも、貰ってくれへんかな】
†
SKY FMのラウンジから空港から飛び立つ飛行機が見える。空港から近い訳ではないが、海が近い為、内湾の向こう側にある空港のそれがよく見えるのだ。そこでコーヒーを飲みながら夕方の石井由梨亜のスタジオ入りを待つ。
「あっ、あれ石井由梨亜っすね」
小柄で痩せ型、健康的な焼け方をしている、とびっきりの美人という訳ではないが、切れ長のシャープな瞳と高い鼻梁。頭がよさそうな印象。あの人が石井由梨亜だ。毎週水曜日の0時の【石井由梨亜のてっぺんGROOVE】のパーソナリティ。
「すいません、石井由梨亜さんで?」
「えぇ、そうですが?」
「私、こういう者ですが」
石井由梨亜の顔色がやや変わった。
「ちょっとお訊きしたいことがありまして」
「えぇ、まさか…」
「ご存知でしたか?」
「はい。勿論。ちょっとスタジオ入りには時間ありますから、こちらに」
石井由梨亜は協力的だった。【てっぺんGROOVE】の控え室に僕らを通してくれた。
「今までトドロキさんが出してくれたハガキです。うち、昔からの名残でリクエストはメールやTwitterじゃなくて、ハガキなんですよ」
「なるほど、すごい。ちゃんと取ってあるんですね。リスナー毎に、ちゃんと区分けして」
「リスナーさんあっての番組ですからね?コレが先週のリクエストです。あの人、忙しいのか筆不精なのか、ワープロなんですけど、周りを蛍光ペンで塗ったりして工夫してくれるんです」
3色のトリコロールの中に、軽いエピソードと、アレサ•フランクリンの【Think】と書いてある。
「意外に、マメなんですね。ホントに好きだったみたい」
「寂しくなりますよ。それで、こないだ来たのがコレです」
「え?ハガキ?」
六車がトドロキの名前で出したリクエストハガキだ。消印は同じ局、日付は六車が死んだ日。日付が変わった水曜日だ。ワイヤレスイヤホンの中で優歌さんが音読する。
【一身上の都合で、ひょっとしたらこのハガキで最後になるかもしれません。石井さん、皆さん、有難うございます。これからも【てっぺんGROOVE】応援してます。ボーイズタウンギャング【Can't take my eyes off of you】……【君の瞳に恋してる】やないの】
「きっと、思い入れのある曲なんでしょうね」
「…かもしれませんね」
スタジオ入りの声がかかり、石井由梨亜はこちらに頭を下げて行ってしまった。小杉がぽーっとしている中、優歌さんは言う。
【あかん、さっぱり分からへん】
「…?」
【あの放送を聴いてから、六車は新しいハガキを出した。っちゅう事は、日付が変わった後、ハガキを出してから死んだっちゅう話になるねんな…】
「…」
【あかん、考え直さな…】
通話が切れた。僕のスマホの充電も底をつきそうだ。モバイルバッテリーを導入しないといけなくなりそうだな。
僕は生まれて初めてその馴染んでいるSKY FMの社屋に入った。勿論、仕事でだけど。
小杉はキョロキョロと周りを見ながらへぇ~へぇ~と言っている。
「昔からやってるんスよね。【夕暮れFLIGHT】。パーソナリティの人の声は分かるけど、顔なんて初めて見るっスよ」
そうだな。と僕は告げた。たまに聴く【夕暮れFLIGHT】。僕は水曜日パーソナリティのカタヒラタダシさんのよく通るバリトンが繰り出す、軽快で下ネタギリギリの面白いトークが好きなのだ。
と、思っていると、やけに派手なアロハと白い縁のサングラスをかけたオールバックの色黒の中年男性が来た。その噂のカタヒラタダシだ。僕らを見て首を傾げる。
――僕は内心、あ!カタヒラタダシだ!だったが。
「あの、私こういう者なんですが」
「はぁ、え?警察?なんで?」
「いやっ、あの、カタヒラさんにじゃないんです」
「…?なんで僕がカタヒラだって?」
「あの、毎週聴かせてもらってるんです。【夕暮れFLIGHT】」
「そりゃあどうも」
「あの、石井由梨亜さんはいらっしゃいます?」
カタヒラタダシはあぁと言う。その感嘆文を口にするだけでもよく通る惚れ惚れするくらいの低音だ。
「石井さん、多分夕方一回スタジオ入りしますよ」
「ホントですか?」
「えぇ、違ったらすいませんが」
カタヒラタダシは手刀を切り、じゃこれで。と言って辞した。そこにいきなり話を割り込ませるのは小杉だ。サインください!っておのぼりさんみたいに…
――僕もそうしたいわ。ワイヤレスイヤホンからは優歌さんが一言。
【ええなぁ、あたしも欲しい。じゃがいも、貰ってくれへんかな】
†
SKY FMのラウンジから空港から飛び立つ飛行機が見える。空港から近い訳ではないが、海が近い為、内湾の向こう側にある空港のそれがよく見えるのだ。そこでコーヒーを飲みながら夕方の石井由梨亜のスタジオ入りを待つ。
「あっ、あれ石井由梨亜っすね」
小柄で痩せ型、健康的な焼け方をしている、とびっきりの美人という訳ではないが、切れ長のシャープな瞳と高い鼻梁。頭がよさそうな印象。あの人が石井由梨亜だ。毎週水曜日の0時の【石井由梨亜のてっぺんGROOVE】のパーソナリティ。
「すいません、石井由梨亜さんで?」
「えぇ、そうですが?」
「私、こういう者ですが」
石井由梨亜の顔色がやや変わった。
「ちょっとお訊きしたいことがありまして」
「えぇ、まさか…」
「ご存知でしたか?」
「はい。勿論。ちょっとスタジオ入りには時間ありますから、こちらに」
石井由梨亜は協力的だった。【てっぺんGROOVE】の控え室に僕らを通してくれた。
「今までトドロキさんが出してくれたハガキです。うち、昔からの名残でリクエストはメールやTwitterじゃなくて、ハガキなんですよ」
「なるほど、すごい。ちゃんと取ってあるんですね。リスナー毎に、ちゃんと区分けして」
「リスナーさんあっての番組ですからね?コレが先週のリクエストです。あの人、忙しいのか筆不精なのか、ワープロなんですけど、周りを蛍光ペンで塗ったりして工夫してくれるんです」
3色のトリコロールの中に、軽いエピソードと、アレサ•フランクリンの【Think】と書いてある。
「意外に、マメなんですね。ホントに好きだったみたい」
「寂しくなりますよ。それで、こないだ来たのがコレです」
「え?ハガキ?」
六車がトドロキの名前で出したリクエストハガキだ。消印は同じ局、日付は六車が死んだ日。日付が変わった水曜日だ。ワイヤレスイヤホンの中で優歌さんが音読する。
【一身上の都合で、ひょっとしたらこのハガキで最後になるかもしれません。石井さん、皆さん、有難うございます。これからも【てっぺんGROOVE】応援してます。ボーイズタウンギャング【Can't take my eyes off of you】……【君の瞳に恋してる】やないの】
「きっと、思い入れのある曲なんでしょうね」
「…かもしれませんね」
スタジオ入りの声がかかり、石井由梨亜はこちらに頭を下げて行ってしまった。小杉がぽーっとしている中、優歌さんは言う。
【あかん、さっぱり分からへん】
「…?」
【あの放送を聴いてから、六車は新しいハガキを出した。っちゅう事は、日付が変わった後、ハガキを出してから死んだっちゅう話になるねんな…】
「…」
【あかん、考え直さな…】
通話が切れた。僕のスマホの充電も底をつきそうだ。モバイルバッテリーを導入しないといけなくなりそうだな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる