占い師さんは名探偵

回転焼き。

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 僕は生まれも育ちもこのへんだ。小杉もそうらしい。なのでちっちゃな頃からSKY FMのジングルや番組は聞いてきている。皆んなもそうかもしれないが、意外にそのラジオのスタジオは近くにあったりしながらも、中に入ったこともなければ、じっと見たこともない。あ、そういやあるくらいなものだ。
 僕は生まれて初めてその馴染んでいるSKY FMの社屋に入った。勿論、仕事でだけど。
小杉はキョロキョロと周りを見ながらへぇ~へぇ~と言っている。

「昔からやってるんスよね。【夕暮れFLIGHT】。パーソナリティの人の声は分かるけど、顔なんて初めて見るっスよ」

 そうだな。と僕は告げた。たまに聴く【夕暮れFLIGHT】。僕は水曜日パーソナリティのカタヒラタダシさんのよく通るバリトンが繰り出す、軽快で下ネタギリギリの面白いトークが好きなのだ。
と、思っていると、やけに派手なアロハと白い縁のサングラスをかけたオールバックの色黒の中年男性が来た。その噂のカタヒラタダシだ。僕らを見て首を傾げる。
――僕は内心、あ!カタヒラタダシだ!だったが。

「あの、私こういう者なんですが」
「はぁ、え?警察?なんで?」
「いやっ、あの、カタヒラさんにじゃないんです」
「…?なんで僕がカタヒラだって?」
「あの、毎週聴かせてもらってるんです。【夕暮れFLIGHT】」
「そりゃあどうも」
「あの、石井由梨亜さんはいらっしゃいます?」

 カタヒラタダシはあぁと言う。その感嘆文を口にするだけでもよく通る惚れ惚れするくらいの低音だ。

「石井さん、多分夕方一回スタジオ入りしますよ」
「ホントですか?」
「えぇ、違ったらすいませんが」

 カタヒラタダシは手刀を切り、じゃこれで。と言って辞した。そこにいきなり話を割り込ませるのは小杉だ。サインください!っておのぼりさんみたいに…
――僕もそうしたいわ。ワイヤレスイヤホンからは優歌さんが一言。

【ええなぁ、あたしも欲しい。じゃがいも、貰ってくれへんかな】



 SKY FMのラウンジから空港から飛び立つ飛行機が見える。空港から近い訳ではないが、海が近い為、内湾の向こう側にある空港のそれがよく見えるのだ。そこでコーヒーを飲みながら夕方の石井由梨亜のスタジオ入りを待つ。

「あっ、あれ石井由梨亜っすね」

 小柄で痩せ型、健康的な焼け方をしている、とびっきりの美人という訳ではないが、切れ長のシャープな瞳と高い鼻梁。頭がよさそうな印象。あの人が石井由梨亜だ。毎週水曜日の0時の【石井由梨亜のてっぺんGROOVE】のパーソナリティ。

「すいません、石井由梨亜さんで?」
「えぇ、そうですが?」
「私、こういう者ですが」

 石井由梨亜の顔色がやや変わった。

「ちょっとお訊きしたいことがありまして」
「えぇ、まさか…」
「ご存知でしたか?」
「はい。勿論。ちょっとスタジオ入りには時間ありますから、こちらに」

 石井由梨亜は協力的だった。【てっぺんGROOVE】の控え室に僕らを通してくれた。

「今までトドロキさんが出してくれたハガキです。うち、昔からの名残でリクエストはメールやTwitterじゃなくて、ハガキなんですよ」
「なるほど、すごい。ちゃんと取ってあるんですね。リスナー毎に、ちゃんと区分けして」
「リスナーさんあっての番組ですからね?コレが先週のリクエストです。あの人、忙しいのか筆不精なのか、ワープロなんですけど、周りを蛍光ペンで塗ったりして工夫してくれるんです」

 3色のトリコロールの中に、軽いエピソードと、アレサ•フランクリンの【Think】と書いてある。

「意外に、マメなんですね。ホントに好きだったみたい」
「寂しくなりますよ。それで、こないだ来たのがコレです」
「え?ハガキ?」

 六車がトドロキの名前で出したリクエストハガキだ。消印は同じ局、日付は六車が死んだ日。日付が変わった水曜日だ。ワイヤレスイヤホンの中で優歌さんが音読する。

【一身上の都合で、ひょっとしたらこのハガキで最後になるかもしれません。石井さん、皆さん、有難うございます。これからも【てっぺんGROOVE】応援してます。ボーイズタウンギャング【Can't take my eyes off of you】……【君の瞳に恋してる】やないの】

「きっと、思い入れのある曲なんでしょうね」
「…かもしれませんね」

 スタジオ入りの声がかかり、石井由梨亜はこちらに頭を下げて行ってしまった。小杉がぽーっとしている中、優歌さんは言う。

【あかん、さっぱり分からへん】
「…?」
【あの放送を聴いてから、六車は新しいハガキを出した。っちゅう事は、日付が変わった後、ハガキを出してから死んだっちゅう話になるねんな…】
「…」
【あかん、考え直さな…】

 通話が切れた。僕のスマホの充電も底をつきそうだ。モバイルバッテリーを導入しないといけなくなりそうだな。

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