朧月楼の殺人

回転焼き。

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 その場所は、だだっ広い薄野原の真ん中に鎮座する、ただのうすらでかいだけの塔だった。上空から見れば綺麗なシンメトリーの八角形になっているというが、地上から見るそれはそんな事はどうでもよくなるようなただの塔。
 正面玄関には大きな白色の柱が鎮座しており、扉は重厚な黒い木材のドアになっている。ドアノブは馬の顔を象ったオブジェである。
 この場所をブッキングしたのは、この推理研究会のサブリーダーであるデュパン。一足先にこの場所に前乗りしたようである。せっかちなのは知っていたが、まさかここまでだとは…今頃テラスでコーヒーでも啜っていてもおかしくない。リーダーのホームズは言った。

「誰一人、欠けていないよな?」
「はい、肝心のデュパンはいませんが」
「あいつならもうここにいるって話だよ。ファイロ。あいつらしいよな」

 推理研究会のファイロとポワロが言った。ファイロは色の浅黒い癖っ毛の顔が濃い男。外国人と言われたら信じてしまいそうな見た目である。一方のポワロは小柄で分厚い眼鏡をかけた声の甲高い男だ。

「に、しても…ここってホントにホテルなの?」

 紅一点のマープルが言う。ぽちゃぽちゃとした色白の目が大きな若い女性。その隣でむしゃむしゃとチョコレートバーを食べながら細い目を更に細めている鼻のでかい肥えた男はフェル。
ー全員、海外の作家が生み出した名探偵をニックネームとしているのだ。

「まぁ、我々の会合の場として、これ程までにおあつらえ向きの場所はないな」

 ホームズはオールバックに撫で付けた髪を触りながら言った。長身で何を考えているのかよく分からない無表情な彼はそう言うと、正面玄関に向かって歩みを進める。
 扉を開くと、そこには天井からぶら下がる豪奢なシャンデリアが目に入る。ロビーにはフロントのようなものはない。ホテルというよりも、何か不気味な雰囲気のテーマパークのアトラクションのようである。

「ホントに、デュパンはどこに行ったのかしら」
「とりあえず、部屋を探さないとな。すみません!」

 ポワロが甲高いよく通るキンキン声で呼ぶ。誰もいないようだ。本当に宿泊できるのかがいまいち不安である。暫くすると、1人の執事のような男がのそりとやって来た。

「ご予約の方ですな」
「はい、推理研究会の…」
「…どちらの推理研究会で?」
「我々はただの同志です。どこかの大学であったり、会社のサークルではありません」
「左様ですか。ほう、このデュパンと仰る方は?」
「こちらにはおりません。先に着いたようですが」
「大した特徴のない人ですからね。デュパンは」
「あんたがありすぎなのよ。フェル」

 むっつりと頬を膨らませてフェルは鼻息をふんと吐き出す。

「竜舌蘭の間にいらした方がそうでありますかな」
「た、多分」
「左様でありますか。それでは皆様に御部屋を案内致します」

 執事風の男は恭しく頭を下げ、エレベーターに全員を案内した。

「エレベーター…」
「この朧月楼は大正時代から御座いますが、当時よりエレベーターがあったようです」
「エレベーターの歴史は意外に古いんだよ、諸君」
「ホントですか?」

 ホームズは饒舌に語り出した。

「明治22年に、東京は浅草の凌雲閣でエレベーターが設置されたのがはじまりだ」
「へえ、これよりレトロな奴があるんですねぇ」

 ファイロは軽い口調で言った。

「そりゃそうさ。しかしここにはこのエレベーターしかないのかな?」
「えぇ、この朧月楼には階段が御座いません。このエレベーターのみが御座います」

 一階の距離が少し長めなのか、エレベーターがゆっくりなのか、ロビーから二階に到着し、エレベーターはゆっくりと鉄格子のような扉を軋ませて開いた。

「ここには馬酔木(あしび)、満天星(どうだんつつじ)、胡蝶蘭の間が御座います。確か馬酔木の間には、ポワロ様。満天星の間には、ホームズ様。胡蝶蘭の間には、フェル様をご案内しろと伺っております」
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