朧月楼の殺人

回転焼き。

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「成程ね」

 血腥い殺人事件の話をしながらも、血にも見えないことはないブルーベリーソースのかかったケーキに紅茶を飲みながらふむふむとホームズは頷いた。

「もう何十年も昔の話だ。かの額賀氏の悪食に関しても想像の域を出ない」
「しかし、ここの使用人は殆どが若い女性だったって言うじゃありませんか?」

 3階の百日紅の間に泊まっているマープルがふくよかな身体を震わせ、寒気をアピールした。

「本人は断固否定していたというじゃありませんか。いくらなんでもねぇ」

 さすがのフェルも食指を止めて眉間に皺を寄せる。そんな中けらけらと笑い出したのは3階の勿忘草(わすれなぐさ)の間に泊まっているファイロである。

「まぁ、狩猟民族の歴史の中には、人肉食の話があってもおかしかぁないですがね」
「うぇっ…」
「そりゃあお前の感覚じゃ考えらんないかもしれないがな。ねぇ、ポワロさん」
「どうだろうな。しかし死体が持ち去られていた事に何かの動機付けをするとすれば、カニバリズムを視野に入れる必要もあるかな」

ー概要はこうだ。
 大富豪、額賀陽十郎。彼は大富豪であると同時に無類の悪食であったとされている。世界の珍品と呼べる珍品を食べ漁った彼は、兼ねてから興味がある食材があった。
それが、人肉だという。
 めくるめく人肉食の世界に取り憑かれた彼は、使用人を数人雇い、一晩のうちに殺害、その肉を食したとされているが、当時の裁判ではそれを本人は否定していたという。しかし依然として、彼女らの行方はしれず、事件は額賀陽十郎の狂気の沙汰として幕を閉じたのだという。

「それが、いつの間にかこの館が人を喰うって話になっちゃったってか?」

 ファイロはけらけらと笑った。

「そういえば、当のデュパンはどこにいるんだ?」
「あ、そうだよ。あいつの部屋は確か…」

 ホームズは広間からロビーに向かう。そこには恭しく腰を折り礼をしてきた執事がいた。

「デュパンの部屋は…?」
「デュパン様は【竜舌蘭の間】であります」

 ホームズは執事に鍵を借りると、エレベーターに乗った。続いて乗ったのはポワロ、マープル。ファイロとフェルはまだ広間に残って紅茶を飲んでいる。

「これしかないんだよな」
「エレベーターしかないのも、考えものですね」

 ようやくのところで、3階の廊下に到着した。廊下は2階のそれと同じく、赤いカーペットが敷かれ、部屋の脇には小さなオレンジのランプがついている。ホームズは部屋の名前を確認する。

「ここだ」
「おぉい、デュパンよ」

 ポワロは拳でドアを叩いた。返事は全くない。ホームズは執事から受け取った鍵を鍵穴に差し込んだ。かちゃりという音。施錠はされていたようだ。

「デュパン」

 ホームズは扉を開く。間口からほどないテーブルと椅子には、一種異様なものが座っている。

「うっ」
「何で…!」
「デュパン!」

 黒いジャケットを羽織った中肉中背のデュパンは、背筋を伸ばしてそこに座っていた。ただ、そこには
…首がなかったのである。

「うわぁっ!」
「どうして…」

 ポワロとマープルは部屋を飛び出した。ホームズは呆然とそこに立ち尽くしていた。

「どうして、こんな事に…!」
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