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夜景の見えるバー、ではないがいきなり飲みのお誘いがあったのはその日の夜だった。さすがにドキっとしてしまった…あんな夢を見てしまった後だから余計に……
【飲みに行かへん?2人で話したいねん】
これは、間違いなくデジャヴだ。僕が【どこにですか?小杉は?】と訊いたら【2人で言うたやん】だって…どういう事なんだろう。アイコンを確認したが、間違いなくそれはアルタイル。優歌さんだ。
【できれば、静かなところがええ】
――ちょっと、ちょっと!
僕はつい早鐘を打つ鼓動を抑えるように深呼吸をした。つけないオーデコロンに手を伸ばし、手首にとんとんと叩きつける。
【夜景の見えるバーとかですか?】
【何?誘ってはんの?】
――まったく…
【旧道沿いの居酒屋でいいですか?】
【ええよ、あそこ焼酎うまいねんから】
僕は着替えて、向かうことにした。
†
完全に、あの夢のまんまだ。
優歌さんは肩から紫のストールをかけ、ワンピース姿でやって来た。デジャヴどころの問題じゃない。飲む場所は大衆居酒屋だが、酒が進んで、次行こ?ってなったら、そうなっちゃう可能性はゼロじゃない。
――って、何考えてんだ僕は。
優歌さんはテーブル席の向かいで焼酎の水割りを持ってこっちを見ている。
「とりあえず、お疲れさんやな」
「ですね」
乾杯。この店のいも焼酎が優歌さんのお気に入りらしい。確かに良い香りがして、口当たりも良い。僕はお湯割りにしたが…
「んで?何の話でしたっけ?」
「とりあえず、これ食べてええ?」
「どうぞどうぞ」
優歌さんはお通しのキムチ冷奴と枝豆をあっという間に片付けた。小柄で痩せ型だがよく食べる。どこに消えているんだろうか…動くのも好きなタイプに見えない。
「で、何の話でしたっけ?」
「聞かれたらマズいねん。とりあえず、とんぺい焼き頼んでええ?」
――がっつり食べるつもりなんじゃん…
優歌さんは店員を呼んで、たこ唐とシーザーサラダととんぺい焼きを注文した。
「橘川くんは、ええの?」
「いや、そんだけありゃ…」
「意外にあんま食べへんねや?」
「いやいや…」
「ほなら、待とうか。来たら話すわ」
そう言うと、優歌さんは焼酎の水割りを空にして、また店員さんを呼び、レモンサワーを頼んだ。
話が始まる前に、出来上がってしまうぞ、優歌さん…
†
「なんやったっけ?」
「ほら!言わんこっちゃないでしょ!」
優歌さんの目がもう据わっている。ようやくとんぺい焼きが届いた頃には、ふふふっていう笑いがもう、酔った時のひひひって笑いに変わっていた。
「そないな細かい事はええねんって、なぁ橘川くん!」
「ったく、何か話したい事があるって言うからてっきり…」
「てっきり、何なん?」
下から覗きこむようにこっちを見る優歌さん。顔がやや赤らんでいる。ここはボケるべきか…いや。
「事件に関する話かと…」
「おもんないねん橘川!そこは告白や思うたって言わんと!ひひひひ」
――ホント、困った。
「んで、ホントはどうなんですか?話なきゃ、これ飲んだら帰りますよ」
「…怒った?」
「……別に怒ってませんけど」
「いややわぁ、ごめんね橘川くん。許してや」
そんな顔で懇願しないでくださいよ…軽く目には涙が浮かんでいる。
「構わないですよ」
「ほんまに?ならええな。事件についてや」
酒のせいですこ~しだけ声が大きくなった優歌さんにヒヤヒヤしながら、僕はシーザーサラダをつまむ。なかなか美味いドレッシングだ。普通のシーザーと違うのかな?
「美味いやろ。ドレッシングオリジナルやねんて?」
「…そ、そうですね…」
「ほんで、本題やけどな」
「…ほう」
「うちら、ちょっと観点が違ったかもしれへん」
優歌さんはレモンサワーを傍に置いて、手を組み合わせた。目は、据わっているが真剣だ。
「【サイレントパイロ】は、放火が目的や思ってた。放火する場所は離れた場所。その状況で、ターゲットを確実に燃やす為やって思ってた」
「…違うんですか?」
「せやと思うてるから、わからへんかってん」
「?」
「【サイレントパイロ】の目的は……」
「……目的は?」
「……」
「……優歌さん?」
――寝てる。
しかも、がっつり寝息をたてて。
「そんなぁ」
僕は悟った。
――事件の話は、酒なしのほうが良い。
【飲みに行かへん?2人で話したいねん】
これは、間違いなくデジャヴだ。僕が【どこにですか?小杉は?】と訊いたら【2人で言うたやん】だって…どういう事なんだろう。アイコンを確認したが、間違いなくそれはアルタイル。優歌さんだ。
【できれば、静かなところがええ】
――ちょっと、ちょっと!
僕はつい早鐘を打つ鼓動を抑えるように深呼吸をした。つけないオーデコロンに手を伸ばし、手首にとんとんと叩きつける。
【夜景の見えるバーとかですか?】
【何?誘ってはんの?】
――まったく…
【旧道沿いの居酒屋でいいですか?】
【ええよ、あそこ焼酎うまいねんから】
僕は着替えて、向かうことにした。
†
完全に、あの夢のまんまだ。
優歌さんは肩から紫のストールをかけ、ワンピース姿でやって来た。デジャヴどころの問題じゃない。飲む場所は大衆居酒屋だが、酒が進んで、次行こ?ってなったら、そうなっちゃう可能性はゼロじゃない。
――って、何考えてんだ僕は。
優歌さんはテーブル席の向かいで焼酎の水割りを持ってこっちを見ている。
「とりあえず、お疲れさんやな」
「ですね」
乾杯。この店のいも焼酎が優歌さんのお気に入りらしい。確かに良い香りがして、口当たりも良い。僕はお湯割りにしたが…
「んで?何の話でしたっけ?」
「とりあえず、これ食べてええ?」
「どうぞどうぞ」
優歌さんはお通しのキムチ冷奴と枝豆をあっという間に片付けた。小柄で痩せ型だがよく食べる。どこに消えているんだろうか…動くのも好きなタイプに見えない。
「で、何の話でしたっけ?」
「聞かれたらマズいねん。とりあえず、とんぺい焼き頼んでええ?」
――がっつり食べるつもりなんじゃん…
優歌さんは店員を呼んで、たこ唐とシーザーサラダととんぺい焼きを注文した。
「橘川くんは、ええの?」
「いや、そんだけありゃ…」
「意外にあんま食べへんねや?」
「いやいや…」
「ほなら、待とうか。来たら話すわ」
そう言うと、優歌さんは焼酎の水割りを空にして、また店員さんを呼び、レモンサワーを頼んだ。
話が始まる前に、出来上がってしまうぞ、優歌さん…
†
「なんやったっけ?」
「ほら!言わんこっちゃないでしょ!」
優歌さんの目がもう据わっている。ようやくとんぺい焼きが届いた頃には、ふふふっていう笑いがもう、酔った時のひひひって笑いに変わっていた。
「そないな細かい事はええねんって、なぁ橘川くん!」
「ったく、何か話したい事があるって言うからてっきり…」
「てっきり、何なん?」
下から覗きこむようにこっちを見る優歌さん。顔がやや赤らんでいる。ここはボケるべきか…いや。
「事件に関する話かと…」
「おもんないねん橘川!そこは告白や思うたって言わんと!ひひひひ」
――ホント、困った。
「んで、ホントはどうなんですか?話なきゃ、これ飲んだら帰りますよ」
「…怒った?」
「……別に怒ってませんけど」
「いややわぁ、ごめんね橘川くん。許してや」
そんな顔で懇願しないでくださいよ…軽く目には涙が浮かんでいる。
「構わないですよ」
「ほんまに?ならええな。事件についてや」
酒のせいですこ~しだけ声が大きくなった優歌さんにヒヤヒヤしながら、僕はシーザーサラダをつまむ。なかなか美味いドレッシングだ。普通のシーザーと違うのかな?
「美味いやろ。ドレッシングオリジナルやねんて?」
「…そ、そうですね…」
「ほんで、本題やけどな」
「…ほう」
「うちら、ちょっと観点が違ったかもしれへん」
優歌さんはレモンサワーを傍に置いて、手を組み合わせた。目は、据わっているが真剣だ。
「【サイレントパイロ】は、放火が目的や思ってた。放火する場所は離れた場所。その状況で、ターゲットを確実に燃やす為やって思ってた」
「…違うんですか?」
「せやと思うてるから、わからへんかってん」
「?」
「【サイレントパイロ】の目的は……」
「……目的は?」
「……」
「……優歌さん?」
――寝てる。
しかも、がっつり寝息をたてて。
「そんなぁ」
僕は悟った。
――事件の話は、酒なしのほうが良い。
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