51 / 88
推しとのっぺらぼー
しおりを挟む
バンッ!
いきなりダンス教室のドアが勢い良く開けられ、ダンス練習用人形の前にいたアリスはビクッと後ろを振り返った。
放課後のダンス教室、ソネガン先生ズより早く教室にやってきたアリスを鋭い瞳で見つけていたのはクラリアだった。
「クラリア様?!」
引きつり笑いを浮かべるアリスにツカツカと歩み寄ったクラリアは、アリスが後ろ手に隠した物を問答無用で取り上げた。
「あっ、それわっ」
慌ててそれを取り返そうと縋るアリスの腕を捻り上げたクラリアは取り上げた物、小さく折り畳まれた紙をパッと広げる。
それは優しく微笑むアレクのイラストだった。
「……」
睨むクラリアに腕を捻りあげられた痛みに涙ぐみながらアリスは必死に訴える。
「違うんです、クラリア様。キツいダンスレッスンの心の支えにしようとのっぺらぼーの片隅に、端っこにちょっと貼ろうと思っただけなんです」
「ダンス練習用人形は使用する度にケビン先生がメンテナンスの為に隅から隅までチェックなさいます。こんな物が貼ってあったらどう思われるか考えた?」
「いえ、あの、その、でものっぺらぼー、怖い」
まともに人形を見ないアリスにクラリアは溜め息をつくとアリスの手を離した。
バランスを失いよろけたアリスは人形にぶつかりそうになり、ピョンと飛び上がったアリスはバッとクラリアの陰に隠れる。
「最近は夢にまでこの人形が出て来るんです。逃げても逃げても追い掛けていてのっぺらぼーが私に手を差し出すんです~っ」
ぷるぷると震えるアリスにクラリアは眉を寄せ、ダンス練習用人形を見上げた。
確かにのっぺらぼう。しかし大人が使用するのに子供と同じウサギやネコの愛らしい人形というは如何なものかとあえて顔の無いこのデザインにしたのだ。
…にしてもこの前はお菊人形に怯えて次はのっぺらぼう。どうしてこの子は日本の妖怪縛りで怖がるのかしら。
ぷるぷる慄えるアリス犬にクラリアは再び溜め息をついた。
「これ、高価かったのよ~。グレースが子供用をただ大きくしただけでは芸、品が無いからと悩んでいて、デッサン人形のデザインはどう?とかミスを一目で判るようにしたりテクニックで遊べる要素を付けておこうとか色々とアイデアを出し合った、手間暇金を超掛けた渾身の作よ」
「知ってます~、公務員の給料の○ヶ月とか~」
ぷるぷるぷるのアリス犬。クラリアは気を盛り上げる様に、
「そうだ、今度マリア先生に人形でキラキラ星を足笛を奏でながらダンスなさる所を見せて貰いなさい。この前見せて戴いたんだけど素晴らしかったわ。勿論貴方にやれとは言わないから安心して」
クラリアの言葉にアリスはえっ?と目を丸くした。
「マリア先生がビリビリ電撃喰らいながら人形とダンス?!」
驚くアリスに今度はクラリアが目を丸くする。
「そんな訳が無いでしょう。ビリビリスイッチは入れないわよ」
「何で?」
「マリア先生はワザと人形の足を踏んだり蹴ったりするのだからビリビリさせる必要が無いでしょう。笛が鳴るだけで良いのだから」
「てゆーか、笛と電撃って別なの?電撃スイッチだけ切れるの?!」
「当たり前でしょう」
当然という顔のクラリアにアリスはグラッと傾いた。
ミスがすぐ解る為の笛と電撃はセットだと思ってた。スパルタモードだから仕方無いって。別なら電撃は基本オフにしても良くない?
とは言えないアリス。
そういえば何日か前のダンスの授業で教室に入った時にダンス上級者達が人形を囲んでワイワイ話してた事があったな。私を見て何かバツの悪そうな言いたそうな顔しながら離れてたけどそういう事か。
のっぺらぼーの奴、人によって態度を変えやがって。
怨めしそうにダンス練習用人形を睨むアリス。それを見てクラリアは三度溜め息をつくとスッとアレクのイラストをアリスに返した。
「兎に角、アレクのイラストを人形に忍ばせるのは止めなさい」
「…、ハイ」
アリスはイラストを受け取るとアレクの笑顔をじーっと見つめてすりすりと頬擦り。
「アレク様に見守って頂ければ頑張れる気がしたのに」
「頬擦りを止めなさい。ゲームにアレクが登場するのはまだ先の話。今、アレク推しを周りから見ると妄想で描いた理想の人を推してるイタイ子。アリス、貴方、今、イタイわよ」
「ぐわっ」
クラリアの言葉に返す言葉もないアリス。
「本物の王子様が目の前にいるのだから今はそれで我慢しなさい」
「ぶわぅ~」
クラリアの厳しい視線にアリスはアレクのイラストをしぶしぶたたみ直す。
「あと、お子様シリーズ?のイラストは程々になさい」
「…、はい」
『お姉様~♪』
そこに廊下を駆ける音がして息を切らせたアナベル&セシルが教室に飛び込んで来た。慌ててアリスはポケットにアレクのイラストを捩じ込む。二人を見てにっこりと微笑むクラリアにセシルがなにかの封筒を手渡して、アナベル&セシルは顔を見合わせると二人揃って手にしていた綺麗な箱のフタをアリスに向けてパカッと開けた。
「えっ?」
箱の中身は女性サイズの男性用ダンスシューズだった。
『素敵でしょう。お姉様が貴方のダンスレッスンの犠牲者の方々の為に用意した特製のダンスシューズと同じ物を私達も作って頂いたのよ』
「え?」
「貴方のお父様は踏まれても平気と言っていたらしいけどそんな筈はありませんわ」
とアナベル、
「カラクリは靴の中に仕込んだ鉄製のカバーだと教えて下さいましたわ」
とセシル。
『ですから、象が踏んでも大丈夫。安全ダンスシューズ♪』
アナベル&セシルのキレイなハーモニーにグラっと再度アリスは傾いた。
あの靴って元々ある物だと思ってた。父、いつの間にかそんな物を作っていたんだ。
「…」
しゃがみ込み床にのの字を書くアリスにアナベル&セシルは安全靴の箱をぐいぐいこれでもかと見せつける。
『ほらほら♪』
そんな三人の様子をクラリアは微笑ましく見守っていた。
「アリスの練習の手助けになればなんて二人共本当に優しい子ね。姉として誇らしいわ」
絶対に違う。
アリスは床をカリカリと引っ掻いた。
もう全て放り出して逃げちゃおうか。
思わず捨て鉢になるアリス。その時、クラリアがひょいとアリスの首根っこを掴みダンス練習用人形の前に置いた。
「おおお思っただけです。思っただけ、どうかそれだけはお許してくだせ~っ」
人形の前から逃げ出そうとするアリスを右をアナベル、左をセシルがガッチリと抑える。クラリアは悪役令嬢な薄ら笑いを浮かべていた。
ボコられる。
慄くアリス。その顔を満足そうに眺めたクラリアは唇の端を上げると、封筒から取り出した一枚の書類を人形のデコにペンと貼り付けた。
「魔法省特別見学許可証ー!」
「へっ?」
アリスは人形ののっぺらぼうな顔に貼り付けられた書類を見る。
その書類には、
:魔法省内の特別見学を許可する。;
という文字が燦然と輝いていた。
「えーっ!」
アナベル&セシルをポイと振り払ったアリスはダンス練習用人形に飛び付いた。
公式印の押された公式な、
「魔法省特別見学許可証♪」
街歩きの時に無理矢理行ったけど門しか見れず皆に変な顔された魔法省見物。
あの魔法省が、
「お父様にお願いしてアリスの為に特別に見学許可を取って戴いたの。一般の見学コースだけでなく色々あちこち見放題よ」
「色々、あちこち…」
アリスの頭の中を様々なスチルと色々な妄想があちこち駆け回る。
「クリスマス舞踏会の後に皆で見学に行きましょう」
「はいっ」
目の前のニンジンにアリスは何度も頷く。
何故か近づく事が出来ずにいた魔法省聖地巡礼。クリラブ2でライバル令嬢として門をくぐるまではお預けかと諦めていたけれど。いたけれど。
行ける、という事は…。
魔法省、アレク様がいる魔法省だ♪あのアアアアアレク様がぁっ!
妄想全開アリスは白目剥いて倒れそうになり、
ベシッ。
右のアナベルに頭を叩かれた。意識を取り戻したアリスは、
アアアアアレク様が所属する魔法省に行ける、行ける、行けるぅっ!
やはり妄想全開アリスはワナワナと小刻みに震えだし、
ベシッ。
左のセシルに頭を叩かれた。何とか我に返ったアリスは、
魔法省、そこはアレク様がいらっしゃるマホーショー!ママママ、
ベシッ。
アアアアアレク様がいらっしゃるマホーショーに行けるぅっ!
ベシッ。
それはアリスが、
「何でこんなに頭が痛いの?」
と自覚するまで、
『お姉様、アリスが気を確かに持てるようとはいえど、さすがに手が痛いですわ』
と双子が音を上げるまで続いた。
クラリアはやれやれと肩を竦めて、
「兎に角、ミニゲームクリア、ダンスを踊る事だけを考えなさい。今はその先を考えない」
「はい、でも(推し登場!は)有りですか?!」
「不明。魔法省は王家直轄の組織、(アレクの所在を調べてようにも臣下の)ヴァニタス家では細かい事は分からないわ」
「はい、そうですよね…」
『…』
ベシッ。ベシッ。
アナベル&セシルに左右からどつかれたアリスは涙目で肩を落とした。
確かに魔法省の一職員を公爵家が堂々と調査する訳にはいかないだろう。何事?となる。でもアレク様の所属が何処か、捜査部に所属しているのかも未だに分からないの?クリラブ2ゲームクリアにはあまり関係ないからと後回しにしてないか?
チラッとクラリアを見上げるアリス。クラリアはニッコリと笑顔を浮かべる。
やはりそうか。アレク様はいずこに?いや、という事は…魔法省に行けば会える可能性が?!会える?会えない?会えない?いや会える~?!
グラっときたアリス、
ミニゲームクリア、ダンスを踊る事だけを考える。
その脳裏にクラリアの言葉が浮かびそれを噛み締める事でアリスは双子のどつきを回避した。
そうだ、ミニゲームクリア!そして無事にクリスマス舞踏会イベントをクリア。
そして憧れの舞台、魔法省見学♪行きたい所はてんこ盛りな聖地巡礼を叶えてあのゲームの世界を自分の足で実際に歩くのだわ。
そしてそして、そこから先はクリスマス舞踏会イベントクリア後のお楽しみ、お預けいや~ん♪
妄想の聖地巡礼の入り口でアリスは一人うねうねぐねぐね。
クラリアはそれを眺めながら、
まあ、いちいち倒れなくなったならいいか。
アリスは頭を時折押さえながらうねうねぐねぐね。
クラリアの横ではアナベル&セシルは安全ダンスシューズに靴を履き替えていた。
うねうねぐねぐね頭を押さえていたアリスは、それに気付いて、
「?」
首を傾げるアリスに靴を履き替え終えたアナベル&セシルは、
『先生方が来るまでまだ少し時間があるわ。靴の慣らしを兼ねて少々ダンスの相手をしてあげてもよくてよ』
「えっ?いや…」
目を丸くするアリスに感極まった表情のクラリアは、
「まあ、アナベルもセシルもなんて優しいの。良かったわね、アリス」
「へ?あの…」
『私達は足を踏まれたら蹴り返すわよ』
「ええ?!でも」
「まあそれは仕方無いわね。踏まなければ良いのよ、アリス」
「それが、」
出来れば苦労していないんだよぉ~っ。
アリスの心の叫びは勿論三姉妹に届く事はなく。まずアナベルに手を取られクラリアの前に引き出されたアリスは、
「はい、ワンツースリ、痛っ」
蹴りっ。
「痛っ」
3歩目で蹴られるアリス。
「3歩持たないで踏む?」
「スミマセ~ンッ」
いきなりダンス教室のドアが勢い良く開けられ、ダンス練習用人形の前にいたアリスはビクッと後ろを振り返った。
放課後のダンス教室、ソネガン先生ズより早く教室にやってきたアリスを鋭い瞳で見つけていたのはクラリアだった。
「クラリア様?!」
引きつり笑いを浮かべるアリスにツカツカと歩み寄ったクラリアは、アリスが後ろ手に隠した物を問答無用で取り上げた。
「あっ、それわっ」
慌ててそれを取り返そうと縋るアリスの腕を捻り上げたクラリアは取り上げた物、小さく折り畳まれた紙をパッと広げる。
それは優しく微笑むアレクのイラストだった。
「……」
睨むクラリアに腕を捻りあげられた痛みに涙ぐみながらアリスは必死に訴える。
「違うんです、クラリア様。キツいダンスレッスンの心の支えにしようとのっぺらぼーの片隅に、端っこにちょっと貼ろうと思っただけなんです」
「ダンス練習用人形は使用する度にケビン先生がメンテナンスの為に隅から隅までチェックなさいます。こんな物が貼ってあったらどう思われるか考えた?」
「いえ、あの、その、でものっぺらぼー、怖い」
まともに人形を見ないアリスにクラリアは溜め息をつくとアリスの手を離した。
バランスを失いよろけたアリスは人形にぶつかりそうになり、ピョンと飛び上がったアリスはバッとクラリアの陰に隠れる。
「最近は夢にまでこの人形が出て来るんです。逃げても逃げても追い掛けていてのっぺらぼーが私に手を差し出すんです~っ」
ぷるぷると震えるアリスにクラリアは眉を寄せ、ダンス練習用人形を見上げた。
確かにのっぺらぼう。しかし大人が使用するのに子供と同じウサギやネコの愛らしい人形というは如何なものかとあえて顔の無いこのデザインにしたのだ。
…にしてもこの前はお菊人形に怯えて次はのっぺらぼう。どうしてこの子は日本の妖怪縛りで怖がるのかしら。
ぷるぷる慄えるアリス犬にクラリアは再び溜め息をついた。
「これ、高価かったのよ~。グレースが子供用をただ大きくしただけでは芸、品が無いからと悩んでいて、デッサン人形のデザインはどう?とかミスを一目で判るようにしたりテクニックで遊べる要素を付けておこうとか色々とアイデアを出し合った、手間暇金を超掛けた渾身の作よ」
「知ってます~、公務員の給料の○ヶ月とか~」
ぷるぷるぷるのアリス犬。クラリアは気を盛り上げる様に、
「そうだ、今度マリア先生に人形でキラキラ星を足笛を奏でながらダンスなさる所を見せて貰いなさい。この前見せて戴いたんだけど素晴らしかったわ。勿論貴方にやれとは言わないから安心して」
クラリアの言葉にアリスはえっ?と目を丸くした。
「マリア先生がビリビリ電撃喰らいながら人形とダンス?!」
驚くアリスに今度はクラリアが目を丸くする。
「そんな訳が無いでしょう。ビリビリスイッチは入れないわよ」
「何で?」
「マリア先生はワザと人形の足を踏んだり蹴ったりするのだからビリビリさせる必要が無いでしょう。笛が鳴るだけで良いのだから」
「てゆーか、笛と電撃って別なの?電撃スイッチだけ切れるの?!」
「当たり前でしょう」
当然という顔のクラリアにアリスはグラッと傾いた。
ミスがすぐ解る為の笛と電撃はセットだと思ってた。スパルタモードだから仕方無いって。別なら電撃は基本オフにしても良くない?
とは言えないアリス。
そういえば何日か前のダンスの授業で教室に入った時にダンス上級者達が人形を囲んでワイワイ話してた事があったな。私を見て何かバツの悪そうな言いたそうな顔しながら離れてたけどそういう事か。
のっぺらぼーの奴、人によって態度を変えやがって。
怨めしそうにダンス練習用人形を睨むアリス。それを見てクラリアは三度溜め息をつくとスッとアレクのイラストをアリスに返した。
「兎に角、アレクのイラストを人形に忍ばせるのは止めなさい」
「…、ハイ」
アリスはイラストを受け取るとアレクの笑顔をじーっと見つめてすりすりと頬擦り。
「アレク様に見守って頂ければ頑張れる気がしたのに」
「頬擦りを止めなさい。ゲームにアレクが登場するのはまだ先の話。今、アレク推しを周りから見ると妄想で描いた理想の人を推してるイタイ子。アリス、貴方、今、イタイわよ」
「ぐわっ」
クラリアの言葉に返す言葉もないアリス。
「本物の王子様が目の前にいるのだから今はそれで我慢しなさい」
「ぶわぅ~」
クラリアの厳しい視線にアリスはアレクのイラストをしぶしぶたたみ直す。
「あと、お子様シリーズ?のイラストは程々になさい」
「…、はい」
『お姉様~♪』
そこに廊下を駆ける音がして息を切らせたアナベル&セシルが教室に飛び込んで来た。慌ててアリスはポケットにアレクのイラストを捩じ込む。二人を見てにっこりと微笑むクラリアにセシルがなにかの封筒を手渡して、アナベル&セシルは顔を見合わせると二人揃って手にしていた綺麗な箱のフタをアリスに向けてパカッと開けた。
「えっ?」
箱の中身は女性サイズの男性用ダンスシューズだった。
『素敵でしょう。お姉様が貴方のダンスレッスンの犠牲者の方々の為に用意した特製のダンスシューズと同じ物を私達も作って頂いたのよ』
「え?」
「貴方のお父様は踏まれても平気と言っていたらしいけどそんな筈はありませんわ」
とアナベル、
「カラクリは靴の中に仕込んだ鉄製のカバーだと教えて下さいましたわ」
とセシル。
『ですから、象が踏んでも大丈夫。安全ダンスシューズ♪』
アナベル&セシルのキレイなハーモニーにグラっと再度アリスは傾いた。
あの靴って元々ある物だと思ってた。父、いつの間にかそんな物を作っていたんだ。
「…」
しゃがみ込み床にのの字を書くアリスにアナベル&セシルは安全靴の箱をぐいぐいこれでもかと見せつける。
『ほらほら♪』
そんな三人の様子をクラリアは微笑ましく見守っていた。
「アリスの練習の手助けになればなんて二人共本当に優しい子ね。姉として誇らしいわ」
絶対に違う。
アリスは床をカリカリと引っ掻いた。
もう全て放り出して逃げちゃおうか。
思わず捨て鉢になるアリス。その時、クラリアがひょいとアリスの首根っこを掴みダンス練習用人形の前に置いた。
「おおお思っただけです。思っただけ、どうかそれだけはお許してくだせ~っ」
人形の前から逃げ出そうとするアリスを右をアナベル、左をセシルがガッチリと抑える。クラリアは悪役令嬢な薄ら笑いを浮かべていた。
ボコられる。
慄くアリス。その顔を満足そうに眺めたクラリアは唇の端を上げると、封筒から取り出した一枚の書類を人形のデコにペンと貼り付けた。
「魔法省特別見学許可証ー!」
「へっ?」
アリスは人形ののっぺらぼうな顔に貼り付けられた書類を見る。
その書類には、
:魔法省内の特別見学を許可する。;
という文字が燦然と輝いていた。
「えーっ!」
アナベル&セシルをポイと振り払ったアリスはダンス練習用人形に飛び付いた。
公式印の押された公式な、
「魔法省特別見学許可証♪」
街歩きの時に無理矢理行ったけど門しか見れず皆に変な顔された魔法省見物。
あの魔法省が、
「お父様にお願いしてアリスの為に特別に見学許可を取って戴いたの。一般の見学コースだけでなく色々あちこち見放題よ」
「色々、あちこち…」
アリスの頭の中を様々なスチルと色々な妄想があちこち駆け回る。
「クリスマス舞踏会の後に皆で見学に行きましょう」
「はいっ」
目の前のニンジンにアリスは何度も頷く。
何故か近づく事が出来ずにいた魔法省聖地巡礼。クリラブ2でライバル令嬢として門をくぐるまではお預けかと諦めていたけれど。いたけれど。
行ける、という事は…。
魔法省、アレク様がいる魔法省だ♪あのアアアアアレク様がぁっ!
妄想全開アリスは白目剥いて倒れそうになり、
ベシッ。
右のアナベルに頭を叩かれた。意識を取り戻したアリスは、
アアアアアレク様が所属する魔法省に行ける、行ける、行けるぅっ!
やはり妄想全開アリスはワナワナと小刻みに震えだし、
ベシッ。
左のセシルに頭を叩かれた。何とか我に返ったアリスは、
魔法省、そこはアレク様がいらっしゃるマホーショー!ママママ、
ベシッ。
アアアアアレク様がいらっしゃるマホーショーに行けるぅっ!
ベシッ。
それはアリスが、
「何でこんなに頭が痛いの?」
と自覚するまで、
『お姉様、アリスが気を確かに持てるようとはいえど、さすがに手が痛いですわ』
と双子が音を上げるまで続いた。
クラリアはやれやれと肩を竦めて、
「兎に角、ミニゲームクリア、ダンスを踊る事だけを考えなさい。今はその先を考えない」
「はい、でも(推し登場!は)有りですか?!」
「不明。魔法省は王家直轄の組織、(アレクの所在を調べてようにも臣下の)ヴァニタス家では細かい事は分からないわ」
「はい、そうですよね…」
『…』
ベシッ。ベシッ。
アナベル&セシルに左右からどつかれたアリスは涙目で肩を落とした。
確かに魔法省の一職員を公爵家が堂々と調査する訳にはいかないだろう。何事?となる。でもアレク様の所属が何処か、捜査部に所属しているのかも未だに分からないの?クリラブ2ゲームクリアにはあまり関係ないからと後回しにしてないか?
チラッとクラリアを見上げるアリス。クラリアはニッコリと笑顔を浮かべる。
やはりそうか。アレク様はいずこに?いや、という事は…魔法省に行けば会える可能性が?!会える?会えない?会えない?いや会える~?!
グラっときたアリス、
ミニゲームクリア、ダンスを踊る事だけを考える。
その脳裏にクラリアの言葉が浮かびそれを噛み締める事でアリスは双子のどつきを回避した。
そうだ、ミニゲームクリア!そして無事にクリスマス舞踏会イベントをクリア。
そして憧れの舞台、魔法省見学♪行きたい所はてんこ盛りな聖地巡礼を叶えてあのゲームの世界を自分の足で実際に歩くのだわ。
そしてそして、そこから先はクリスマス舞踏会イベントクリア後のお楽しみ、お預けいや~ん♪
妄想の聖地巡礼の入り口でアリスは一人うねうねぐねぐね。
クラリアはそれを眺めながら、
まあ、いちいち倒れなくなったならいいか。
アリスは頭を時折押さえながらうねうねぐねぐね。
クラリアの横ではアナベル&セシルは安全ダンスシューズに靴を履き替えていた。
うねうねぐねぐね頭を押さえていたアリスは、それに気付いて、
「?」
首を傾げるアリスに靴を履き替え終えたアナベル&セシルは、
『先生方が来るまでまだ少し時間があるわ。靴の慣らしを兼ねて少々ダンスの相手をしてあげてもよくてよ』
「えっ?いや…」
目を丸くするアリスに感極まった表情のクラリアは、
「まあ、アナベルもセシルもなんて優しいの。良かったわね、アリス」
「へ?あの…」
『私達は足を踏まれたら蹴り返すわよ』
「ええ?!でも」
「まあそれは仕方無いわね。踏まなければ良いのよ、アリス」
「それが、」
出来れば苦労していないんだよぉ~っ。
アリスの心の叫びは勿論三姉妹に届く事はなく。まずアナベルに手を取られクラリアの前に引き出されたアリスは、
「はい、ワンツースリ、痛っ」
蹴りっ。
「痛っ」
3歩目で蹴られるアリス。
「3歩持たないで踏む?」
「スミマセ~ンッ」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる