無理です!!。乙女ゲームのヒロインからの正統派ライバル令嬢なんて務まりません! 残念JK残念令嬢に転生する

ひろくー

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推しとのっぺらぼー

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 バンッ!
 いきなりダンス教室のドアが勢い良く開けられ、ダンス練習用人形の前にいたアリスはビクッと後ろを振り返った。
 放課後のダンス教室、ソネガン先生ズより早く教室にやってきたアリスを鋭い瞳で見つけていたのはクラリアだった。
「クラリア様?!」
 引きつり笑いを浮かべるアリスにツカツカと歩み寄ったクラリアは、アリスが後ろ手に隠した物を問答無用で取り上げた。
「あっ、それわっ」
 慌ててそれを取り返そうと縋るアリスの腕を捻り上げたクラリアは取り上げた物、小さく折り畳まれた紙をパッと広げる。
 それは優しく微笑むアレクのイラストだった。
「……」
 睨むクラリアに腕を捻りあげられた痛みに涙ぐみながらアリスは必死に訴える。
「違うんです、クラリア様。キツいダンスレッスンの心の支えにしようとのっぺらぼーの片隅に、端っこにちょっと貼ろうと思っただけなんです」
「ダンス練習用人形は使用する度にケビン先生がメンテナンスの為に隅から隅までチェックなさいます。こんな物が貼ってあったらどう思われるか考えた?」
「いえ、あの、その、でものっぺらぼー、怖い」
 まともに人形を見ないアリスにクラリアは溜め息をつくとアリスの手を離した。
 バランスを失いよろけたアリスは人形にぶつかりそうになり、ピョンと飛び上がったアリスはバッとクラリアの陰に隠れる。
「最近は夢にまでこの人形が出て来るんです。逃げても逃げても追い掛けていてのっぺらぼーが私に手を差し出すんです~っ」
 ぷるぷると震えるアリスにクラリアは眉を寄せ、ダンス練習用人形を見上げた。
 確かにのっぺらぼう。しかし大人が使用するのに子供と同じウサギやネコの愛らしい人形というは如何なものかとあえて顔の無いこのデザインにしたのだ。
 …にしてもこの前はお菊人形に怯えて次はのっぺらぼう。どうしてこの子は日本の妖怪縛りで怖がるのかしら。
 ぷるぷる慄えるアリス犬にクラリアは再び溜め息をついた。
「これ、高価かったのよ~。グレースが子供用をただ大きくしただけでは芸、品が無いからと悩んでいて、デッサン人形のデザインはどう?とかミスを一目で判るようにしたりテクニックで遊べる要素を付けておこうとか色々とアイデアを出し合った、手間暇金を超掛けた渾身の作よ」
「知ってます~、公務員の給料の○ヶ月とか~」
 ぷるぷるぷるのアリス犬。クラリアは気を盛り上げる様に、
「そうだ、今度マリア先生に人形でキラキラ星を足笛を奏でながらダンスなさる所を見せて貰いなさい。この前見せて戴いたんだけど素晴らしかったわ。勿論貴方にやれとは言わないから安心して」
 クラリアの言葉にアリスはえっ?と目を丸くした。
「マリア先生がビリビリ電撃喰らいながら人形とダンス?!」
 驚くアリスに今度はクラリアが目を丸くする。
「そんな訳が無いでしょう。ビリビリスイッチは入れないわよ」
「何で?」
「マリア先生はワザと人形の足を踏んだり蹴ったりするのだからビリビリさせる必要が無いでしょう。笛が鳴るだけで良いのだから」
「てゆーか、笛と電撃って別なの?電撃スイッチだけ切れるの?!」
「当たり前でしょう」
 当然という顔のクラリアにアリスはグラッと傾いた。
 ミスがすぐ解る為の笛と電撃はセットだと思ってた。スパルタモードだから仕方無いって。別なら電撃は基本オフにしても良くない?
 とは言えないアリス。
 そういえば何日か前のダンスの授業で教室に入った時にダンス上級者達が人形を囲んでワイワイ話してた事があったな。私を見て何かバツの悪そうな言いたそうな顔しながら離れてたけどそういう事か。
 のっぺらぼーの奴、人によって態度を変えやがって。
 怨めしそうにダンス練習用人形を睨むアリス。それを見てクラリアは三度溜め息をつくとスッとアレクのイラストをアリスに返した。
「兎に角、アレクのイラストを人形に忍ばせるのは止めなさい」
「…、ハイ」
 アリスはイラストを受け取るとアレクの笑顔をじーっと見つめてすりすりと頬擦り。
「アレク様に見守って頂ければ頑張れる気がしたのに」
「頬擦りを止めなさい。ゲームにアレクが登場するのはまだ先の話。今、アレク推しを周りから見ると妄想で描いた理想の人を推してるイタイ子。アリス、貴方、今、イタイわよ」
「ぐわっ」
 クラリアの言葉に返す言葉もないアリス。
「本物の王子様が目の前にいるのだから今はそれで我慢しなさい」
「ぶわぅ~」
 クラリアの厳しい視線にアリスはアレクのイラストをしぶしぶたたみ直す。
「あと、お子様シリーズ?のイラストは程々になさい」
「…、はい」
『お姉様~♪』
 そこに廊下を駆ける音がして息を切らせたアナベル&セシルが教室に飛び込んで来た。慌ててアリスはポケットにアレクのイラストを捩じ込む。二人を見てにっこりと微笑むクラリアにセシルがなにかの封筒を手渡して、アナベル&セシルは顔を見合わせると二人揃って手にしていた綺麗な箱のフタをアリスに向けてパカッと開けた。
「えっ?」
 箱の中身は女性サイズの男性用ダンスシューズだった。 
『素敵でしょう。お姉様が貴方のダンスレッスンの犠牲者の方々の為に用意した特製のダンスシューズと同じ物を私達も作って頂いたのよ』
「え?」
「貴方のお父様は踏まれても平気と言っていたらしいけどそんな筈はありませんわ」
 とアナベル、
「カラクリは靴の中に仕込んだ鉄製のカバーだと教えて下さいましたわ」
 とセシル。
『ですから、象が踏んでも大丈夫。安全ダンスシューズ♪』
 アナベル&セシルのキレイなハーモニーにグラっと再度アリスは傾いた。
 あの靴って元々ある物だと思ってた。父、いつの間にかそんな物を作っていたんだ。
「…」
 しゃがみ込み床にのの字を書くアリスにアナベル&セシルは安全靴の箱をぐいぐいこれでもかと見せつける。
『ほらほら♪』
 そんな三人の様子をクラリアは微笑ましく見守っていた。
「アリスの練習の手助けになればなんて二人共本当に優しい子ね。姉として誇らしいわ」
 絶対に違う。
 アリスは床をカリカリと引っ掻いた。
 もう全て放り出して逃げちゃおうか。
 思わず捨て鉢になるアリス。その時、クラリアがひょいとアリスの首根っこを掴みダンス練習用人形の前に置いた。
「おおお思っただけです。思っただけ、どうかそれだけはお許してくだせ~っ」
 人形の前から逃げ出そうとするアリスを右をアナベル、左をセシルがガッチリと抑える。クラリアは悪役令嬢な薄ら笑いを浮かべていた。
 ボコられる。
 慄くアリス。その顔を満足そうに眺めたクラリアは唇の端を上げると、封筒から取り出した一枚の書類を人形のデコにペンと貼り付けた。
「魔法省特別見学許可証ー!」
「へっ?」
 アリスは人形ののっぺらぼうな顔に貼り付けられた書類を見る。
 その書類には、
:魔法省内の特別見学を許可する。;
 という文字が燦然と輝いていた。
「えーっ!」
 アナベル&セシルをポイと振り払ったアリスはダンス練習用人形に飛び付いた。
 公式印の押された公式な、
「魔法省特別見学許可証♪」
 街歩きの時に無理矢理行ったけど門しか見れず皆に変な顔された魔法省見物。
 あの魔法省が、
「お父様にお願いしてアリスの為に特別に見学許可を取って戴いたの。一般の見学コースだけでなく色々あちこち見放題よ」
「色々、あちこち…」
 アリスの頭の中を様々なスチルと色々な妄想があちこち駆け回る。
「クリスマス舞踏会の後に皆で見学に行きましょう」
「はいっ」
 目の前のニンジンにアリスは何度も頷く。
 何故か近づく事が出来ずにいた魔法省聖地巡礼。クリラブ2でライバル令嬢として門をくぐるまではお預けかと諦めていたけれど。いたけれど。
 行ける、という事は…。
 魔法省、アレク様がいる魔法省だ♪あのアアアアアレク様がぁっ!
 妄想全開アリスは白目剥いて倒れそうになり、
 ベシッ。
 右のアナベルに頭を叩かれた。意識を取り戻したアリスは、
 アアアアアレク様が所属する魔法省に行ける、行ける、行けるぅっ!
 やはり妄想全開アリスはワナワナと小刻みに震えだし、
 ベシッ。
 左のセシルに頭を叩かれた。何とか我に返ったアリスは、
 魔法省、そこはアレク様がいらっしゃるマホーショー!ママママ、
 ベシッ。
 アアアアアレク様がいらっしゃるマホーショーに行けるぅっ!
 ベシッ。
 それはアリスが、
「何でこんなに頭が痛いの?」
 と自覚するまで、
『お姉様、アリスが気を確かに持てるようとはいえど、さすがに手が痛いですわ』
 と双子が音を上げるまで続いた。
 クラリアはやれやれと肩を竦めて、
「兎に角、ミニゲームクリア、ダンスを踊る事だけを考えなさい。今はその先を考えない」
「はい、でも(推し登場!は)有りですか?!」
「不明。魔法省は王家直轄の組織、(アレクの所在を調べてようにも臣下の)ヴァニタス家では細かい事は分からないわ」
「はい、そうですよね…」
『…』
 ベシッ。ベシッ。
 アナベル&セシルに左右からどつかれたアリスは涙目で肩を落とした。
 確かに魔法省の一職員を公爵家が堂々と調査する訳にはいかないだろう。何事?となる。でもアレク様の所属が何処か、捜査部に所属しているのかも未だに分からないの?クリラブ2ゲームクリアにはあまり関係ないからと後回しにしてないか?
 チラッとクラリアを見上げるアリス。クラリアはニッコリと笑顔を浮かべる。
 やはりそうか。アレク様はいずこに?いや、という事は…魔法省に行けば会える可能性が?!会える?会えない?会えない?いや会える~?!
 グラっときたアリス、
 ミニゲームクリア、ダンスを踊る事だけを考える。
 その脳裏にクラリアの言葉が浮かびそれを噛み締める事でアリスは双子のどつきを回避した。
 そうだ、ミニゲームクリア!そして無事にクリスマス舞踏会イベントをクリア。
 そして憧れの舞台、魔法省見学♪行きたい所はてんこ盛りな聖地巡礼を叶えてあのゲームの世界を自分の足で実際に歩くのだわ。
 そしてそして、そこから先はクリスマス舞踏会イベントクリア後のお楽しみ、お預けいや~ん♪
 妄想の聖地巡礼の入り口でアリスは一人うねうねぐねぐね。
 クラリアはそれを眺めながら、
 まあ、いちいち倒れなくなったならいいか。
 アリスは頭を時折押さえながらうねうねぐねぐね。
 クラリアの横ではアナベル&セシルは安全ダンスシューズに靴を履き替えていた。
 うねうねぐねぐね頭を押さえていたアリスは、それに気付いて、
「?」
 首を傾げるアリスに靴を履き替え終えたアナベル&セシルは、
『先生方が来るまでまだ少し時間があるわ。靴の慣らしを兼ねて少々ダンスの相手をしてあげてもよくてよ』
「えっ?いや…」
 目を丸くするアリスに感極まった表情のクラリアは、
「まあ、アナベルもセシルもなんて優しいの。良かったわね、アリス」
「へ?あの…」
『私達は足を踏まれたら蹴り返すわよ』
「ええ?!でも」
「まあそれは仕方無いわね。踏まなければ良いのよ、アリス」
「それが、」
 出来れば苦労していないんだよぉ~っ。
 アリスの心の叫びは勿論三姉妹に届く事はなく。まずアナベルに手を取られクラリアの前に引き出されたアリスは、
「はい、ワンツースリ、痛っ」
 蹴りっ。
「痛っ」
 3歩目で蹴られるアリス。
「3歩持たないで踏む?」
「スミマセ~ンッ」





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