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アーサーイベント発生?!
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そしてとある休日の昼下がり、アリスは一人テコテコと学園の学舎から寮へと続く渡り廊下を歩いていた。午前のダンスレッスンは終わり、ランチを取ったアリスは夕刻からのレッスンに向け一休み中。
最近は一人行動もOKになり自由に動いているアリス。熊だけが付き添おうとするだけになっていた。が、今日は流石に熊もついてこない。本日は指定の仕立て業者によるクリスマス舞踏会用ドレスの採寸日だ。
ドレスは流行の最先端の物を着たい。パートナーと合わせたドレスを着たい。前もって用意しておく生徒は少数派だ。王都内に自宅がある生徒は外出許可を貰い自宅でドレスの採寸や注文が出来るが学園の生徒の大半は寮生活だ。その生徒が各自でドレスの仕立て業者を一斉に学園に呼んだり店を訪ねたりしたらエライ事になってしまう。その為、採寸は学園の指定業者が行ってそれを元に各生徒が好きな仕立て業者に注文という段取りを取っていた。
ゲーム内ではクラスメイト達がドレスのカタログを手に楽しそうにドレスを選んでいるシーンがあったのみで基本アリスには問答無用で母手製の白いシンプルなドレスが届く。
実は裏で色々な段取りがあってドレスが届いていたのね。
考えてみれば当たり前の事にアリスは何となく感心しながら指定業者に採寸をしてもらっていた。それがやっと終わりアリスはユリアンヌ達が集まっている談話室へ向かっていた。
5人も待ち構えていてあちこち測られまくったアリスは、
貴族って大変だな。
アリスは母手製か母が勤めていた勝手知ったる洋品店でしかドレスを作った事が無い。しかも今回はドレスの事は母(ユリアンヌ)に丸投げアリス。
ご馳走を食べ過ぎたらウエストが緩められる、以外の注文はつけなかった。そのリクエストは叶えたデザインだという事はユリアンヌから聞いていたアリスは呑気に構えていた。
てゆーか、ダンスレッスンがハード過ぎて考える余裕ない。とにかくウエストが緩められさえすれば良し!
ゲームに出てきたご馳走の数々を思い出しにまにましながらアリスは寮へと続く渡り廊下の角を曲がろうとして、足元に赤い薔薇の花びらがフワリと落ちたのに気が付いた。
「?」
顔を上げたアリスは廊下の先、男子寮と女子寮に分かれる少し手前の渡り廊下にアーサーが一人で立っていた。
「…」
二度まばたきをしたアリスは、
えーーーっ!
と心の中で叫んだ。
ヤバイ、このスチルを見た覚えがある。様々なアーサーイベントで見るアーサーがアリスに赤い薔薇を手渡すシーン。渡り廊下バージョンはクリスマス舞踏会関連だったような。
うわ、赤い薔薇を持ってるよ~。でもこれだけは言える。クラリア様を斬らせる訳にはいかない。それにもうこれ以上イベントはいらんっ。
もうお腹が一杯ですなアリス。しかし立ち止まる、Uターンする等のアクションでそのままイベントに突入しそうな匂いがする。だがこのままこのスピードで歩き続けるとあと10歩位でアーサーの前に着いてしまう。
アリスは思った。
どうしよう。超イベント臭い。
攻略対象キャラクターなだけあってか渡り廊下で一人薔薇の花を手に立つアーサーはサマになっていた。精悍な顔立ちにスラッと長身で確かにスポーツマン系のイケメン。カッコいい、キラキラだ。
でも薔薇の花の持ち方が何か変。
そこでアリスは気付いた。
あの薔薇、トゲがついたままだ。しかも少しクタッとしおれて踏まれた跡もあるような。
トゲ付きの踏まれた赤い薔薇が出てくるイベント?!
アーサーまで残り5歩。
こんな時こそクラリア様の攻略対象別想定問答集、イケメンと簡単おしゃべりマニュアル、【基本中の基本版 攻略対象キャラクター共通 犬でも出来ちゃう会話応対集】の出番!
攻略対象キャラクターに出くわしたら。
その1 会釈でやり過ごす。
お勧めパターン 友人といる場合、全てその友人のセリフや間合いを真似して友人の後に繰り返す。
一人の時の緊急パターン 対象とすれ違う5歩手前で相手の喉元を見ながら伏し目がちに会釈をして歩くスピードはキープしたまま立ち去る。
今は緊急パターン。
アリスは腹を決めた。
ペコリ、スタスタ作戦だ。
ペコリ。
床を睨んだままアーサーに向かって頭を下げたアリスは床を睨んだままスタスタとアーサーの脇を通り過ぎようとした。
「やあ、アリス嬢」
すれ違うまであと2歩の所で笑顔のアーサーがアリスに声を掛けてくる。
うっ。
アリスは大急ぎで会話応対集のページをめくる。
攻略対象キャラクターに声を掛けられたら。
その1 挨拶でやり過ごす。
お勧めパターン 友人といる場合、全てその友人のセリフや間合いを真似して友人のあとに繰り返す。
一人の時の緊急パターン
対象とすれ違う2歩手前で相手の喉元を見ながら「ごきげんよう」と挨拶。目を伏せて歩くスピードはキープしたまま立ち去る。
ちょっと混乱しつつもアリスは決めた。
ごきげんよう作戦だ。
「ごきげんようっ」
大きな挨拶で深々と頭を下げたアリスはスタタタとアーサーの脇を足早に抜けようとする。
が、アーサーの脇を抜ける寸前のアリスに、
「快晴の空によく合った挨拶だな」
アーサーが声を掛けた。
ううっ。
アリスは大急ぎで会話応対集のページをめくる。
攻略対象キャラクターが挨拶の後も話しを続けてきたら。
その1 頷いてやり過ごす。
お勧めパターン 友人といる場合、全てそのセリフや間合いを真似して友人のあとに繰り返す。
一人の時の緊急パターン1
曖昧な笑顔で頷いたり、肯定とも否定とも取れない「まぁ」と合いの手を入れる。数分位で相手の会話の息継ぎのタイミングを狙い「実は友を待たせておりまして」と頭を下げ、相手の返事の途中で再度頭を下げてから離れる。10歩ほど歩いてから足早に立ち去る。
えーとえーと。曖昧な、肯定が否定で、途中で息継ぎ?…赤薔薇の待ち伏せ変質者扱いで通報しちゃ駄目かなぁ?
頭がこんがらがってきたアリスは、チラッとアーサーの手のトゲ付きのヨレヨレな赤い薔薇を見て、
「友が待っているのでっ」
アリスは言い捨てるように叫ぶとそのまま女子寮に向かって走り出した。
「えっ?ちょっと待ってっ」
ビックリしたアーサーがアリスを追い掛けてくる。あっという間にアリスに追い付いたアーサーはアリスの前に立ち塞がるように立ち、そのアーサーの伸ばした腕の下をひょいと潜ってかわしたアリスは再び全力で走り出した。
不審者情報で寮長様に通報だーっ。
「違う、違う、違~うっ」
再びアーサーにあっという間に追い付かれたアリスは立ち塞がるアーサーをむ~っと睨みながら大きく息を吸う。
父直伝、変な人に絡まれたらまずは大声で助けを呼ぶ。
「火事だ…」
「わーっ、待って待って、違う!」
大声を上げようとするアリスにアーサーは慌てて数メートル後ろへ飛び退った。
「違うんだ。落ち着いて、話したい事があるだけなんだ」
「…」
無言でアリスはアーサーが持つヨレヨレの赤い薔薇を見た。アーサーは自分の手の中の赤い薔薇を見て、少し照れ臭そうな笑顔をアリスに向けた。そのキラキラスマイルにアリスは、
うっ。
目をしばたかせた。
クソッ、何気にキラキラじゃないか。アーサーのくせに。
「確かに捨てといてって頼もうかなって思ってた、このゴミ。でも嫌なら断って全然OKだし」
キラキラスマイルを巻き散らかしまくるアーサーにアリスは目をしばたかせながら首を傾げた。
「ゴミ?」
アリスの様子を窺いながらもホッとした表情でアーサーはヨレヨレの赤い薔薇を摘み上げた。
「さっきまでそこで庭師の人達が庭木の手入れをしていて剪定した枝とかを片付けていたんだけど、荷車からこの花が落ちたんだ。すぐに声を掛けたんだけど届かなかったみたいで行ってしまって。そのままにしておけないから」
拾ったものの、面倒になったと。捨てといてと。
アリスはアーサーを見上げた。
紛らわしい。薔薇の花じゃなくてゴミかよ。ゲームでは攻略対象キャラクターからゴミ捨てを頼まれるイベントなんてなかったと思うけど。でも薔薇だし一応受け取り拒否る選択がゲーム展開上は正解だろう。でもノーラが喜びそうだなぁ。でもクラリア様の安全が第一だし。
返答を言い淀むアリスに鼻の頭をポリポリ掻いたアーサーは、
「自分で捨てるよ」
と言いながらアリスの所へ歩いて来る。クルクルと薔薇の花を回したアーサーはスッと薔薇の花に顔を寄せ花の香りを嗅ぐ。その仕草もサマになるアーサー。
「まだ良い香りがするよ」
確かにアリスの所まで薔薇の良い香りが漂っていた。
アーサーのキラキラの仕草に引きずられるようにアリスはまだ香りの立つ赤い薔薇へと一歩踏み出していた。それに気付いたアーサーは香りを振り撒くように赤い薔薇を左へ振った。釣られるように右へ一歩動きながら鼻をクンクンさせるアリス。スッとアーサーに赤い薔薇を鼻先に差し出されたアリスはそこで我に返り一歩後退った。
いかん、いかん。薔薇の香りとアーサーに当てられて自分を見失ってた。
「ごきげんようっ」
アリスはアーサーにクルッと背を向けるとスタスタと歩き出す。
「あー、ゴメン。違うんだ、話す前にちょっと確認したかっただけなんだ」
「何を?」
追ってくるアーサーにアリスは立ち止まり、眉をへの字にして聞き返す。アーサーは髪をくしゃくしゃとしてアリスに笑い掛けた。
「すまない、カイルにも言葉が足りないってよく言われるんだ」
そういう仕草もキラキラじゃねーか。
目をしばしばさせるアリスに怒りが収まったと判断したアーサーは今の内にと話しを始めた。
「アランから君がダンスに苦戦していると聞いてね、実は俺もダンスのコツを掴むまで苦労したクチなんだ」
「そうなんですか?」
そんなエピソードがあったかな?
首をヒネるアリスにアーサーはウンウンと頷く。
「なかなか上手く踊れるようにならなくて困っていたら兄が剣術の足捌きだと思ってやれって言われて、それでコツが掴めるようになったんだ。君も剣術の授業を取っていたよね。参考になるかと思って」
アーサーの言葉に思い当たったアリスはポンと手を打った。
「もしかしてさっきの薔薇の花を振り回したのは」
「そう、君のさっきの足捌きは剣術の動きだけどワルツのステップと同じなんだ」
成る程。
アリスは頭の中で廊下に透明のステップマットを敷いて、その上で先程の足の動きを再現してみた。
アリスの足は自然にステップマットの順番通りに動いていた。
「おお♪」
アリスの目の前に光明が差す。アーサーはドヤ顔で、
「あとはパートナーのリードに合わせて今と同じ足捌きをするだけさ」
赤い薔薇の花を胸ポケットを差すとアーサーはアリスの手を取りリードして踊ろうとする。
「うぉ?」
勿論今のアリスにそのリードに付いていくスキルなどない。アーサーに引っ張られるようにバランスを崩したアリスはそのまま前のめりに倒れそうになり、
ドスッ。
「ぐはっ」
次の瞬間、アリスはアーサーのみぞおちに頭突きを喰らわせていた。膝から崩れ落ちるアーサー。反動で尻餅をつくアリス。
「ごごごごめんなさい」
謝るアリスに、
「…大丈夫、だか…ら…」
と答えるアーサーだがどう見ても大丈夫そうに見えない。
キレイにみぞおちに入ったからなあ。攻略対象外キャラクターとはいえヒロインが金蹴りに続き頭突きカマしたらゲーム展開的にはどうなるのだろう?てゆーか無駄に攻略対象キャラクターに暴力振るうのがダメだわ。
んー?と首を傾げたアリスは、
「あの、ゴミ、捨てときます」
最近は一人行動もOKになり自由に動いているアリス。熊だけが付き添おうとするだけになっていた。が、今日は流石に熊もついてこない。本日は指定の仕立て業者によるクリスマス舞踏会用ドレスの採寸日だ。
ドレスは流行の最先端の物を着たい。パートナーと合わせたドレスを着たい。前もって用意しておく生徒は少数派だ。王都内に自宅がある生徒は外出許可を貰い自宅でドレスの採寸や注文が出来るが学園の生徒の大半は寮生活だ。その生徒が各自でドレスの仕立て業者を一斉に学園に呼んだり店を訪ねたりしたらエライ事になってしまう。その為、採寸は学園の指定業者が行ってそれを元に各生徒が好きな仕立て業者に注文という段取りを取っていた。
ゲーム内ではクラスメイト達がドレスのカタログを手に楽しそうにドレスを選んでいるシーンがあったのみで基本アリスには問答無用で母手製の白いシンプルなドレスが届く。
実は裏で色々な段取りがあってドレスが届いていたのね。
考えてみれば当たり前の事にアリスは何となく感心しながら指定業者に採寸をしてもらっていた。それがやっと終わりアリスはユリアンヌ達が集まっている談話室へ向かっていた。
5人も待ち構えていてあちこち測られまくったアリスは、
貴族って大変だな。
アリスは母手製か母が勤めていた勝手知ったる洋品店でしかドレスを作った事が無い。しかも今回はドレスの事は母(ユリアンヌ)に丸投げアリス。
ご馳走を食べ過ぎたらウエストが緩められる、以外の注文はつけなかった。そのリクエストは叶えたデザインだという事はユリアンヌから聞いていたアリスは呑気に構えていた。
てゆーか、ダンスレッスンがハード過ぎて考える余裕ない。とにかくウエストが緩められさえすれば良し!
ゲームに出てきたご馳走の数々を思い出しにまにましながらアリスは寮へと続く渡り廊下の角を曲がろうとして、足元に赤い薔薇の花びらがフワリと落ちたのに気が付いた。
「?」
顔を上げたアリスは廊下の先、男子寮と女子寮に分かれる少し手前の渡り廊下にアーサーが一人で立っていた。
「…」
二度まばたきをしたアリスは、
えーーーっ!
と心の中で叫んだ。
ヤバイ、このスチルを見た覚えがある。様々なアーサーイベントで見るアーサーがアリスに赤い薔薇を手渡すシーン。渡り廊下バージョンはクリスマス舞踏会関連だったような。
うわ、赤い薔薇を持ってるよ~。でもこれだけは言える。クラリア様を斬らせる訳にはいかない。それにもうこれ以上イベントはいらんっ。
もうお腹が一杯ですなアリス。しかし立ち止まる、Uターンする等のアクションでそのままイベントに突入しそうな匂いがする。だがこのままこのスピードで歩き続けるとあと10歩位でアーサーの前に着いてしまう。
アリスは思った。
どうしよう。超イベント臭い。
攻略対象キャラクターなだけあってか渡り廊下で一人薔薇の花を手に立つアーサーはサマになっていた。精悍な顔立ちにスラッと長身で確かにスポーツマン系のイケメン。カッコいい、キラキラだ。
でも薔薇の花の持ち方が何か変。
そこでアリスは気付いた。
あの薔薇、トゲがついたままだ。しかも少しクタッとしおれて踏まれた跡もあるような。
トゲ付きの踏まれた赤い薔薇が出てくるイベント?!
アーサーまで残り5歩。
こんな時こそクラリア様の攻略対象別想定問答集、イケメンと簡単おしゃべりマニュアル、【基本中の基本版 攻略対象キャラクター共通 犬でも出来ちゃう会話応対集】の出番!
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その1 会釈でやり過ごす。
お勧めパターン 友人といる場合、全てその友人のセリフや間合いを真似して友人の後に繰り返す。
一人の時の緊急パターン 対象とすれ違う5歩手前で相手の喉元を見ながら伏し目がちに会釈をして歩くスピードはキープしたまま立ち去る。
今は緊急パターン。
アリスは腹を決めた。
ペコリ、スタスタ作戦だ。
ペコリ。
床を睨んだままアーサーに向かって頭を下げたアリスは床を睨んだままスタスタとアーサーの脇を通り過ぎようとした。
「やあ、アリス嬢」
すれ違うまであと2歩の所で笑顔のアーサーがアリスに声を掛けてくる。
うっ。
アリスは大急ぎで会話応対集のページをめくる。
攻略対象キャラクターに声を掛けられたら。
その1 挨拶でやり過ごす。
お勧めパターン 友人といる場合、全てその友人のセリフや間合いを真似して友人のあとに繰り返す。
一人の時の緊急パターン
対象とすれ違う2歩手前で相手の喉元を見ながら「ごきげんよう」と挨拶。目を伏せて歩くスピードはキープしたまま立ち去る。
ちょっと混乱しつつもアリスは決めた。
ごきげんよう作戦だ。
「ごきげんようっ」
大きな挨拶で深々と頭を下げたアリスはスタタタとアーサーの脇を足早に抜けようとする。
が、アーサーの脇を抜ける寸前のアリスに、
「快晴の空によく合った挨拶だな」
アーサーが声を掛けた。
ううっ。
アリスは大急ぎで会話応対集のページをめくる。
攻略対象キャラクターが挨拶の後も話しを続けてきたら。
その1 頷いてやり過ごす。
お勧めパターン 友人といる場合、全てそのセリフや間合いを真似して友人のあとに繰り返す。
一人の時の緊急パターン1
曖昧な笑顔で頷いたり、肯定とも否定とも取れない「まぁ」と合いの手を入れる。数分位で相手の会話の息継ぎのタイミングを狙い「実は友を待たせておりまして」と頭を下げ、相手の返事の途中で再度頭を下げてから離れる。10歩ほど歩いてから足早に立ち去る。
えーとえーと。曖昧な、肯定が否定で、途中で息継ぎ?…赤薔薇の待ち伏せ変質者扱いで通報しちゃ駄目かなぁ?
頭がこんがらがってきたアリスは、チラッとアーサーの手のトゲ付きのヨレヨレな赤い薔薇を見て、
「友が待っているのでっ」
アリスは言い捨てるように叫ぶとそのまま女子寮に向かって走り出した。
「えっ?ちょっと待ってっ」
ビックリしたアーサーがアリスを追い掛けてくる。あっという間にアリスに追い付いたアーサーはアリスの前に立ち塞がるように立ち、そのアーサーの伸ばした腕の下をひょいと潜ってかわしたアリスは再び全力で走り出した。
不審者情報で寮長様に通報だーっ。
「違う、違う、違~うっ」
再びアーサーにあっという間に追い付かれたアリスは立ち塞がるアーサーをむ~っと睨みながら大きく息を吸う。
父直伝、変な人に絡まれたらまずは大声で助けを呼ぶ。
「火事だ…」
「わーっ、待って待って、違う!」
大声を上げようとするアリスにアーサーは慌てて数メートル後ろへ飛び退った。
「違うんだ。落ち着いて、話したい事があるだけなんだ」
「…」
無言でアリスはアーサーが持つヨレヨレの赤い薔薇を見た。アーサーは自分の手の中の赤い薔薇を見て、少し照れ臭そうな笑顔をアリスに向けた。そのキラキラスマイルにアリスは、
うっ。
目をしばたかせた。
クソッ、何気にキラキラじゃないか。アーサーのくせに。
「確かに捨てといてって頼もうかなって思ってた、このゴミ。でも嫌なら断って全然OKだし」
キラキラスマイルを巻き散らかしまくるアーサーにアリスは目をしばたかせながら首を傾げた。
「ゴミ?」
アリスの様子を窺いながらもホッとした表情でアーサーはヨレヨレの赤い薔薇を摘み上げた。
「さっきまでそこで庭師の人達が庭木の手入れをしていて剪定した枝とかを片付けていたんだけど、荷車からこの花が落ちたんだ。すぐに声を掛けたんだけど届かなかったみたいで行ってしまって。そのままにしておけないから」
拾ったものの、面倒になったと。捨てといてと。
アリスはアーサーを見上げた。
紛らわしい。薔薇の花じゃなくてゴミかよ。ゲームでは攻略対象キャラクターからゴミ捨てを頼まれるイベントなんてなかったと思うけど。でも薔薇だし一応受け取り拒否る選択がゲーム展開上は正解だろう。でもノーラが喜びそうだなぁ。でもクラリア様の安全が第一だし。
返答を言い淀むアリスに鼻の頭をポリポリ掻いたアーサーは、
「自分で捨てるよ」
と言いながらアリスの所へ歩いて来る。クルクルと薔薇の花を回したアーサーはスッと薔薇の花に顔を寄せ花の香りを嗅ぐ。その仕草もサマになるアーサー。
「まだ良い香りがするよ」
確かにアリスの所まで薔薇の良い香りが漂っていた。
アーサーのキラキラの仕草に引きずられるようにアリスはまだ香りの立つ赤い薔薇へと一歩踏み出していた。それに気付いたアーサーは香りを振り撒くように赤い薔薇を左へ振った。釣られるように右へ一歩動きながら鼻をクンクンさせるアリス。スッとアーサーに赤い薔薇を鼻先に差し出されたアリスはそこで我に返り一歩後退った。
いかん、いかん。薔薇の香りとアーサーに当てられて自分を見失ってた。
「ごきげんようっ」
アリスはアーサーにクルッと背を向けるとスタスタと歩き出す。
「あー、ゴメン。違うんだ、話す前にちょっと確認したかっただけなんだ」
「何を?」
追ってくるアーサーにアリスは立ち止まり、眉をへの字にして聞き返す。アーサーは髪をくしゃくしゃとしてアリスに笑い掛けた。
「すまない、カイルにも言葉が足りないってよく言われるんだ」
そういう仕草もキラキラじゃねーか。
目をしばしばさせるアリスに怒りが収まったと判断したアーサーは今の内にと話しを始めた。
「アランから君がダンスに苦戦していると聞いてね、実は俺もダンスのコツを掴むまで苦労したクチなんだ」
「そうなんですか?」
そんなエピソードがあったかな?
首をヒネるアリスにアーサーはウンウンと頷く。
「なかなか上手く踊れるようにならなくて困っていたら兄が剣術の足捌きだと思ってやれって言われて、それでコツが掴めるようになったんだ。君も剣術の授業を取っていたよね。参考になるかと思って」
アーサーの言葉に思い当たったアリスはポンと手を打った。
「もしかしてさっきの薔薇の花を振り回したのは」
「そう、君のさっきの足捌きは剣術の動きだけどワルツのステップと同じなんだ」
成る程。
アリスは頭の中で廊下に透明のステップマットを敷いて、その上で先程の足の動きを再現してみた。
アリスの足は自然にステップマットの順番通りに動いていた。
「おお♪」
アリスの目の前に光明が差す。アーサーはドヤ顔で、
「あとはパートナーのリードに合わせて今と同じ足捌きをするだけさ」
赤い薔薇の花を胸ポケットを差すとアーサーはアリスの手を取りリードして踊ろうとする。
「うぉ?」
勿論今のアリスにそのリードに付いていくスキルなどない。アーサーに引っ張られるようにバランスを崩したアリスはそのまま前のめりに倒れそうになり、
ドスッ。
「ぐはっ」
次の瞬間、アリスはアーサーのみぞおちに頭突きを喰らわせていた。膝から崩れ落ちるアーサー。反動で尻餅をつくアリス。
「ごごごごめんなさい」
謝るアリスに、
「…大丈夫、だか…ら…」
と答えるアーサーだがどう見ても大丈夫そうに見えない。
キレイにみぞおちに入ったからなあ。攻略対象外キャラクターとはいえヒロインが金蹴りに続き頭突きカマしたらゲーム展開的にはどうなるのだろう?てゆーか無駄に攻略対象キャラクターに暴力振るうのがダメだわ。
んー?と首を傾げたアリスは、
「あの、ゴミ、捨てときます」
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