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第3章 ウツロ救出作戦
第54話 ラウンド2
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「われこそは、救済の神・ウツロ……!」
かくしてウツロは「魔道」へと堕ちた。
ディオティマは内心、笑いが止まらなかった。
「ぎひ、ディオティマさま、来客のようです」
バニーハートの耳がぴくぴくと揺れる。
「ふふ、おそらくは『彼』でしょう。わたしは引き続きウツロ・ボーイの魔改造に当たります。バニーハート、あなたはその時間稼ぎを」
「ぎひひ、了解、いたしました」
彼は扉の奥へとはけていった。
「ディオティマよ、もっと俺に力を……人類を駆逐せしめるだけの強大な力を……!」
ウツロはいよいよ、自分が神になったと思いこんでいる。
「ふふ、ウツロさま、御意にございます。このディオティマ、全力を上げてウツロさまの『洗浄』をサポートするよし。すぐにでもあなたさまに、最強の力をお与えすると約束いたしましょう」
魔女も心得たもので、うまいあんばいでの「小芝居」を披露した。
「わが名はウツロ、救済の神・ウツロ。人間どもよ、おそれおののくがよい。いまにこの俺が、貴様らをひとりとして残さず滅ぼしてくれる!」
こうしてすべては、狡猾なるディオティマの思いどおりに進んでいたのである。
*
「ぎひひ、やっぱり、おまえか……」
地下へと張りめぐらされた通路。
その一角で、二人の人物が対峙した。
ひとりはバニーハート、そしてもうひとりは――
「たかもり、ゆう……!」
鷹守幽、彼だ。
少し前に激闘を繰り広げた黒衣の暗殺者。
ここへやってきたのは組織の命令であり、ウツロたちの居場所を探るためだ。
しかしその実は、やはりというかウサギ少年との再戦を願っていた。
そしてそれは、見事にかなったのである。
「会いたかった、ぞ。今度こそ、八つ裂きに、してやる……!」
鷹守幽はマントを脱ぎ、仮面をはずす。
笑っていた。
端正な顔つきが、キシリとゆがむ。
「来い……!」
両者、かまえる。
「ぎっ、ひゃあああああっ!」
バニーハートがアイアンクロウをむき出しにし、前方へと突進する。
「――!」
鷹守幽は丹田に力を入れた、が――
「――っ!?」
床から顔を出したウサギのぬいぐるみが、彼の両足をがっしりとつかんでいる。
「バカめ! こんなこともあろうかと、ひそませておいたのさ! もらった、死ねえ!」
合計十本の鋭い先端が、ドリルよろしく襲いかかる。
「……」
動きが止まる。
アイアンクロウのすべての刃先に、触手のように伸びた「影」が絡みついていた。
それは鷹守幽の背中から生えているのである。
彼は親指を立て、首をかっ切るしぐさをした。
「……っ」
何かをつぶやいた、次の瞬間。
「ぎひ……」
バニーハート自身の影が変形し、剣山のごとく彼を串刺しにした。
「ぎ……」
それぞれは実に細いものだが、その激痛は格別である。
「う……」
あまりの痛みに、ウサギ少年は床に倒れこんでしまう。
「ぐ、くそ……」
アンダー・ザ・ムーン。
確かそんな名前のアルトラだった。
しかしまさか、ここまで汎用性のある能力だったとは……
プライドの高いバニーハートも、さすがに自分の見通しのあまさを恥じた。
「ぎひ!?」
苦しむバニーハートの頭部を、鷹守幽は足蹴にする。
ほら、どうした?
もう降参か?
そんな挑発にも取れた。
「ぎひ……よくも、よくも、この、僕をおおおおおっ!」
ウサギ少年はついにプッツンした。
ものすごいオーラに圧倒され、さしもの暗殺者も反射的に後方へとしりぞく。
「ぎひ、たかもり、ゆう……おまえは、おまえだけは……!」
ウサギのぬいぐるみが翻り、バカでかい口から無数の牙がのぞいた。
「エロトマニア、やれ!」
「――っ!?」
その牙は誰あろう、主人の首筋へがぶりとかぶりつく。
「エロトマニア、ファイナル・ドーピング!」
何かが注入されているような光景。
それに比例し、バニーハートの肉体が膨れ上がっていく。
「ぎひぃ……」
筋肉が増強され、身長も高くなった。
「ぎひ、行く、ぞ――!」
「――っ!?」
目にもとまらない速さ。
パンチ一発で、鷹守幽はうしろへと吹き飛んだ。
これまでとは比べものにならないパワーとスピード。
彼はやっとのことで起き上がろうとするが――
「ぎひ」
髪の毛をつかまれ、コンクリート製の地面にたたきつけられる。
「粉々に、してやる」
バニーハートは矢継ぎ早に鷹守幽をいたぶった。
露出した肌にどんどんと傷あとが増えていく。
「ぎひひ、気持ちいいな、おまえをオモチャにするのは」
ボディブロウを受け、背後の壁面に激突する。
「……」
満身創痍、まさにそれだった。
「安心しろ、殺しはしない。おまえは、僕の、ペットにする」
絶体絶命、と思われたが。
「何が、おかしい?」
笑っていた。
いや、いままでの笑顔ではない。
それはとても恍惚に満ちた、まるで愛する者をようやく見つけたときのような……
「頭が、おかしくなったか?」
バニーハートはそう言いながらも、体が寒くなるのを感じ取った。
鷹守幽は両手を広げ、スッと首のうしろを押さえつけた。
「何を、する気だ……?」
「……」
心臓の鼓動が加速し、血管が太くなる。
ウサギ少年がしたように、彼もまた自分の肉体を増強しているのだ。
「おまえも、できるのか……」
パンプアップしたその体は、とうてい以前の比ではなかった。
「ぎひっ――!?」
バニーハートがうしろへ吹き飛ぶ。
見えなかった、攻撃を放つ瞬間さえ。
彼はいよいよたぎってきた。
これほど不足のない相手はいないと。
「たかもり、ゆう……!」
「……」
鷹守幽は「かかってこい」のしぐさをする。
「ぎひひ、行くぞ――!」
「――っ!」
「ゆううううううっ!」
「――っ!」
拳と拳がぶつかりあう。
もはやこれは、愛ではないかと。
そんなふうに互いが錯覚した、そのとき。
遠くのほうで爆発音がし、土煙が充満する。
「――!?」
こつこつ。
ハイヒールの音がこちらへとやってくる。
「ふっふっふっ」
「ディオティマさま……!」
ディオティマ、彼女だ。
例によって、薄気味悪い笑みを浮かべている。
「バニーハート、安心なさい。これで彼の死亡は確定しましたよ?」
「と、言うことは……」
「そのとおり、完成したのです。最強の生体兵器、その名もウツロ・ボーグが」
煙の中からひとつ影が姿を現す。
ウツロだ。
しかしそれは、アルトラ「エクリプス」の能力によって、毒虫の戦士の姿となっていた。
そこに機械的なパーツがいたるところに組み込まれ、サイボーグのようにも見える。
円環状に光輪のような羽を広げるその姿は、あたかも天使のような印象を与えた。
「さあ、ウツロさま。神に歯向かう愚か者を、なにとぞお清めください」
「……!」
鷹守幽は戦慄した。
彼ほどの手練れをもってしても、その異形のオーラに圧倒されたのである。
「虫ケラめ、神の力で、滅ぶがよい……!」
暗殺者の首筋が、しっとりと濡れた。
かくしてウツロは「魔道」へと堕ちた。
ディオティマは内心、笑いが止まらなかった。
「ぎひ、ディオティマさま、来客のようです」
バニーハートの耳がぴくぴくと揺れる。
「ふふ、おそらくは『彼』でしょう。わたしは引き続きウツロ・ボーイの魔改造に当たります。バニーハート、あなたはその時間稼ぎを」
「ぎひひ、了解、いたしました」
彼は扉の奥へとはけていった。
「ディオティマよ、もっと俺に力を……人類を駆逐せしめるだけの強大な力を……!」
ウツロはいよいよ、自分が神になったと思いこんでいる。
「ふふ、ウツロさま、御意にございます。このディオティマ、全力を上げてウツロさまの『洗浄』をサポートするよし。すぐにでもあなたさまに、最強の力をお与えすると約束いたしましょう」
魔女も心得たもので、うまいあんばいでの「小芝居」を披露した。
「わが名はウツロ、救済の神・ウツロ。人間どもよ、おそれおののくがよい。いまにこの俺が、貴様らをひとりとして残さず滅ぼしてくれる!」
こうしてすべては、狡猾なるディオティマの思いどおりに進んでいたのである。
*
「ぎひひ、やっぱり、おまえか……」
地下へと張りめぐらされた通路。
その一角で、二人の人物が対峙した。
ひとりはバニーハート、そしてもうひとりは――
「たかもり、ゆう……!」
鷹守幽、彼だ。
少し前に激闘を繰り広げた黒衣の暗殺者。
ここへやってきたのは組織の命令であり、ウツロたちの居場所を探るためだ。
しかしその実は、やはりというかウサギ少年との再戦を願っていた。
そしてそれは、見事にかなったのである。
「会いたかった、ぞ。今度こそ、八つ裂きに、してやる……!」
鷹守幽はマントを脱ぎ、仮面をはずす。
笑っていた。
端正な顔つきが、キシリとゆがむ。
「来い……!」
両者、かまえる。
「ぎっ、ひゃあああああっ!」
バニーハートがアイアンクロウをむき出しにし、前方へと突進する。
「――!」
鷹守幽は丹田に力を入れた、が――
「――っ!?」
床から顔を出したウサギのぬいぐるみが、彼の両足をがっしりとつかんでいる。
「バカめ! こんなこともあろうかと、ひそませておいたのさ! もらった、死ねえ!」
合計十本の鋭い先端が、ドリルよろしく襲いかかる。
「……」
動きが止まる。
アイアンクロウのすべての刃先に、触手のように伸びた「影」が絡みついていた。
それは鷹守幽の背中から生えているのである。
彼は親指を立て、首をかっ切るしぐさをした。
「……っ」
何かをつぶやいた、次の瞬間。
「ぎひ……」
バニーハート自身の影が変形し、剣山のごとく彼を串刺しにした。
「ぎ……」
それぞれは実に細いものだが、その激痛は格別である。
「う……」
あまりの痛みに、ウサギ少年は床に倒れこんでしまう。
「ぐ、くそ……」
アンダー・ザ・ムーン。
確かそんな名前のアルトラだった。
しかしまさか、ここまで汎用性のある能力だったとは……
プライドの高いバニーハートも、さすがに自分の見通しのあまさを恥じた。
「ぎひ!?」
苦しむバニーハートの頭部を、鷹守幽は足蹴にする。
ほら、どうした?
もう降参か?
そんな挑発にも取れた。
「ぎひ……よくも、よくも、この、僕をおおおおおっ!」
ウサギ少年はついにプッツンした。
ものすごいオーラに圧倒され、さしもの暗殺者も反射的に後方へとしりぞく。
「ぎひ、たかもり、ゆう……おまえは、おまえだけは……!」
ウサギのぬいぐるみが翻り、バカでかい口から無数の牙がのぞいた。
「エロトマニア、やれ!」
「――っ!?」
その牙は誰あろう、主人の首筋へがぶりとかぶりつく。
「エロトマニア、ファイナル・ドーピング!」
何かが注入されているような光景。
それに比例し、バニーハートの肉体が膨れ上がっていく。
「ぎひぃ……」
筋肉が増強され、身長も高くなった。
「ぎひ、行く、ぞ――!」
「――っ!?」
目にもとまらない速さ。
パンチ一発で、鷹守幽はうしろへと吹き飛んだ。
これまでとは比べものにならないパワーとスピード。
彼はやっとのことで起き上がろうとするが――
「ぎひ」
髪の毛をつかまれ、コンクリート製の地面にたたきつけられる。
「粉々に、してやる」
バニーハートは矢継ぎ早に鷹守幽をいたぶった。
露出した肌にどんどんと傷あとが増えていく。
「ぎひひ、気持ちいいな、おまえをオモチャにするのは」
ボディブロウを受け、背後の壁面に激突する。
「……」
満身創痍、まさにそれだった。
「安心しろ、殺しはしない。おまえは、僕の、ペットにする」
絶体絶命、と思われたが。
「何が、おかしい?」
笑っていた。
いや、いままでの笑顔ではない。
それはとても恍惚に満ちた、まるで愛する者をようやく見つけたときのような……
「頭が、おかしくなったか?」
バニーハートはそう言いながらも、体が寒くなるのを感じ取った。
鷹守幽は両手を広げ、スッと首のうしろを押さえつけた。
「何を、する気だ……?」
「……」
心臓の鼓動が加速し、血管が太くなる。
ウサギ少年がしたように、彼もまた自分の肉体を増強しているのだ。
「おまえも、できるのか……」
パンプアップしたその体は、とうてい以前の比ではなかった。
「ぎひっ――!?」
バニーハートがうしろへ吹き飛ぶ。
見えなかった、攻撃を放つ瞬間さえ。
彼はいよいよたぎってきた。
これほど不足のない相手はいないと。
「たかもり、ゆう……!」
「……」
鷹守幽は「かかってこい」のしぐさをする。
「ぎひひ、行くぞ――!」
「――っ!」
「ゆううううううっ!」
「――っ!」
拳と拳がぶつかりあう。
もはやこれは、愛ではないかと。
そんなふうに互いが錯覚した、そのとき。
遠くのほうで爆発音がし、土煙が充満する。
「――!?」
こつこつ。
ハイヒールの音がこちらへとやってくる。
「ふっふっふっ」
「ディオティマさま……!」
ディオティマ、彼女だ。
例によって、薄気味悪い笑みを浮かべている。
「バニーハート、安心なさい。これで彼の死亡は確定しましたよ?」
「と、言うことは……」
「そのとおり、完成したのです。最強の生体兵器、その名もウツロ・ボーグが」
煙の中からひとつ影が姿を現す。
ウツロだ。
しかしそれは、アルトラ「エクリプス」の能力によって、毒虫の戦士の姿となっていた。
そこに機械的なパーツがいたるところに組み込まれ、サイボーグのようにも見える。
円環状に光輪のような羽を広げるその姿は、あたかも天使のような印象を与えた。
「さあ、ウツロさま。神に歯向かう愚か者を、なにとぞお清めください」
「……!」
鷹守幽は戦慄した。
彼ほどの手練れをもってしても、その異形のオーラに圧倒されたのである。
「虫ケラめ、神の力で、滅ぶがよい……!」
暗殺者の首筋が、しっとりと濡れた。
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