ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき

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ネタばらしと恐怖

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人脈の宝庫と知り合いになれるからと思って、おかしな告白をしてきたやつについて来たのは間違いだった。昨日まで考えていた自分の甘い計画が急にみすぼらしいものに思えてくれる。相手は、一族全員が社会的に高い地位についている権力者の一人だ。こっちの甘い考えをそのまま通してくれるはずがない。一般家庭の自分など、如何こうしても問題にもならない。
祐樹はとっさに、トイレに行く振りをしてバックレようと考えた。
しかし、場所を聞いたウォシュレットスペースは、シアター内に完備されていた。
祐樹は別の逃げる策を考えようとしたが、思いつかなかった。出入り口に人が立っている可能性や、鍵がかけられている可能性を捨てきれない。しかし、相手が自分は女であると勘違いしている事実を思い出した。少なくとも、相手はそう想定して自分を、この場所に連れ込んでいる。それなら、男だと知れば諦めるはずだ。どのみち襲われれば、体でばれてしまう。それなら、襲われるという恐怖体験を避けるためにも自分から告白した方がいい。祐樹が蓋をしていた過去の思い出が頭をのぞかせる。恐怖で体がすくみなかなか動かなかった。自分の体を抱きしめ、大丈夫だと自分に何度も言い聞かせてようやく立ち上がった。
しかし、トイレを一歩出たところで足が震えた。祐樹は後悔していた。
正直昌磨を舐めていた。金持ちのレベルもそうだが、距離のつかみ方もわからないような阿保な告白をしてくるやつなんて、程度が知れていると思っていたのに。祐樹はスクリーンの光を浴びて青白い色をしたソファー席にようやく戻ると、昌磨の隣に少し距離を置いて座った。そして、覚悟を決めて口を開いた。
「昌磨くん。一つ言っておきたいことがあるんだ。」
映画は間もなく上映というタイミングだった。
「どうされました?」
「その、勘違いしているみたいだから、言いにくかったんだけど、俺男なんだよね。」
昌磨はポップコーンをつまんでいた手を止めた。正確に言うと止まった。
「あと、名前も祐じゃなくって祐樹ね。友達には祐って呼ばれてるけど。」
「でも、女性専用車両に乗ってたじゃないですか。」
「あれは、モラル上よくないのは知っているんだけど、俺見た目こんなんだから、男にも痴漢されちゃうんだよ。それで、困って。」これは、本当だ。男に尻を揉まれる恐怖は想像を絶する。
昌磨からは反応がなかった。相変わらず手が止まったままの阿保面だ。
「嘘ですよね。だって、こんなにも可愛い人が男だなんて。」少し泣きそうな目は幼ささえ感じる。祐樹は混乱した。故意にこの映画館を選んだわけではないのか?
「いや、本当だよ。胸だってないだろ。ほら。」
しかし、昌磨は現実を受け止めきれない様で嘘だとつぶやくばかりだ。その様子はとても、計画的にこの映画館を選んだようには見えなかった。
もしかして、こいつにとっての映画というものはこのスタイルが当然で、自分が勘違いをしてしまったとか。昌磨の様子は、『冗談でした。女の子だよ』と言っても騙せそうだ。
そこで、ようやく祐樹は自分が勘違いをしていたことに気が付いた。
途端に、祐樹を襲っていった恐怖感が抜け落ちた。それどころか、祐樹の言葉を真実だと受け止めることができず混乱状態に陥っている昌磨を目の前にして、面倒に思う自分が徐々に表れてくる。
「いや本当だって。」服をめくって見せた。
「下はさすがに見せられないけど、ほら何もないだろ。」
昌磨は慌てて目を手で覆い隠した。
「は、早く隠してください。」ここまでされるとイラつく。
「男なんだから、意味の分かんねえことすんな!」仕舞には、祐樹が無理に昌磨の手をはぎ取って無理矢理見せた。これでは、男の胸を見るよう強制している祐樹の方が変態みたいだ。昌磨は手が取れた途端目が釘付けになった。
なんて、ばかっぽい顔。先ほどまで疑っていた自分が恥ずかしくなる。
ようやく我に返ったのか、昌磨は慌てて下を向いた。
「あ、あの、僕のことが嫌いで嘘をついているとかではなく。」
「男だよ。」
「実は、トリプルAで胸が小さいという訳でもなく。」
「しつこいな!男だって言ってんだろ。」
昌磨はようやく理解したのか、今度は明らかに消沈したように頭を垂れ、何も言わなくなった。沈黙が続く。映画は既に起承転結の起が終わりかかっているのだろう。アクションシーンの爆音が館内に響く。映画の主人公はヒロインを抱えて泣いている。なぜ、こういう展開になったのか逃した場面が多すぎて、もう物語にはついていけなかった。
祐樹は視線を昌磨に戻す。まだ呆然としたままだ。このままいれば、また、面倒くさいやり取りをさせられるだろう。
既に、すべてばれてしまった以上、ここにいる意味はない。
祐樹は帰ろうと立ち上がった。この様子だと、出入り口が閉まっていて帰らせてもらえないってことはなさそうだ。せっかくの金持ちの人脈に近づけるチャンスを潰したのだからもっと後悔するかと思ったが、昌磨のバカっぽい顔を見ると計画も、恐怖でばらしてしまった自分の不甲斐なさも、全てどうでもよくなってしまった。
祐樹は、自分の荷物を持ってシアターを出た。今の時間帯はすべてのシアターが上演中のようで、人ひとりとしておらず館内を歩いているのは自分だけだ。

昌磨は、祐樹の告白が真実だと知った瞬間、動けなかった。あんなに、可愛らしいく美しいのに男。街で見かけたとき、陳腐な表現だが文字通り稲妻に打たれるようなショックを受けた。衝動に突き動かされるまま体が勝手に動いて、祐樹の後について行ってしまった。そこからは、苦悶の日々だった。その終わりがこんな形になるなんて。
昌磨は初めて街で見かけたときの思い出が脳内でリフレインして、動けなかった。しかし、祐樹がシアターのドアから出ていく足音を耳にした瞬間我に返った。
男だと知っても、自分の感情に変化が一切ないどころか、男の胸だと分かっても、祐さんのだと思うと心臓の鼓動がはやくなった。自分が彼を好きになったのは、性別が理由ではない。そう考えると、体が急に軽くなり動いた。立ち上がって、祐樹を追いかける。
男だという理由では祐樹さんを諦めることなどできない。このまま、帰してしまったら、ずっと彼を思い続ける痛みに苦しみに後悔する。昌磨は、駅のホームで理想と遠く離れた不本意な告白をした時と同じように、本能に動かされてシアターを飛び出した。
「祐さん!待ってください!」突如背後から昌磨の呼び止める声が響いた。どうやらショック状態から目覚めたようだ。祐樹は面倒くさそうに振り返る。
「男でもいいです。それでも、僕とお付き合いを前提に友達になってください。」
「はあ!?何言ってんだてめえ!」
「先ほどは、衝撃で何も言えませんでしたが、その、祐樹さんが男だと知ってがっかりしませんでした。それどころか、胸を見てドキドキしました。だ・・・」
昌磨は言葉をつづけようとしたが、祐樹の大きな声によって遮られた。
「お前が男でよくっても、こっちは良くねえんだよ!」
昌磨は頭の螺子は相当ぶっ飛んでる。男だと知っても好きってなんだ!?今まで勘違いしてきた男たちよりずっとたちが悪い。祐樹は、違う意味の恐怖に突き動かされ、ダッシュで映画館を抜け出した。
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