妖符師少女の封印絵巻

リュース

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一章 妖符師誕生編

15 お守り

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 翌日、数日ぶりにたっぷり眠り、目を覚ますと早朝。
 怪我をした分は長く睡眠をとれば回復が促進されるのですが・・・少し怠いだけで怪我自体は治ってますね。つくづく便利な体になったものです。

 それでは、朝食をつくって頂きましょう。その後はあやかし屋の開店です。








「凪沙さんは照れ屋さんなのかな?」

「いきなり何の話なの!?私はそんなんじゃないよっ!」


 お昼を過ぎて客足が減少したころ、沢渡製糸の凪沙さんがあやかし屋を訪れました。用件は単純で、注文していた製品の納品です。これで全て揃ったわけですね。わざわざすみません。


「でも、中々呼び捨てで呼んでくれないよね?」

「うっ・・・それは、でも・・・恥ずかしいから・・・!」


 やはり照れやさんのようですね。頬を赤らめていて可愛いです。セミロングの髪の毛をクルクルさせているのがまた、何とも言い難い・・・。
 小さな切っ掛けさえあればもっと親密になれると思うのですが、もう少しかかりそうです。急かすようなことではありませんし、のんびり根気強くいきましょう。


「ところで、愛するお父さんのお具合はどうですか?」

「一言余計だよ!それで、お父さんなんだけど・・・どうもあんまりよくないみたいで。あやかし屋さんにも迷惑を掛けることになると思う。御免なさい・・・!」

「そうですか・・・。こちらのことは大丈夫だから、気にし過ぎないで?
 それと・・・お父さんが快方に向かうことを、陰ながら祈っています」

「うん・・・ありがと、若葉」


 おお・・・!呼び捨てで呼んでくれた・・・!
 でも、凪沙さんは気づいていないみたいだから黙っておきましょう。
 以前のように指摘して元に戻してしまう行動は避けるべきです。

 しかし、お父さんの具合は良くならないままですか・・・。
 凪沙さんの家へ毎晩訪れていたであろう中位悪霊のせいかと思っていましたが、それだけが原因ではなかったのか。はたまた別の理由で再び悪化しているのか。
 直接目で見てみない限りは何とも言えませんね。見たからといって必ずしも分かる訳ではありませんけども、見ないよりは遥かにマシですから。


「今度私もお見舞いに行こうかな・・・?」

「えっ?いいよいいよ!そんな手を煩わせるのも悪いし・・・!」


 残念ながら断られてしまいました。
 ここで食い下がるのも変だし、素直に引き下がるしかないかな。
 でもせめて、少しでも役に立ちたい・・・!


「凪沙さん、あやかし屋特製のお守り、お一つどうですか?」

「へっ?あ、うん。じゃあ頂こうかな・・・」


 どうやらお買い上げの意志はある模様。藁にもすがりたい心境なのでしょうね。
 ・・・詐欺師の方に騙されないか心配です。


「では・・・これなんてどうでしょう?」

「えっと・・・?『安産祈願のお守り』・・・!?いらないよっ!」


 どうやらお気に召さなかったご様子。
 あやかし屋特製『安産祈願のお守り』は、松が千円、竹が五百円、梅が百円です。
 効果のほどは不明ですが、是非お買い求めくださいね。
 
 ・・・誰に宣伝しているのでしょうか、私は。


「では、こちらはどうですか?」

「これは・・・『交通安全祈願のお守り』かぁ・・・。どうしようかな・・・?」


 今回は迷っておられるご様子。
 なお、お値段のほどは安産祈願のお守りと同じです。
 まだ高校生になっていない凪沙さんには、松は高いかもしれませんね。

 そういえばもう一つ、一番お薦めすべきお守りがありましたね。
 こちらも宣伝しておきましょうか。


「それから、これが一番のお薦めだよ?」

「お薦め?えっと、『悪霊退散のお守り』、か。こういうのも売ってるんだね。
 私は悪霊なんて信じてないけど・・・。それで値段は・・・・・・ええっ!?
 梅の百円と竹の二千円はまだ分かるからいいとしても、松が一万円から!?
 ねぇ若葉、これって値段設定を間違えているわけじゃないんだよね・・・?」


 はい、もちろん間違えてはいませんよ。松の『悪霊退散のお守り』は一万円からとなっております。
 なお、これは最低価格であり、上限ではありません。その気になれば十万円のお守りも販売いたしますよ。
 この値段設定には勿論ちゃんとした理由があるのですが・・・。


「もし『交通安全祈願のお守り』をお買い上げいただけるのであれば、大サービスで『悪霊退散のお守り・松』をお付けしましょう」

「ええっ!?そんな高価なものをおまけにつけちゃっていいの!?」


 勿論大丈夫ですよ。経営的にも全く打撃はありません。


「うん、大丈夫だよ。
 だって、そのお守りには値段ほどの価値がないからね・・・!」

「絶対に言っちゃいけないことを笑顔&小さなガッツポーズで言い切った!」

「多分、材料費は千円も掛かってないよ・・・!」

「若葉っ!それは黙ってなきゃいけないことだよね!?」


 はい。その通りですね。
 他のお客さんが聞いていなくて良かったです。


「それと、当然お守りそのものに効果なんてないよっ・・・!」

「それも言ったら駄目なやつ!そこは何となく理解していたけれども!」


 私が言った通り、この『悪霊退散のお守り・松』自体には、間違いなく効果なんてありません。千円で作れるお守りに効果を期待する方が間違っています。

 ですが、これにはちょっとした仕掛けがあるんです。
 まあ、簡単に言ってしまえば、依頼者が認識しない形での悪霊退治ですね。
 一万円という価格は、悪霊退治依頼の依頼料ということです。

 ・・・ええ。こういう形にでもしないと、早々依頼なんて入りません。

 これでもほんの申し訳程度の施策なのですけどね。
 普通は一万円のお守りなんて買いませんから。

 ですが、このお守りが効くという噂が流れれば・・・話は違うと思いませんか?

 はい。凪沙さんにタダでオマケしようとしているのはそういう意図もあります。
 私自身が噂を流すのは難しいですからね。
 お守りも売れるようになり、凪沙さんのお父さんの為にもなる。
 まさに一石二鳥です。

 もっとも、上手くいくかは分かりませんので、布石の一つという扱いですけどね。

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