妖符師少女の封印絵巻

リュース

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三章 水の怪異編

53 閑話 東雲咲良

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 夜の町中をタクシーに揺られながら、少し前のことを思い出す。

 あれは、ほんの二週間ほど前の話でした。







 ベッドの上で窓から外を眺める毎日。


 本当に・・・どうして私の目は見えないのでしょうか。
 私、何か悪いことでもしたのでしょうか。

 健康だったら、今頃高校生になる準備をしている時期だというのに・・・。


 どうしてっ・・・私は目が見えないんですかっ!?

 私だって、普通の生活がしたいのにっ・・・!
 私だって、友達と遊んだり、恋をしたりしたいのにっ・・・!

 そんな思いを抱えながらも、それを表には出しません。
 ただでさえ心労を掛けている父と母に、更なる心労を掛けてしまいますから。

 でも・・・もし、胸に秘めた願いが叶うなら・・・悪魔に魂を売ってもいい。
 私、東雲咲良の一日はいつも、そんな思いを抱きながら始まっていました。



 今思えば、あの出来事は、そんなことを考えた罰が当たったのかもしれません。
 いえ、そんな言い方をしたら、あのお姉さんに失礼ですね。

 
 その日の夜中、私は窓の鍵を開けたまま、眠れない夜を過ごしていました。
 眠れないのは、もうじき始業式が始まる時期だったからかもしれません。

 ある日突然目が見えなくなり、本来なら高校生になる時期。
 中学こそ卒業出来ましたが、その後は・・・・・・。
 夢見が悪いのも仕方が無いですよね。

 そんなことを思っていた時でした。
 部屋の窓が勝手に開いていく音がし始めたのです!

 その時は・・・そうですね、得体のしれない恐怖を感じていました。

 だからこそ、温かい印象を受けるお姉さんが入ってきた時は別の意味で驚きました。見えているのとは違うんですが・・・何故か分かりました。

 そこからの数時間は、まさに怒涛の展開でした。
 私に、目が見えるようになったら嬉しいかと問い、私がそれに肯定すると、盲目の治療(?)が始まったんですから。

 お姉さんに教わって実感させられた不思議な力。
 それを血液のように循環させると・・・目が見えるようになりました。

 その時の気持ちは・・・歓喜というにも生温いですね。
 その場で踊りだしたい程に嬉しかったんです。
 
 それから、お姉さんの前で泣いてしまって、その時のことは治療前に感情を昂らせたのと並んで忘れたい思い出です。

 まさか盲目が治るなど思いもしていなかったので、驚愕しました。
 ですが、その後すぐに、更に驚愕することに。

 あのお姉さんが、窓ガラスを突き破って部屋に飛び込んできたからです。
 それも、自分からやったのではなく、ナニカに飛ばされたかのように。

 血まみれのお姉さんを見た時は・・・心臓が止まる思いでした。
 その後に視た禍々しいナニカのおかげで、それどころではなくなりましたが。

 結局、その禍々しいナニカはお姉さんがどうにかしてしまいました。
 私は怯えて泣いていたので、何がどうなったのかはいまいち分かりませんけど。

 ・・・あの時大泣きしたことも、やはり忘れたい思い出です。
 一日に何回泣くんですか、私は。


 それから少しして、私は無事に退院しました。
 その直後に入院していた病院に警察が捜査に入ったそうですが、父と母が話していたのを聞いただけなので詳しくは知りません。

 あの割られた窓ガラス・・・お姉さんが関係してると思います。
 口止めされたので、死んでも話しませんけど。


 それから私、高校に通えることになりました!
 既に入学式から時間が経っていますし、夜間の部という特殊な環境。
 でも、来年までは無理だと思っていたので、それだけでも十分です!

 家の父はお偉いさんといいますか、権力者なので、無理を通したのでしょう。
 身内褒めになりますが、こんな盲目で出来損ないな娘にも、溢れんばかりの愛情を注いでくれる、最高の父親です。
 確か、市議会議員というやつだったと思いますが・・・。

 高校に通う前日になって、とある事件が起こりました。
 あのお姉さんからもらった名刺が見つかってしまったんです。

 顔から血の気が引いていくのが分かりました。

 ですが、ちょっと思いもしない方向に話が転んだのです。
 その結果が、今の状況ですね。


「あのお姉さんのご両親がお父さんと知り合いだったなんて、驚いた・・・」

「それは私も同じだ。彼らにはしばらく会っていないのだが、父さんと母さんは本当に世話になったんだ」

「そうよね・・・。あの時のことは、今でもいい思い出よ」


 父と母は何かを思い出すように目を瞑っています。
 その雰囲気から、心底感謝していることが伝わってきます。


「そんな彼らの娘が咲良の目を治してくれたなんて・・・いよいよもって頭が上がらないな。それに、こう言っては失礼だが、もっと早くに訪れるべきだった」

「そうね。まさか、医学方面にも精通していたなんて・・・」

「へぇ・・・」


 あの禍々しいナニカについては何も知らないようなので、話を合わせます。
 お姉さんに対するこれ以上の裏切りは、ダメです。


 と、目的地に着いたのでタクシーを降ります。


「さて、咲夜は元気にしているだろうか・・・」

「あら、紅葉なら絶対に元気だと思うわよ?」


 そんなことを話しながら、呼び鈴を鳴らす・・・前に人が出てきました。
 あの日に会った、あのお姉さんでした。相変わらず大人びています。

 あの時は見えていませんでしたが・・・こうして見ると意外と若い方かも?


「夜分遅くにすみません。咲夜さんと紅葉さんは御在宅でしょうか?」

「・・・とりあえずお入りください。外は冷えますから」

「・・・そうですね。失礼します」


 父が私の方をちらりと見てから、お邪魔することを選択。
 私の体調に気を遣ってのことだと思います。

 建物の一室に案内され、そこで腰掛けます。


「改めまして、私は影山若葉と申します。現在は、この『あやかし屋』の店主を務めております。父の咲夜と、母の紅葉は・・・先日亡くなりました」

「「「・・・・・・え?」」」


 亡くなった・・・・・・え?


「咲夜と紅葉さんが、亡くなった・・・!? それは本当なのですか!?」

「はい。間違いなく亡くなっています」

「っ、そんなっ・・・!」


 父は力なく俯き、母は口に手を当てて顔面蒼白です。

 こんな二人は初めて見ました。
 余程、亡くすのが惜しい人だったのだと思います。

 かくいう私も、無関係にもかかわらず、ショックを受けています。

 お姉さん、若葉さんの心中を考えると・・・胸がキリキリと痛みます。



 その後、互いの自己紹介を兼ねた身の上話をしました。

 まさか、お姉さんが同い年、同学年だったとは・・・。
 その事実を聞いたときはポカンとしてしまいました。
 さぞ間抜け面を晒していたことでしょうね。恥ずかしい。

 そして、部は違えど、同じ高校の同級生・・・!

 私の家から桜台高校が遠いという話になったら、お姉さんの好意で、ここで住み込みで働かせてもらえることになりました。
 恩返しにもなるようですので、家族一同、否はありませんでした。





 そういう訳で、仕事一日目。
 まずは仕事を覚えなければ、と思っていた矢先のこと。
 何と、机の上に若葉お姉さんが持って行くはずの扇が置かれていました。

 私は、急いで若葉お姉さんを追いかけました。

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