妖符師少女の封印絵巻

リュース

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三章 水の怪異編

81 激怒の理由

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 若葉に凄まれた双蛇組組長の心境は、実に分かりやすい。
 すなわち・・・「殺されるっ!?」である。

 およそ人間とは思えない威圧感に怯えた組長は、すぐさま行動に移った。


「ま、待てっ! 何が望みだっ? 金か? そ、それとも権力か? 金なら望むだけくれてやるしっ、権力なら役立たずの代わりに副組長にしてやってもいい!」


 要は、命乞いである。
 それが本質なのか、この状況でも上から目線かつ傲慢だが、男は本気だ。
 これだけのものを提示すれば、必ず矛を収めると愚かにも信じているのだ。

 そして、そんな条件に頷く若葉ではない。


「そんなものは要りませんよ。ですが、一つだけ欲しいものがあります」

「欲しいもの? あ、ああっ、いいだろう! その欲しいものをくれてやるっ! なんだ、話が分かるじゃないか!今ならお前を副組長にしてやっても―――」




 ストンッ・・・!




「―――私が欲しいのは、あなたの命と、この団体の壊滅ですよ」


 若葉の姿がブレたかと思うと、次の瞬間には組長の頭へ扇を突き付けていた。
 歩法と足さばき、重心移動を利用した疑似的な<縮地>だ。

 突き付けられたのは金色の扇
 異様な気配を発しており、間違いなく命を奪うに足る存在。
 

「あっ、あああっ・・・!! うああああああああああっ!?」


 心臓が止まりそうな程に恐怖を抱き、錯乱して若葉に殴り掛かった。
 それを何でもないことのように、若葉は受け流す。

 何のことはない。
 妖怪との戦いに比べれば、子供の相手をしているようなものだ。

 細かく足を動かし、流れるような動作で回避を続ける。
 相手からすれば、まるで自分の攻撃が避けているような錯覚を覚えるだろう。

 敢えて止めを刺さずにいるのは、恐怖心を与えるためだ。
 それが報復の一環である。


「クソオオオオオッ!!死ねっ!死ねっ!死ねよおおおおおおおおっ!?」


 距離をとってから拳銃を取り出して次々に発砲するも、一発も当たらない。
 若葉は銃弾を回避しながら、少しずつ壁際に追い詰めていく。


「当たれっ!当たれええええっ!! 何で当たらないんだあああああっ!!」


 部屋の壁まで追いやられた男は、もはや正気をなくしかけていた。
 彼にとって若葉は、自分の命を刈りにきた死神のように映っているだろう。

 その時が刻一刻と近づいていき、組長は再び命乞いを始める。
 銃を捨て、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、懇願した。


「こっ、殺さないでっ・・・!! 許してくれえええっ・・・!!」

「許す? 何を馬鹿なことを。あんなことをした貴方がたを、許すとお思いで? 本気でそう思っているのであれば、尚更慈悲をかけるつもりはありませんっ!!」


 若葉は静かに激怒していた。
 今までの人生で数える程しかしていないような、マジギレだ。

 従業員に手を出されそうになったことも、当然怒っている。
 その件でわざわざ出向いたのだから、それは当然と言える。

 しかし、今となってはそれだけではない。
 彼女には、そこから更に激怒する理由が与えられてしまったのだ。


 組長室へ来る前に、パーティー会場の方へ向かった。
 そこはかとなく、嫌な予感を感じだが故に。

 それはきっと、人間なら誰しももっている第六感。
 極度に極まった情報分析能力だったのだろう。
 これまでに手元に入ってきた情報を総合し、凡その見当がついていたのだ。

 女性の理性を狂わせる薬の話。
 黒鹿組で聞いた、奴隷のように扱われる女性の話。
 わざわざ書きつけられた、パーティー会場の文字。

 これらから辿り着く答えは一つ。

 パーティー会場の見張りを気絶させ、扉を開けて中を確認した若葉。
 そこには想像を絶する異様な光景が広がっていた。

 少し時を遡る。
 彼女がそれを目撃したのは、今から三十分ほど前のこと。



 △△△



 私は今、地図に示されたパーティー会場とやらに来ています。
 何だか、とっても嫌な予感がし、本能が警鐘を鳴らしていたもので・・・。


「ゴフッ!?」

「ガハッ!?」


 門番らしき二人を殴って気絶させ、横にどかします。
 扉の中からは人の声が聞こえてきますが、一体中では何が―――

 ・・・いえ。もう分かっては、いるんです。
 認めたくないだけで、真実には辿り着いています。

 私は一度呼吸を整え、覚悟を決めて扉を開け放ちました。


「っ・・・!? これ、は・・・!!」


 私は思わず、口を押えてしまいました。

 大部屋の中には、数百人にも及ぶ男女。
 それだけならよかったのですが・・・っ!

 あちこちから聞こえてくる女性の嬌声。
 普通ではあり得ないほどの異様な臭気。
 どこもかしこも、絡み合う男女。

 狂ったように腰を振る女性は、もはや正気ではないのでしょう。

 一目見ただけで分かります。
 きっともう彼女たちは、完全に元の生活には戻ることができません・・・。

 それはまさに、狂宴という言葉がこの上なく似合う状況でした・・・。

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