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CHAPTER 20
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星岬技術研究所 南研究棟2F 開発主任室(兼紀伊邦哉自室)
星岬の所へは、思う所は色々あったが、事実としては世話を焼いてもらった訳だから、そこについてだけは礼を言っておこうと足を運んだはずだった。
だった?
部屋に戻った邦哉は、上着を脱ぐと部屋を区切るパーテーションに引っ掛けた。
ネクタイを緩めたところで、PCの前に座っているサーディアに気が付いた。
裸白衣から洋服に着替えている。
この洋服も星岬が用意していたものだ。
段取りが良く、先見の明があり、仕事ができる。
星岬開とはそういう人間、だった。
だった?
今は、何か、何とも言えない違和感がある。
・・・・・・よせよせよせよせ。やめておけ。
「おかえり」
サーディアが背を向けたまま声を掛けてきた。
「ただいま ・・・何をしているのかな?」
返事を返すと、サーディアの後ろから無遠慮に近づいた。その時!
一瞬、ビリッときたので反射的に身を引く邦哉。
「今朝のことで、自分なりに防衛策を考えてみたの。」
「いいんじゃないかな」と答えた邦哉は、サーディアの耳飾りから伸びるコードに気が付いた。
「どうしたんだ? 有線なんて」
「ネットは何者かに監視されてるので、直結で。」
「・・・」
サーディアが何をしているのかは聞かなかった。
邦哉は、違和感の原因を考えるのは保留にした。
邦哉が初めて自分が他のヒトと違うと感じたのは生まれてだいぶ経ってからの事だった。
一部の哺乳類のように、産み落とされた直後には自力で起ちあがっていた、かどうかは覚えていないが、どうやら最初に見たのは鹿か何かだったようで、私が最初に目撃された時には深い森の奥で、樹木の葉を食んでいたという話だ。
その時に、動物に友好的な人間に出会っていれば、少なからずそこから続く地獄の日々は回避できた、かもしれない。
というのも、私はどうやら成長という段階をすっ飛ばして成人の状態で生まれてしまったらしい。そもそも私は生まれた、といえるのか?
いつの世でも、成人男子が服も着ないで木の葉を喰っていたら、アヤシイヒト決定である。
散々追い回されて生け捕りが難しいとなると射殺され、火で焼かれ始末された。
否、確かに始末されたはずだった。
なのに私は再び森の中に立っていた!
そして、私は再び追い回される事となる。
だが、今度は少し状況が違った。
つい先日始末したはずのモノが何故ここにいるのか?
私は裁判にかけられた。
それは結局、私を合法的に始末するための単なる段取りに過ぎなかった。
私は速やかに処刑された。そして再び甦る事の無いように、入念に焼かれた。
しかし周囲の思いをよそに、私は現れた。
大人の格好で、言葉も、自分の名前すらわからず。
いい加減、裁判にも慣れてくると“言葉”というものが理解できるようになっていた。
どうやら其処が(後の)ドイツという場所だという事を把握するまでに1回焼かれ、なんとか会話の用が足りるようになるのにもう何回か焼かれた。
そんなこんなで10年ほどかかったろうか?“森の主”扱いされるまでに。
森の主として拘束を免れて森で暮らすことを許されると、盗賊に狙われるようになった。
盗賊団の度重なる襲撃を撃退する度に身体に傷が増えた。
この世に生を受けてまだ10年程度だというのに何度肉体を改めたことだろう。
その上今度は片目片腕を失うという大怪我。
だがこれも乗り越えた。
怪我の功名とでもいおうか、ナイフの扱いと傷の処置にはちょっとした自信を持てるまでになっていた。
もっとも、片腕を失ってからは無惨なもので、止血に焼き鏝を頼るようになったので傷痕は痛々しさを増して大きく残るものとなった。
そんな自分の傷痕だらけの大きな身体に、見るものは震えあがって命乞いをする始末だ。
もはや盗賊ですら私を怖がって近寄ろうとしなくなった。
遂に平和な日々を勝ち取ったのだ。
そう思った矢先に、私は胸が苦しくなって倒れた。
度重なる盗賊団の襲撃、その都度受ける深い傷、奪われる食糧、眠れない日々。
倒れた拍子に引っ掛けた灯りに使う油に釜土の火が引火して、自分で建てた小さな木の家は、私を焼きつくすのに充分な火力を発揮した。
生きながら焼かれる苦しみは、焼死した奴にしか解るまい。
肉体を焼失した私は、いつものように空を漂っていた。
すると眼下に見渡す広大な森の中に一匹の毛並みが良い真っ黒い猫を見つけた。
私はどうしようもなくそれが気になって仕方がなかった。
そんな時、雨雲が降りてきた。
私はこれ幸いと雨に混じり猫に向かって降りた。
間が悪かったのだろうか?
猫には飼い主がいたようだ。
私は猫に宿ってしまったのだが、その猫を探して亜麻色の髪の娘が現れた。
私は、あろうことかその娘の前で猫から人へ変態してしまった。
私は覚悟を決めた。
再び地獄の日々の始まりだ!と。
だが、私の覚悟をよそにそういう事にはならなかった。
亜麻色の髪の娘は私を猫の化身か何かと思ったらしく、衣類を用意してくれたり、住まいを整えたり何かと世話を焼いてくれた。
私は彼女から多くの事を学んだ。
その、なんだ、男女の機微というやつも、だ。
彼女は街外れの医者の娘であり、有能な看護師だった。
私はこの親子に気に入られて下宿を許された。
そして私はこの親子の秘密を知ることになる。
星岬の所へは、思う所は色々あったが、事実としては世話を焼いてもらった訳だから、そこについてだけは礼を言っておこうと足を運んだはずだった。
だった?
部屋に戻った邦哉は、上着を脱ぐと部屋を区切るパーテーションに引っ掛けた。
ネクタイを緩めたところで、PCの前に座っているサーディアに気が付いた。
裸白衣から洋服に着替えている。
この洋服も星岬が用意していたものだ。
段取りが良く、先見の明があり、仕事ができる。
星岬開とはそういう人間、だった。
だった?
今は、何か、何とも言えない違和感がある。
・・・・・・よせよせよせよせ。やめておけ。
「おかえり」
サーディアが背を向けたまま声を掛けてきた。
「ただいま ・・・何をしているのかな?」
返事を返すと、サーディアの後ろから無遠慮に近づいた。その時!
一瞬、ビリッときたので反射的に身を引く邦哉。
「今朝のことで、自分なりに防衛策を考えてみたの。」
「いいんじゃないかな」と答えた邦哉は、サーディアの耳飾りから伸びるコードに気が付いた。
「どうしたんだ? 有線なんて」
「ネットは何者かに監視されてるので、直結で。」
「・・・」
サーディアが何をしているのかは聞かなかった。
邦哉は、違和感の原因を考えるのは保留にした。
邦哉が初めて自分が他のヒトと違うと感じたのは生まれてだいぶ経ってからの事だった。
一部の哺乳類のように、産み落とされた直後には自力で起ちあがっていた、かどうかは覚えていないが、どうやら最初に見たのは鹿か何かだったようで、私が最初に目撃された時には深い森の奥で、樹木の葉を食んでいたという話だ。
その時に、動物に友好的な人間に出会っていれば、少なからずそこから続く地獄の日々は回避できた、かもしれない。
というのも、私はどうやら成長という段階をすっ飛ばして成人の状態で生まれてしまったらしい。そもそも私は生まれた、といえるのか?
いつの世でも、成人男子が服も着ないで木の葉を喰っていたら、アヤシイヒト決定である。
散々追い回されて生け捕りが難しいとなると射殺され、火で焼かれ始末された。
否、確かに始末されたはずだった。
なのに私は再び森の中に立っていた!
そして、私は再び追い回される事となる。
だが、今度は少し状況が違った。
つい先日始末したはずのモノが何故ここにいるのか?
私は裁判にかけられた。
それは結局、私を合法的に始末するための単なる段取りに過ぎなかった。
私は速やかに処刑された。そして再び甦る事の無いように、入念に焼かれた。
しかし周囲の思いをよそに、私は現れた。
大人の格好で、言葉も、自分の名前すらわからず。
いい加減、裁判にも慣れてくると“言葉”というものが理解できるようになっていた。
どうやら其処が(後の)ドイツという場所だという事を把握するまでに1回焼かれ、なんとか会話の用が足りるようになるのにもう何回か焼かれた。
そんなこんなで10年ほどかかったろうか?“森の主”扱いされるまでに。
森の主として拘束を免れて森で暮らすことを許されると、盗賊に狙われるようになった。
盗賊団の度重なる襲撃を撃退する度に身体に傷が増えた。
この世に生を受けてまだ10年程度だというのに何度肉体を改めたことだろう。
その上今度は片目片腕を失うという大怪我。
だがこれも乗り越えた。
怪我の功名とでもいおうか、ナイフの扱いと傷の処置にはちょっとした自信を持てるまでになっていた。
もっとも、片腕を失ってからは無惨なもので、止血に焼き鏝を頼るようになったので傷痕は痛々しさを増して大きく残るものとなった。
そんな自分の傷痕だらけの大きな身体に、見るものは震えあがって命乞いをする始末だ。
もはや盗賊ですら私を怖がって近寄ろうとしなくなった。
遂に平和な日々を勝ち取ったのだ。
そう思った矢先に、私は胸が苦しくなって倒れた。
度重なる盗賊団の襲撃、その都度受ける深い傷、奪われる食糧、眠れない日々。
倒れた拍子に引っ掛けた灯りに使う油に釜土の火が引火して、自分で建てた小さな木の家は、私を焼きつくすのに充分な火力を発揮した。
生きながら焼かれる苦しみは、焼死した奴にしか解るまい。
肉体を焼失した私は、いつものように空を漂っていた。
すると眼下に見渡す広大な森の中に一匹の毛並みが良い真っ黒い猫を見つけた。
私はどうしようもなくそれが気になって仕方がなかった。
そんな時、雨雲が降りてきた。
私はこれ幸いと雨に混じり猫に向かって降りた。
間が悪かったのだろうか?
猫には飼い主がいたようだ。
私は猫に宿ってしまったのだが、その猫を探して亜麻色の髪の娘が現れた。
私は、あろうことかその娘の前で猫から人へ変態してしまった。
私は覚悟を決めた。
再び地獄の日々の始まりだ!と。
だが、私の覚悟をよそにそういう事にはならなかった。
亜麻色の髪の娘は私を猫の化身か何かと思ったらしく、衣類を用意してくれたり、住まいを整えたり何かと世話を焼いてくれた。
私は彼女から多くの事を学んだ。
その、なんだ、男女の機微というやつも、だ。
彼女は街外れの医者の娘であり、有能な看護師だった。
私はこの親子に気に入られて下宿を許された。
そして私はこの親子の秘密を知ることになる。
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