クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 34

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同じ県内に住んでいた叔母夫婦の家に世話になることになった私は、丁度同学年の叔母夫婦の実子からの“イビリ”にあう事になった。
部屋を覗かれるなんて日常で、留守にすれば勝手に部屋に入られ、部屋のモノを勝手にいじられ、最悪紛失又は破壊された。
勉学においては優劣を問われ、私の方が成績が良いと分かると自分より劣る点を指摘しては自分の優位を保とうと弁をふるう、試験の時に筆記具にトラブルが無い事などなく、そんな従兄弟だった。
だが私はそれらの行為と事実について特別思う所はなかった。
むしろ私はこの従兄弟の行為から学んだ。
如何にすれば、この“卑怯で卑劣にして愚かな行為”が他者にバレずに遂行できるのかを。

おかげで私はこの叔母夫婦の実子を排除して養子の話が口に登るまでの信頼を得るほど、存在を認めさせることに成功した。
実子は案外早くに突然死してしまったので、その点は少々物足りなく残念で仕方ないが、もはや骨すら残っていないモノのことについて多くを語れる程、私も後ろ向きではない。


結局のところ、私はこの叔母夫婦の養子にはならなかった。


私は奨学金制度を利用する事が叶ったので、高校そして大学と金銭面をそれ程気にせずに
学業に専念できた。
叔母夫婦は私に更に上を目指してはどうかと大学院を勧めてくれたが、早く独り立ちしたかった私は就職を選んだので、大学のカリキュラムを修了したところで叔母夫婦の元を離れる事にしたのだった。
二人には実母を亡くしたあの日から今日まで、これ以上は無いくらい良くしてもらい、まるで本当の母と父のように私は心の底から感じていた。何を以てしても表現し尽せないほど世話になったので二人との別れは本当に辛かった。
私は自分に出来る精一杯の表現で気持ちを伝えたに過ぎなかったのだが、二人がまさかこのような形で私の気持ちに応えてくれるなんて、思ってもみない事だった。
私は二人から多額の支援金を拝領したのです。
当面の生活費は賄えるだろう。
それ程の大金だった。
二人にはもう会えないが。

そして私は大学近くにある小さな研究室に研究員として勤める事にした。
その研究室を選んだ理由だが、私にとって絶妙なタイミングで研究員に欠員がでたとかで、急遽募集を掛けたところを私が押さえ、採用されたと云う訳だ。
勿論、それだけではなく“生体工学”を研究テーマにしているところが私の研究テーマに合致したということもあった。
論文の作成・発表にも追い風になるだろう、という打算もある。
もっとも、論文については教授次第でどうなるのかわからない。
もしも教授が私の研究を自分のものとして発表するような卑怯で卑劣な愚か者であれば、排除すれば済む話だが、時間は取り戻せないからなぁ・・・。

その小さな研究室の教授だが、日本人というには少し離れた容姿をしていた。
それに目立つのに影が薄いというか何というか・・・。
先ず目立つのは背丈で、聞けば身長195cmだという。
秀でたオデコに細い眉と落ち窪んだ細い眼。
これで縫い痕でもあれば“フランケンシュタインの怪物”を地で行くような姿だ。
名前を“紀伊邦哉”(きいくにや)という。
これは教授には言っていない事だが、教授は以前一度会った事がある人物によく似ているのだ。
その人物は、本当は人間じゃないんだけど・・・。
この事は自分の胸にだけ留めておいた方がいいと思い、誰にも言っていない。
まぁ、こんなオイシイ秘密を他人に打ち明けるなんて、勿体なくてとてもとても・・・。


勤めだして分かった事だが、紀伊教授と私は案外“合う”ようで、お互いよく話すようになった。
それに一緒にいて飽きないというか、これまで他人に対してこんなに穏やかな気持ちでいられたことなど全くなかったので、逆に戸惑うばかりであった。

遂に教授の正体がわかった! 
教授は私を覚えていた!!
素敵だ!
あぁ、この人間モドキはどんな遺伝子構造をしているのか? 
見たい、見たいぞ!
解析したい! その日が、その日が待ち遠しい。

それから何年か経った頃、私の論文が学会誌に掲載されることになった!
いよいよ博士号取得が現実味を帯びてきたのだ!
星岬博士・・・( ^ω^)・・・
ステキだ!


私は博士号を取得したところで、かねてより計画していた“起業”を実現することにした。
ここで私は、計画には無かったが“紀伊教授”を誘ってみようという気になっていた。
一緒に会社を立ち上げるのだ!
教授は頼もしい味方となるだろう。
それに、観察対象は傍に置いておいた方が都合がいい。

早速私は自らの計画を教授に話した。
私の話しを聞き終ると、教授はタバコに火をつけ、深く吸うと、ゆったりと紫煙をくぐらせた。
そして短く一言で返事をくれた。
但し条件があった。
それはあまりにも意外な、到底考えられない条件だった。
私は社長職か、筆頭株主、あるいはCEO、この辺り(の役職)を当然要求してくるものだと想定していたのだが、なんと!? 自分を私の部下にしろ、というものだったから驚きだ。
だから私は副社長を提示したが違うという。
では専務を、というとそういうことではなく、現場が良いというのだ!
なるほど彼らしい。
と、私は素直に思えたので開発部門の部長ではどうか?と聞くと、もっと現場寄りが良いというので、仮にも教授が課長・係長では能力を疑われるのではないかと具申したところ、
開発主任がいいとの解答を本人の口から得られたので、その場でその待遇を確約した。


私と紀伊教授と、教授の研究室の仲間で私たちを手伝いたいとついてきた2人に加えて、一般公募の中から選出した6人の計10人で始めた技術研究所は、マイコン制御のオーダーメイド義手が思いのほか人気を集めて急成長したのだった。

代表取締役社長 兼 研究所所長以下、専務取締役、営業部長、開発部長、技術製作班長、事務長、営業主任、開発主任、技術製作工2人、の計10人だった技術研究所は5年とかからずに従業者数120人を数える立派な会社へと成長したのだった。

この頃になると私と紀伊教授は創始者として特に結びつきが強くなっていた。
それこそ二人の時などは “オレ”“オマエ”と呼び合って憚らない間柄だった。
彼が本当のところどう思っていたのか?はわからないが、少なからず周りは私たちが特別な関係を築いている事を暗黙の内に了解していたようだった。

私は生体工学が専門だったが、技術研究所の所長を務める内に機械工学にも興味を持つようになった。

そうしているうちに時間は過ぎ、あっという間に20年が過ぎていた。

紀伊教授とはザックリ30年来の付き合いになっていた。
研究室当時45歳という触れ込みだった彼は70歳過ぎという年齢になって、だいぶくたびれて見えるようになっていた。
死んだら火葬にしてくれと、辺り構わず言って回ってもいた。
案の定というか、彼にとっては予定していた事だったのだろう。
ある朝、彼は寝床にしていた開発主任室で冷たくなっていた。

緊急役員会議を招集し、身寄りのない彼を密葬で送る事に決まった。
私は中学2年生だったあの時を思い出していた。
思えばあの日から私はずっと何処かに何かモヤモヤとしたものを抱えていたのだ。
あの光景は本当だったのか?
猫が人間に変態することがあるのか?
私は遂にその現場に再度立ち会う機会を得たのだ!
ワクワクしない方がおかしいだろ?
先ず解剖、ということも考えなくはなかったが、もし解剖してその生命活動のサイクルを狂わせてしまう事があれば一大事だ!
安易に解剖はできない。

葬儀当日、彼の亡骸が炉に入るのを確認すると、火葬の最中に開発部長にその場を任せて、あの時の場所を目指した。
都合よく、いや、あの男には計画通りかもしれないが、天候も今にも雨が降り出しそうな様子だ。

ずっと地元で暮らして来た。
彼と、あの男と再会してからもずっと、地元で暮らして来たのはこのためだった。
この機会を待って地元で起業し、土地を購入し、雑木林を保存した。
完全再現と云う訳にはいかないだろうが、かなりの高確率で再現されることを期待していた。
移動方法も徒歩にこだわった。
おかげで用意した荷物の保管場所の確保には若干苦心した。
だが土地を所有しているのだ、管理小屋を作っておいたのでそれは解決を見た。
普段ほとんど使われない管理小屋に目を付け、勝手に使用していたガラの悪い学生たちの排除は、思わぬ利益を私にもたらした。
確保が困難な貴重な被験体、その確保だ。
科学の発展のための礎になるべく、若さを持て余すその身を惜しまず無条件で差し出すとはその心意気や良し!

・・・話しが逸れた。

あぁ、なんて素晴らしい日だ!
いよいよだ!
黒猫も用意した。
着替えも用意した。
早く降りて来い、オジサンの素、邦哉!!

まるで私の声が、心の叫びが天に届いたかのように雨が降り出した。
私は身体中を駆け巡る興奮物質に打ち震えた。

そしてその日、私は確かにあの男の再生を確認したのだった。






◆荒涼とした駐機場の片隅にある管制塔のような建物の中の一室◆



星岬を懐柔するため、自分の持てる情報をぶつけて抵抗力を削ぐ作戦を実行している。
更に言葉で正常な判断力を鈍らせる。
「大した見世物だな、星岬!?」

「私に思い出など必要ない、やめろ!!」


邦哉は思った、こうして身体を共有してみてようやく、というかやっとお前の思う所がきちんと理解できるようになったと。
そして科学者としては一目置かずにいられない存在だと。
このシリコンとカーボンを基本に創造された“人工人間装置”の素晴らしさ。
プロトタイプが一万年も前に造られていたなどと、驚き以外の何物でもない。
だが星岬はヒトとしては欠陥がある。
それはヒトとして失ってはいけないものであったが、星岬は始めからそれを持っていないようだった。
それは“良心”という。
星岬にあるのは純粋な好奇心と探求心だけだった。
偏った心はヒトを傷付ける。
無邪気な悪意。
己の好奇心と探求心を埋めるためであれば、何者をも恐れず、奪って、満たしてしまう。
狡猾、星岬は残念ながら子供の頃からガキですらなかった。

「酷い言い様じゃないか、邦哉」星岬が声を荒げる。

「どの口がモノを云うのか!? お前はオレをただただ観察対象としてしか見ていなかったではないか!」 
邦哉は心底ガッカリしていた。
オレはオレの経験や蓄えた知識を利用されるのならそれはある意味では仕方がないことだと思って割り切っていた。
数百年生きて初めて自分を友として見てくれる者に出会えたと思っていた。
科学の発展について夜通し語り合った。
オレ・オマエで呼び合える人間の友人ができたと思っていた。
だがそれは社交辞令に似た薄っぺらい付き合い以下の関係だった!
星岬が大事にしていたのはオレとの友情ではなくてオレの特異性の部分のみであった。
こんな簡単な事を理解するのに、一万年もかかってしまうなんて、人間が分かり合う事のなんと難しいことか・・・。

「お前が人間? ガス状生命体か何かの間違いじゃないか?」星岬が苦々しく言う。

「確かにオレはガス状生命体だが、これが地球人類の辿り着いた進化の最終形態だ」

「最終形態とは、笑わせる! 他の生物に憑依してゲノムに介入しヒューマノイドに強制変異させて生命活動をつなぐ、この強盗風情が!」星岬は本音で攻め立てた。

「なんと言われようと、この形態に辿り着いて生き残った人類は」邦哉が言い淀む。

「まさか・・・まさか!? さっき他の場所にいるって! 女! 答えろ!」星岬が叫ぶ!

「・・・だから、一緒だから、もう寂しい事もない」

「い、嫌だああああああ!」

逃げてやる! 絶対、逃げてやる! 星岬はKE-Q28のコントロールを奪いに掛かる。

「邦哉、次にお前がやろうとしている事がハッキリわかるぞ!」

身体を共有している以上、考えが駄々洩れになるのはどうにもしようがない。

「見える見えるぞ、女! 通信経路が丸見えだ!」

「コイツ、ナニ言ってんの? キモっ!」
SDR-03は、通信回線にしつこく侵入してくるKE-Q28の器を借りた上から目線の“異邦人”をあしらいながら時を待った。

「む、データリンクを絶とうとしているな? 女。だがもう遅い!」

「このあたしを圧倒している!? あたしが情報戦で押されているだと?」

通信を掌握しているのが誰なのか誇示するように「喜べ! この私を上書きしてやるぞ」と星岬が勝利宣言をしようとした瞬間、邦哉が割って入った。

「それは1万年早いセリフだ」
そう言って邦哉はKE-Q28のコントロールを奪い返し、SDR-03とのリンクから星岬のデータを駆除した。
「元々オレの為のデバイスだぞ。それにSDR-03だってこのKE-Q28と同世代のモデルだ、1万年前のモデルとはあらゆる面でアップグレードされてるんだ。基本設計者がオマエだからって好きにさせるかよ」

「セキュリティか・・・それだけではない、100世紀分の技術格差! ぬううううううううううう」
逃げてやる!逃げてやる!逃げてやる!逃げてやる!逃げてやる!逃げてやる!逃げてやる!何としても逃げてやる!!!
星岬は邦哉とKE-Q28のコントロールを奪いあって、傍から見るとドアに左手首を突っ込んだ状態で痙攣している長身の男という珍しい画を作り出していた。
その時、星岬に妙案が閃いた!

情報集約
 状況:完了
血管収縮
 状況:開始
 状況:完了
血流停止
 状況:完了
痛覚遮断
 状況:完了
筋肉弛緩
 状況:完了
軟骨細胞:剝離準備
 位置指定:左手首
  状況:開始
  状況:完了
細胞結合/部分解除
 部位指定:左手首
  状況:開始
装置切り離し
 部位指定:左手首
  状況:開始

「さらばだ、邦哉!」星岬は自分のデータを左手首に集約すると本体から切り離した!
 
「馬鹿な! なんてこと思い付きやがる!?」邦哉はドアから手を引き抜くと、失ってしまった左手首をドアに開いた穴から探したが死角に転がったのか見当たらなかった。



 
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