クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 35

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星岬サイド


まるでトカゲが捕食を免れる為、自ら尻尾を切り落とすかのようにブチブチと嫌な音を立てながら、KE-Q28のコントロールを離れた左手首は、5本の指の1本1本に違う動きをさせて激しい振動を起こす事で細胞の剝離を加速させると、血の一滴も流さずあっという間に切り離しを完了した。

切り離し
 状況:完了
欠損部位養生
 状況:開始
汎用細胞
 状況:起動
細胞変換:皮膚組織形成
 状況:開始
細胞変換:血管形成
 状況:開始
バイパス開設
 状況:完了

「邦哉め、まさかこんな使い方があるとは思わなかったようだな」邦哉を出し抜いて上機嫌の星岬は移動については何とかなるとしか考えていなかった。
とりあえずここにいつまでも留まっているのは良策とは思えない。
星岬は指を懸命に動かして移動を試みたが動き出しては壁にぶつかってを繰り返すことになり、終いには方角を見失ってしまった。
まずい、まずいぞ・・・。
もたもたなんてしていられない。何かあるはずだ、何か・・・・
人工人間装置には自己修復機能がある。
この機能は万が一にも装置の破損が生じた場合に、予め修復目的でストックしてある汎用細胞を消費して素早く機能の回復を行うものである。
汎用細胞とは言っても、何にでも変化できる訳ではなく、破損した部位を補修するための機能があるだけなので、ユニットごと失った場合、手足を生やすようなことはできない。



細胞変換:眼球
 状況:本装置に該当するデータ無し

くそっ、手首だもんな、眼玉の事なんかわかんないよな。それでも何かあるはずだ、手首にないなら私自身が何か知っているはずだ。
思い出せ!
そうだ、昆虫の目だ!
複眼! これならわかる。構造はそれ程複雑ではないし、現状、手持ちの素材で作成可能だ。

細胞変換:複眼
 状況:エネルギー不足

ちっ、惜しいな。いや待て、複眼がダメでもまだあるぞ、単眼でリトライだ。

細胞変換:単眼
 状況:処理中
 ・
 ・
 ・
 状況:完了

YES! 上手くいった!
単眼用のプログラムを作成して装置として利用可能にする。
表皮細胞をレンズとして使用する
真皮細胞を視神経に・・・っと 
即席だがこんなものだろう。
再起動・・・っと。

そんなこんなの一部始終を静かに、動かなくなった左手首をジッと見つめる者がいる。
SDR-03だ。
彼女はドアから拳が突き出て来た時から用心深くその場で気配を消して待機していた。
そんな事とは知らず、否、気が回らず、星岬はその場からの早急な離脱しか考える余裕がなかった。




邦哉サイド


機関再編成
 状況:実行中
血流再開
 状況:開始
  状況:正常
痛覚復帰
 状況:完了
  状況:ダメージを確認
   状況:左手首欠損
   コントロールパネル:オープン   
   デバイスドライバ:左手首無しを選択
    状況:有効(デバイスは正常に稼動中)
欠損部位養生
 状況:35%終了(進行中)

フゥ・・・。
ため息をつくと、KE-Q28(邦哉)は失った左手首の処理状況を目視確認した。
欠損部位の養生は問題なく進んでいる。
次いで右手でドアノブを手にしてみたがビクともせず、ドアが開くことはなかった。
動じることなくKE-Q28(邦哉)は、視界に空間移動用図術式を呼び出して手際よく指でなぞると素早く描き終えた。
目の前に青白く浮かび上がった魔法陣のようなものを慣れた感じで通過すると開かなかったドアの向こう側に現れた。
目の前にSDR-03を確認する。
SDR-03が小柄な身体を壁に預けて、じぃっと何かを凝視している。腕組したままアゴをクイクイッと動かして視線誘導をしているので、その先を確認する。
手首が落ちている。
腕組を解いたSDR-03は、接触回線を求めてきたKE-Q28の差し出した手を取って情報を共有する。
『ところで、なんなのこれは』声には出さずSDR-03が率直に尋ねた。
『手首だ(星岬だ)』KE-Q28も見たままを答える。
『これ、さっきまですんごく暴れてたわよ』
『ふーん』
そんな世間話みたいなことをしていると手首(星岬)に変化があった。
ギラギラと表皮が輝いて見えると、手の甲に三つの黒い点が現れた。
『なにあれ?』
SDR-03が思ったままの事を伝えてくる。
KE-Q28は一目見てその黒い点が何であるのか理解した!
『単眼だ!? コイツ眼を造ったのか!?』
手首(星岬)は、器用に指を動かして向きを変えながらぐるっと一周すると、再び動きを止めた。
どうやら状況把握に努めているようだ。
ぷるるっと身体(手首)を揺すると、“ん?”といった感じで単眼をかしげてみせる。
『あっ、こっちに気付いた』
SDR-03の言う通りだったらしく、ギョッとした手首(星岬)はワタワタしながらココまで来た道筋を正確になぞりながら移動を始めた。
眼を造った事によって大きく改善された移動効率をフル活用して、星岬は迷い無く最短距離を進んでいた。早速ドアに辿り着いた。
星岬は少し考えてどうにもならないと考え至りガックリと手の平を床につけた。
そう、残念なことに今の星岬にはドアを開閉することはできないのだった。

『どうするの、こいつの始末!?』SDR-03が指示を求める。
『もうちょっと見ていたい・・・と言ったら、意地悪かな?』
『呆れた。好きにすれば?』




星岬サイド


星岬はドアの前でただ絶望していた訳ではない。
いや、むしろ絶望などしていなかった!
考えるのだ、考えるのだ。
何かあるはずだ。何か。
何もない筈もない。
どんな状況でも何かある筈だ。
そうだ、耳だ!
音が拾えれば更に状況把握力が上がる。
耳だ! 耳!

本装置に“耳”に関するデータ無し・・・

いいよぉ、データなんか無くても。
私のデータの中からまた造るもんね。
いいよぉ。
エネルギー不足も考慮済みだもんね。
省エネで作るよぉ。



邦哉サイド


再び手首の表皮がギラギラと光ったが、特に変わった様子は見てとれなかった。
『あいつ、今度は何したのかしら?』SDR-03がKE-Q28に訊いた。
『眼を造ったということは見たいという欲求は満たしたという事だ』
『つまり?』
『訊きたくなったんじゃないか?』
『耳ね!? 耳を造った。』
『そういう事なんじゃないか?』
『でも見当たらないじゃない?』
『恐らく昆虫やカエルのように外耳が無いタイプの耳を造ったんだ。』

少し厄介な事になってきたな、と邦哉(KE-Q28)は警戒心を強くした。
接触回線維持のため、ずっと手を繋いでいるので、思考している事も何となく伝わってしまっていた。SDR-03が怪訝そうな顔をして見上げている。

『やっぱりあたしが動いた方が早いわ』
そう言うとSDR-03は、KE-Q28の節くれ立った長い指でやさしく握っている大きな手から自分の小さな手をするりと抜くと、早足で星岬である手首に向かった。
右手を腰の高さで後ろに回すと、小さな手に合った小型の拳銃をホルスターから引き抜いた。
ドアの前でぺたーっとのびている手首に銃口を向けた。
「耳ができたのなら名乗っておくわ。あたしはサーディア3(スリー)。“女”という名前じゃないわ。」
ガン!
SDR-03(サーディア3)は一発で仕留めるつもりだった。
だが予想に反して手首は銃弾を避けていた。
「!?」
着弾の衝撃はかなりのモノで、床材を大きくえぐって埃が辺りに散開する。
サーディア3と名乗った桃色の髪の小柄な女性は、狙いを改め2発目を発射した!
だがこれもヒットしなかった。
銃こそ小型だが、弾丸の破壊力はライフル銃並みとかなり高い。
サーディア3は文字通り眼の色を変えて照準性能を強化した。
空中にあってもヒラヒラとしてまるで当たる気配がない。
一体どうなっている!?
KE-Q28が星岬の動きを予測しながらその姿を視界に捉え続ける。
空中で身をよじるように弾丸を避けた星岬に、変化の答えを見た!
それは中指の左右の付け根辺りから一本づつシュッと伸びていた。
「触角だ! 耳ではなく触角を造ったんだ。彼は風を読んでいる!」



ガンガンガン! 更に3発撃ち込んだ。
弾切れ!
SDR-03は速やかに弾を込め直したところで星岬がいないのに気が付いた。
埃が収まってくるとドアに穴が開いているのが見えた。
「あたしのミスだわ」
ドアに手をかけ星岬を追う気でいるSDR-03の肩を掴むとKE-Q28は少し声を荒げて言った。
「落ち着け!」
焦って動くものではないというと接触回線に切り替えて話しを続ける。
『ヤツは未だ近くにいる、だからまず君は落ち着くんだ。』
『でも・・・』
SDR-03は相手を見誤った。
その気持ちでいっぱいだった。
『とにかく、まず、落ち着くんだ。ヤツは遠くには行けない。確かなことだ。』
『・・・・・・・・・・・わかったわ』
SDR-03ことサーディア3は、実は全然納得してはいなかった。
だが、星岬が遠くへ行けないという所と落ち着けという所には訊くべき理があると、そういう“わかった”なのだ。
サーディア3はクリスタル・サーディアの言わば“後継機”である。
その思考は人間に限りなく近い。
それ故か、特に勝負事に於いて勝敗にこだわる傾向がある。
つまり、“負けず嫌い”なのだ。
そして、情報処理能力に長けたOS故に短気なように見られるのである。
KE-Q28こと邦哉は、その他の短所も長所も理解した上でサーディア3と共にいるのであった。
『それで、どうするの? 何か策があるんでしょう?』
『第一に、彼はドアの開閉を自由にできない。これは現状で最も確かな情報といえる』
ふむふむと銃を握ったままで腕を組んだSDR-03はKE-Q28の説明を熱心に聞いている。
『第二に、そこの穴から逃げたとして、閉鎖空間があるだけだ。』

『ヤツのパターンはオレが一番良く分かっているつもりだ』
『例えば?』
『そうだな、こういう時ヤツはヒトの背中に隠れている』
そう言ってKE-Q28は背中を見せた。
瞬間、背中に氷を突っ込まれたような感覚をサーディア3の視線に感じた。

SDR-03の眼が精密照準モードの輝きを放つのを見たKE-Q28は、とっさに背中を払ってサーディア3の後ろ側へ飛んだ!
SDR-03は握ったままでいた銃を視線の先へまっすぐ突き出すと機械的な動作で6発全弾打ち尽くすと銃をホルスターに戻しながら目標へ突進した。
星岬はふわりと着地するとビックリするほど高速で移動してみせた。
だが手首は手首、少しの間追いまわされて、挙句、移動パターンを把握されてしまうと、あっさりと捕縛されてしまった。
「あたしの銃撃を全弾かわしたのはあーたが初めてよ。」
マジックテープ式のバンドでげんこつに縛られた星岬は、これからどうなってしまうのか?ということをグルグルと考えていた。

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