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CHAPTER 36
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邦哉サイド
赤い空の下、管制塔のような建物を出て、二人は散歩を楽しむかのようにゆっくりと歩いていた。
SDR-03が、バンドでぐるぐる巻きのボールのようになっている星岬を両手でしっかりと持っている。
星岬は果たして気付くだろうか?
考え至るだろうか?
我々2人が、わざわざ口を動かして話している意味に。
発声と口の動きが、実は全然違うものであるという事に。
逆に、何故こんな手の込んだ事をするのかといえば、星岬にはこれに気付いて改心して欲しかったのだ。
一度は本気で殺しにかかった命だ、生き延びた事には、きっと意味があるのだ。
生き残るチャンスを、限界ギリギリのチャンスを、そんなことをまだ邦哉は頭の片隅にこっそりと捨てきれずに残していたのだ。
邦哉自身、気付かずにいたのだが。
KE-Q28とSDR-03の二人は、何気ない日常会話を続けている。
少なくとも星岬にはそんな風に見えていた。
実際にはKE-Q28とSDR-03の二人は対象に見えるようにしながら、対象の処分について話し合っているのだ。
対象とは星岬の事だ。
なんと残酷なことを・・・、と思わなくもないが仕方ないのだ。
そう、仕方ないのだ。
星岬サイド
星岬は最初から研究熱心だった。
それこそ幼少の頃から。
好奇心旺盛で情熱に溢れ、探求心は底抜けだった。
成長と共に全てがステップアップすると、実証実験や観察・観測も時には危険極まり命を賭けなければクリアできないモノも出てくるようになった。
だが星岬は恐れ知らずだった。
いや、単に無知で無謀なだけだったのかもしれない。
星岬は積極的に自分の身体を用いて研究を続けていった。
身体にメスを入れ、臓器も組織も、様々なパーツを入れ替えては詳細に徹底的に観察した。
エキサイティングな日々であり行動だったが、星岬自身は身体にメスを入れるほど、それに反して高揚感というモノから遠退いていく感じだった。
自分自身を弄り尽くしてしまうと、後はお決まりのコース。
他の人間に対象を移して研究を続行した。
もう止まらない。
誰にも止められない。
そこには研究に対しての純粋な思いしかないのだが、この純粋さこそが悪なのだ。
星岬の研究にかける情熱は、いつの間にか一線を越えて反転し、純粋な悪意となってしまったのだった!
「今日は雷雲も無く、珍しく穏やかな空模様で、いつもこうだと良いな?」
(音が聞こえなくても何らかの方法で我らの会話を聞いているのだろう)
「雷は普通に危ないから」
(そんな事ができるの?)
「こうして散歩も出来やしない」
(コイツならやるんじゃないかな)KE-Q28がのんびりとした口調で言葉を発している。
音など無くても私には読唇術というスキルがあるのだ!
何を言っているのかと思えば、相変わらずゴチャゴチャと。
ふん! くだらん。
この場所はこの場所で大変興味深いが、何せ身体がこれではまともな研究が出来ない。
先ずは過去へ帰還し、装備を整えて出直すとしよう。
となれば、こんなところに長居は無用だ。
航時計やら何やらは、残念ながら今の私には使いこなせるものではないので考慮外とする。
少しでも可能性があるのが“Z理論”を用いた時空移動方法だ。
幸いにして私には幼少の頃から詳細に書き記した研究データがある!
読み返せばその時の情景がいつでも甦るのだ。
今こそ思い出すのだ!
さぁ、思い出せ!
・・・・・・・・・・・この単眼も触角も、子供時代の研究の賜物だ。
Z理論を使いこんなわけの解らない所から一刻も早く脱出するのだ!
さぁ思い出せ!
そして発動せよ!!
・・・・・・・・・・・
・・・
・
何故だ!?
何故なにも起こらない?
・
・・
・・・
はっ!?・・・・・・まさか?
『そうさ、星岬、おまえは詰んだんだよ』と、KE-Q28の声が聞こえたような気がする。
何を言うか? ど忘れれ忘れんがくっく。思考がもつれて上手く表現できなくなっちゃった。
『詰んだんだよ、もう何をしてもどうにもならない。』冷徹な意志を持ったKE-Q28の幻影が星岬を追い詰める。
『あーたは自分で選択したのよ、今この瞬間を。』SDR-03の幻影が追い打ちをかけてくる。
いいいいいいいいいいいいやだ、絶対に嫌だ!
こんな所で終わってたまるか!?
こんな所で終わるはずがない!
こんな所が終着点などと、認めない!
認めん!
認めんぞ!!
邦哉サイド
「今生の別れに幾つか真実を教えよう。」
バンドでぐるぐる巻きにされてボールのようになっている星岬をSDR-03が両手でしっかり持っている。
その星岬を真直ぐに見ながらKE-Q28は、何を思ったか話し始めた。
「いくら人類が自らを改造し、強引に進化をしたからと言って、脊椎動物が無脊椎動物になったり、まして決まった形すら持たないガス状生命体に進化できると本気で思ったか?
また、時空を自在に操る術を、たかだか1万年で独自に獲得できたと本気で信じたか!?
どれも答えは“No”だ。
これらの技術は全て外宇宙からもたらされた技術なのだ!
地球人類は外宇宙からの支援を受けて絶滅を免れたのだ。
地球人類の純粋種はこの星にはもういない。
別の銀河の環境管理の行き届いた場所でごく少数が21世紀の暮らしを再現された世界で生き延びている。
それが現実なのだ。」
KE-Q28こと邦哉が熱くなっているのを感じて、SDR-03ことサーディア3は話を遮ろうとしたが手遅れだった。
「そしてこのオレ、紀伊邦哉こそが外宇宙からの使者と地球人とのハイブリット!
混血なのだよ!
まさに地球人類の最終進化形態にして、地球発宇宙人類の創始祖だ!」
邦哉の渇いた笑い声が、乾き切った大気を少しの間、空々しく震わせた。
「そして、こんな化け物に本気でぶつかってきたのは星岬、オマエだけだ!!!」
憤りを隠せないといった感じで邦哉は歩を止めると、うつむき、拳を固く握りしめる。
背中が小刻みに震えている。
SDR-03が、何か話しかけようとするが、何も出来ずにこちらもうつむいてしまう。
小さく息を吐くと、ちらりとSDR-03を見てKE-Q28は再び歩き出した。
「我々は星岬開、キミの永住を認めない。
元の時代に帰ることも認めない。」
どうやら目的の場所に到着したようで、二人は姿勢を正した。
眼前に、穴が開いている。
KE-Q28なら一跨ぎできそうなくらいの大きさだ。
穴の深さは不明だが、相当深いように見える。
埋め戻したら、まず簡単には出て来れないだろう。
「キミにはここに永眠して貰う。
じゃあな、星岬。」
それだけ言うと、SDR-03が両手でしっかり持っている、バンドでぐるぐる巻きのボールのようになっている星岬を無造作に掴むと、そのまま腕を戻す動作の中でソレを穴へ手放した。
KE-Q28は別れを惜しむ感じもなく、寂しさもなく、心が晴れるでもなく、何か要らないモノをダストシュートに放り込む、ただそれだけの作業を無造作に行なったに過ぎない、そう云う感じしかしなかった。
だが、何故か胸に軽い痛みを感じたような気がして、少しだけそのことについて考えを巡らしてみたが、すぐに考えるのをやめた。
そして穴の底の旧友に語り掛けるように思いを吐き出した。
「星岬、お前が何故詰んだのか教えようか?
それはな、自分で言っていたじゃないか、“思い出など要らない”って。
お前がオレの中に入ってきた時、すぐにわかったよ。
お前の構成データには余計な部分が全くなかったので、な。
と、云う訳で、お別れだ、星岬。
恐らくは頼みのZ理論も、思い出がなければ発動も難しかろう。
人工人間装置は大事に使えば300年程度は使える品物だ。
それは今のお前にも適用されるが、手首だけでは熱を処理できない。
過熱状態が続けばシリコンの劣化も進むだろう。
細胞の崩壊は免れない。
カーボンを主構成材にしているスケルトン・フレームだけではとてもまともな活動など出来はしないだろう。
骨格のみでは発電ができない。
今度こそ終わりだ、星岬。
聞こえていないと思うと残念でしかないけど、
会社を立ち上げた頃は楽しかったよ、心からそう思う。
本当に。」
そう言い終えるとKE-Q28は地面に開けた深い穴のすぐ側に積みあがった土砂をショベルで手際よく運び、速やかに穴を埋め戻した。
星岬、地中にて
こんな、バカな!
この私が、こんな所で、終わる、だと?!
まさか!?
いったい何の冗談だ?
よせ、やめろ!
ふざけるな!
私はこんな所で終われない!
記憶なら幾らでも圧縮ファイルで保存してあるのだ!
どこだ?
どのファイルが良い??
幼少期からファイルしてあるのだ!
どの時空へも行けるはずなのだ!
なぜ発動しない?
こんなにも詳細に記録しているのに、何故だ?
どのファイルを読み返しても明確に状況が記されている!
日付、時刻、天候、場所、対象は何か? 観察もしくは観測、記録理由、考察、結論。
充分なはずだ。
充分思い出せる。
足りないのか?
これでは不足だというのか?!
何が?
何が足りないと云うのか!?
ワカラナイ。
私は、ワカラナイ。
ワカラナイ。
・・・私は、ワカラナイ。
教えて・・・・・・
教えて、頼む・・・
こんな時、いつも私を導いてくれたのは・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
教えて・・・・・・教えてくれ!
邦哉ああああああ!!
星岬の声なき叫びが何処かに届いたというのか?
地中にあった星岬は、一瞬浮遊感を感じると、渦巻く光の流れにもみくちゃにされながら、
確かに移動しているのを感じていた。
邦哉サイド
星岬の処分を終えて、管制塔のような建物に戻ったKE-Q28は、暮らし慣れた角部屋でSDR-03とお茶をすすりながらまったりしていた。
(お茶に見立てて冷却液を補充しているのだ)
すると、失った手首の部位に何とも言えない感覚を感じたKE-Q28は、星岬に異変が起こったことを直感した。
それも良い感じではない。
SDR-03がKE-Q28の異変を見逃さなかった。
さすが長年にわたって支え合ったモノ同志!
「どうかした?」
「失くした左手首に変化があったように感じたんだ」
SDR-03はあるだけの機能を使って周辺の異常を探った。
そして、航時計に時空移動が行われた事を記録した一行を見つけた。
「あら、大変」
SDR-03が報告するや否や、KE-Q28は星岬を埋めた場所目指して走り出した!
「まずいぞ、アイツが時空移動したとするなら・・・」
KE-Q28は思わず声に出してしまうほど動揺している自分に気付く。
今度こそ星岬は人類にとって大迷惑な存在になることだろう。
アイツには研究バカな可愛いヤツのままで一生を終えて欲しかった。
アイツを確実に消す機会は今回が最初で最後だった。
オレは何処かでアイツに情を残していたのだろう。
甘かった。
これはオレの甘さが故の結果だ。
どれだけの時間を生きてきたというのだ、オレは?
何を学んで来た!?
「あーたは間違ってなんかない、邦哉」
SDR-03ことサーディア3がKE-Q28の思考を読んで声を掛ける。
「人間が人間を殺してはいけない、殺せなくて当然」
細い眼を更に細めてKE-Q28はSDR-03の眼差しを受け止める。
「迷って当然! なんの躊躇いもなく他者を殺害できる人間は、人間として既に壊れてる。
あーたは、いつも、いつまでも、変わらず、人間よ」
SDR-03は、これでも精一杯 邦哉を励ましているつもりだった。
「とにかく邦哉、今は確認を急ぎましょ!」
「あぁ・・・!」
SDR-03に促されたこともあって、KE-Q28は一つ一つやっていくしかないのだと、気持ちを新たにした。
それにしてもアイツには、星岬にはもう何も無かったはずだ。
航時計は手首だけでは記録容量に疑問が残る。
アイツ自信が本当はどの位の容量があるのか分からないので推測になるが、
航時計はインストール出来なかったとみるのが妥当だ。
また、手首に割り振られた蓄電性能は極めて貧弱なものだ。
そして確認しただけでも2回の細胞変換を行っている。
加えてもう一回、切り離し時に細胞変換を実行しているはずだ。
故に彼は電力不足に陥っていると思われ、
要するに何をするにも電力不足でもはや何も出来ないのではないか?
たった一つの方法“Z理論”の発動を除いて・・・
管制塔のような建物から二人が飛び出してくる。
すると、走り出してすぐ疲れてしまったかのような状態になり、二人はその場にへたり込んでしまった。
ふと気付けばKE-Q28に左の手首が戻ってきており、邦哉は当初の目的を忘れてしまったようだった。
「オレはいったい・・・」
KE-Q28は一時的な記憶の混乱を起こしている様子だ。
「邦哉! いけない、Z理論に基づく時空移動が発動したんだわ」
SDR-03は優れた情報処理能力を駆使して現況に最適な行動を算出しようとした。
ところが、どこか自分の制御の及ばない所が外部からのアクセスを許可してデータリンクを開始しだした。
この状況下で何が?!
間の悪い冗談だ?
こんな大事なときに何で制御不能になっているんだ、あたしは!
SDR-03は一瞬、星岬の介入を疑った。
だが、その疑いは懸念に終わった。
『“リー”、サポートするわ。』
謎の介入者からのメッセージが頭に直接届く。
「この識別コードは・・・クリスタル・サーディア、グランマ!」
赤い空の下、管制塔のような建物を出て、二人は散歩を楽しむかのようにゆっくりと歩いていた。
SDR-03が、バンドでぐるぐる巻きのボールのようになっている星岬を両手でしっかりと持っている。
星岬は果たして気付くだろうか?
考え至るだろうか?
我々2人が、わざわざ口を動かして話している意味に。
発声と口の動きが、実は全然違うものであるという事に。
逆に、何故こんな手の込んだ事をするのかといえば、星岬にはこれに気付いて改心して欲しかったのだ。
一度は本気で殺しにかかった命だ、生き延びた事には、きっと意味があるのだ。
生き残るチャンスを、限界ギリギリのチャンスを、そんなことをまだ邦哉は頭の片隅にこっそりと捨てきれずに残していたのだ。
邦哉自身、気付かずにいたのだが。
KE-Q28とSDR-03の二人は、何気ない日常会話を続けている。
少なくとも星岬にはそんな風に見えていた。
実際にはKE-Q28とSDR-03の二人は対象に見えるようにしながら、対象の処分について話し合っているのだ。
対象とは星岬の事だ。
なんと残酷なことを・・・、と思わなくもないが仕方ないのだ。
そう、仕方ないのだ。
星岬サイド
星岬は最初から研究熱心だった。
それこそ幼少の頃から。
好奇心旺盛で情熱に溢れ、探求心は底抜けだった。
成長と共に全てがステップアップすると、実証実験や観察・観測も時には危険極まり命を賭けなければクリアできないモノも出てくるようになった。
だが星岬は恐れ知らずだった。
いや、単に無知で無謀なだけだったのかもしれない。
星岬は積極的に自分の身体を用いて研究を続けていった。
身体にメスを入れ、臓器も組織も、様々なパーツを入れ替えては詳細に徹底的に観察した。
エキサイティングな日々であり行動だったが、星岬自身は身体にメスを入れるほど、それに反して高揚感というモノから遠退いていく感じだった。
自分自身を弄り尽くしてしまうと、後はお決まりのコース。
他の人間に対象を移して研究を続行した。
もう止まらない。
誰にも止められない。
そこには研究に対しての純粋な思いしかないのだが、この純粋さこそが悪なのだ。
星岬の研究にかける情熱は、いつの間にか一線を越えて反転し、純粋な悪意となってしまったのだった!
「今日は雷雲も無く、珍しく穏やかな空模様で、いつもこうだと良いな?」
(音が聞こえなくても何らかの方法で我らの会話を聞いているのだろう)
「雷は普通に危ないから」
(そんな事ができるの?)
「こうして散歩も出来やしない」
(コイツならやるんじゃないかな)KE-Q28がのんびりとした口調で言葉を発している。
音など無くても私には読唇術というスキルがあるのだ!
何を言っているのかと思えば、相変わらずゴチャゴチャと。
ふん! くだらん。
この場所はこの場所で大変興味深いが、何せ身体がこれではまともな研究が出来ない。
先ずは過去へ帰還し、装備を整えて出直すとしよう。
となれば、こんなところに長居は無用だ。
航時計やら何やらは、残念ながら今の私には使いこなせるものではないので考慮外とする。
少しでも可能性があるのが“Z理論”を用いた時空移動方法だ。
幸いにして私には幼少の頃から詳細に書き記した研究データがある!
読み返せばその時の情景がいつでも甦るのだ。
今こそ思い出すのだ!
さぁ、思い出せ!
・・・・・・・・・・・この単眼も触角も、子供時代の研究の賜物だ。
Z理論を使いこんなわけの解らない所から一刻も早く脱出するのだ!
さぁ思い出せ!
そして発動せよ!!
・・・・・・・・・・・
・・・
・
何故だ!?
何故なにも起こらない?
・
・・
・・・
はっ!?・・・・・・まさか?
『そうさ、星岬、おまえは詰んだんだよ』と、KE-Q28の声が聞こえたような気がする。
何を言うか? ど忘れれ忘れんがくっく。思考がもつれて上手く表現できなくなっちゃった。
『詰んだんだよ、もう何をしてもどうにもならない。』冷徹な意志を持ったKE-Q28の幻影が星岬を追い詰める。
『あーたは自分で選択したのよ、今この瞬間を。』SDR-03の幻影が追い打ちをかけてくる。
いいいいいいいいいいいいやだ、絶対に嫌だ!
こんな所で終わってたまるか!?
こんな所で終わるはずがない!
こんな所が終着点などと、認めない!
認めん!
認めんぞ!!
邦哉サイド
「今生の別れに幾つか真実を教えよう。」
バンドでぐるぐる巻きにされてボールのようになっている星岬をSDR-03が両手でしっかり持っている。
その星岬を真直ぐに見ながらKE-Q28は、何を思ったか話し始めた。
「いくら人類が自らを改造し、強引に進化をしたからと言って、脊椎動物が無脊椎動物になったり、まして決まった形すら持たないガス状生命体に進化できると本気で思ったか?
また、時空を自在に操る術を、たかだか1万年で独自に獲得できたと本気で信じたか!?
どれも答えは“No”だ。
これらの技術は全て外宇宙からもたらされた技術なのだ!
地球人類は外宇宙からの支援を受けて絶滅を免れたのだ。
地球人類の純粋種はこの星にはもういない。
別の銀河の環境管理の行き届いた場所でごく少数が21世紀の暮らしを再現された世界で生き延びている。
それが現実なのだ。」
KE-Q28こと邦哉が熱くなっているのを感じて、SDR-03ことサーディア3は話を遮ろうとしたが手遅れだった。
「そしてこのオレ、紀伊邦哉こそが外宇宙からの使者と地球人とのハイブリット!
混血なのだよ!
まさに地球人類の最終進化形態にして、地球発宇宙人類の創始祖だ!」
邦哉の渇いた笑い声が、乾き切った大気を少しの間、空々しく震わせた。
「そして、こんな化け物に本気でぶつかってきたのは星岬、オマエだけだ!!!」
憤りを隠せないといった感じで邦哉は歩を止めると、うつむき、拳を固く握りしめる。
背中が小刻みに震えている。
SDR-03が、何か話しかけようとするが、何も出来ずにこちらもうつむいてしまう。
小さく息を吐くと、ちらりとSDR-03を見てKE-Q28は再び歩き出した。
「我々は星岬開、キミの永住を認めない。
元の時代に帰ることも認めない。」
どうやら目的の場所に到着したようで、二人は姿勢を正した。
眼前に、穴が開いている。
KE-Q28なら一跨ぎできそうなくらいの大きさだ。
穴の深さは不明だが、相当深いように見える。
埋め戻したら、まず簡単には出て来れないだろう。
「キミにはここに永眠して貰う。
じゃあな、星岬。」
それだけ言うと、SDR-03が両手でしっかり持っている、バンドでぐるぐる巻きのボールのようになっている星岬を無造作に掴むと、そのまま腕を戻す動作の中でソレを穴へ手放した。
KE-Q28は別れを惜しむ感じもなく、寂しさもなく、心が晴れるでもなく、何か要らないモノをダストシュートに放り込む、ただそれだけの作業を無造作に行なったに過ぎない、そう云う感じしかしなかった。
だが、何故か胸に軽い痛みを感じたような気がして、少しだけそのことについて考えを巡らしてみたが、すぐに考えるのをやめた。
そして穴の底の旧友に語り掛けるように思いを吐き出した。
「星岬、お前が何故詰んだのか教えようか?
それはな、自分で言っていたじゃないか、“思い出など要らない”って。
お前がオレの中に入ってきた時、すぐにわかったよ。
お前の構成データには余計な部分が全くなかったので、な。
と、云う訳で、お別れだ、星岬。
恐らくは頼みのZ理論も、思い出がなければ発動も難しかろう。
人工人間装置は大事に使えば300年程度は使える品物だ。
それは今のお前にも適用されるが、手首だけでは熱を処理できない。
過熱状態が続けばシリコンの劣化も進むだろう。
細胞の崩壊は免れない。
カーボンを主構成材にしているスケルトン・フレームだけではとてもまともな活動など出来はしないだろう。
骨格のみでは発電ができない。
今度こそ終わりだ、星岬。
聞こえていないと思うと残念でしかないけど、
会社を立ち上げた頃は楽しかったよ、心からそう思う。
本当に。」
そう言い終えるとKE-Q28は地面に開けた深い穴のすぐ側に積みあがった土砂をショベルで手際よく運び、速やかに穴を埋め戻した。
星岬、地中にて
こんな、バカな!
この私が、こんな所で、終わる、だと?!
まさか!?
いったい何の冗談だ?
よせ、やめろ!
ふざけるな!
私はこんな所で終われない!
記憶なら幾らでも圧縮ファイルで保存してあるのだ!
どこだ?
どのファイルが良い??
幼少期からファイルしてあるのだ!
どの時空へも行けるはずなのだ!
なぜ発動しない?
こんなにも詳細に記録しているのに、何故だ?
どのファイルを読み返しても明確に状況が記されている!
日付、時刻、天候、場所、対象は何か? 観察もしくは観測、記録理由、考察、結論。
充分なはずだ。
充分思い出せる。
足りないのか?
これでは不足だというのか?!
何が?
何が足りないと云うのか!?
ワカラナイ。
私は、ワカラナイ。
ワカラナイ。
・・・私は、ワカラナイ。
教えて・・・・・・
教えて、頼む・・・
こんな時、いつも私を導いてくれたのは・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
教えて・・・・・・教えてくれ!
邦哉ああああああ!!
星岬の声なき叫びが何処かに届いたというのか?
地中にあった星岬は、一瞬浮遊感を感じると、渦巻く光の流れにもみくちゃにされながら、
確かに移動しているのを感じていた。
邦哉サイド
星岬の処分を終えて、管制塔のような建物に戻ったKE-Q28は、暮らし慣れた角部屋でSDR-03とお茶をすすりながらまったりしていた。
(お茶に見立てて冷却液を補充しているのだ)
すると、失った手首の部位に何とも言えない感覚を感じたKE-Q28は、星岬に異変が起こったことを直感した。
それも良い感じではない。
SDR-03がKE-Q28の異変を見逃さなかった。
さすが長年にわたって支え合ったモノ同志!
「どうかした?」
「失くした左手首に変化があったように感じたんだ」
SDR-03はあるだけの機能を使って周辺の異常を探った。
そして、航時計に時空移動が行われた事を記録した一行を見つけた。
「あら、大変」
SDR-03が報告するや否や、KE-Q28は星岬を埋めた場所目指して走り出した!
「まずいぞ、アイツが時空移動したとするなら・・・」
KE-Q28は思わず声に出してしまうほど動揺している自分に気付く。
今度こそ星岬は人類にとって大迷惑な存在になることだろう。
アイツには研究バカな可愛いヤツのままで一生を終えて欲しかった。
アイツを確実に消す機会は今回が最初で最後だった。
オレは何処かでアイツに情を残していたのだろう。
甘かった。
これはオレの甘さが故の結果だ。
どれだけの時間を生きてきたというのだ、オレは?
何を学んで来た!?
「あーたは間違ってなんかない、邦哉」
SDR-03ことサーディア3がKE-Q28の思考を読んで声を掛ける。
「人間が人間を殺してはいけない、殺せなくて当然」
細い眼を更に細めてKE-Q28はSDR-03の眼差しを受け止める。
「迷って当然! なんの躊躇いもなく他者を殺害できる人間は、人間として既に壊れてる。
あーたは、いつも、いつまでも、変わらず、人間よ」
SDR-03は、これでも精一杯 邦哉を励ましているつもりだった。
「とにかく邦哉、今は確認を急ぎましょ!」
「あぁ・・・!」
SDR-03に促されたこともあって、KE-Q28は一つ一つやっていくしかないのだと、気持ちを新たにした。
それにしてもアイツには、星岬にはもう何も無かったはずだ。
航時計は手首だけでは記録容量に疑問が残る。
アイツ自信が本当はどの位の容量があるのか分からないので推測になるが、
航時計はインストール出来なかったとみるのが妥当だ。
また、手首に割り振られた蓄電性能は極めて貧弱なものだ。
そして確認しただけでも2回の細胞変換を行っている。
加えてもう一回、切り離し時に細胞変換を実行しているはずだ。
故に彼は電力不足に陥っていると思われ、
要するに何をするにも電力不足でもはや何も出来ないのではないか?
たった一つの方法“Z理論”の発動を除いて・・・
管制塔のような建物から二人が飛び出してくる。
すると、走り出してすぐ疲れてしまったかのような状態になり、二人はその場にへたり込んでしまった。
ふと気付けばKE-Q28に左の手首が戻ってきており、邦哉は当初の目的を忘れてしまったようだった。
「オレはいったい・・・」
KE-Q28は一時的な記憶の混乱を起こしている様子だ。
「邦哉! いけない、Z理論に基づく時空移動が発動したんだわ」
SDR-03は優れた情報処理能力を駆使して現況に最適な行動を算出しようとした。
ところが、どこか自分の制御の及ばない所が外部からのアクセスを許可してデータリンクを開始しだした。
この状況下で何が?!
間の悪い冗談だ?
こんな大事なときに何で制御不能になっているんだ、あたしは!
SDR-03は一瞬、星岬の介入を疑った。
だが、その疑いは懸念に終わった。
『“リー”、サポートするわ。』
謎の介入者からのメッセージが頭に直接届く。
「この識別コードは・・・クリスタル・サーディア、グランマ!」
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支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
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