38 / 51
CHAPTER 37
しおりを挟む
邦哉サイド
オレは・・・
邦哉は自分が何をしていたのか、混濁する意識の中で状況を把握しようと、うつむき横になりたがる身体(人工人間装置)を懸命に制御していた。
今は四つ這いの状態を維持している。
顔を上げろ、前を見るんだ。
まるでギシギシと渋い音を立てて動作を拒む油の切れたヒンジのように、思うように動かない身体に苛立ちながら、視界に入る情報の整理に努めた。
上半身を支えている両腕が見える。
視界解析:視界内に異常を確認
装置接続確認:接続不良有り
信号確認:未確認の装置を検出
人工人間装置・本体設定:エラー
不明な装置:左手首
信号確認:登録された装置
人工人間装置・本体設定:有効
人工人間装置・本体設定:エラー
信号確認:不明な装置
信号確認:未確認の装置を検出
オレの手首が何だというのだ?
何故エラーになる?
今はどういう状況だ?
くそっ、頭がモヤモヤして考えがまとまらない。
リーが・・・リーも何かあったらしい・・・
“リー”というのはスリーのスを飛ばした呼び方で、
サーディア3と呼ぶのは味気ないので“リー”と呼んでいる。
そうだ、オレは何かをアレするために急いで向かっていたところだ。
で、その何かとは?
アレする・・・って?
ダメだ、さっぱりわからん!
そうこうしている最中も、邦哉の、KE-Q28の左手首はハッキリ見えたり透けて見えなくなったりを繰り返していた。
現状でKE-Q28は、分離した左手首を介して星岬とつながりのある状態を保っている。
そのつながりというのは、分離した手首が元々備えている装置内ネットワーク機能が何故か本体から分離した今でも無線通信として機能しているというものだ。
だが、邦哉と星岬の間にはもっと強い絶対的なつながりがある。
二人を強く結びつけるもの、それは二人にとってささやかなほんの少しの幸福を維持する為についたウソ。
そのウソが幾重にも重なり積もり招いた因果によるもの。
邦哉と星岬は、お互いにただ存在を認めて欲しいが故に、ウソをついた。
邦哉は受動的に、星岬は能動的に。
そうしなければ二人とも生き抜けなかった。
一人は名前を偽った。
本当は名前なんてなかったのに。
一人は自らの手を汚さないでヒトを殺すために。
本当は仲良くしたかったのに、その術をコツを、見つける努力を怠ったために。
その時ついたウソによって生き残った、という経験が、二人にウソを肯定させることになる。
そんな人生を二人は生きて、そして出会った。
そして二人は気付く事になる、お互いが相反する存在である事に。
光ある所に闇有り。
どちらが欠けても存在出来ない、自分たちはそんな関係なのだと。
現在、手首を支配している星岬が、その生涯を通じて創り上げた邦哉との関係がそれだ。
故に断ち切り難いつながりが、揺らぎとして左手首をハッキリ見せたり透けて見えなくなったりを繰り返させるに至っているのだ。
そして、KE-Q28が左手首を取り戻すという事は、過去において星岬が生きている事の証明となる。
また、左手首が戻らなければ、星岬が永眠したことの証明となるのだ。
どうやら発動に成功したらしい“Z理論”ではあったものの、その現象はこの件については不安定な事この上ない。
一体どの様な形に落ち着くのか!?
結論は時機に出る事だろう。
サーディア3サイド
『グランマ、なにお節介なことしてくれてるのよ!』
サーディア3が強制接続してきたクリスタル・サーディアに対して苦情を超えて怒りを露わにしていた。
『なんだか随分と酷い言われようじゃない“グランマ”なんて?』
『そこ!? そこなの!? 状況分かってて言ってるのよね?』
ボルテージはMAX!
サーディア3のメインプロセッサが一気に熱をおび、血液を模した冷却液が放熱のために体内を駆け巡る。
頬を赤らめ上気した顔のサーディア3は熱暴走も有り得ると心配なほど、怒っている。
余程クリスタル・サーディアの干渉が気に障ったのだろう。
桃色の頭髪が内部の熱の影響を受けてゆらゆらと蠢いて見える。
この場にクリスタル・サーディアが物質化していたら取っ組み合いのケンカになっていてもおかしくない状況だ。
『グランマはあたしを心配するより、もっと信頼して。』
『そ、そう?』
時空管理コンピュータ“グランドマザー”であるクリスタル・サーディアが動揺している?
サーディア3は肩で息をしている自分に気付いて、呼吸を整えるとすぐに落ち着きを取り戻した。
『・・・グランマ、グランマが出張って来たって事は、この状況は分岐点になり得るのね?』
『肯定』
クリスタル・サーディアは感情を排した事務的な口調で応答した。
『相当ヤバい?』
サーディア3は自分の中の弱さを抑え込むのではなく、受け入れて先に進もうとしていた。
『肯定』
『あたしじゃ、力不足?』不安が発言を弱くしている。
『微妙』コンピュータの解答とは思えない。
『なによ、それ~』珍解答を得て肩の力が抜けたサーディア3は、再び上気した。
『でも、何となくわかった』
サーディア3は思考ルーチンをまとめ上げた。
『ありがとうグランマ! あたし、やれる気が す す・・・る・・・・・』
サーディア3は突如、機能を停止してしまった。
一体どうしたと云うのか?
SDR-03:再起動
BIOS:設定開始
Advanced/Strage Configuration
SATA Mode Selection ...AHD
Exit:設定完了
Save Changes and Exit:Yes
Reboot...
Science and technology :科学技術によって
Assembles :組み立てられた
Human shape :人間の形をした
Device :装置を
Electrical control :電気制御で
Autonomous maneuver :自律操縦する
Robot :ロボット
Operating system SAHDEAR ver.1.9.5
起動
「あたしはオペレーティングシステム サーディア」口に出して耳で聞いて確認する。
「邦哉を守りし者」認証は完了した。
冷静、というにはどこか機械的な雰囲気を漂わせて再起動を果たしたSDR-03は誰に聞かせるでもなく呟いた。
「固有名称は、クリスタル・サーディア」
サーディア3のはつらつとした表情はなく、どこか冷めた眼差しで独り確認を済ませたクリスタル・サーディアは、SDR-03の乗っ取りを完了した。
遡ること1万年足らず、2000年代後半、地球はかねてより心配されていた温暖化が、地軸の変化により一気に加速する事態を迎えていた。
混乱状態が世界的に常態化する中で、国会では、ある人物についての集中審議がされていた。
その人物は、日本国出身の科学者で、名を“星岬 開”という。
この時“星岬 開”は推定130歳を超えると思われる高齢者ではあったものの、自ら手を入れて改造した身体に、不具合など微塵もなく健康そのものであった。
もっとも、それはごく普通の健常者の場合で、星岬については“健康”という言葉を使って状態を表現する事が適切かということが、まず先に議論された。
何故なら星岬にはもはや、有機体のパーツは使用されていなかったからだ。
人間とは言えないと国会で存在を否定された星岬は激昂、人間社会との決別を表明、世捨て人となる。
だが、コレはキッカケに過ぎなかった。
自ら人間であろうとすることを棄てた星岬は、これまで以上に研究に没頭した。
疲れ知らずなので研究は捗るばかりだった。
不思議と孤独は感じなかった。
振り返れば誰かがそこにいたからだ。
その者たちは大部分が星岬の研究に貢献した忘れるはずもない者たちだった。
時々全く覚えのない者もいたが、そんなことは大した問題ではなくなっていた。
その誰もが皆冴えない顔をしていて、触る事も出来なければ、会話もほとんど成立しなかったが、星岬の孤独を紛らわすのに充分役立った。
何よりも金属を多用した身体は頑丈で、対戦車砲でも持って来なければ自分は破壊されないという確信が、星岬を死という未知の事象から常に遠ざけており、且つ、狂気へと誘う元凶となっていた。
オレは・・・
邦哉は自分が何をしていたのか、混濁する意識の中で状況を把握しようと、うつむき横になりたがる身体(人工人間装置)を懸命に制御していた。
今は四つ這いの状態を維持している。
顔を上げろ、前を見るんだ。
まるでギシギシと渋い音を立てて動作を拒む油の切れたヒンジのように、思うように動かない身体に苛立ちながら、視界に入る情報の整理に努めた。
上半身を支えている両腕が見える。
視界解析:視界内に異常を確認
装置接続確認:接続不良有り
信号確認:未確認の装置を検出
人工人間装置・本体設定:エラー
不明な装置:左手首
信号確認:登録された装置
人工人間装置・本体設定:有効
人工人間装置・本体設定:エラー
信号確認:不明な装置
信号確認:未確認の装置を検出
オレの手首が何だというのだ?
何故エラーになる?
今はどういう状況だ?
くそっ、頭がモヤモヤして考えがまとまらない。
リーが・・・リーも何かあったらしい・・・
“リー”というのはスリーのスを飛ばした呼び方で、
サーディア3と呼ぶのは味気ないので“リー”と呼んでいる。
そうだ、オレは何かをアレするために急いで向かっていたところだ。
で、その何かとは?
アレする・・・って?
ダメだ、さっぱりわからん!
そうこうしている最中も、邦哉の、KE-Q28の左手首はハッキリ見えたり透けて見えなくなったりを繰り返していた。
現状でKE-Q28は、分離した左手首を介して星岬とつながりのある状態を保っている。
そのつながりというのは、分離した手首が元々備えている装置内ネットワーク機能が何故か本体から分離した今でも無線通信として機能しているというものだ。
だが、邦哉と星岬の間にはもっと強い絶対的なつながりがある。
二人を強く結びつけるもの、それは二人にとってささやかなほんの少しの幸福を維持する為についたウソ。
そのウソが幾重にも重なり積もり招いた因果によるもの。
邦哉と星岬は、お互いにただ存在を認めて欲しいが故に、ウソをついた。
邦哉は受動的に、星岬は能動的に。
そうしなければ二人とも生き抜けなかった。
一人は名前を偽った。
本当は名前なんてなかったのに。
一人は自らの手を汚さないでヒトを殺すために。
本当は仲良くしたかったのに、その術をコツを、見つける努力を怠ったために。
その時ついたウソによって生き残った、という経験が、二人にウソを肯定させることになる。
そんな人生を二人は生きて、そして出会った。
そして二人は気付く事になる、お互いが相反する存在である事に。
光ある所に闇有り。
どちらが欠けても存在出来ない、自分たちはそんな関係なのだと。
現在、手首を支配している星岬が、その生涯を通じて創り上げた邦哉との関係がそれだ。
故に断ち切り難いつながりが、揺らぎとして左手首をハッキリ見せたり透けて見えなくなったりを繰り返させるに至っているのだ。
そして、KE-Q28が左手首を取り戻すという事は、過去において星岬が生きている事の証明となる。
また、左手首が戻らなければ、星岬が永眠したことの証明となるのだ。
どうやら発動に成功したらしい“Z理論”ではあったものの、その現象はこの件については不安定な事この上ない。
一体どの様な形に落ち着くのか!?
結論は時機に出る事だろう。
サーディア3サイド
『グランマ、なにお節介なことしてくれてるのよ!』
サーディア3が強制接続してきたクリスタル・サーディアに対して苦情を超えて怒りを露わにしていた。
『なんだか随分と酷い言われようじゃない“グランマ”なんて?』
『そこ!? そこなの!? 状況分かってて言ってるのよね?』
ボルテージはMAX!
サーディア3のメインプロセッサが一気に熱をおび、血液を模した冷却液が放熱のために体内を駆け巡る。
頬を赤らめ上気した顔のサーディア3は熱暴走も有り得ると心配なほど、怒っている。
余程クリスタル・サーディアの干渉が気に障ったのだろう。
桃色の頭髪が内部の熱の影響を受けてゆらゆらと蠢いて見える。
この場にクリスタル・サーディアが物質化していたら取っ組み合いのケンカになっていてもおかしくない状況だ。
『グランマはあたしを心配するより、もっと信頼して。』
『そ、そう?』
時空管理コンピュータ“グランドマザー”であるクリスタル・サーディアが動揺している?
サーディア3は肩で息をしている自分に気付いて、呼吸を整えるとすぐに落ち着きを取り戻した。
『・・・グランマ、グランマが出張って来たって事は、この状況は分岐点になり得るのね?』
『肯定』
クリスタル・サーディアは感情を排した事務的な口調で応答した。
『相当ヤバい?』
サーディア3は自分の中の弱さを抑え込むのではなく、受け入れて先に進もうとしていた。
『肯定』
『あたしじゃ、力不足?』不安が発言を弱くしている。
『微妙』コンピュータの解答とは思えない。
『なによ、それ~』珍解答を得て肩の力が抜けたサーディア3は、再び上気した。
『でも、何となくわかった』
サーディア3は思考ルーチンをまとめ上げた。
『ありがとうグランマ! あたし、やれる気が す す・・・る・・・・・』
サーディア3は突如、機能を停止してしまった。
一体どうしたと云うのか?
SDR-03:再起動
BIOS:設定開始
Advanced/Strage Configuration
SATA Mode Selection ...AHD
Exit:設定完了
Save Changes and Exit:Yes
Reboot...
Science and technology :科学技術によって
Assembles :組み立てられた
Human shape :人間の形をした
Device :装置を
Electrical control :電気制御で
Autonomous maneuver :自律操縦する
Robot :ロボット
Operating system SAHDEAR ver.1.9.5
起動
「あたしはオペレーティングシステム サーディア」口に出して耳で聞いて確認する。
「邦哉を守りし者」認証は完了した。
冷静、というにはどこか機械的な雰囲気を漂わせて再起動を果たしたSDR-03は誰に聞かせるでもなく呟いた。
「固有名称は、クリスタル・サーディア」
サーディア3のはつらつとした表情はなく、どこか冷めた眼差しで独り確認を済ませたクリスタル・サーディアは、SDR-03の乗っ取りを完了した。
遡ること1万年足らず、2000年代後半、地球はかねてより心配されていた温暖化が、地軸の変化により一気に加速する事態を迎えていた。
混乱状態が世界的に常態化する中で、国会では、ある人物についての集中審議がされていた。
その人物は、日本国出身の科学者で、名を“星岬 開”という。
この時“星岬 開”は推定130歳を超えると思われる高齢者ではあったものの、自ら手を入れて改造した身体に、不具合など微塵もなく健康そのものであった。
もっとも、それはごく普通の健常者の場合で、星岬については“健康”という言葉を使って状態を表現する事が適切かということが、まず先に議論された。
何故なら星岬にはもはや、有機体のパーツは使用されていなかったからだ。
人間とは言えないと国会で存在を否定された星岬は激昂、人間社会との決別を表明、世捨て人となる。
だが、コレはキッカケに過ぎなかった。
自ら人間であろうとすることを棄てた星岬は、これまで以上に研究に没頭した。
疲れ知らずなので研究は捗るばかりだった。
不思議と孤独は感じなかった。
振り返れば誰かがそこにいたからだ。
その者たちは大部分が星岬の研究に貢献した忘れるはずもない者たちだった。
時々全く覚えのない者もいたが、そんなことは大した問題ではなくなっていた。
その誰もが皆冴えない顔をしていて、触る事も出来なければ、会話もほとんど成立しなかったが、星岬の孤独を紛らわすのに充分役立った。
何よりも金属を多用した身体は頑丈で、対戦車砲でも持って来なければ自分は破壊されないという確信が、星岬を死という未知の事象から常に遠ざけており、且つ、狂気へと誘う元凶となっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
