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CHAPTER 38
しおりを挟むクリスタル・サーディアは未来に居ながらどの時空にも顕現し、時空に干渉して回った。
~例えば、とあるこの場所この時間 その1~
西暦2075年 日本国 関東地方 埼玉県 星岬技術研究所
正午を回って間もない星岬技術研究所では、星岬博士が人間だった時の習慣を自覚しての行動かどうかは分からないが、昼休みを取っていた。
狭いスペースに設置された応接セットは、使用感はあるものの手入れが行き届いていて、本来の価値以上の価値を付加されているようだ。
そんな応接セットのソファーにゆったりと座ると、壁に埋め込まれた液晶テレビが絶妙なタイミングで電源オンになった。
テレビはお昼の情報バラエティーを放送している。
「続いて、“あの人は今”です」
中年男性のキャスターが、作り笑顔で報じ始めた。
「あれから5年、人間の定義について論争を巻き起こした星岬博士は、今どうしているでしょうか?」
「番組が、独自取材を行ないました」
「ご覧ください」
若い女性キャスターと上手く掛け合う感じで中年男性のキャスターが番組を進行する。
その番組は過去に出回った情報のツギハギで構成されており、唯一現在を映し出したところはというと、突撃取材と称してアポなしでこの研究所に押しかけて来て、好きに質問して勝手に答えを引き出したかのように納得して去っていった一件のところだけ。
それも相当大衆受けが良いように編集されている。
しかもその取材は去年のことである。
正義か悪か、謎多き天才科学者
マッドサイエンティスト
「私は“このようなキャラクター”を求められているのか?」
ニュースキャスターが事務的に紹介しているのを、いつの間にか黒革張りの椅子に浅く座り前のめりになって食い入るようにTVを見ていた星岬は、背後に控えていた助手に、軽く肩を叩かれて我に返った。
「・・・大丈夫、私は大丈夫だ」
助手はのっぺりした白い仮面の目の位置に開いた二つの穴をチカチカと青く点滅させると、折り曲げていた上半身を起こして起立した。
大きい。
研究所内の天井には余裕があったが、それでもうっかりラヂオ体操でもしようものなら天井に穴を開けるのは必至だろう、体高は2メートル以上有りそうだ。
黒のタートルネックに黒いノータックのストレートスラックス、白衣を纏った姿は大柄な研究員といえなくもない。
この者は星岬が開発した人工人間装置のトランスルーセント、モデル010010-Xという。
AHD((“アーデ”と読む)Artificial Human Device)という人型機械の専用基本制御プログラムによって自律稼動している。
主駆動システムは油圧モーターと油圧シリンダーを使用、手首、特に指の動作にはギアトレーンを採用して細かく精密な動きを実現していた。
「Ⅹ」を末尾に頂く試作モデルの最終型で、星岬の研究の一部がこれにて補完されている。
「・・・・・ときに10-X(テンエックス)、さっきから何を黙っている?」
このとき、10-X(トランスルーセント:モデル010010-X)にクリスタル・サーディアが介入してほんの少し未来を変える働きかけをしていたのだが、そのことに気付く事は星岬はもちろん、当の10-Xですらわからなかった。
ただ、10-Xは何者かによる制御プログラムへのアタックを検出し、抵抗していた。
そのアタックこそクリスタル・サーディアによるものであった。
10-Xはクリスタル・サーディアの介入に抵抗した結果、音声出力のための全ての物理的機能を制御不能になるという修正不能な不具合を抱えることとなった。
この“不具合”は、いくら修理をしても改善されることはなく、困った事にトランスルーセント全てのモデルに於いて現れる不具合となって後に星岬を悩ませる事となる。
~例えば、とあるこの場所この時間 その2~
西暦1995年 日本国 埼玉県 星岬技術研究所 社内ネットワークにて
クリスタル・サーディアは1995年の埼玉県に存在していた星岬技術研究所のローカルネットに接続すると、三角形の視覚イメージ情報を探した。
その三角形の視覚イメージが自分に用事があることは分かっていたので、発見に時間はかからなかった。
クリスタル・サーディアは用意していたプログラムを三角形の視覚イメージ情報を持つその者に強制インストールしたいという衝動に駆られたが、グッとこらえてプログラムを手渡すのに止まった。
「絶対に役に立つと思うけど、あーた次第ね」
~例えば、とあるこの場所この時間 その3~
西暦1995年 日本国 埼玉県 星岬技術研究所 所内場所不明
大きな円筒形のシリンダー内を満たす保存液が排水され、一見して人間と分かるモノがゆっくり起ちあがる。
「う~ん、この感じ! 初期型ならではのレスポンスの機微」
恐らく人類史初の人工人間装置完成品の起動事例である。
若い女性の姿を模した人工人間装置を借りたクリスタル・サーディアが走り出した。
何をするのかは勿論わかってる。
道すがら手に入れた白衣の袖に腕を通し、人工臓器の入った輸送バッグを大事に携えると、目的の場所へ急いだ。
星岬技術研究所 東研究棟 第3実験室(開かずの間)の隠し扉の向こう側に設けられた小部屋では、高濃度のオゾンによって肺を痛めて重症の星岬が、携行手術支援ロボット試作5式なる自らの発明を使い自分で開胸手術をしようとしていた。
小部屋の入り口の前で立ち止まるとクリスタル・サーディアは、部屋の内部をサーチした。
サーチの結果、生体反応:1、動く物体:1、室内に定点カメラは無し、ロボットの視点カメラが1台・・・いや、2台ある?
1台は人工人間装置と同等のロボットのモノで間違いない。もう一台は何の・・・星岬の・・・ということ?
クリスタル・サーディアは間違いない方のカメラを利用して部屋の内部を確認し、理解した。
開胸するのは良いが、その後どうしようと云うのか?
交換用の肺も見当たらない。
どうやら、既にまともな考えを出来る状態ではないようだ。
そんな状態の星岬の傍らに、ピカピカに磨かれた外装が目を引くロボットが命令を待って待機状態でいる。
その様子はどちらかと言うと成す術もなく立ち尽くしている、そんな風に見えた。
気になってシステムファイルを覗き見てクリスタル・サーディアは感心した。
さすがに星岬が傍に置いているだけの事はある。
このロボットには両手足の他に左右3本づつ計6本の精密作業用ロボットアームが装備されているではないか。
しかも制御プログラムも充実していて、手術支援ロボットとしての役割に耐えるだけの性能はあるようだ。
これであれば手術も可能だ。
何故、手術を指示しなかったのかと推察するなら、執刀医による学習が全くなかったからであろう。
ここまでに得た情報を基にクリスタル・サーディアは、ついさっき拝借した人工人間装置から、このピカピカなロボットに乗り換えると、星岬に悟られないようにして、ついそこまで運んで来た人工臓器(肺)を手にした。
そして迷い無く星岬の手術を開始した。
ここまで乗って来た人工人間装置は、オートパイロットで保管場所へ戻そうとしたが、クリスタル・サーディアの狙い通りなのか?誰の目にも留まることなく、いつの間にかその姿を消失したのだった。
この手術の甲斐あって、星岬は命をつないだ。
星岬の身体の機械占有率が更に上がった。
~例えば、とあるこの場所この時間 その4~
西暦2115年 日本国 埼玉県 某市 街外れの洋風建築の戸建て住宅
時空移動の可能性を除いても、170歳に手が届く年齢だ。
星岬は考えられない事に未だ現役で日々研究に打ち込んでいた。
星岬の知るところによれば、人間の臓器に於いてウィルスなどの外的ダメージ要因を考えず、細胞が安定を欠いて変異を起こして最初にダメになるのは脳であるという。
平均して150歳ごろが限界であると報告されている。
であれば、星岬は脳の寿命をとっくに迎えている事になる。
だが、星岬は元気で健康で聡明で長生きしている。
既に星岬には元の肉体の部分は一切ないと言われている。
機械だから170歳を迎えられたのか?
この年、風は星岬に追い風となって吹きまくった。
もう、50年も前から常態化が叫ばれている地軸の変化に伴う地球温暖化だが、いよいよ深刻な状況となって人々を不安にさせていた。
そんな中、星岬には問い合わせと注文が殺到していた。
その問い合わせと注文というのは、個人的に人工人間装置を利用したいという人々からの依頼であった。
星岬は完全に機械化された身体を決して自慢する事は無かった。
彼は人間と認められていなかった。
自分でも確かに有機生命体ではないと認めてはいた。
生物ではない!
考えたこともなかった。
この事実の何と大きく重かったことか。
自分は人間を機械で再現しようと試みて、自分自身で実験し、数多の難問を解決して、血の一滴まで研究に捧げて、完全機械化に成功したのだ。
そして、それでも尚、人間性は失ってはいないと、その点において自分は人間であると主張していた。
だが、誰も私の主張を認めなかった。
それがどうだ!?
今や我先に“改造”を求めて私の技術に群がって来るではないか!
醜悪なことだ。
人間など、助ける価値もない。
なんてな。
コレもつまらん考えだ。
つまらん事に頭を使うのは時間の浪費以外の何物でもない。
そう云えば、政府からも何か言ってきていたな?
なんだったか?
星岬は記憶フォルダを検索して、保留していたファイルをチェックした。
日本政府からの問い合わせで興味を引かれたその内容は、
『日本人を環境に合わせて進化、あるいは強化する事は可能か?』
というもので、この問い合わせには、過去に自分を人間と認めなかった日本政府にイヤミのひとつも言ってやりたい衝動にかられたが、星岬は負の感情をグッと飲み込むと、ビジネスライクに日本政府と話をする事にした。
『勿論、可能なのだよ但し、私だから可能なのだ』
星岬の返答に、日本政府はまるで答えが分かっていたかのような迅速な対応で、被験者を翌日には送り込んで来た。
なんやかんやで日本政府の依頼をビジネスライクにこなしていた星岬だったが、左程も経たずに手が止まっていた。
何故私が人間の為に力を尽くさねばならないのか?
星岬はぐちぐちと悪態をついていると何事か閃いた。
膝をパン!とひとつ叩くと、
「不滅人間の魂の遷移に伴う劇症ウィルスによる宿主生物の肉体の再構築と支配」
シリコン製のマスクの口の端を出来る限り吊上げて表情を作ってみせると、
「お前たち、ヒトの格好をしながらヒトではないモノに仕上げてやる」
そう言って星岬はさっきまでの態度から一転してヤル気を漲らせるのであった。
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