クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 39

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星岬は、かねてより構想していた研究の一つである“不滅人間計画”をスタートさせることに決めた。

自身の発明であるニューロントランスミッターを用いる人間のデジタル化は、既に確立した技術と自負している。
この技術を応用することで、人類は今後、五体不満足という経験をせずに済むであろう。
だが、オーダーは“進化”ないし“強化”だ。
機械化ではない。
もっとも、機械化を否定した奴らに私の機械化技術を頼まれたとしても使いたくは・・・・・全力で無い!

だから“不滅人間計画”をスタートさせることにした!
技術大国日本が誇るべきこの星岬に全てをゆだねるのだ。
なに、シンプルなプランだよ。
如何なる環境に於いても死滅せず生き残る生命体に変貌するだけのこと。

「ぶははははははは!」

頭のどこかでネジがぶっ飛んだかと思わせるほど、激しく笑い出した星岬の渇いた笑い声が、テレビから聞こえてくる情報バラエティーの賑やかな笑い声とタイミング良く重なった。
その光景を認識して、10-Xが拍手(の真似事)をしている。

窓の外は晴天で、西洋建築の戸建て住宅の外観を持つ星岬技術研究所の上空には、主の決意を現すかのように真直ぐなひとすじの飛行機雲が現れた。
このとき、クリスタル・サーディアが事の成り行きをコントロールしているなどと、一体だれが考えただろうか?




サーディア3(クリスタル・サーディア)サイド


陽が傾き始めた赤い空の下、二人の姿は乾いた大地にあった。
強く吹き付ける乾いた風が、砂埃を絶えず運んでくる。
気候変動が招いた負の連鎖、この乾いた風によって地表は地獄に近づいたと言っても過言ではないだろう。
酷い砂ホコリと吹きすさぶ風の中、さすがに人工人間装置も肌に異常を感知してアラームが視界を遮り点滅して収まらない。
それもそのはず、石材やガラスの彫刻に用いたりするサンドブラストという装置を、己が身体で体感しているようなもので、ただの人間であれば、とっくに表皮は吹き飛び骨が露出して絶命していてもおかしくない状況にある。
そんな中でクリスタル・サーディアは、KE-Q28の頭を膝に置き、その頭を優しく撫でていた。
KE-Q28の状態は身体全体が透けて見えたりハッキリ実体を現したりして、時間をかけた分だけ、むしろ悪くなっている様子にしか見えなかった。
一体何が起きているのだろうか?
というより、大丈夫なのか?

SDR-03をコントローラーとして使って、クリスタル・サーディアは自身である時空管理コンピュータを操作し、数多に存在する異なる時空に一斉に干渉していた。 
時々視界に見えるアラームに、表皮の異常に混じって、体温の上昇が入ってくるようになっていたのだが、その間隔が早くなってきていた。
思ったよりもSDR-03にかかる負荷が大きかったようだ。
だが、今はこの場所から動くのは得策ではない。
クリスタル・サーディアは、SDR-03の演算装置を限界ギリギリで酷使していた。

『最後まで持つだろうか』

ふと、そんな考えが浮かんだが、余計なことを考えている場合ではないと自分を律すると、クリスタル・サーディアは時空への干渉行為に集中し直した。






不滅人間計画

脳を作りたかった星岬が思い付いた奇策といえる。
脳のどの部分が何を司るのか?
ということについては大体解明されている。
だが、記憶のメカニズムについては良く分からないのが実情だ。
そこで星岬は考えた。
もし、ヒトは死ぬとあの世へ行くとする。
その時、ヒトは肉体という器を捨てて魂だけになる。
とか何とかいうことを語る輩がいるが、これが真実の的を射てるとするなら、ヒトには肉体を必要としない時間が存在するということになる。
この肉体の無い状態の時に近くにいる他の生物に憑依し、操る事が可能であれば、魂は記憶もそのまま持っているので、この宿主をどうにかして人間のような格好に変態させられたらオーケーだ。
というのがざっくりとした“不滅人間計画”の概要だ。

「私はオカルトについては全く興味関心の対象外だったのだが、完全に機械化を成し遂げたころから、俗に言う“おばけ”が見えることに気が付いた」

星岬は肉体を完全に機械化したことで、全く予期せず解脱者の域に達したのだった。
故に“魂”があるというのは理解した上で、人間をデジタル化することも、魂を肉体から抜き取ることも、大差ないこととしか考えなかった。
星岬は修験者でもなんでもない。
一人の魂が実は何種類にも分けられるとか、そんなことには固執することなく考察し“不滅人間計画”の実現に必要なモノを探った。

肉体がダメージを受ければ、魂は抜けやすくなる。
病気・ケガ、何でも有りだ。
魂を肉体から抜き取るのは、できる!

生物を、その形態を変化させるのは案外簡単だ。
突然変異を引き起こしてやればいい。
変異を引き起こすトリガーには、ウィルスを利用することにする。
ウィルス感染でどんな生物でも人間に見える外観に形状変化、つまり擬態させる。
・・・どんな生物でもっていうのはちょっと無茶が過ぎるかな。
だが脊椎動物主体であれば、ほぼほぼ可能だろう。


これでプランに目星は付いた。

残るは肉体から抜けた魂と、その魂が次に利用する肉体となる生物に、ウィルスを感染させる・・・・・・媒介役が・・・必要だな。

あれか?

あぁ、あれが良いかぁ!?


星岬は独りでうんうん頷きながら、節電のため薄暗くしている廊下の暗がりに消えていった。

10-Xが、ハッと弾かれたように星岬の後を追っていった。








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