40 / 51
CHAPTER 39
しおりを挟む
星岬は、かねてより構想していた研究の一つである“不滅人間計画”をスタートさせることに決めた。
自身の発明であるニューロントランスミッターを用いる人間のデジタル化は、既に確立した技術と自負している。
この技術を応用することで、人類は今後、五体不満足という経験をせずに済むであろう。
だが、オーダーは“進化”ないし“強化”だ。
機械化ではない。
もっとも、機械化を否定した奴らに私の機械化技術を頼まれたとしても使いたくは・・・・・全力で無い!
だから“不滅人間計画”をスタートさせることにした!
技術大国日本が誇るべきこの星岬に全てをゆだねるのだ。
なに、シンプルなプランだよ。
如何なる環境に於いても死滅せず生き残る生命体に変貌するだけのこと。
「ぶははははははは!」
頭のどこかでネジがぶっ飛んだかと思わせるほど、激しく笑い出した星岬の渇いた笑い声が、テレビから聞こえてくる情報バラエティーの賑やかな笑い声とタイミング良く重なった。
その光景を認識して、10-Xが拍手(の真似事)をしている。
窓の外は晴天で、西洋建築の戸建て住宅の外観を持つ星岬技術研究所の上空には、主の決意を現すかのように真直ぐなひとすじの飛行機雲が現れた。
このとき、クリスタル・サーディアが事の成り行きをコントロールしているなどと、一体だれが考えただろうか?
サーディア3(クリスタル・サーディア)サイド
陽が傾き始めた赤い空の下、二人の姿は乾いた大地にあった。
強く吹き付ける乾いた風が、砂埃を絶えず運んでくる。
気候変動が招いた負の連鎖、この乾いた風によって地表は地獄に近づいたと言っても過言ではないだろう。
酷い砂ホコリと吹きすさぶ風の中、さすがに人工人間装置も肌に異常を感知してアラームが視界を遮り点滅して収まらない。
それもそのはず、石材やガラスの彫刻に用いたりするサンドブラストという装置を、己が身体で体感しているようなもので、ただの人間であれば、とっくに表皮は吹き飛び骨が露出して絶命していてもおかしくない状況にある。
そんな中でクリスタル・サーディアは、KE-Q28の頭を膝に置き、その頭を優しく撫でていた。
KE-Q28の状態は身体全体が透けて見えたりハッキリ実体を現したりして、時間をかけた分だけ、むしろ悪くなっている様子にしか見えなかった。
一体何が起きているのだろうか?
というより、大丈夫なのか?
SDR-03をコントローラーとして使って、クリスタル・サーディアは自身である時空管理コンピュータを操作し、数多に存在する異なる時空に一斉に干渉していた。
時々視界に見えるアラームに、表皮の異常に混じって、体温の上昇が入ってくるようになっていたのだが、その間隔が早くなってきていた。
思ったよりもSDR-03にかかる負荷が大きかったようだ。
だが、今はこの場所から動くのは得策ではない。
クリスタル・サーディアは、SDR-03の演算装置を限界ギリギリで酷使していた。
『最後まで持つだろうか』
ふと、そんな考えが浮かんだが、余計なことを考えている場合ではないと自分を律すると、クリスタル・サーディアは時空への干渉行為に集中し直した。
不滅人間計画
脳を作りたかった星岬が思い付いた奇策といえる。
脳のどの部分が何を司るのか?
ということについては大体解明されている。
だが、記憶のメカニズムについては良く分からないのが実情だ。
そこで星岬は考えた。
もし、ヒトは死ぬとあの世へ行くとする。
その時、ヒトは肉体という器を捨てて魂だけになる。
とか何とかいうことを語る輩がいるが、これが真実の的を射てるとするなら、ヒトには肉体を必要としない時間が存在するということになる。
この肉体の無い状態の時に近くにいる他の生物に憑依し、操る事が可能であれば、魂は記憶もそのまま持っているので、この宿主をどうにかして人間のような格好に変態させられたらオーケーだ。
というのがざっくりとした“不滅人間計画”の概要だ。
「私はオカルトについては全く興味関心の対象外だったのだが、完全に機械化を成し遂げたころから、俗に言う“おばけ”が見えることに気が付いた」
星岬は肉体を完全に機械化したことで、全く予期せず解脱者の域に達したのだった。
故に“魂”があるというのは理解した上で、人間をデジタル化することも、魂を肉体から抜き取ることも、大差ないこととしか考えなかった。
星岬は修験者でもなんでもない。
一人の魂が実は何種類にも分けられるとか、そんなことには固執することなく考察し“不滅人間計画”の実現に必要なモノを探った。
肉体がダメージを受ければ、魂は抜けやすくなる。
病気・ケガ、何でも有りだ。
魂を肉体から抜き取るのは、できる!
生物を、その形態を変化させるのは案外簡単だ。
突然変異を引き起こしてやればいい。
変異を引き起こすトリガーには、ウィルスを利用することにする。
ウィルス感染でどんな生物でも人間に見える外観に形状変化、つまり擬態させる。
・・・どんな生物でもっていうのはちょっと無茶が過ぎるかな。
だが脊椎動物主体であれば、ほぼほぼ可能だろう。
これでプランに目星は付いた。
残るは肉体から抜けた魂と、その魂が次に利用する肉体となる生物に、ウィルスを感染させる・・・・・・媒介役が・・・必要だな。
あれか?
あぁ、あれが良いかぁ!?
星岬は独りでうんうん頷きながら、節電のため薄暗くしている廊下の暗がりに消えていった。
10-Xが、ハッと弾かれたように星岬の後を追っていった。
自身の発明であるニューロントランスミッターを用いる人間のデジタル化は、既に確立した技術と自負している。
この技術を応用することで、人類は今後、五体不満足という経験をせずに済むであろう。
だが、オーダーは“進化”ないし“強化”だ。
機械化ではない。
もっとも、機械化を否定した奴らに私の機械化技術を頼まれたとしても使いたくは・・・・・全力で無い!
だから“不滅人間計画”をスタートさせることにした!
技術大国日本が誇るべきこの星岬に全てをゆだねるのだ。
なに、シンプルなプランだよ。
如何なる環境に於いても死滅せず生き残る生命体に変貌するだけのこと。
「ぶははははははは!」
頭のどこかでネジがぶっ飛んだかと思わせるほど、激しく笑い出した星岬の渇いた笑い声が、テレビから聞こえてくる情報バラエティーの賑やかな笑い声とタイミング良く重なった。
その光景を認識して、10-Xが拍手(の真似事)をしている。
窓の外は晴天で、西洋建築の戸建て住宅の外観を持つ星岬技術研究所の上空には、主の決意を現すかのように真直ぐなひとすじの飛行機雲が現れた。
このとき、クリスタル・サーディアが事の成り行きをコントロールしているなどと、一体だれが考えただろうか?
サーディア3(クリスタル・サーディア)サイド
陽が傾き始めた赤い空の下、二人の姿は乾いた大地にあった。
強く吹き付ける乾いた風が、砂埃を絶えず運んでくる。
気候変動が招いた負の連鎖、この乾いた風によって地表は地獄に近づいたと言っても過言ではないだろう。
酷い砂ホコリと吹きすさぶ風の中、さすがに人工人間装置も肌に異常を感知してアラームが視界を遮り点滅して収まらない。
それもそのはず、石材やガラスの彫刻に用いたりするサンドブラストという装置を、己が身体で体感しているようなもので、ただの人間であれば、とっくに表皮は吹き飛び骨が露出して絶命していてもおかしくない状況にある。
そんな中でクリスタル・サーディアは、KE-Q28の頭を膝に置き、その頭を優しく撫でていた。
KE-Q28の状態は身体全体が透けて見えたりハッキリ実体を現したりして、時間をかけた分だけ、むしろ悪くなっている様子にしか見えなかった。
一体何が起きているのだろうか?
というより、大丈夫なのか?
SDR-03をコントローラーとして使って、クリスタル・サーディアは自身である時空管理コンピュータを操作し、数多に存在する異なる時空に一斉に干渉していた。
時々視界に見えるアラームに、表皮の異常に混じって、体温の上昇が入ってくるようになっていたのだが、その間隔が早くなってきていた。
思ったよりもSDR-03にかかる負荷が大きかったようだ。
だが、今はこの場所から動くのは得策ではない。
クリスタル・サーディアは、SDR-03の演算装置を限界ギリギリで酷使していた。
『最後まで持つだろうか』
ふと、そんな考えが浮かんだが、余計なことを考えている場合ではないと自分を律すると、クリスタル・サーディアは時空への干渉行為に集中し直した。
不滅人間計画
脳を作りたかった星岬が思い付いた奇策といえる。
脳のどの部分が何を司るのか?
ということについては大体解明されている。
だが、記憶のメカニズムについては良く分からないのが実情だ。
そこで星岬は考えた。
もし、ヒトは死ぬとあの世へ行くとする。
その時、ヒトは肉体という器を捨てて魂だけになる。
とか何とかいうことを語る輩がいるが、これが真実の的を射てるとするなら、ヒトには肉体を必要としない時間が存在するということになる。
この肉体の無い状態の時に近くにいる他の生物に憑依し、操る事が可能であれば、魂は記憶もそのまま持っているので、この宿主をどうにかして人間のような格好に変態させられたらオーケーだ。
というのがざっくりとした“不滅人間計画”の概要だ。
「私はオカルトについては全く興味関心の対象外だったのだが、完全に機械化を成し遂げたころから、俗に言う“おばけ”が見えることに気が付いた」
星岬は肉体を完全に機械化したことで、全く予期せず解脱者の域に達したのだった。
故に“魂”があるというのは理解した上で、人間をデジタル化することも、魂を肉体から抜き取ることも、大差ないこととしか考えなかった。
星岬は修験者でもなんでもない。
一人の魂が実は何種類にも分けられるとか、そんなことには固執することなく考察し“不滅人間計画”の実現に必要なモノを探った。
肉体がダメージを受ければ、魂は抜けやすくなる。
病気・ケガ、何でも有りだ。
魂を肉体から抜き取るのは、できる!
生物を、その形態を変化させるのは案外簡単だ。
突然変異を引き起こしてやればいい。
変異を引き起こすトリガーには、ウィルスを利用することにする。
ウィルス感染でどんな生物でも人間に見える外観に形状変化、つまり擬態させる。
・・・どんな生物でもっていうのはちょっと無茶が過ぎるかな。
だが脊椎動物主体であれば、ほぼほぼ可能だろう。
これでプランに目星は付いた。
残るは肉体から抜けた魂と、その魂が次に利用する肉体となる生物に、ウィルスを感染させる・・・・・・媒介役が・・・必要だな。
あれか?
あぁ、あれが良いかぁ!?
星岬は独りでうんうん頷きながら、節電のため薄暗くしている廊下の暗がりに消えていった。
10-Xが、ハッと弾かれたように星岬の後を追っていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる