クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 43

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ユートピアの片隅で



スクラップ同然のKE-Q28が小刻みに震えている。
この震えは発電の為の震えだと思われるので、システム的には正常に作動していると思われる。
だが、見た目にはやはり、かなり気の毒な状態に見えてしまうのは仕方ないことだろう。
そして、それを見て涙を流しているSDR-03。
SDR-03は只々悲しかった。
処理に困るデータとしてグランマ(クリスタル・サーディア)の文字が視界の片隅に点滅して保留されている。
SDR-03は考えあぐねていた。
グランマ(クリスタル・サーディア)が、本当に本気でKE-Q28をひどい目に合わせようとしたのか?
そこが全くわからないのだ。
そもそも、グランマ(クリスタル・サーディア)にしても自分にしても、この男(KE-Q28(クニヤ))を守護するのが自己の存在理由なのだ。
何かあるのだろうか?
何も無いはずもないだろう。
必ず何かあるのだ。
サーディア3(SDR-03)は骨毎に内蔵されている全身の小型コンピュータを総動員して考えた。
全身が一気に熱をおびたので、血流に似せた冷却システムによって全身に冷却水が循環する。
身体のあちこちから水蒸気が立ち昇る。
冷却状況は問題ない。
電力の不足が問題ではあるが、差し当って驚異となり得る問題でもない。

ぷしゅうぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・

しゅうぅぅぅぅぅ・・・・・・・

静寂の中で、蒸気の音が人工人間装置の冷却が正常に行われていることを伝えている。
散々考えてみたが、解答は得られそうになかった。
さりとて、SDR-03はクリスタル・サーディアと話をする気にはなれなかった。
少なくとも、今は。

ぐるぐると堂々巡りをする思考を遮るようにアラーム音が仮想空間に響き渡る。
「何事!?」
SDR-03は思考のブラックホールから這い上がるかのように、意識をリセットする。
瞬時に聡明なサーディア3に戻り、アラームに集中した。
だが、サーディア3はアラームの意味を計りかねた。

アラームの意味は時空移動が行われたというインフォメーションであった。
こんな時にいったい何者が・・・思考するまでもなく答えは出ている。
高確率で星岬が来たのだ!
空間に揺らぎが生じると男が独り、まるで霧の中から現れたかのように像を結んだ。

SDR-03は、出現した見慣れない衣装を纏った人影に注目した。
顔がこちらを向いた瞬間、瞳の奥が赤く光るのを見て確信した。
人間ではない。
人工人間装置だ。
KE-Q28を見慣れているせいか、随分小さく見える。
ちなみに自分(SDR-03)はこれで、人工人間装置としては最小最軽量のモデルだ。

SDR-03
型式:モンゴロイド-J9-ST‐EX
全高:147cm
重量:機密情報扱いにつき非表示

フレーム(骨格)がカーボン製なので思いのほか軽量だと思う。
などと要らんことを考えて脱線したが、ここで元に戻ろう。

全高170cmを少し超える程度・・・?の人工人間装置

識別コード:当装置に該当データなし。 

どうやら星岬ではなかった、ということは確かに分かった。
その者はグレーのスーツに黒いシャツ、鮮やかな緑色のネクタイをしめた若い男で、およそ現代の人間といった感じで、よく時空移動してきたと、思わず労いの言葉をかけてやりたくなる、そんな若者であった。
若者はジッとSDR-03を見ていたが、どうやら自分が何者であるか、わかってもらえていないという事だけはわかった、という態度をうなだれてみせる事で見事に表現した。
そして時間を無駄にしたくないためか、元々の性格・気質の為か時空移動者の方から声を掛ける。

「姐さん、お久しぶりです・・・って、あれ?」


「あーたは・・・?」


挨拶を中途半端にして、少し考えるそぶりを見せると、時空移動者は再び口を開いた。

「失礼しました。姐さんじゃない方、初めまして。自分はカモメといいます。 さっきまで姐さんを感知してましたので、そのつもりで・・・」

SDR-03はカモメと名乗った時空移動者に該当する人物を検索したが、該当者はいなかった。
だが、該当者がいなかった、では済まない。
素早く正確に、もう一度このカモメと名乗る人物を検索する。
しかし、残念ながら該当者なしだった。
故障か・・・?
あたしは故障しているのか!?
自らの故障を疑いつつ、思考を繰り返していると、この該当者なしに呼ばれているのに、気が付いた。

「姐さん! 姐さん! 聞こえてますか!?」

「な、なに? 該当者なしさん」
恥ずかしい言い間違いをしてしまった。
もうボロボロである。
ヤケを起こして暴れてしまいたい衝動に駆られたが、どうにか思いとどまったサーディア3は、顔を真っ赤にして頭から湯気が昇るのをそのままに、またもこのカモメと名乗る時空移動者に助けられる。 

「おっと、カモメってのはコードネームでした。ターニャ・・・ってのは・・・わかります?」

若干距離を置かれた感はあるものの、自分を信じて本音で対話しようとする姿勢を見せ続ける目の前の男に、男気を感じ取ったサーディア3はふざけているのは自分だと思い至ると、素直に頭を下げた。

「済まない。あたしにはあーたが何者であるかわからない。」

「いやいや、気にする必要はありません。姐さんのせいじゃあ、多分無いですから。」

カモメ改めターニャが、差し出した手の平に、光の球が現れた。
「取り敢えず、これを受け取ってください。 高輝度蓄電球帯電良好! 急速充電術式開始! 」
そう云うと、手の平で眩しく光を放つ光球をSDR-03の胸に押し付けた。
光球は、何の抵抗もなくSDR-03の身体に吸い込まれるようにして消えた。
「施術完了! 次は旦那だ」
間髪入れずに同じことをKE-Q28にも行う。
変わらず虚空を見ているかのような眼差しだったKE-Q28の目に力が戻った様子だった。
余りにスマートな仕事ぶりに、容易く行われたと誤認されてはターニャが気の毒なので幾らか解説を残しておきたい。

ターニャ自身に何があったのか?については今は割愛させて頂きたい。
それで、ターニャが行なった“急速充電術式”とは、ターニャが使用している人工人間装置が、星岬博士が開発したトランスルーセント系であることが大前提で行われた行為である。
ターニャは手の平に高輝度レーザーを照射すると同時に、強力な磁界を高速で回転するように発生させることで重力を発生させレーザー光を捻じ曲げて光の球体を形成。
更に球体の中心へ向かって加速させることで電気を凝縮、電力量を増幅させていたのだ。
大変危険を伴う行為だが、サーディアの為には命すら惜しまないであろうターニャならではの正しく身体を張った行為であった。
SDR-03・KE-Q28が使用している人工人間装置では手先に位置する小型コンピュータが初期化されてしまうだけでなく、手首ごと吹き飛んでしまうだろう。
ターニャの二人への思いの強さが良くわかる出来事であった。 

「それじゃあ、オレはこれで。成功を祈ります!」
派手に片目をつぶって見せると、ターニャとかいうグレーの衣装の男は、出てきたのと恐らく逆の手順で去っていった。



「何だったん・・・?」

そもそも彼は何者であるか、という謎から始めなければならないのだが、サーディア3には今の彼が悪意ある者にはとても思えなかった。
(。´・ω・)ん?
成功を祈ります・・・と言ったか?
何の成功だ?
彼はグランマ(クリスタル・サーディア)に用があってココへ来た感じだった。
グランマはこの場所にこだわっていたのか?
・・・間違いない、ただ待つだけならあたしたちの家でも良かった筈だ。

フッとSDR-03は張りつめた感がなくなっているのに気が付くと、自分の身体をスキャンした。
 
故障個所:なし

電力備蓄量:100%

どうしたことか、電力が全回復している。
ハッとしてKE-Q28の現状も見る。
やはり電力全回復。
電力量が回復したことにより、自動的に自己修復機能が作動している。


SDR-03は全身から湯気を立ち昇らせた状態でフリーズだけは避けようと全力で機能維持に努めていた。

再びアラームがなる。
この時、サーディア3にほんの少し警戒心を喚起するだけの経験などあれば、或いは大切なものを失わずに済んだかもしれない。



「よぅ、お二人さん」

耳に心地良い低音が利いた声音がその場の空気ばかりでなく、自分たちのフレームをも振動させた。
否、かつて感じたことのない戦慄に、人工人間装置自体が反射的に反応したようだ。
ビリビリと痺れるような感覚が続く最中、KE-Q28が重たそうに上体をゆっくり起こした。
SDR-03の凝視している方を見る。
50mくらい離れている所に、誰か立っているではないか。
そこに立っているのは、見事な白髪の角刈りに、アルビノを想起させるピンク色の肌、鮮やかなコバルトブルーの瞳がクールで知的な印象を与える、白衣を纏った中年男性だった。

「あ、あーたは、星岬開!」

サーディア3はこの事態に全身のマイクロコンピュータが高負荷でダウンしないようにするのに全力で努めた。
もっとも、目の前にいる星岬に気付かれないように、表面上は平静を装っていた。

「一体何しに来た!?」

一番知りたい疑問を、ガチでぶつけてしまう。

「そう! それなんだが」

握った右手を受け皿にした左手に振り下ろす。
ぽん! と軽く音をたてると右手の人差し指を立ててサーディア3を指差す。

「わたしは、何をしに・来・た・の・か?」

嬉々として質問を質問で返したように見えるが、そうではない。
星岬はお互い答えがわかっている者同士、敢えて確認させて動揺を誘い、恐怖心を煽るために質問を質問で返したのだ。
なんて嫌なやつだろう。

「その解答は、KE-Q28の完全破壊を似って完了するだろう。」

ハッキリ宣言すると、右手を白衣の内ポケットに突っ込んだ。
ギラリと鈍い輝きを放つメスを取り出す。
星岬のシリコン製の顔が不気味な笑顔を作ってみせる。
すると、一瞬消えたかと思うと目の前に現れた星岬は、少し腰を落とすと左手一本でSDR-03を突き飛ばす。

「君は外してくれたまえ」

それ程強く突き飛ばされた感じではなかったが、SDR-03は吹っ飛んでいってゴロゴロと転がり、何か金属の塊に当たって止まった。
~~~~~~~~んんんんん・・・・・金属音の余韻が続いている。
強い衝撃を受けたので、視界内に警告メッセージが次々と表示される。
だが、そんなこと全てが些細な事だ。
今は星岬と邦哉を二人だけにしてはいけない!
立ち上がるのだ!

そんなSDR-03には全く興味がない様子の星岬は、上半身を起こして自分をジッと見ている男の右肩を左足で踏みつけて押し倒すと、右手に握ったメスを逆手に持ち直して振り上げた!
KE-Q28は、されるがまま抵抗する様子はなかった。
それもそのはず、KE-Q28は現在表皮の修復を全力で行なっている最中で、周りを気にしている余裕は無いのであった。

「滅せよ! 邦哉!」

星岬がメスを邦哉に振り下ろす!
狙いは胸部、人間で言うなら心臓の位置にある循環ポンプとその制御装置。
KE-Q28はゲルマン式改という型式の人工人間装置を使用している。
コーカソイド(白人)系に開発コンセプトを置くゲルマン式は、高出力で大型のモデル向けに設計されている。
また、コーカソイドの骨格は緩やかにしなやかに曲がっていて、衝撃を受け流すのに長けているので、格闘戦に向いているともいえる。
ちなみに邦哉の身体が大きく力持ちなのは、だから・・・と言う訳でなく、魂の質量がそれだけの器の大きさを必要としたからだ。
そして最も大事なことだと思われるが、“KE-Q28”“SDR-03”のように人間に酷似した機能構造を持つこれらの人工人間装置には、大きな弱点は無い。(星岬技研調べ)
破壊を目的としてあえて弱点を探すならば、全体に占める割合が低いパーツ、例えば人間にひとつしかなくて壊れたら死に至るモノ、心臓。人工人間装置には必要がないので心臓はないが、その位置に冷却水の循環ポンプとその制御装置が配置されている。これらが壊れると、熱処理不全となって内部から破壊が起こると懸念される。(有効データ無し)
そういう事から、星岬が胸を狙ったというのは極めて有効であるといえる。


KE-Q28は自身の胸にめがけて振り下ろされた凶器を、腕の捌きであっさりかわした。

「何だと!?」

星岬は、自分の膝にメスを突き立てていた。

KE-Q28はこの時、左腕で右肩を抑えている星岬の左足首をホールドし、その左足の膝外側を右腕で内側に押したのだ。
自分を小さくして、星岬の足に隠れた感じである。
メスは確かに狙い通りの場所にヒットした。
だが、そこに在ったのは標的を抑え込んでいた己の左足であった。
自分の膝に突き立ったメスに興味深々といった様子でうつむいていた星岬だったが、フッと鼻で笑った直後、およそその場に相応しくない下品な笑い声で大笑いし始めた。

「ヴぁハハハハハ!ぎゃあはははははははは!」

笑う星岬にKE-Q28は苛立ちを感じながら自分自身に言い聞かせる。

「オレは、ヤツの思い通りにはならない」

ゆっくり立ち上がると片膝ついて大笑い中の星岬の前に立つ。
すると、それに気づいて上を向いた星岬の顔面に、握った右拳を振り下ろした。

グシャっといい音をたててKE-Q28の拳を顔面で受け止めた星岬は、未だひーひー言いながら笑っていた。
どうやらローダメージの様子だ。
ではKE-Q28は?
苦い顔をしている。
KE-Q28の視界には、拳を痛めた旨の警告メッセージが点滅表示されていた。
星岬の機能・性能は未知数だった。
今ココにいる星岬は自分が持っているデータの、抹殺対象者としての星岬とは何か違う。
気を抜いたらやられる。
そう思うと、気負いが自分の中で大きくなるのを感じた。

KE-Q28は間違いなく感じていた。

“恐れ”(おそれ)

これは初めて意識する感覚だった。


KE-Q28は努めて冷静だった。

状況確認:右手カーボンフレーム亀裂多数

対応選択:直ちに修復

状況:開始

「オレはお前が嫌いだ」

KE-Q28が言う。
星岬は肩で息をしながら尚も笑い続けている。
絶対一泡ふかしてやりたい!
状況:25%修復

「たった今、嫌いになった」

吹っ飛んでいった“リー”が心配だ。
コイツがやった。
だから嫌いになった。
だが、コイツから目を離すわけにはいかない。
コイツは50mの距離を一瞬で移動した。
音速には及ばないが、かなり速い速度での移動を制御できる性能を有しているという事だ。
侮ってはいけない。
状況:62%修復

「わかるよな?」
殴りやすそうだったから思わず殴っちまったが、殆どダメージは無さそうだ。
こっちはフレームに亀裂が入った。
うっかり拳闘は出来ない。
状況:89%修復

どうであれ、結論はひとつ。
コイツ(星岬)を黙らせないとアイツ(リー)のところには行けないってことだ!
状況:98%修復

状況:修復完了
「お前は敵だ!!」

言うが早いかKE-Q28は星岬の白衣の襟をつかみに行く。
星岬は絶妙な動きでつかませない。

「柔道か? そうか、さてはさっきの攻撃で拳を痛めたな?」
KE-Q28の攻撃を捌きながら星岬が問いかける。
勿論、この問いかけも攻撃の一部だ。

「ダンマリか? 図星だったかな」

星岬・・・・絶対潰す!
決意も新たに戦いに挑むKE-Q28。

KE-Q28はどこでも良いので掴んでしまえば勝機が見えると考えて前に出ていたが、まさか星岬を捕まえられないなどという事になるとは、全く考えていなかった。

そして予想もしていないことが起きた。
KE-Q28が星岬の懐深く踏み込んだ瞬間だった。
フッとKE-Q28の視線から死角になる位置に星岬の手が隠れた直後の事だ。
なんと星岬はその左手に切断手術用ノコギリ(時代が付いたアンティークな一品)を持っているではないか!
ピッチングマシーンのような肩の動きで上段から振り下ろしてくるのを、泡食って避けるとKE-Q28は文句を言った。

「どっから出した、そんなもん!? あぶねーだろ!」

「私たちは今、殺し合いをやっているのだよ? 解っているのかね、ほれっ!」

今度はもう一方の手にいつの間にか握られた切断手術用ノコギリを下から振り上げてくる。
寸での所でかわしたが、前髪が幾らか刃先に持っていかれる。
ターニャと言ったか?
充電してくれて助かった。
充電がなかったら、ここまで生き残れなかったろう。
借りが出来たな。
未だ知り合っても居ない者に深い感謝を表した。

KE-Q28が攻める。
すると視界内に思いがけず警告メッセージが表示された。

「何処を見ている!」
星岬が吠える。

瞬間、守りに転ずるKE-Q28。
攻撃の手を緩めない星岬が盲滅法振り回すので、あちこち細かい裂傷ができる。
KE-Q28の人工人間装置は、充電が充分に行なわれていたため、戦闘で受けたダメージをその都度“汎用細胞”を使って修復していた。
そうして今、人工人間装置は傷の修復に使う“汎用細胞”のストックがじきに底をつくと知らせてきた。
元々の大きな原因はサンドストームにやられた事だが、補充ができない現状では対応はひとつ。
KE-Q28は速やかに自動修復を解除すると、気を引き締めた。
『消耗戦は出来ない』

攻めに回らなければ勝機はない。

星岬は、今振り上げたばかりの脇ががら空きだ。
ボディを狙ってKE-Q28が左を打ち込に行く!
ところが、空いているボディの背後から細い何かが現れた!
その先端がギラリと光を反射させた。

『なに!?』

動作タスク確認: 格闘戦モード: 実行中
格闘戦モード: オリジナルフリースタイル
コマンド: 左ボディー: 実行中

動作入力: コマンド: キャンセル
コマンド: 左ボディー: キャンセル

動作入力: コマンド: バックステップ
コマンド: バックステップ: 実行

左半身に集中している攻撃の為の重心移動のエネルギーは今、前方へ向かっている。
それを中断して瞬間的に後方へと重心移動を変更して回避運動に入った。

KE-Q28は通常の人間の動きを超えて機械ならではの動きでその細い何かの切っ先をかわした。
通常の人間であれば一発で筋肉を傷め、靭帯を損傷してその上でかわし切れず負傷していた事だろう。

武術の心得が無い者の型破りな攻撃に、攻めきれないKE-Q28は、今星岬の背中から現れた細い何かを見極めようと、左右からでたらめに振り回されるノコギリを捌きながら、機会を待つ事にした。
武術の心得といっても、KE-Q28には師匠もいなければ稽古をした経験もない。
今使用している人工人間装置の動作アプリに最初からバンドルされていたモノを利用しているに過ぎない。
そういう経緯であったとしても、センス無しでは殺し合いを生き残るなど不可能だろう。

ただ脇ばかりに気を取られては死ぬ。
機会を待ったが、好き勝手にやられているのも癪に障るので、フェイントを掛けて自ら打って出る。
星岬の側頭部を狙って右拳を繰り出した。

すると、背中から細い何かが生えて来るのが再び確認できた!
これは、“ロボットアーム”か?
細いロボットアームの先端にメスがセットされている。

なるほど・・・・
進んだ科学は魔法に見えるという。
だが、星岬はマジシャンではない。
科学者(サイエンティスト)だ。
全ては物理法則を基に成り立っている筈だ。
両手に握られた二本のノコギリが何処から調達されたのかが気になるが、それの解明は後回しだ。
ノコギリ以外のモノを隠していないことを願おう。

KE-Q28は星岬の側頭部を狙って繰り出した右拳を、動作タスクに割り込み入力して細いロボットアームへと攻撃対象を変更した。

その動きを星岬が眼で追っているのを確認したKE-Q28は、更に割り込み入力をして細いロボットアームを掴むと、思い切り引っ張った。

引っ張られて、前のめりにバランスを崩した星岬は、上半身と下半身を別々に制御した結果、異様な体勢でバランスを取ると、ロボットアームを掴まれてバランスを崩した現況を分析しているようだ。

動作処理が滞った今こそ好機と、掴んでいるロボットアームを更に引っ張ろうとした時、別のロボットアームが立ち上がって来るのが見えた。

『何本あるんだ?』

一旦距離を取ろう。
KE-Q28はロボットアームを離すと、離れ際に星岬の足に蹴りを入れて体勢を崩そうとしたが、相当高性能なジャイロ(水平器)を採用しているのだろう、少しぐにゃっとして蹴られた衝撃を受け流しただけで全く影響は無かったようだ。

 
その後も星岬は手を伸ばす動作をするだけで、空間から武器や兵器を取り出して見せたし、こちらが下がって距離を置けば、地面を指さすだけで地雷か何かを起動させ、爆発させた。


無策で星岬に立ち向かったKE-Q28だったが、流石に無謀が過ぎたようだと後悔めいた考えをし始めていた。
格闘センスはKE-Q28が明らかに上だったが、策を弄するという事に於いて、星岬はそれこそ何枚も上だった。

『星岬という者はこうも厄介な者であったか』

KE-Q28は思わぬ苦戦に焦れていた。

集中を欠いた瞬間だった。
星岬が仕掛けた足払いをモロにくらったのだ!
それでも受け身を取って直ぐに起き上がろうとしたKE-Q28だったが、星岬の対応の方が一足早かった。
KE-Q28は胸を踏みつけられて再び押さえ込まれてしまう。
星岬の足の踵部分からシュコンと音がするとKE-Q28が叫びながら悶絶した。
尋常ならざる苦しみようだった。
KE-Q28が気絶したとわかると、星岬は踏みつける足に体重をかけ直してわざわざ起こしては確認するようにぐりぐりと踏み直した。
両手足をばたつかせながら胸を踏みつけている星岬の足をどかそうとするが、その度にぐりぐりと踏みつけられては激しく暴れ、悶絶する。
何故それ程痛いのか?
KE-Q28の胸を抑え込んでいる星岬の足の位置から冷却水が漏れ出している。
星岬はただ体重をかけて押さえ込むだけではなく、足が外れないように踵に仕込まれているパイル(楔)をKE-Q28の胸に対して使用したのだ。
本来は滑り止めとか足元が悪い場所での使用を目的とした装備だが、この男は本当に厄介だ。
先にあったメスによる攻撃よりも、こちらの方が何倍も破壊力がありそうである。

星岬は思い出していた。
今踏みつけているこの男との充実した日々と、この男が存在しなかった空疎な日々のことを。
何故、2通りの記憶があるのかはわからないが、今の自分にはこの男が目障りで仕方ないのだ。
コイツさえいなければ・・・そう思わずにいられないのだ。
だから消えてもらう。
それだけの事だ。

いつの間にか手に持ったノコギリが、得体の知れないスレッジハンマーに変わっている。
どうやらヘッド部分は爆弾になっているようだ。
これを降り下ろせば決着する。
勝ち誇る星岬は既に確定した未来を見て夢の中にいるようだ。

「この一撃で決着だ! 滅せよ、邦哉!!」


「クニヤーーーッ」

名を叫びながら急接近するモノがある。
マジョーラカラーの立方体、小型乗用航時機だ。
開いているハッチからSDR-03が覗いている。

星岬の中で何かが破裂した。

「邪魔!!!」

吐き捨てるように言うと星岬は、攻撃対象を変更して振り上げたスレッジハンマーを小型乗用航時機に向かって投げつけた。

「クニヤー!」

SDR-03は解放している小型乗用航時機のハッチから、接近するスレッジハンマーを目視確認するが早いか腰のホルスターから銃を抜くと、ただ右腕を前に突き出しただけでまるで狙いを定める事無く発砲する。
ガンッ! と、渇いた音をたてて、SDR-03の小さな手に握られた拳銃から弾丸が発射された。
発射された弾丸は、迷いなく接近するスレッジハンマーに向かっていき、着弾した。
直後、大きな爆発音がすると物凄い爆炎と黒煙が視界を遮る。
強い爆風が小型乗用航時機を襲う。
ギシギシと機体が軋む耳障りな音が気になるが、機体のコントロールが可能な限りKE-Q28に近付くつもりだ。
スレッジハンマーの爆発は思いのほか大きく、小型乗用航時機の姿は黒煙にすっぽり包まれて隠れた。
この時、まるで幸運が味方するかのようにすっかり風が収まり、上手い具合に黒煙の霧散を遅らせ、且つ小型乗用航時機の接近を星岬に察知させるのを遅らせた。


少し遡るがSDR-03が星岬に突き飛ばされた先は、元の地点から3km程離れた所で、航時機の駐機場だった。
出来過ぎなラッキーは、SDR-03を止めたモノが自分たちの小型乗用航時機だった事だ。
これで万が一、自分たちの生命が脅かされたとしても、Z理論に頼らずに任意の場所時間へ移動可能だ。
もっとも、KE-Q28は単独で時空移動が可能なのだけど。

『どのくらい経ったのかしら?』
強い衝撃を受けて機能がマヒしたのだろう。
SDR-03は再起動が完了したところだ。
自分が戦線離脱を余儀なくされてからの経過時間は・・・12分は経っている。
手早く小型乗用航時機の状態を確認すると速やかに起動シークェンスを済ませ、直ちに発進した。
『死んじゃったりしてないでしょうね? クニヤ』
小さな身体を盾にする覚悟でSDR-03は死地へ赴く。


その頃、KE-Q28と星岬は・・・

再度、ヘッド部分が爆弾になっているスレッジハンマーを手にしている星岬。
これを降り下ろせば今度こそ決着する。
勝ち誇る星岬は既に確定した未来を見て夢の中にいるようだ。

「今度こそ決着だ! 消え失せろ、邦哉!!」

「クニヤ!」
コーーーンンンンンン・・・
まるで半鐘でも叩いたかのような音をたてて白衣の男が跳び上がった。
まさかマシーンで体当たりしてくるとは思いもしなかった星岬は、思い切り跳ね飛ばされた。

重さと痛みから解放されたKE-Q28は、仰ぎ見る天から伸ばされた手を迷いなく掴むと速やかに航時機に乗り込んだ。




 
「クニヤ、無事!?」

SDR-03が開口一番、確認した。


「白髪オヤジにハートを狙われて困ってたんだ。助かったよ」

KE-Q28は口下手だった。

にわかに機内温度が下がる。
SDR-03がわなわなと肩を震わせている。
黙っていればイイ男に見えなくもないのに
「・・・あーたは背中で語りなさい」

「え? 背中に口は開いてないぞ」

KE-Q28は胸に開いている修復を始めたばかりの穴を確認すると、首をまわして背中の目視確認をし始めた。

『この男は、まったく・・・』
半分は本気で呆れながら、もう半分は下手な冗談でも場を和ませようとする気持ちの余裕がこの男の気高いトコロなのだろうとSDR-03は思った。



一方、小型乗用航時機に撥ね飛ばされた星岬は、1.5kmほど離れた所で砂にまみれていた。

「い、いいところで・・・」

バサッと砂を落としながら立ち上がると、身体に違和感を感じる。
突如震え始め痙攣を起こした星岬。
顎が外れたかのように口が緩み、両腕を力なくだらりと垂らして天を仰ぐ。
あの女、あの機械はタイムマシン、精密機器だろうに・・・。
もっと大事にしろよ・・・・・。 フラフラと後じさる。

「それにしても、私もよく撥ねられる。」

星岬が大地に膝をついた。
身体の異変が急速に拡大するのを感じる。

「か、回路が・・・、接続が・・・切れる! 反応しない 聞こえない! 見えない!」

両手で頭を抱えて仰け反る。

「ぅおぉぁぁぁぁ」

地の底から響くような、そんな叫びだった。
みるみるうちに星岬の身体が萎み、朽ちて逝く。

「違う! これは、原因は別だ!?」


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